ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
「ふむ、これが大和搭載の46㎝砲の上か」
光近はパーティーの準備がされている間、一人で大和の艦内を見て回っていた。
「こうみると、どこか哀愁あるものの、また不思議な感覚だな」
主砲の上で一人ずわりしている光近。視線の先には、夜の海。そしてその水面と蒼穹に浮かぶ満月。
ただ一人、黄昏ている光近。そんな中
「案外、人は見かけによらぬものだな――」
やって来たのは、薄銀髪に褐色肌の少女、武蔵であった。
「どうだ、46㎝砲からの眺めは?」
「案外いいもんだな…これはこれで」
「そうか、私の砲術長もよくここで考え事をしているものだ、思うところがあるのだろう」
と流し目で言ってくる武蔵。
「武蔵はいいのか、ここにいて?」
「なに、パーティーまで時間があるからな、それより少しは手伝いに言ったらどうだ提督?」
「ん、あぁ、俺が言っても足手まといだろうからな…それに大和が任せろってな」
「ほぅ、大和姉さんがそんなことをねぇ…これは期待できそうだな」
「そうなのか?」
「あぁ、そうだ、さて、私は機関部にでも見に行くとするよ、提督はどうする?」
「ん、しばらくここにいるさ」
「そうか、足元に気をつけろ、では後でな」
そういうと、武蔵は降りていき、艦内に消える。
ヒュールルル…
光近の頬を夜風が撫でる。何と言えない心地よい≪夜風≫だ。
「(さて、これからどうなるのやら…)」
思い出されるのは昼間の出来事。あっという間の出来事でもあった。
「(提督か…考えていてもしょうがないか)」
その職務とは何なのかと自問自答し始めようとするが、考えていてもしょうがないことだと自分の中で納得づける。そして、主砲から降り、光近はパーティー会場に向かった。
「これは…豪勢だな」
正に圧巻としか言いようのない状況だった。光近は、パーティーが始まるまで色々と艦内を見回わることにしその際、すれ違った艦娘達と言葉を交わしていた。そして、そこから戻っていると、食堂の奥には正にパーティーにふさわしい華やかな料理が出来上がっていた。
「ま、こんなもんですかね?」
「ん、大和、これはいったい?間宮だけじゃなかったのか?」
「そんなわけないですよ、大和の給仕と間宮の全面タッグによってなせる業です」
「そうか、これは凄いな」
半ば感嘆の息を漏らす光近。そして、パーティーの準備は着々と進んでいく。
「(茣蓙座り、まぁ、楽か)」
大和の机などがとっぱらわれ、あっという間に畳が敷かれ、料理が並べられていく。外に出ていた艦娘達もぞろぞろと戻ってきて、全員が揃った。
そして、当然のことながら乾杯の音頭を取ることになり
「では、今宵の出会いを祝して、そして明日からの世界に向けて、乾杯!」
『かんぱーい!』
乾杯の音頭を取り、軽く飲み物に口をつける光近。そして、用意された料理を食べていると
「ほら提督~こっちですよ~」
「お、おう」
いきなり蒼龍に引っ張られる。見れば、顔がどことなく紅い。
「(あ、当たってる!当たってるってば!)」
と主張したいが、有無をいわさず引っ張られる。
「はい、提督ここに座ってー」
到着したのは、正に混雑状態といった席の中心。光近を取り囲むように艦娘達が一斉に集まる。
もはや暁から長門までといったなんでもありの状態だ。
「んじゃあ~ノっていきましょー」
『イェーイ』
蒼龍の音頭に悪乗りした艦娘達が続く。どうやら、何か嵌められたらしい。光近は大和に視線を送るが、こちらに気付いていない。いや、気づいてないフリをしている。
「(ぬぉ、大和まで落ちた…だと!?)」
とはいえ、彼女らに囲まれてまんざらでもないのも事実だ。
「ほ~れ、提督も~飲み物何がいい?
「う~ん」
ちなみに隼鷹は酒を今か今かと用意している。
「(ビールだけはな…)」
思考をめぐらせる光近。
「んじゃあ烏龍茶、ロックで」
と少しかっこつけて言う。
「イェーイ、烏龍茶入りましたー」
もはやテンションがおかしくなっている艦娘達。それから、色々なところに引っ張りまわされる光近。
特に一番応えたのは隼鷹でも那智でもなく、酔っぱらった扶桑の不幸談義であったということは言うまでもないことでもあった。