ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
第三艦隊旗艦 武蔵執務室――
「…」
光近は、武蔵の執務室からその水平線を眺めていた。
Knock!Knock!Knock!
「失礼するぞ、損害報告書を持ってきた、目を通しておいてくれ」
声音から見てやってきたのは武蔵だった。
「ありがとう、目を通しておこう」
光近がそういうと、何も言わず部屋を去る。
「・・・クソっ!」
光近は近くにあった机の足を思いっきり蹴った。
「(何のための太平洋艦隊連合艦隊か――!)」
当初の目的は達成されたしかし、それだけではダメだったのだ。
「(あの時点で武蔵を拿捕していなければ…今後、尋常な被害が出る…)」
ブルーマーメイド、それにホワイトドルフィンの実情を知っているからこその憂いだ。
「(とはいえ、今強気に出れば今後の艦隊運用に支障がでる…)」
光近の頭の中に浮かぶのは晴風と艦娘たちの笑顔だ。
「(これ以上、被害を出すわけにはいかない…あの艦隊が必要だ)」
そういいながら、光近はとあるところに電話を掛けた。
「・・・これが岬艦長からの報告書か」
「えぇ、そういうことになります」
電話をかけ終わり、光近は第三艦隊副旗艦の扶桑が持ってきた晴風艦長自身のあの行動についての報告書を読んでいた。
「…どう考えても彼女が書いたものじゃないな」
「やけに報告書が書きなれているというか、少しおかしいと思ったんですけど、あちらの学生が持ってきたので、受け取りました」
「となると、副長の真白あたりだろうな…」
「私も同感です」
「どうします?」
「彼女の素性の関係上、深く言うつもりもない、とはいえ、軽く小言ぐらいはいいだろう」
「あら、戻られますか?」
「ん、まぁな、少し説教してくる」
そういういうと、光近は説教に向かった。しかし
「…ま、いえるわけないか」
甲板に行くと、ずぶぬれになって顔色を暗くした女の子。間違いなく岬明乃だった。このザマを見るともはや怒るに怒れない。
「おい!岬艦長、大丈夫か!?」
駆けよる光近。
「よ、米内さん…私、私…」
目に涙をにじませる。ここまで追い詰められている人間に追い打ちをかけることはできないので、ゆっくりと抱きしめ、その場で落ち着かせることに決めた光近。だが、いうことはしっかりという光近。とはいえ、内心はというと
「(俺も、甘くなったな)」
心の奥底でそう思いながら、泣いている彼女を静かにあやした。
それから数日後――
武蔵と長門、それに一部の艦艇が損壊を受け、尚且つ航空機の補給も必要となったため、損傷艦艇は教官艦隊と共に、フィリピンのスービック海軍基地で応急補修および修理を受けることになり、艦隊を離れ、そのため、第三艦隊副旗艦の扶桑が艦隊旗艦となり、晴風と共に行動を共にしていた。
光近は相変わらず晴風に乗り込んでいた。
「提督、それに艦長、ちょっといいですか?」
「ん?」
艦橋にやってきたのは電信員のつぐちゃんだった。
「どうした八木さん?」
「うん、さっきから通信が入らないの、艦内から微弱な電波を拾ってて、そのせいで扶桑さんたちと連絡も取れないし、現在地がわかならないの」
「そりゃ厄介だな、何とかしよう、案内してくれるか?」
「はーい」
「それと明乃さん、艦橋の内田さんに光信号で扶桑とコンタクト、扶桑に現在地を教えてもらうようにしてくれ」
「うん、わかりました」
そういうと、つぐちゃんに案内され、電波のもとをたどると
「(医務室?)」
やってきたのは医務室だった。光近は先頭切ってはいると、そこではまさに今から鼠の解剖をしようとしているみなみさんがいた。
「お疲れ、みなみさん」
「おっ、提督」
そんな中、光近の足元を鼠が抜けていく。同時にシマちゃんに抱かれていた猫の五十六が動いていく。
そして、それを追っていくと、左舷キャットウォークで五十六がその鼠を捕まえ差し出してくる。その直後、
『電探復活!』
『通信回復しました!』
『周辺の音がよく聞こえます』
「…原因はこいつか?明乃さん、触るなよ」
釘をさしながら、その鼠をどうするか考えていると、みなみさんがやってきた。
「捕まえたか」
「えぇ、にしても原因はこいつみたいです、こいつなんですかね?」
「鼠ではなさそうだ、さっきのアレからウィルスが発見され、それが砲術長の血液からも見つかった」
「…立石さんの原因はそれか、南さん、こいつで抗体はできそうですか?」
「可能性はな…」
「よろしく頼みます――」
そういって、握手をかわそうとしたその直後だった。
『提督さん、伊168さんから艦隊全艦停止命令が出ました!』
「晴風停止!左舷錨下せ!後進一杯!」
まさに瞬時の決断。光近の指示ですぐに投下された錨は晴風を強引に海上でドリフトさせ、その動きを止めた。