【完結】混迷を呼ぶ者 作:飯妃旅立
ブラッドやクレイドルがサバイバルミッションで出撃している時、オペレーターである竹田ヒバリやフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュはどこにいるのか。
答えは同じキャンプの中、である。
ミッション間のムービーからわかる通り、支部やフライアに帰ることはせずにキャンプ内で待ち続けている。
だから、彼女らは支部の状況を通信でしか知ることができないのだ。
今回、マルドゥーク討伐戦――作戦名『朧月の咆哮』――が決行されるのは、わかっていた。 魔狼の要塞のフィールドは、ミッションのインフォメーション画面の通り、黎明の亡都周辺である事はわかっていたので、その周辺であの窪んだ土地、さらに無駄に煩い感応波の出ているところを探すのは、とても簡単な作業だった。
だが、今回の目的はそこじゃない。
そこがどれほど離れた位置にあるのかを完璧に知る事が重要だっただけで、わざわざ仲間の仇討ちに燃えるブラッドを相手取る気はない。 何故かスパルタカスの反応もあったし、あいつらなんとかかんとかやればブラッドくらい倒せるんじゃね? あ、ほじる鼻も指も無い。
つまり何をしたいかと言えば、ブラッドという最高戦力が遠征に出ている現在の極東支部には、
だからこそ。 今こそ、
しかし、ただ単に襲撃しただけでは意味がない。
クレイドルの奴らに連絡が行くかもしれないし、無いとは思うがブラッドが帰ってきたら面倒だ。 特に神威ヒロ。 窮地に陥った周囲の神機使い全員覚醒なんてされたら堪ったものではない。
だから、ジャミングするのだ。
極東支部とフライアに繋がる通信を、全てシャットアウトする。 勿論それだけを覆ってしまったら俺が来ている事が丸わかりなので、周辺の通信機器に薄く、広く影響を及ぼす。
範囲にして、半径50km。
極東支部がある場所は、現代でいう神奈川県藤沢市だ。
そして、マップで示された黎明の亡都及び魔狼の要塞は東京周辺。
精確な距離がわからない故に、全てを覆えばいいというわけだ。
感応波は俺から離れるにつれて希薄になり、振れ幅が出る様になる。 つまり、完全に通信が使えなくなるという現象が起きなくなるのだ。 サバイバルミッション中のオペレートはブラッドの面々に聞こえるし、返答もフラン、もしくは竹田ヒバリに聞こえる。 どちらが向かっているのかはわからないが。 もしかしたらどちらもかもしれない。
もっとも、ジャミングがジャミングであるとわかっていないのは遠征メンバーだけだ。
極東支部内は、混乱に沈む事だろう。
容赦は、しない。
「うおおおおおお!? どういう事だ! ポラーシュターンが……わが愛機がいう事を聞いてくれぬ!」
「うふふ……これはちょっと……マズイかもね……?」
「神機が、動かない……」
ブラッドとクレイドルが遠征に出ている今、極東支部を護ることができるのは防衛班の自分たちしかいない。
そう気張っての任務だった。
先の防衛戦で、極東支部の神機使いはその数を大きく減らした。
主力と言えるメンバーは、たったの5人。
エミール・フォン・シュトラスブルク、ジーナ・ディキンソン、ブレンダン・バーデル。
そして、大森タツミとアリサ・イリーニチナ・アミエーラである。
内、エミール・フォン・シュトラスブルクは漸く及第点というレベルであり、極東の神機使いとしては新人もいい所だ。
また、アリサとエミール以外の面々は第一世代であり、その手腕はさることながら回復の手段に劣る。
それでもバグ……もとい、元第一部隊のアリサの存在が、なんとかモチベーションを保たせていた。
無駄に張り切っている大森タツミの影響もないとは言えない。 神威ヒロにアッパーカットで打ち上げられてから普段以上に熱血なのだ。 ジーナ辺りはウザ……もとい、煙たがっていた。
話を冒頭に戻そう。
ブラッドとクレイドルが遠征に出た後、アラガミの反応が支部の周辺――丁度改装を始めていたアラガミ装甲付近――であり、防衛班として出撃した次第である。
メンバーは、エミール、ジーナ、ブレンダン、アリサの4人。 大森タツミを除いたのではなく、バランスの問題である。 決してハブったとか暑苦しいのがウザかったとかそういう理由はない。
「リーダー……!」
アリサの神機も、例に漏れず動かない。
さらに言えば通信――今回のオペレーターはなんと雨宮ツバキ――も繋がらないのだ。
近づいてきたアラガミ……寒冷地特化型のコンゴウと同型のザイゴートは一瞬で屠ることができたのだが、突然のこの事態には立ち往生するしかなかった。
「うおおおおおおお! 来る……来てしまう! 悪夢が……!」
「煩いわね……でも、この感覚は……確かに悪夢と言えなくもないかしら?」
「あぁ……これは、確かにまずい」
エミールは叫び倒す。
彼は、間近で
また、元防衛班の2人もそれは同じ……いや、それ以上かもしれない。
サマエルと直接対峙した事こそ無いものの、あのアバドンの群れは心象風景にしっかりと残っているのだ。
しかし、彼らはただ恐怖に怯えるというタマでもない。
エミールは最愛の妹(勝手)を、ジーナやブレンダンは大切な仲間を奪われている。
そして、それはアリサも同じだった。
(死んではいないが)戦友たるコウタを奪われたのだ。
戦意は有り余っている。
感覚でわかる。
4人が4人とも、同じ方向を向き、動かない神機を構える。
その方向から。
赤い悪夢が。
「キィ……」
あの音を響かせて、現れた。
「キィ……」
エミール・フォン=シュトラスブルク。
ジーナ・ディキンソン。
ブレンダン・バーテル。
そして、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。
気を付けるべきはジーナ・ディキンソンとアリサ・イリーニチナ・アミエーラだけでいい。
エミール・フォン=シュトラスブルクは鈍重だし、ブレンダン・バーテルは実力者であるとはいえただの人間だ。 ソーマ・シックザールとは違う。
俺の感応波で彼ら彼女らの神機は動かないとはいえ、上の2人には気を付けないといけない。
何をしでかすかわからないからだ。
極東支部防衛班の中で、ジーナ・ディキンソンだけがバグ要素だ。 クレイドルに異動してからもそれは変わらない。
凄まじきは、その狙撃の腕だ。
NORNのデータベースにも、彼女の腕は他と画一されて書かれている。
超遠距離から、的確に急所を突く技術においては
そう書かれているのだ。
ソーマ・シックザールでさえ第一世代神機使いとしては、という前置きを置かれているし、他の神機使いも何かとこれこれこういう範囲の中で、トップクラスという書き方をされている。
その中で、彼女だけが。
狙撃限定とはいえ、神機使いという全ての括りの中で最高の位置づけにいるのだ。
気を付けるだけ気を付けて――早急に、潰す必要がある。
「キィ……」
最大速度。
大気を切裂き、押し退け、ジーナ・ディキンソンに直進する。
柔肌。
矢張り、軽い。
「ジーナさん! 避け……ッ!?」
遅すぎるよ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。
驚愕よりも先に血反吐を吐いたジーナ・ディキンソンを尻目に、制動力に物を言わせて方向転換。
未だに俺が出てきた方を見て目を見開いているブレンダン・バーデルの横っ腹へと突進。
骨の砕ける感覚。 懐かしい。 ギルバート・マクレインの時と同じだな。
「き、騎士道オオオオオオオオオオオオ!」
エイジスで騎士としての姿勢を讃えはしたが、しかし鈍重だな、エミール・フォン=シュトラスブルク。
叫ぶばかりでは、何も変わらないぞ。
意地なのか、動かない神機をただの鈍器として振りぬこうとしたエミール・フォン=シュトラスブルクの腕を撃ち貫く様に弾く。 折れたな。
「エミール!」
む。
後方へ瞬時に移動。
一気にソレ――スタングレネードの効果範囲から逃れる。
そういえば昔スタングレネードを食べた事があったな。 懐かしい。
「う、ああ……」
「エミール! 立って、逃げて!」
戦意喪失、か?
騎士道はそんなものか。
そしてアリサ・イリーニチナ・アミエーラ。 守っているつもりだろうが、神機の動かないお前では何の意味もないぞ。
右ヒレをアリサ・イリーニチナ・アミエーラの脇腹へと掠らせながらエミール・フォン=シュトラスブルクの肩を砕く。
「あぐぅっ!?」
「ガッ……」
そのまま直進。 倒れているブレンダン・バーテルとジーナ・ディキンソンの頭を掠める。
「うぅ……ぐぅ、リーダー……」
リーダー……神薙ユウか。
今どこにいるのかは知らないが、奴ともいずれ決着を付けなければならないだろう。
だがまぁ……。
エイジスで俺が奴に負けた原因の一端である、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。
3年前の借りだ。
受け取ってくれ。
「キィ……」
やけにアラガミが弱かったのは、ルシフィルの感応波がずっと影響していたから。
フランのオペレートが変に短かったのも、ジャミングされていたからです。
伏線って程の物じゃないですね!!!