ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
それから艦を見回りながら左舷の甲板を歩いていると
「ごはんですよー」
主計科の伊良子がごはんを各乗組員に配っていた。
「おぉ~おにぎりか、いつもお疲れ様」
「皆さんの食事は、おにぎりなんですね」
光近はその食事に目をやる。かなり豪勢なもので量があるものを運んでいる、かなり力持ちみたいだ。
「みんな修理で食堂までこれないし忙しいから、、提督さんも食べますか?」
「そうだが、今はいいが後でもらうとしよう」
「はい」
と話していると、砲雷科の松永ちゃんとと姫路ちゃんがやってきた。
「松永さん、姫路さん、こちらは異常はありませんか?」
「あっ、米内さん!ちなみに発射管異常なーし」
「まぁ、魚雷は一本もないけどね」
「そういえば武蔵から非常通信が来たってホント?」
「私もそれ聞いたよ?」
「ほかの艦はどうなっているの?」
三人からの質問攻めだ。やはり、武蔵の非常通信は気になっているようだ。
「今の所、武蔵捜索中っていたっところです」
「捜索中ってもしかして、提督さんの艦隊が?」
「そういうことですよ」
「ふぅーん…」
と一応の納得をしてもらって、その場を離れ光近はココちゃんと共に艦内を歩いていく。
「にしても米内さん、本当にここにいて大丈夫なんですか?」
「ま、聞こえは悪いが、ある種の監視役、ある種の保護者ってことですからね」
海軍服の光近に対してセーラー服の彼女らだ。目立つものは目立つ。
「本来は、女子校だから男子の俺が入るのはご法度なんだが、今は状況が状況ですからね」
「もしかして、アドミラルシュペーの件以外でも?」
「そういうことですよ、一応損傷が確認できたことですし、戻りましょうか」
「はい」
それから、艦橋に戻ると、其処には艦橋のメンバーが概ね揃っていた。
「損傷の確認できました」
「状況は?」
操艦している副長である宗谷ましろが聞いてくる。操舵手の凛ちゃんはいま休みのようだ。
「現在、機関修理中、三番主砲修理不能、魚雷残弾なし、爆雷一発、戦術航法装置、通信機器は一部を除いて、受信のみ出来る状態です」
「航行に必要な所の修理最優先でどれくらいかかる?」
「機関だけなら、あと八時間くらいです」
「まずはそこからだな…」
そういう宗谷ましろ。光近はすぐに伝送管に近寄る。
「機関長、動きながらで大丈夫か?」
『なんとかするー!けど、巡航以上はだせねぇでい!』
「わかった、ありがとう」
「それで、今後の流れについてだが――艦長?」
見れば心ここにあらずというところだ。こういう時はどうすればいいか、光近はわかっている。光近は彼女に近寄り、ゆっくりと肩に触れる。
「はわっ!?」
かわいらしい声を出した。
「大丈夫か、明乃さん、ここにあらずって感じだぞ?」
「あ、米内提督、ごめんなさい」
「ま、前方不注意は事故の元だ、気をつけてくれ」
と言いながらゆっくりと離れる。
「それで、米内さん、進路は巡航で学校に戻るコースで大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない、引き続き指揮を頼む」
「了解」
「提督さん、間もなく変針点です」
「了解、とーりかーじ」
「とーりかーじ、取舵30度よーそろー」
そういうと、艦隊全艦が一斉に動いていく。
「さて、明乃さん、私は少し休憩してくる、少し彼女を借りていいかな?」
光近は、彼女の肩に軽く触れる。
「シロちゃんを?いいですよ」
「申し訳ない」
それから光近は主計科の厨房に立ち寄りコーヒーを二人分もらい、艦隊が一望できる晴風の後部甲板に向かった。
プシュー
コーヒーが開くあのいい音がする。
「ま、とりあえずお疲れ、真白」
「あ、ありがとうございます、光近さん」
「今は、気分がオフだから兄さんでいいよ」
手をフラフラさせてそういう光近。
「それに俺も真白と同年齢だしさ」
と言いながらコーヒーに口をつけ、海を眺める。
「にしても、久しぶりだな、こうして話すのも」
「そうですね、兄さん」
張っていた糸が切れたように顔の頬が緩んでいる真白。どうやら、此処は姉譲りとったところだ。
「(にしても、こういう時間久しぶりだな…)」
久しい時間をどこか懐かしんでいる光近。そして、沈黙が二人を結び付け疲れ、光近は口火を切った。