ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
ズドォオオォンッ!!
晴風はトラック近海の諸島郡で比叡の猛追を受けていた。
『いつまで一杯なんでい!そう長くはもたせらんねぇよ!』
『油も馬鹿食いしているんだけど!』
機関室からは当然のごとく文句が出ていた。
「(攻撃機到着までは時間がかかる、そうなるとなにかしら策を打つ必要があるな)」
光近は思考をめぐらす。
「もとより航続距離はあちらが上ですし、こちらは無理な動きをしていますからね」
「次の手を打たないといずれ限界がくるぞ」
「艦長、気持ちはわかるが――これ以上は」
「けど、私たちがあきらめたら「なら、比叡の足を止める以外方法はないんじゃないか?たとえ沈めることになるとしても」えっ?」
シロちゃんの言葉に艦橋全員が驚く。まさか、こんな言葉が出ると思ってもいなかったからだ。光近も当然驚く。
「比叡の舷側装甲は武蔵のおよそ半分」
「砲撃は無理だが、雷撃ならいけるな」
直に計算して言う光近。
「よっしゃキター!きたよー私の時代!」
とたんに元気になるメイちゃん。それを置いておいて話を続ける。
「誰も沈めるといっているわけではない、仮定の話で、仮に方法がなかったらの話だ」
「比叡に乗っているのは、私たちの同級生なんだよ、もしものことがあったら」
「しかし、このままでは、距離を取りながらの追尾しかないだろう」
「なんとかして、沈めずに比叡の足を止めよう」
「シュペーの時と同じことを!?しかし、あのときですら無理だったんだぞ」
「両弦に副砲七門、こちらの射程に寄せる前に蜂の巣ですね」
「そうだな、かといってこの晴風には--」
光近は送風管につまった五十六を見る。
「(確かに、あったな--)」
光近と明乃はお互い顔を見合わせた。
「――以上が作戦の概要です」
明乃は艦長としてその作戦の通達を乗員全員に話していた。光近はそんな中、明乃の後に続くように伝声管で話しかける。
「知っての通り、比叡はウイルスに感染している可能性が大きい、その為、人口数万、尚且つ海上の要所であるのトラックに近づけば想像を絶する事態になることは明白だ、そうなると、ここで対処できるのは我々しかいない」
「また、私がウイルスのワクチンは開発しており、既に学校と太平洋艦隊におくっている、そのため比叡の足止めさえすれば、後日比叡の生徒は治療できるかもしれない、今比叡を放置すれば彼の言う通りトラックに被害がでる」
光近の言葉に続くように鏑木が言う。
「私は、みんな助けたい、比叡のみんなも、トラックのみんなも、海の仲間は家族だから」
『で、また一人で飛び出すつもり?』
「ううん、この力を成功させるにはみんなの力が必要なの、だけど、みんなに危険がおよぶから、私ひとりじゃ決められない、だから、みんなの意見が聞かせて」
その言葉に真白の顔が驚きに変わる。伝声管を通して、少しネガティブな意見が聞こえてくる。そんな中
「わ、私、やります!がんばります!!」
艦橋に響き渡る声。見れば少し目を腫らしたリンちゃんの姿がそこにあった。
「おぉ~引っ込み思案な知床さんが」
「どーする?」
「Oui、Oui」
「よし、やるか!」
「やるやる!」
メイちゃんやタマちゃん、それにまゆちゃんが賛同する。
「やぶさかではありません!」
「私も手伝う、他人事ではないしな」
「「わ、私達も!」」
「艦長は私達を助けてくれたし」
「今度は私達が艦長を助ける番!」
「「だよね!」」
ココちゃんとミーナも賛同し、一同が賛同し始めていく。その光景に涙を少し魅せる明乃。
「明乃さん、私も持てるだけの力全てを動員して手伝おう」
光近もそういう。既に航空部隊も上空展開し始めているころだ。となれば、明乃の立てた作戦に十分使える。
「艦長、やるからには私も全力を尽くします」
「みんな・・・ありがとう―――戦闘よーい!!」
明乃の号令が響き渡り、作戦が始まった。