ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
大和型だという報告に艦橋は緊張に包まれていた。
「大和型か、厄介なのが出てきたな…」
「そうですね、報告によると大和型の何番艦かは不明だということです」
「ハシゴの踊り場の数が違うのではないのか?」
「えぇ、私と妹の武蔵では、ハシゴの踊り場の数が違いますが、どうやら違うみたいです」
「大和、一応確認だが、大和型戦艦は基本的には二隻、大和と武蔵なんだな?」
「そのはずです」
「となると、判別には時間がかがらないはずなんだがな…」
「えぇ、そうですね」
大和はそう頷く彼女も頭を悩ませている。そんな中だった。
「話は聞かせてもらった、多分相手は、第四次海軍軍備充実計画の中の111号艦、大和型四番艦『紀伊』の可能性があるな」
艦橋にやって来たのは武蔵だった。
「紀伊だと・・・!?」
まさかの言葉に驚いている光近。まさか、こんなことになるとは思ってもいなかったからだ。
「どちらにせよ大和型に変わりはない、最悪の事態を考えておくしかないだろう」
「そうだな…大和、報告に秋月型か、防空駆逐艦はいるか?」
「いえ、ありません、とはいえ、大和型の対空火器は伊達ではありませんので、警戒する必要はあるかと」
「となると、最悪持てるだけの航空戦力を動員するしかないな…」
光近の言葉に、艦橋が静まり返る。なにせ、やろうとしているのは、アメリカと同じやり方だったのだ。
「提督、艦隊各艦、戦闘配置完了――いつでもいけます」
通信員から報告が入る。どうやら、戦闘準備が出来たようだ。
「よし大和、各艦通達、両舷前進原速」
「了解、両舷前進原速!」
大和の船体がゆっくりと動き出していく。
「後続空母を中心に輪形陣、潜水隊は前列へ」
光近の号令で戦列を整えていく。
「所属不明艦隊、魚雷射程内に入りました」
艦内に緊張が走る。
「航空母艦 赤城より連絡、各飛行隊発艦準備完了、5分以内に展開可能とのことです」
「別名あるまで発艦待機を伝えろ、それと各水雷戦隊の状況は?」
「魚雷射程圏内、補足よし」
「光信号にて、所属不明艦隊に、積極的交戦の意思はないことを伝えろ」
「はっ!」
そういうと、光信号が送られる。そんな中だった。
『こちら通信室、提督、モールスによる電文が来ました』
「読み上げてくれ」
艦内マイクを手に取る光近。
『こちら海上安全整備局『ブルーマーメイド』所属艦『紀伊』――所属、目的を明らかにし、貴艦の速やかな停船と武装解除を要求する、指示に従わない場合、法律に則り、貴艦隊を攻撃す、とのことです』
「明らかな攻撃の意思を伝えてきたな…」
「えぇ、そうですね、万が一のことも本気で考える必要がありますね」
大和も苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「赤城に下令、全攻撃部隊発艦はじめ、威嚇飛行にとどめろ、紀伊に連絡、生存権の確約が保証されれば貴艦の指示に従うと伝えろ、」
『了解』
そういうと、赤城から攻撃機が発艦していく。艦橋と艦隊共に、極度に緊張が走っていく。
「提督、おそれながら一つ宜しいでしょうか?」
そんな中、話しかけてきたのは、艦橋の士官の女性だった。
「あぁ、遠慮なく言ってくれ」
「はい、この距離なのに航空機がいないのは何か不気味な気がします」
「…航空機?」
「えぇ、編成なのですが、目視で確認する限り戦艦に軽巡と駆逐艦、しかし、偵察の航空機もいないのですが、通常であれば、上空警戒で直掩機を回すのでは?」
「確かに大和、大和型に積み込める艦載機は?」
「零式水上偵察機です」
「…確かに、それもいないな、この件に関してキミはどう見る?」
「はい、少なくとも近代化されているかと考えます」
「近代化…か?」
妙に嫌な気配が頭をよぎる。近代化となると、相手の砲撃はおそらくかなり正確なものになるだろう。そんな中だった。
『紀伊より電文 貴艦の条件を受諾し、生存権の確約を保証する、同時に、貴艦隊の今後について、交渉の場を希望する、決定権の有する人物と、本艦内で会談を行いたし、交渉人の派遣なき場合、貴艦隊を強制拿捕することもやぶさかではない、宛、所属不明艦隊代表、発、海上安全整備局 一等監察官 宗谷真霜』
「打つべき手を打ってきた、というところだな」
「えぇ、どうみますか、提督?」
「流石に無用な砲火を交えるつもりはない、とはいえ、みすみすやられるつもりもない、ここは、行くしかないな」
「了解しました、用意します」
「あぁ、それと私がなんかあった時の指揮はみんなで決めてくれ、頼むぞ」
「はい」
そういうと、執務室で用意された制服姿に着替える。それから、左舷側に行くと小型艇がやってくる。
「では、参りましょう」
そういうと、一路敵地に乗り込むことになる光近。視線の先には、大和型4番艦紀伊がいた。