ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
数刻前――太平洋艦隊連合艦隊第七艦隊――DDG-A73『こんごう』
太平洋艦隊第七艦隊は、一路合流ポイント房総半島沖合に向けて厳重警戒の中を航海をしていた。その第七艦隊の中、実験艦ではなく戦闘艦として就役したDDG-173『こんごう』のCICは、緊張に包まれていた。同時に艦長の火野夏音は、その指揮を執るべくCICに赴いていた。機密区画であるCICの巨大なディスプレイには富士山頂の円水平線レーダーや各レーダーから提供された情報がリアルタイムで表示されていた。
「艦長、武蔵へのミサイル攻撃の射程圏内に入りました」
「ありがとう、発令して頂戴」
「了解、配置につけます!対空・対水上戦闘用意!繰り返す対空・対水上戦闘用意!」
鐘の音が鳴り響く。同時に、明るかったCICに戦闘配色用の色に変わり、同時に合戦準備という表示が出る。
「主砲、短SAM、VLS準備完了!対空戦闘用意よし!」
「トラックナンバー2284――直教艦武蔵!」
「(まさか、この艦の初戦が武蔵になるなんてね)」
「武蔵の砲弾迎撃もあり得る、気を抜くな――」
夏音の号令がCICに響き渡る。
「各種レーダー目標捜索開始!」
「了解、捜索開始!」
「武蔵を補足、浦賀水道に向かって北上中」
「晴風、武蔵の主砲射程圏内に入りました」
「イルミネーターレーダースタンバイ!」
砲雷長が指示を出していく。CICは外と違っていたって冷静だった。そして、艦隊と合流し戦列を組んだ直後だった。
「出ました!武蔵発砲!…これは、晴風の直撃コースです!」
「迎撃しろ!シースパロー発射はじめ!」
「発射!サルボー!!」
そして、こんごうの艦内に衝撃が走るとともに、シースパロー艦対空ミサイルがVLSより発射された。
大和艦橋――
「こんごうよりシースパロー発射!」
「目標まで残り10秒!」
「(間に合ってくれ!)」
大和の艦橋からその光景を見守る。そして、シースパローが晴風のすぐ前で爆発した。
『晴風への直撃弾!破壊!』
『晴風の損害軽微の模様!』
心の中でガッツポーズをする光近。
「一気に制圧するぞ!各艦戦闘開始!」
「了解!戦闘を開始します!右砲雷撃戦用意!!目標!直教艦『武蔵』!」
ジリリリリリリリリリ!!
大和のいつにない勇ましい声と共に、大和の戦闘部署が発動され、武蔵に向かって大和の主砲が動いていく。
『甲板作業員退避!主砲発射に備え!』
砲雷員の声が艦内に伝わる。
「一斉射撃!一気に武蔵の側面に穴をあけるわ!各艦主砲発射タイミングを調整開始!」
まさに艦隊総旗艦というべきほど的確な指示を出していく。
『主砲射撃用意よし!各艦とのリンクおよび同期完了!いつでもいけます!』
「目標!撃ち方はじめ!」
待ってましたと言わんばかりの声音だ。同時に、各戦艦から一斉に砲撃がなされる。まさに、その音は空を割れるレベルだ。そして、砲弾が武蔵の副砲に直撃し、盛大に爆発する。
『武蔵、副砲大破!』
そして、頃合いを見計らったかのように、数百機にも及ぶ航空機が一気に降下を始める。
『武蔵主砲旋回!航空部隊に狙っています!』
「牽制魚雷!水雷戦隊攻撃はじめ!」
そういうと、武蔵をけん制するように駆逐艦や軽巡洋艦が魚雷を発射する。
「射撃準備完了し次第砲撃はじめ!撃たせるな!」
同時に、大和の上空を数発のミサイルが飛んでいき、武蔵の対空機関砲を破壊する。そして、航空部隊の一斉攻撃が始まる。
ヒュールルルルルル・・・
ダイブブレーキの音と共に、二航戦の部隊が一気に襲い掛かる。そして、次々と魚雷を落としていく。その後ろから一航戦の部隊が反対側の対空機関砲を機関砲で破壊する。
『武蔵の攻撃火器、半数を破壊!』
「三段打ち、攻撃はじめ!」
その言葉と共に、絶妙な連携のとれた戦艦部隊から直教艦武蔵に向けて絶え間なく砲弾を降り注ぐ。
まさに隙間ない戦艦の砲撃だ。その様相はまるで武田の騎馬隊を打ち払った織田信長らの三段打そのものだ。
武蔵に攻撃させる隙すらも与えない。
そんな中、頃合いを見計らったかのように大和は光近を一瞥する。そして、光近も大和に向けてコクリとうなずき。
「武蔵の移動能力と戦闘能力を完全に奪う――トマホークおよび対艦ミサイル発射命令を発令…目標攻撃はじめ!」
その号令が後方のイージス艦に伝えられた。