ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
side 東舞鶴男子海洋学校――教官艦隊
教官艦隊は武蔵の攻撃を受け、かつてない危機と緊張に包まれていると共に、一つの決断を迫られていた。
「砲撃を辞めさせよう、どこかに開けて傾斜させれば砲は使えなくなる」
「生徒の艦を、撃つことになりますが――」
教頭の言葉に若い教員が信じられないといった顔でいう。
「砲を撃てなくしてから、生徒を保護する」
「了解…対水上戦闘用意!」
男子の若い教員はマイクを口元に充てる。同時に、教官艦隊全体に通信がいく。
「主砲配置よし!各部配置よし!非常閉鎖よし!対水上戦闘用意よし!」
『三番艦被弾!』
武蔵の攻撃で傾斜していく艦。
「対水上戦闘!噴進魚雷!攻撃はじめ!」
「噴進魚雷発射はじめ!!」
そういうと、武蔵に向かって攻撃が開始され、前のVLSより噴進魚雷が発射される。
ズドドドドォォンッ!!
武蔵の右舷に直撃し、衝撃と大きな水しぶきを巻き起こす。
「目標命中!速力変わらず、砲が動いています!」
「演習弾では無理か――!」
焦りを見せる教頭。武蔵の砲が容赦なく艦隊の陣形を乱し、艦にダメージを与えていく。
『水上レーダー新たな艦影を探知!120度40マイル、艦影30を超過――大艦隊です!速力30ノットでこちらに向かってきます!』
突如、あおつきの電探室からの通信が飛び込んでくる。
「一体、どういうことだ!?まさか、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの治安出動がかかったのか?」
「いえ、海上安全委員会からそのような報告は来ていません」
「じゃあ、一体どういうことなんだ…」
無数の飛行船に続き、突如現れた大艦隊に困惑している教官たち。
「とにかくまずは所属の確認だ――見えるか!?」
双眼鏡を取り、その艦を見る。見れば見慣れない旗印だ。
「見慣れない旗印だな」
「えぇ」
そんな中、通信室の使われないはずの回線が光った。
『教頭、教頭宛に直接通信です』
「わかった取ろう」
そういうと近くのマイクを取ると、すぐに声がしてきた。
『――こちら゛太平洋艦隊゛、貴艦隊は速やかに本海域より離脱されたし』
教頭にとってその言葉は衝撃を与えるに充分であった。
太平洋艦隊――第二・第三連合艦隊
『日本領域内展開中の各艦隊、こちら太平洋艦隊艦隊司令部、太平洋艦隊第二・第三艦隊は、本時刻を以て、連合艦隊体制に編成、横須賀女子海洋学校直教艦『武蔵』に対し、砲雷撃戦を発動する、目的は、教員艦隊の救出である、繰り返す――』
艦隊司令部からのメッセージが通信機から流れ、艦隊はピリピリし雰囲気に包まれていた。
第二・第三連合艦隊――第二艦隊の長門、陸奥、飛龍、鳳翔、飛鷹、古鷹、加古に加え、第三艦隊の武蔵、扶桑、蒼龍、葛城、妙高、那智。さらに第二水雷戦隊:川内-嵐、荻風、親潮、江風、第三水雷戦隊:能代-吹雪、深雪、叢雲、白雪、第四水雷戦隊:神通-時雨、夕立、天津風、島風、第五水雷戦隊:阿賀野-曙、潮、漣、朧の合計33隻で構成された巨大な艦隊だ。そして、航空機は合計で365機である。アメリカの正規空母5隻分と同等の戦力だ。
その大規模な艦隊の上空には、各航空母艦から発艦した艦載機が直掩に回っていた。
「(さて…鬼と出るか蛇が出るか…)」
そう思いながら、その戦列を見渡す。今回の作戦は、教官艦隊の離脱が目的だ。そのため、飛龍・蒼龍・葛城・鳳翔・飛鷹の航空母艦と護衛の第5水雷戦隊は、武蔵の主砲射程圏外で退避。それ以外の艦艇で作戦を実行するということだ。そして、予定通り空母部隊が離れていく。水平線は心地よいくらいに碧い。それに雲もそれにマッチしている。
「提督、間もなく直教艦『武蔵』の主砲射程圏内です」
隣にいる武蔵が下士官からの報告を受ける光近。そして、帽子を被り直しゆっくりと立ち上がる。
「これより、東舞校の教員艦隊の離脱支援を開始する!作戦…発動!」
「了解、対水上戦闘よーい!」
『対水上戦闘よーい!』
武蔵の艦内に鐘が鳴り響いていく。同時に、すべての艦が戦闘状態になる。
「トラックナンバー2284、直教艦『武蔵』!」