【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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みっじかいでーす
2000字


落涙の鎮魂歌

 

 極東人は化け物。

 わかっていた事だが、いや、わかったつもりでいただけだった。

 

 真壁ハルオミ。グラスゴー支部に転属したとはいえ、入隊は極東支部。

 彼も神薙ユウと同じく化け物だったのだ。

 

 オペレーター物語では、キュウビ相手に単騎で戦い、時間を稼ぐという化け物さを発揮していたではないか。

 舐めてかかっていい相手ではなかった。

 

 最初の2人、ソーマ・シックザールと神薙ユウ以外『敵』というものに会っていなかったから油断していた。あのおっさん2人やケイト・ロウリー、ギルバート・マクレインに一般人。あいつらが弱いのだ。俺が強いわけじゃない。

 この身はあくまでアバドンだということを忘れてはならない。

 

 あの時のチャージクラッシュは、直撃をギリギリで躱すことができた。アバドンの耐性は、切断破砕貫通物理非物理属性問わず35と、オウガテイルより少しだけ高い程度だ。真壁ハルオミを渦巻いていた白の方のエフェクトはバーストだったのだろうし、直撃をもらっていたら一撃だったかもしれない。

 普通、なんでも喰らうアラガミの口に腕突っ込んで固定しようなんて思う奴がいると考えるか? しかもその腕ごと叩き斬ろうとする奴がいると。

 極東人は確実に狂っている。アラガミの俺が言うんだから間違いない。

 

 

 咄嗟に逃げる事が出来たのは、やはり制動力のおかげだ。

 この制動力は、何も真正面に進むだけではないのだ。真横にも、真後ろにも移動できる。

音速に近い速度で後退したから真壁ハルオミの肩は外れたかもしれない。驚きと混乱で逃げてしまったが、やはりあの場で殺しておいた方がよかったと今になって思う。

 

 一瞬見えたあの血色のエフェクト。

 あれがもし、『血の力』だったとしたら……。

 

 ギルバート・マクレインの穴埋めになりかねない。

 

 だが、今戻ったとして、俺に真壁ハルオミを殺せるだろうか。バスターは鈍重だが、パリングアッパーというカウンター技がある。この時代ではまだ確立されていないだろうが、レイジカウンターやラストリヴェンジャーの恐ろしさは身に染みてわかっている。

 急いては事をし損じるともいうし、真壁ハルオミは後に回そう。

 

 例えあれが『血の力』だったとしても、ブラッドが全員集まったとしても、どうしようもない状況を造ればいいのだ。

 即ち、神機使いを減らせということ。

 

 彼らもたった7人ではアラガミすべてに抗うことなどできまい。なんなら技術班や救護班とやらを殺してもいいかもしれない。そうだ、奴らは1人では生きていけないのだ。腕輪を整備しなければアラガミと化し、整備していたとしても数年で限界が来る。アラガミ(おれたち)と違って食べられるものも少ない。

 わざわざあの化け物たちを直接相手にする必要など、どこにもないのだ。

 

 

 手始めに、そうだな。

 目の前を飛んでいる輸送機を撃墜しようか。

 

 

 

 

 

難易度2 FREE ドルチェ・ギャザリング

     フィールド 愚者の空母

     制限時間 05:00

 

     極東支部宛の支援物資を載せていた輸送機が

     愚者の空母上空で何者かに撃墜された

     現場にアラガミの反応は無く、撃墜した何者かも不明であるため

     極東支部第一部隊に直接物資の回収を依頼する

     5分間の作戦時間で可能な限り回収後、撤退せよ

 

 

 

「おーぅお前らー、あー、なんつったっけお前。そうそう神薙ユウ!

 これ行くから準備しろー。3分な。あとサクヤ! お前も来てくれると助かる」

 

「ごめんなさいリンドウ。私もう他の受けちゃってて……」

 

「あぁん? そうか……わかった。んじゃ……」

 

「……俺が行く……何か胸騒ぎがしやがるからな……」

 

「おぅ珍しいなソーマ! んじゃ後は――」

 

「3人でいい。弱い奴を連れていく気はないからな」

 

「……ん、わかった。んじゃ俺は先にいくからとっとと来いよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 愚者の空母。

 人と人が争い合い、果てにアラガミによって終結させられた罪の痕だ。

 ある人は悲しいと表し、ある人は愚かだと罵倒する。

 

 そんな空母の真中。大きく開いた穴の中心に、輸送機が墜落していた。

 輸送機自体が大きいもので、海に沈みきったりはしていない。

 その側面には直径80cm程の穴が開いていて、向こう側の景色がはっきりと見える。

 周囲にアラガミの気配はなく、レーダーにも反応するものはなかった。

 

「おーぅ、まき散らしたなー。んじゃお前ら、回収に当たってくれ」

 

「わかっている……だが、リンドウ。お前も気を付けろ……あの輸送機の穴……」

 

「はい。あのアラガミと同じ大きさですね」

 

「あー、それって赤いアバドンって奴か? んー、なら。

 命令は3つ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運良く不意を見つけても決して突っ込むな、仲間をよべ。

 ……ありゃ、5つになっちまった」

 

 それだけ言って、雨宮リンドウは開始地点を降りて行った。

 続くソーマ・シックザールと神薙ユウ。

 

 不気味な静けさだけが彼らを待ち構えていた。

 




難易度詐欺
騙して悪いが
偽りの依頼、失礼しました

……いや別にフェンリルと共謀しているわけじゃないけどね!

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