百夜茜は生き残る 作:さんの羊
こっから本格的に動いていくかも…
修行を始めてしばらく経った頃、月光さんに夜、宮阪高校の屋上へ呼び出された。
「…きたか」
「はい、月光さん。一体なんでしょうか?」
わざわざ夜、人気の無い屋上に呼び出されたのだから、それなりの理由があるのだろう。
「お前も…ある程度は強くなった…だが、やはりお前は弱い。圧倒的に。」
「…は、い。」
私は月光さんに真実を突き付けられた。
確かに私はまだまだ未熟で、もうこの年ですでに限界を感じ始めている。
月光さんのような天才ではないただの凡才な人間が鍛えるだけではさすがに限界がある。
「…あまり、この手は使いたくなかったが…」
月光さんは苦い顔をしてそう言い出す。
「おい、出てこい大兎。」
月光さんがそう言うと、屋上の扉から誰かが入ってきた。
「やーっと呼ばれたか」
突然呼ばれた彼は、しょうがないというような顔をしながら月光さんの隣に立った。
「本当にいいのか?まだまだはやいんじゃね?」
「仕方ない。思った以上に茜は弱い。」
月光さんのその言葉が私の胸に深く突き刺さった。
たしかに、私は弱い。いくら修行したとしてもたかが知れている。
ひ弱な人間。しょせん家畜。
その事実は変わらない。
「…まぁ、月光がそう言うんなら俺は手伝うけどさ~…。」
「…あぁ、頼む。
…茜、最後に言っておくが、覚悟が無いなら、やめろ。それだけだ。…後はこの男に聞け。」
それだけ言って、月光さんは屋上から出ていった。
突然知らない人と二人にされ、私は戸惑う。
「…えっと…?」
私が戸惑っているなかで、彼はそれを察したのか私に話しかけて来る。
「んじゃ、茜ちゃん?だっけ?月光から聞いたんだけど…」
「は、はい。」
「俺は鉄大兎。…まぁ、好きによんでくれ。えっと…茜ちゃんの体の中に変なものが混じってるってことは月光に聞いたか?」
「え…?」
…それは、どこかで聞いた言葉だった。
以前、サイトヒメアさんが言っていた言葉。
「でき損ないの異物が混じっている」という言葉。
「詳しくは…聞いてないです…。」
私はうつむいてそう大兎さんに返事する。
…月光さんも恐らく気がついていたはずだ。しかし何故今まで月光さんはその事を私に説明しなかったのか…そんな疑惑が私の心の中に残った。
「え!月光のやつ説明してないのか!?…仕方ない、んじゃぁ…ちょっとそれについて俺が説明しようか…。」
「…え?」
自分の体に混じっているモノ、私はそれだけしか聞いていない。
「…まぁ簡単に言うと、茜ちゃんは…人体実験によって体の中になにか良くないモノを入れられたってことだ。」
「じ、人体実験…!?」
…始めて聞いた言葉にわたしは動揺を隠せなかった。
(いつの間にか自分の体がいじくられていたってこと…!?)
思わず恐怖で私の体が震える。
「…まぁ、俺もなんだけど。」
「…えッ!!?」
とんでもない言葉が大兎さんから出た。
「ど、どういう…!?」
「あぁ、俺は…軍からまぁちょっとあるものを体に入れられてな…。でも、結果的にそれはよかったとも思ってる。」
大兎さんがよかったと思うのは一体どういうことなのか私は疑問が強く浮かんだ。
「……え…?」
「…だって、その力のおかげで大切な仲間を守れたんだ。」
大兎さんの「仲間」という言葉は私の中で深く刻まれた気がした。
「な、かま…。」
「あぁ。俺の大切な生徒会の仲間だ。…まぁ、何度か暴走して仲間に迷惑かけたりすることもあったけどな。」
「……。」
私は大兎さんの言葉に思わず黙ってしまう。
「…だから、月光は茜ちゃんを信じてるんだよ。」
「…へ?」
月光さんが私の事を信じている…?
「一体…どういう事なんですか…!?」
「ん~俺もあんま説明得意じゃ無いからなぁ~…。」
大兎さんは頭をかきながら、そう言う。
「とりあえず…茜ちゃんの修行が第二段階に入るってこと…かな。」
「第二…段階ですか…?」
「うん。でもそれにはまず茜ちゃんに聞かなきゃいけない事があるんだ。」
「聞かなきゃいけない事…?」
「…人間をやめる覚悟は…ある?」
大兎さんのその言葉に、私は頭が真っ白になった。
(人間をやめる…覚悟…?)
「こんなことあんまり言いたく無いけどさ…茜ちゃんがもっと強くなるには…人間をやめる事になるかもしれないんだ。」
(強くなるために人間をやめる…?)
「…茜ちゃんが確実に強くなる方法は手っ取り早くてこれなんだよ」
(え…?)
「でも、100%強くなれるかどうかはわからないんだ。…もしかしたら茜ちゃんはこれで本当に死ぬかもしれない。…いや、死ぬ方がマシかと思うほど苦しむかもしれない。…それでも…」
大兎さんが何を言っているのかよく…わからなくなってきた。
「覚悟はある…?」
大兎さんがこちらをうかがうようにそう私に聞いてきた。
…そして、その時ふいに月光さんの言葉を思い出した。
(覚悟が無いならやめろ…って…つまりは…
このことなの…?)
「凄く動揺するかもしれないけどさ…って、茜ちゃん…?聞いてる…?」
大兎さんが不安そうな顔をしているのも…
自分がどういう立場にいるのかも…
月光さんの気持ちも…
もう、訳がわからなくて…
(私はどうすればいいの…?)
頭が今度は真っ白になった。
明日もできたら続きをいれます。