ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
「出航!進路270、目標御蔵島!」
「了解、第三せんそーく」
「各艦に下令、追艦距離4000ヤード、連絡を密にせよ」
「りょうかい」
艦隊は一路、御蔵島に向けて動き出した。
それから数日後
第二艦隊旗艦の長門に乗り込み、艦隊の指揮を執っている光近。
「提督、間もなく御蔵島管制海域です」
「よし、御蔵島海域管制塔とコンタクト、それに従って入港しよう、晴風とシュペーにも伝えてくれ」
「わかりました、全艦、入港よーい!」
長門の指示とともに、ラッパの音が鳴り響く。同時に、航空隊が降りるために、長門の頭上を通過していく。
「おぉ、こういうときは航空隊も早いな」
「今頃管制塔は二つとも大変だろうな」
「確かに」
この御蔵島は海上滑走路と陸上滑走路、それに海域管制もあるので、管制塔が二つある。航空管制塔と海域管制塔である。それから、指示に従って入港する。
「提督、全艦入港終わったぞ」
「ご苦労、さて、私も降りるとするか」
「そうだな、久しぶりだ、少し羽を伸ばさせてもらおう」
「そうだな、とはいえ、伝えた通りローテーション上陸で頼む、あくまで半舷上陸ってことになっているからな、緊急事態があればすぐに出れるようにしておいてくれ」
「あぁ、機関部の火は落とさないでおこう」
「それで頼む」
そういうと長門から降りると、帰港していた第四艦隊の衣笠がやってきた。
「・・・早期警戒機は?」
「現在、海上安全整備委員会の要請で、本土上空に展開中です」
「本土に近づけばすぐにとらえられるということか…」
「えぇ、ちなみに現在パーシアス作戦のこともあり、休暇中の艦隊以外は、日本領海内に展開しています」
「さすが、行動がはやいな」
「えぇ」
光近は、各メンテナンスハンガーの状況を見ると。
「空中指揮管制機もメンテナンス中か」
「夕張さんの話だと三日以内に終わらせると」
「そうか…」
暗雲が立ち込め始める。
「ちなみに、ほかに変わった状況は?」
「特に何も?どうかされましたか?」
「いや、気になっただけさ」
「提督、どうされますか?」
「あまり、いい状況じゃないというのは明白だが、かといってこの状況を座してみているわけにもいかない」
「提督、手段があるのですか?」
「あるにはあるが・・・奥の手だ」
そういうと、光近は指令室を後にして夕張と明石のいる工廠に向かって歩き出した。
工廠――特殊兵装研究室
やはり根回しの榛名というわけか、工廠に到着するとまるで待っていたかのように明石と夕張がいた。
「久しぶり、提督さん」
「お久しぶりです、提督」
「あぁ、長いこと留守にしていたな…今、二人はいいのか?」
「えぇ、ちょうどひと段落よ、それより、話があるんでしょ?」
「まぁな」
光近は、親指でかべさして、裏という意味を表す。すると、あまり人のいない部屋に案内された。
「それで、どうかしたの?」
「あぁ夕張、例の計画艦を実戦導入する」
「ちょ、ちょっと待って!?それ本気!?」
「本気も本気だ、夕張も事情を知らないわけではないだろう・・・」
「けど、練度の面から見たらまだ実戦段階じゃないわ」
「それは、これからの航海で判断させる、それでVLSに関してだが――アスロックはもちろんのことだが、タクティカルトマホークとシースパローを搭載しておいてくれ」
「VLSだからできるけど・・・本気で言っているの?」
「むろん本気だ、我々は最悪の状況を回避するためにあらゆる手段を使わなければならないことになっている…それが例え、艦橋にミサイルを打ち込むことになってもだ」
拳を握りしめる光近
「わかったわよ、ちゃんと積み込んでおくわ」
「すまん、よろしく頼む」
「えぇ、けど提督も最善を尽くしてよね?」
「わかった」
そういうと、光近は工廠を後にした。工廠を後にし、しばらくぶりの実家に戻ると
「ただいま~って、誰もいないか」
長いこと開けていた為、多少埃でも被っていると思っていたが、どうやら誰かが掃除をしていてくれたらしい。
「(あとで、お礼を言っておかなければな…)」
と思っていた時だった。
「あら、戻っていたの?おかえりなさい」
かわいらしい声。そこにいたのは、神風だった。
「おぉ神風か、掃除していてくれたのか?」
「えぇ、掃除しておいたわよ」
「ありがとな」
軽く頭をなでながら部屋に向かう。自分の部屋は6畳に机があるこじんまりとした部屋だ。
「相変わらず提督の部屋は小さいから早く掃除が終わるわ」
「はは、それはよかった」
光近は自分の部屋で軽く着替え台所に向かうと、
「はい提督、麦茶でしょ?」
「ん、ありがとう」
この一杯が癒される。というより、神風の所作はどうもこなれている。それを気にしているが、気にしたら休まらないので、気にしない提督。それから、少し休み。
「んじゃあ神風、少し外回り行ってくるよ?」
「疲れていないの?」
「まぁ、問題ないさ」
「いってらっしゃい~」
「おう」
そういうと、私服に着替えて外に繰り出した。
ワイワイガヤガヤ―
この島のメインストリートを歩いていると
「(マジか…)」
見れば、各艦の各科ごとに行動しているらしく、一科に二人くらい艦娘が就いているのだが。
「(戦艦勢はわかるが…駆逐艦に至っては同化しているな…)」
と物凄い不思議なような安心感があるような光景を見ている光近。視線の先には、天津風と島風が、晴風の機関科を連れて歩いている。その後ろにいる主計課の子たちは、どうやら叢雲と深雪が連れているみたいで、艦橋のメンバーは、古鷹と吹雪に連れられていた。
「…ちょっと提督、あんたなにやってんのよ?」
半ばあきれた声。振り返ってみると、そこにはあの紅髪の少女がいた。
「と、友永さん!?」
「やっほー、んで何やっているの?」
「もちろん、問題を起こしていないかどうかの確認ですよ」
「…はぁ、一応憲兵もいるんだし任せたら?」
「いや、ですけど、あれ、ほら」
彼女らの方を指さす光近。そういうと、彼女もそっちの方を見て
「…あっ、ふーん」
「ですよ」
「理解した、けど、これはあかんよ、やるなら堂々とどうなのさ?」
「それをやる前に見つかったんでしょうが!?」
「よく言うよ、ま、いいわ、付き合うわよ」
「いや、友永さん「いいの…よ?」あっ、はい」
その気迫に押される光近。
「ま、影ながら見させてもらおうとするか」
ゆっくりと遠巻きから彼女らを眺めている光近。
それから、光近は途中で彩音と別れ、この御蔵島にある居酒屋に向かった。