【完結】混迷を呼ぶ者 作:飯妃旅立
どうしたものだろうか。
どうにか陸地に着く事は出来たものの、ここがイギリスかどうかの判別ができない。
何故かと言えば、
GOD EATERが始まった時期は4月から5月。この暖かい気候と、全速を出せば簡単に横断できる島であることから多分イギリスであってるだろう。うん、合ってる合ってる。
グラスゴーはスコットランド側の括れみたいになってるトコだから、このまま南下すればいい……はず。
「ギル! そっちいったよ!」
「うっす! 任せてください!」
廃材が高く積まれた外部居住区跡。オウガテイル2匹、ヴァジュラテイル2匹に囲まれた年若い男女2人が戦っていた。女性の方は20前半ほどだろうか、顔にかけられたメガネと綺麗な茶髪のロングヘアーが目立つ。
もう片方は、18、9くらいであろうか。若さの見え隠れする声と、それに見合わない引き締まった体が特徴的だった。
女性の持つ神機――アサルトだ――から光弾が吐き出される。ホーミングをつけていない、だがほとんど見ずに撃たれたそれは、一直線にオウガテイルに吸い込まれた。更に振り向き様にロングブレードを一閃。背後から飛び掛かろうとしていたオウガテイルを切裂く。
アサルトの光弾で傷を負ったオウガテイルは、欠如したオラクル細胞を求めて捕食に向かう。その先で待ち構えているのは男。チャージスピアを水平に構え、向かってくるオウガテイルを射殺さんとばかりに睨みつけている。
捕食が最優先とばかりに素材回収地点――呼んでいるのはゴッドイーターだが――に向かうオウガテイル。その目には男性も、自身を狙うチャージスピアの鈍い光も入っていない。
「セァッ!」
チャージグライド。オーバーキルともとれるその突撃槍は、餓えに苦しむオウガテイルの横っ面に突き刺さった。倒れるオウガテイルを見つつも、油断せずにバックフリップで下がる男性。部隊こそ違うが、男性が兄の様に慕う男から教えられた事だ。油断はするな、と。 地面に紫電の前兆が浮かぶ。紫白色の光、ヴァジュラテイルの雷撃だ。さらにバックフリップで回避を試みるも、連続でスタミナを大量消費してしまった男性は膝を着く。息切れだ。 そこにヴァジュラテイルの尻尾が襲いかかった。転がる男性。
「ギル! スタミナ管理くらい基本でしょ!」
緑色の光弾が男性――ギルバート――に向かう。女性による回復光弾だ。ホーミングによるソレが当たることを確信し、女性は神機を変形させる。ロングブレードの腹をヴァジュラテイルに見せる様に構え、オラクルを撃ちだす。インパルスエッジだ。ブラッドアーツの無い時代であるが、後に壱式と呼ばれるソレはヴァジュラテイルを屠るに十分な威力を持っていた。
「……すみません、ケイトさん」
「謝るのは後でいいから、もう一匹倒して帰るよ!」
息を整えて立ち上がるギルバート。女性――ケイト――の方は油断せずに残り1匹がどこにいったのか探す。この心持ちの差は3年目と9年目の違いなのだろうか。1月にも満たないキャリアでこれ以上を熟す
「いた。右手の樹の陰。捕食してるね……ギル、チャージグライドでお願い。援護するから」
言われ、力を溜めながら慎重に走り始めるギルバート。ヴァジュラテイルの聴力はそこまでではないが、チャージグライドの軌道上から外れられると面倒だ。チャージグライドは曲がれないのだから。
残り、7mを切った。チャージグライドの間合いだ。
ギルバートは、溜めに溜めた力を解放しようとして――。
凄まじい衝撃と共に、真横に吹っ飛んだ。
ありがとうヴァジュラテイル。君の雷撃は良い目印になる。
グラスゴー美術館っぽいものを発見し、グラスゴーに着いている事を再認識。支部を探すためにふよふよと空を泳いでいたら紫電が見えるではないか。ヴァジュラの物にしては小さいソレ。ヴァジュラテイルであることを確信し、現場に急行した。アラガミの相手をしているのは神機使いだろうからな。逃げ遅れた一般人の可能性も無きにしも非ずだが、その時はヴァジュラテイルに食べてもらえばいい。俺が殺してもいいんだが。
急行した先にあったのは、黎明の亡都のようなフィールド。木陰でお食事タイムのヴァジュラテイルに向かって、紫色がチャージグライドの光と共に突っ込んで行っているのが見えた。
紫でチャージスピアって言ったらギルバート・マクレインだろう。
グラスゴー支部にはケイト・ロウリー、ギルバート・マクレイン、真壁ハルオミしか神機使いがいないので間違いない。
知性或る捕食者が一番油断するのは獲物を前にした時だ。慎重に近づいているが、ヴァジュラテイルしか見えていない視界ではただのゆっくり動く的。
チャージグライドよりも早く、チャージスピアよりも高い威力の俺の突進を喰らえ
「ガ……!?」
エイムは正確だ。精確と言ってもいい。その筋肉質の体を吹っ飛ばす。感触的に内部の骨はバキバキだろう。
「え……ギル!? なに、が……! アバドン!?」
駆け寄る事をせずにまず敵を確認するか。混乱しているだろうに、流石は9年目のベテランだ。
確かケイト・ロウリーは回復光弾に適正があったはず。ギルバート・マクレインは既に虫の息だが、どのようなレベルで回復されるのかはわからない。もげた腕とかまでくっついたり生えたりする様なものだったら恐ろしいからな。先にコイツを潰しておこうか。
「くっ、オペレーター! 新種と遭遇! 一名……ギルが重傷! 救護班をお願い!」
判断が速い。だが、動きは遅いぞ。
「え、消え――あぐぅ!?」
回復光弾を撃ち出そうとしていたのだろう、ロングブレードをアサルトに変形させる隙を狙って体当たり。器用スキルはないみたいだ。合っても間に合う自信があるけど。
あのおっさん2人やギルバート・マクレインと違って軽い。ルフス・カリギュラとの戦闘でもバックラーを展開していたにもかかわらず吹っ飛ばされていたし。踏ん張りがきかないのだろうか。
吹き飛び、未だ空中に居るケイト・ロウリーに追撃を仕掛ける。気分は青狸に泣きつく凄腕ガンマン。に、撃ちだされる弾丸だろうか。ケイト・ロウリーはさしずめ空き缶か?
人体の構造上、一番重い頭が真っ先に堕ちてくる。俺はそこに体当たりすればいいだけだ。慈悲は無い。
「やめろおおおおおおおおお!!」
やめません。
体が頭蓋とぶつかる。そういえばケイト・ロウリーってアラガミ化寸前なんだっけ? 同族を増やすという意味で腕輪を狙っても良かったかもしれない。今更だが。
……いや、雨宮リンドウという例もある。アラガミ化したのに意識取り戻してパワーアップなんてされたら困るのだ。あんなのは1人でいい。
ガン、と鈍い音がしてケイト・ロウリーの身体が落ちる。安心してくれ、頭はとれてない。
「あ……あああ……ケイト、さん……」
まさに絶望、という表情のギルバート・マクレイン。ただ、激昂や絶望程度でどうにかなる怪我ではないのだろう。辛うじて動く左手をこちら……いや、ケイト・ロウリーに向けて、呻いている。
ケイト・ロウリーのインカムから聞こえてくるオペレーターの焦り具合からして、援軍も救護班も近くに居ないようだ。
ま、遅いか速いかの違いだ。むしろ追い詰められていく苦しみを味合わずに済んだのだと思ってくれればいい。
それではさようなら、
ケイト・ロウリー(享年25)
2062年フェンリルグラスゴー支部入隊。
2071年KIA(作戦行動中死亡)と認定。 最終階級は大尉(少尉からの二階級特進)。
ギルバート・マクレイン(19)
2069年フェンリルグラスゴー支部入隊。
2071年同支部退役。元第一世代神機使い。
出生5月15日 身長:185㎝
グラスゴー支部入隊3年目、アラガミとの交戦中に重傷を負って退役。
右腕部の損傷が激しく、現在入院中。完治の見込みは低い。
流石は化け物部隊所属(未来)隊員。
直径7、80cm程のボールが音速に近いスピードでぶつかってきたのに死なない!
退役文章はダミアンさんのを参考にしました。ゲンさんのは参考にならん。