ハイスクール・フリート―Double Girls Story―   作:有栖川アリシア

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交渉と警告

あの時とまさに光景は一緒だった。

 

「(こうも、状況が目まぐるしいと流石に疲れるな…)」

昨日の今日でこの有様だ。流石にこれは堪えるところがある。小型艇から見上げると、そこには赤城所属の戦闘機部隊が、上空を警戒しつつ、紀伊を捉えている。

 

「(これから、我々の運命が決まるか――)」

大和から教えてもらった通りの海軍式のことは一通り覚えた。

 

「後は交渉次第だな…」

思わず口に出る。そして、紀伊に到着し水兵員に案内されそのタラップを上がる。其処には、気の強そうな、しかしどこか気品のある光近から見ればどことなく可愛らしい女性がいた。

 

「はじめまして、海上安全整備局安全監督室情報調査隊の一等監察官 宗谷真霜です」

「はじめまして、この艦隊の提督をしております、米内光近です」

お互い握手を交わす。

 

「では、こちらへどうぞ」

彼女に案内され、紀伊の中を歩いていく。やはり、四方を囲まれる。拘束に近い状態だ。

会議室に案内され、一等監察官である彼女とその秘書の女性と三人だけになる。そして、口火を切ったのは、彼女らからだった。

 

「さて、まずはあなた方のお話を聞かせてもらいましょうか?」

「えぇ」

そういうと、光近はここに至るまでの経緯を話していく。

 

 

 

そして、一通り話し終わり

「―――造修、補給、乗員の上陸、作戦基地の確保、具体的な要求は以上です、こうして出向いたのは、生存権の確約です、あなた方の組織から安全の保障を取り付けたい、いくら日本とはいえ、この世界の日本は私達にとって他国に等しい、もしなんらかの攻撃が我らの艦隊に向けられた場合、我々も自艦防衛のため自衛権の発動します、我が艦隊も無益な戦闘は好むところではありません、ぜひご留意をお願いしたい」

一通り話し終え、光近は出された緑茶に手を付ける。

 

「わかりました、その点に関しては善処しましょう、海上安全整備局はあなた方の要求を全面的に受け入れます」

「対応に感謝します」

「ただし、こちらからも条件があります」

「条件、一体どのようなものでしょう?」

「我々、海上安全整備局の指揮下に入り、行動を共にすることです」

「…」

決断を迫られる光近。とはいえ、こちらも主張できることは主張しなければならないことも事実だが、どうでるかわからない。

 

「いいでしょう、ただし、艦隊の性質上、指揮は私が全面的に取ります、それと、こちらが必要と判断した場合、独断で動くこともありますが、いいでしょうか?」

「構いません、こちらに敵対行動をとらない場合、法律での範疇での行動を認めます」

「わかりました、では、交渉成立ですね」

そういうと光近と真霜はお互い握手する。その隣でこれらのことを記していく書記。そして、一安心したのか、部屋を出ていく書記。

 

「ふぃ~」

先ほどまでの凛々しさは何処に行ったのかというくらい気の抜けた感じで、ドスンと椅子に座る宗谷真霜。

 

「あぁ~づかれだー」

「あの、宗谷一等監察官?」

「今プライベートタイムだから、そんな堅苦しく呼ばなくていいよ、真霜さんでいいよ、真霜さんで」

「・・・えっ?」

妙なギャップに少し驚いている光近。

 

「ねぇ、光近君だっけ?」

「はい」

「君、歳いくつなの?」

「17歳です」

「若いわね君、それにしても、提督なんてすごいね」

「いや、まぁ、色々ありまして」

「まぁ、ほんとに色々あったみたいねー」

お前に何がわかるのかと言いたくなる光近。

 

「それで、なんか浮ついた話でもないの?」

「いや、特に…」

「えぇ~結構モテそうなのにねー」

地味にあの世界での中学のトラウマを抉ってくる彼女。それから、彼女の部下が戻ってくると、すぐに雰囲気を変える。光近も、それに倣い雰囲気を変える。

 

「宗谷一等監察官、本部より承認が下りました」

「そう、わかったわ、それで彼の階級は?」

「大将相当ということです」

「わかったわ、ということで、米内光近提督、貴方を海上安全整備局での階級を大将とします」

「謹んでお受けします、宗谷監察官」

頭を下げる光近。それから、彼女は軽く椅子に腰かけ

 

「これからのことについては、また電文にて知らせるわ、今日はありがとう」

「いえ、こちらこそ、これからお互いよろしくお願いします」

「えぇ、それはこちらこそよ」

これが最善の策であったのか、それは定かではない。

とはいえ不確定な世界で一応の生存権の保証はされた。あとは、世界がどう動いていくかだ。

それは誰にも分らない、まるで海のような航路を光近と艦娘達は動き出した。

 


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