ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
アラート待機所
太平洋艦隊は、その性質上、光近のいた世界の自衛隊のような役割を持っていた。そのため、ほかの国に比べて航空戦力は充実しており、強力な航空戦力を保有していた。そして、その象徴といえるのが、この滑走路近くに敷設されたアラートハンガーの中にある戦闘機だった。
『スクランブル!』
赤城からもたらされた声とともに、このハンガー全体にけたたましいベルが鳴り響く。そして、紅い回転灯が回りだす。ちょうど、アラートハンガーでの待機組だった第一航空戦隊第一航空部隊部隊長の友永彩音は、ほんの少し身を固くしたが、そのアラームを聞いたと同時に、ハンガーに駆け込んだ。
そして、戦闘機に乗り込むと同時に、エンジンに火が入る。同時に、エンジンを温めるとともに、ハンガーの扉が開いていく。目の前の誘導員の指示に従い、グランドに出ていく。そして、滑走路に出ると共に、スロットルを上げ、物凄い轟音と共に、戦闘機は空に駆け上がりはじめた。
晴風――
晴風は闇夜に包まれつつ航海をしていた。
「ココさん、追艦距離に気を付けてくれ」
「はい、わかりました」
光近は艦長の代わりに一時的に艦の指示を出していた。
「(特に何もなければいいがな…)」
とはいえ、どこか胸騒ぎがする。その直後、光近の通信機がなった。
「どうした?」「提督、水中に機音あり、方位30です』
「確認する、万里小路さん――」
伝送管を通して水測員の万里小路楓に伝えられる。
『はい、なにか海中で変な音がします』
「変な音?」
『二軸の推進機音、感二です』
「(この胸騒ぎはこういうことだったのか!)」
「納沙さん、艦長に連絡、艦長が来ると同時に配置につかせてくれ!」
「はい!」
一気に慌ただしくなる艦橋。光近はすぐに専用通信機を取り出す。
「第二艦隊全艦に通達、対潜戦闘用意!聴音手、音を聞き逃すんじゃないぞ!」
『了解!』
通信機の奥から鐘の音が聞こえる。そして、対潜戦闘隊勢に移行する。同時に、艦橋に艦長の明乃がやってくる。
「第二艦隊、対潜戦闘序列を取れ」
そういうと、晴風を中心に対潜戦闘の陣形になっていく。
「ココちゃん、報告して」
「二軸の推進機音、感二、現在音紋照合中です」
「水上目標なし、おそらく潜水艦だ」
「――潜水艦」
「あぁ、そうだ」
それから、続々と艦橋要員が集まり、配置についていく。
「――各部配置準備終わりました」
「よし、周囲に警戒しつつ、灯り落せ」
「えっ!?」
「いいから」
そういうと、晴風の艦橋電灯と航海灯が消える。
『音紋照合いたしました、東舞校所属伊201ですわ』
「ありがとう、万里小路さん」
『どういたしまして』
光近は暗くなった艦橋を一瞥する。
「にしても、伊号潜水艦か、それに東舞鶴男子校の艦か」
「潜水艦は全部男子校ですもんねー」
右舷の管制員のまゆみちゃんが言う。
「そうだったな」
「絶対追っ手だよ、撃っちゃお!」
メイちゃんがそういうが、この晴風に関しては対潜装備が致命的に少ない。
「ココちゃん、伊201と通信ができないかな?」
「普通の電波は海水で減勢するので、届きませんね」
「じゃあ普段通信はどうしているの?」
「海上に浮上したときに、時間を合わせて通信と言ったところだ」
光近が解説するように言う。
「米内さん、となると向こうも潜っているときはソナーで外の様子を確認しているんですよね?」
「あぁ、そういうことになる」
「なら、アクティブソナーをモールスの代わりに使ったら?」
『おそらく可能かと存じますが』
伝声管を通して伝えてくる。
「確かにその案もあるが、問題なのはあちらに敵意があるか否かだ、晴風をみすみす晒すわけにはいかない、ここは第二艦隊がその役目を引き受けよう」
光近は無線機のスイッチを入れる
「長門、聞こえるか、送れ」『こちら長門、聞こえるぞ、どうぞ』
「アクティブソナーで伊201に、所属と艦名、戦闘の意思はないことを伝えてくれ、送れ」
『こちら長門、了解』
「(さて、鬼が出るか蛇が出るかだな…)」
緊迫した時間が続くのであった。