ハイスクール・フリート―Double Girls Story― 作:有栖川アリシア
米内の名を持つ者
"
彼は、いわゆる一般的な人物だ。
特に人前では問題を起こして目立つことも無く、学校のテストは平均的、素行に関しても特筆すべきところはない。しかし、外国人のような金髪に蒼い瞳。しかし日本人特有の顔というのは、奇異の対象であるものの、担任教師もそれほど厳しく言わず、また変な体育教師に目をつけられることも無く、ただ大人しく生きていた。
とはいえ、彼はオタクである。一般的に、オタクと聞けばアニメなどのようなものであるが、彼はアニメオタクではない。軍事オタクである。特に軍艦や航空機関係、そして、情報戦や戦略面では並々ならぬ知識を保有していた。
体育祭になれば、それほど自己主張しないものの、戦略に関してのアドバイザーになるほどの地位は得ている極めて一般的な人物である。しかし、彼はとあるゲームのヘビーユーザーということを除いてである。
季節は春。
学校のオリエンテーションも終わり、
光近は海岸沿いの帰り道、いつもの通り自転車で駆けていた。
午後の陽ざしが海岸沿いの道路と光近と乗っている自転車を照らしていた。そして、その海の視線の先には、護衛艦が航行しているのが見える。
「(あの艦種は、いずもか?)」
こんなのは見慣れた光景だ。
「(ぁ~今日も艦これだ~)」
最短ルートを攻めるようなインコースで駆け抜ける。
「(そういや、今日の秘書艦は誰だったかな)」
昨日の自分に半ば問いかけてみる。とはいえ、思い出せないものは思い出せない。
そして、無事家に到着する。
家に上がりこれまたいつも通り制服をハンガーに掛けパソコンのスイッチを入れる。
パソコンは、少し待つだけで完全に立ち上がる。同時に、ブラウザが立ち上がり、自動設定しておいた、タブの一つにDMMという文字が浮かび上がる。
タブを変え、ボタンを押すと、いつも通りのゲームが始まる。
『か・ん・こ・れ!』
ゲームをスタートさせる。ここまでがいつものルーティンワークである。
相変らず執務室では、加賀岬が流れている。秘書艦は、天津風だった。
「(さて、今日は…っと)」
どうやらアップデートが終わり、新たなミッションが追加されたようだ。しかし、それは彼にとって些細な事だった。
「(さて、どんなミッションかな?)」
見てみると、そこには『叛乱艦を救出せよ』という任務が書かれていた。
「(ん?よくわからないな…)」
特殊任務なのだろうかと思うがそれは不明だ。念のため、攻略サイトを立ち上げてみるが
「(やはり、完全な情報は上がっていないか…)」
インターネットに上がっているのは、この任務の該当エリアについてだけだ。
「(となると、やはり先行組といっても俺がそれか…)」
先行組。それは、可能な限り早く攻略し、後から来るユーザーに攻略情報を提供するユーザーのことである。
「(第一艦隊にかかれば余裕か)」
彼の場合、揃っているすべての艦は高レベルで尚且つ"ケッコン・カッコカリ"を済ましているという何とも恐ろしいものだ。故に、サーバーでのランキングではトップを維持していた。任務ボタンを押し、そこから出撃する。
「(さて、どうでるかな…)」
攻略情報に書かれているのは、鎮守府近海航路だということだ。因みに、編成は尤も練度の高く、信頼している艦娘達だ。最初のエリアと次のエリアは、特に問題なく進んでいく。
「(さて、最終回戦闘か……)」
問題はここだと直感が告げている。陣形は勿論、単縦陣だ。
「さぁ、ひと暴れしてくれよ――)」
いつの間にか、手に汗が染みだしている。そして、偵察戦が始まる。
そして、『敵艦発見』のエフェクトが出る。そして、敵の姿が現れる。
「――なんだこれ?」
現れたのは空母ヲ級に戦艦タ級、そして駆逐艦イ級。だが、旗艦の所は不明と書かれている。しかしHPだけが異常に高い。650だ。
「(どういうことだよ!?これ!?)」
余りのことに、机を軽く殴りつける。とはいえ、あの不明以外は全て轟沈させる。そして、夜戦に突入する。
「(さぁ、上手く言ってくれよ)」
と夜戦に変わると同時に、不明がレ級eliteに変わる。
「(レ級eliteだと!?)」
数値の違いに驚いている。そして、画面を注視していると
ニヤリ――
「――ッ!?」
画面の中のレ級eliteがこちらを一瞥した気がした。その直後、まるで雷が撃たれたような痛さが駆け巡る。同時に、あまりの痛さで光近はその場で気を失った。