【完結】混迷を呼ぶ者 作:飯妃旅立
ごめんさい!
フライア突入メンバーは、以下の5人と1人だ。
神薙ユウ、神威ヒロ、真壁ハルオミ、香月ナナ。 そして大森タツミ。
何の説明も無しに決定を言い渡されたタツミではあるが、何も抗議しなかったわけではない。 彼は極東最後の防衛班なのだ。 彼にも矜持という物が或る。
だが、神威ヒロと神薙ユウがステレオに言ってきた言葉で改心した。
「お前、何を守りたいの?」
「タツミさんは極東支部の防衛班ですか? 人類を守る神機使いですか?」
確かに自分は極東支部の防衛班、それも隊長だ。
だが、それ以前に人類を守る神機使いなのだ。 そこを履き違えるつもりはない。
黒蛛病患者は、特異点の材料にされようとしているらしいではないか。 それを守らずして、何が神機使いだろう。
それに、今回残るメンバーはあのソーマ・シックザールと雨宮リンドウだ。 心配はない。
強行軍のメンバー入りに納得したタツミは――納得しなくても連れて行かれた気がするが――、改めて他の面々によろしくを伝えた。
最後の1人は葦原ユノである。
彼女もまた、黒蛛病患者への思い入れが強い1人だ。 彼女の護衛にはユウがつく事になっているので、もし神機兵などとの交戦があった場合はユウ以外の4人で行わなければならない。
「これ、は……」
一応、ミッション出発時に説明を受け、言葉では理解していたはずだった。
だが、実際見てみるとこうもショックが大きいのか。
まるで機械部品のように規則正しく並べられた、中身の薄く見える生体ポッドのようなものがズラリと。
ヒロとユウ以外の4人は、それの異様さに
「ひどい……」
「カノンちゃんも、か……」
タツミとナナの呟く視線の先には、台場カノンと、ユノが懇意にしていたアスナの姿。
即座にユノが駆けより、そのポッドをどうにか開けようとしたところで、彼らの良く知った声が響いた。
『まて、勝手な事は許さん』
施設内のスピーカーを通して聞こえる、最早懐かしいとさえとれる声。
ジュリウス・ヴィスコンティの声だった。
『ここで見た物は忘れ、極東支部へ帰れ。 いいな』
「ジュリウス! どーゆーことか説明してよね!」
有無を言わさぬ声に有無を言うナナ。 大人しく帰れと言われて帰るようなタマはここにはいない。
「……あなたの非道な行いは、全て明るみにさらします。 極東支部及び、フェンリル本部へも報告して……」
『……』
「なぁ、ジュリウス。 お前さん、サテライト拠点にいた黒蛛病の患者たちに一生懸命だったのは……嘘だったのか? 今まで昏睡しているフリをしてたのも」
「私達と一緒に頑張ってきたのも、嘘だったのー?」
『……もう一度だけ警告する。 ここから離れ――』
聞く耳持たないジュリウス。 再度の警告。
だが、ここにはもっと聞く耳持たない2人がいた。
ガシュォン。
空気圧ピストンのような、空気の抜ける機械音が響く。
何事かと振り返るハルオミ、ナナ、タツミ、ユノ。
「ん、開いた開いた。 この手のタイプは視たこと無かったけど、従来の奴の操作で行けるみたいだね」
「ふぁぁ……サツキ来てんだろ? とっとと運びだしちまおーぜー」
勿論、ユウとヒロである。
『……はぁ。 いいだろう。 好きにするがいい。 どうせ止められはしない。 フェンリル全ての戦力を以てしてもな……そこから先、一歩でも踏み込めば――』
「あ、サツキさん? 患者さん達見つけました。 予定通り運び出してください」
『りょーかい! ってあれ? なんかそっちの空気白けてません?』
「気のせいですよ。 緊張感MAXです」
『命の保障はしない。 以上だ!』
少しだけ声を荒げてジュリウスが言う。 天然のきらいがある彼とて、こうも無視をされればキレる。
自分たちが侵入してきた扉とは逆の扉から、1体の神機兵が現れた。
このままここで戦えば、患者たちに被害が出る。
タツミとて歴戦の戦士だ。 ヒロやユウとそれをアイコンタクトで確認、真っ先に神機兵を斬りつけにいった。
「よっとぉ!」
「ハルにーに!」
「ちょ、今ここでそれを呼ぶなよ!」
「食事の時間だぜええええ?」
普段は眠た気なヒロ。 戦闘になるとアッパーになる部分に、どこかカノンを連想させるタツミであったとか。
神機兵1匹など、彼らにとってはコンゴウも同然。 手早く処理して帰ってきた時には、ほぼすべての一般人の搬出が終わっていた。
「ユノ、戻ってきて! 撤退するわよ!」
「待ってサツキ! まだ最後の1人が……アスナちゃんが!」
アスナにかけよるユノ。 衝撃のせいかアスナはポッドの下の方に座り込んでいて、角度によっては誰もいないように見えていたのだ。
そのポッドを開けると、崩れるようにアスナが落ちてきた。
接触感染を恐れることなくその体を抱き上げるユノ。 しかし、ここまでの重要施設を守るのが神機兵1体であるはずもなく――。
「ユノ、避けて!」
彼女の後方から、もう1体の神機兵が現れた。
その神機兵――長刀型――は、高く跳びあがってユノを一刀両断せんと、その長刀を振りおろし――。
赤い光の柱によって、その頭蓋を潰されながら吹っ飛んだ。
「君、僕を無視するとか……いい度胸だね?」
光の柱の頂点にいたのは、笑顔のユウ。
その力の名は、ブラッドアーツ。 フェイタルライザーⅣだった。
頭蓋に結合崩壊を起こしてよろめく神機兵。 その身体に向かって、ヒロのスワローライズが炸裂する。 更に撃ち込まれる各種バレット。 神機兵は、ハルオミのチャージクラッシュによって地に沈んだ。
「ユノさん、大丈夫ですか?」
タツミが座り込んだユノに駆け寄る。
「ダメ!」
肩に触れようとしたタツミを避けるユノ。 少しだけ、ほんの少しだけ傷ついた表情をするタツミ。 いや、俺はヒバリちゃん一筋だし、とわけのわからない精神安定をする。
「ユノ?」
「どうした、ユノちゃん」
「私、黒蛛病に感染したかもしれないから……ダメ」
その服装で来ることが間違っているのではないか、などと言う面々ではない。 露出の多さで言えばナナの方が上だからというわけでもない。
「黒蛛病に感染したかどうかは極東支部で調べますよ。 今は撤退を」
ユウが促す。
その言葉に、強行軍のメンバーは黒蛛病患者収容所及びフライアから脱出した。
神威ヒロを除いて。
「……ジュリウス。 お前、知ってたんだろ?」
監視カメラのあるであろう部分を注視して、ヒロが問う。
カメラの向こうにいるであろうジュリウスに対して、既知の有無を問う。
『……なんのことか……ゴフッ、ぐ、わからないな……』
対するジュリウスは、その口から吐血をしながらも応答する。
彼の身体の侵食は、すでに最深部まで来ているのだ。
「ナナの『誘引』、シエルの『直覚』、ギルバート・マクレインって奴の『鼓吹』、ロミオの『対話』、アタシの『喚起』、そしてお前の『統制』……。 ハルオミが『守秘』に目覚めた事や、ロミオとシエルがいなくなったのは想定外だったみてーだが、お前は随分前からアタシ達の事を知ってた。 違うか?」
彼女が知り得ないギルバートの事までも口にする。 その口調は、問いかけというよりは確認だ。
『副隊長、いや、今は隊長だったか……。 何故そう思うんだ?』
当然の疑問だ。
何故なら、それを知っているのは自分とラケル博士しかいないのだから。
「なぁジュリウス。 アタシがブラッドに入る前、どこにいたか知ってるか?」
ジュリウスの疑問には答えず、逆に質問をするヒロ。
彼女の経歴に関する話だ。
『いや……ゲホ、知らないな。 ブラッドに所属する前は一般人ではなかったのか?』
「一般人がいきなりP66偏食因子の適合検査なんて受けられるかよ。 ハルオミは元から神機使い、ギルバート・マクレインって奴も神機使いだっけ? ロミオ、シエル、ナナ、お前は『マグノリア=コンパス』出身。 それなのにアタシだけ一般人だったわけねーだろ」
なるほど、言われてみればそうである。
むしろ、ただの一般人であるほうが怪しいくらいだ。
ジュリウスとしては、彼女がここまでの長文を話す事が珍しいと見当違いの感想を抱いていたりするのだが。
『それでは神機使いだったと? しかしデータベースには、お前の記録など無かったが』
『特務』と呼ばれている任務を受ける神機使い以外、データベースには必ず記載される。
まさか、その『特務』を受ける神機使いだったとでもいうのだろうか。
「違うよ。 アタシはそんな高尚な存在じゃない。 ……9年前、大規模な作戦があったのを知ってるか?」
ジュリウスの考えを見透かしたように答えつつ、更に質問を重ねるヒロ。
9年前。 2065年と言えば……。
『アラガミ掃討作戦、だったか……。 旧ロシア領における、ユーラシア連合軍による核融合炉爆破を用いた大規模アラガミ掃討作戦……まさか』
「そう、アタシはその作戦の参加者で……元第一世代の神機使いだ」
アラガミ掃討作戦。 雨宮ツバキ、雨宮リンドウ、ソーマ・シックザールらが参戦した大規模掃討作戦で、神機使いの有能さを世に知らしめた作戦でもあった。
その時の戦いに、彼女も参加していたという。
だが。
『だが、それならば、神機使いのリストに乗っていてもいいはずだ……。 どのようにして隠れてきた?』
「別に。
なんでもないように言うヒロ。
『つくづく規格外だと思っていたが……。 まさかそこまでとは……。 ゴホ、それで、何故俺がお前たちの事を知っていたと思うんだ? 今の出自だけでは、グ、何も伝わらんぞ』
当初の質問に戻るジュリウス。
それだけが聞きたかったのに、ここまで長くなってしまった。
「だからよー。 聞こえんだよ。 ジュリウスは聞こえているのか知らねーが、アラガミの……いや、地球の意思って奴がな。 なぁ、ラケル・クラウディウス?」
『……それは驚きました。 そうですか、あなたも……しかし、それならば何故人類に加担しているのですか? あなたがいるべきはこちら側……そうではなくて?』
突然つながる、ジュリウスとは別のチャンネル。
慈愛溢れる聖母の様な声の女。 ラケル・クラウディウスだ。
「
『ッ!?』
息を飲む声は、ジュリウスのものだ。
不味い。 それがわかるということは、少なくとも一度は――。
『なるほど……あなたは一つになった私より、更に荒ぶる神々に
『喚起』。
その力は、呼び起こすモノ。
人間だけでなく――アラガミにも、作用する。
『ラケル先生……あなたは、何を……?』
「ん? ……あぁ、なんだ、ジュリウスお前……知らないのか」
理解した、という表情のヒロ。 知ってたんだろ、と聞いたときとは真逆の問いである。
『安心なさい、私の可愛いジュリウス……。 もう全ての駒は揃っています。 あとはアナタの、目覚めを待つだけ……』
「……アタシは喰らうだけだ。 ジュリウス、アンタもあいつらになるってんなら……食らってやるから、それまで死ぬんじゃねーぞ」
『先生……隊長……』
吐息。 ジュリウスの意識が落ちたようだ。 睡眠系の薬品か、はたまた別の技術か。
一瞬の間。
『一つだけ、あなた方にヒントをあげましょう……』
「あん?」
『光を齎す者は、決戦の地に来たれり……。 それでは、晩餐の日に会いましょう』
トゥーンと、無線機械が切れた時の特有の音が流れる。
頭を掻いたヒロは、来た道を戻って行った。
戻って行って、心配した強行軍のメンバーに怒られた。
異常な身体能力、他の面々とは一線を画す感応能力、衣装準備でサンダルにして、素肌部分にケイトの神機が触れても侵食されない身体。
つまり、この子はリンドウさんと同タイプだったんだよ! 説。
なお、このssにおける地球の意思はかなり色んな事教えてくれるみたいです!