【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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1章の2話の数倍以上の捏造回。 あくまで独自解釈です!


タクティス・クライシス

 作戦名『朧月の咆哮』。

 

 感応種マルドゥークを討滅するこの作戦の要は、神威ヒロ率いる特殊部隊『ブラッド』だ。

 

 結局、クレイドルのブラッドアーツ習得は、この短期間では成らなかった。 神薙ユウ、ソーマ・シックザール、雨宮リンドウなら或いは……と想定していたサカキとリッカはとても残念そうだった。 ブラッドアーツの習得に失敗して落ち込んだというより、彼らのバグ度をブラッドの面々に見せたかっただけのようだが。

 最初にサカキの言った通り、ぶっつけ本番ということになる。

 

 全4フェイズによって構成されるこの作戦であるが、あくまでブラッドの戦う部分をピックアップしただけだ。 

 背後を叩くクレイドル側は、また違った――フェイズ数で言えばこれよりも多いモノをこなすこととなっている。

 

 作戦名『真月の慟哭』。

 全7フェイズによって構成されるこの作戦を、神薙ユウ、ソーマ・シックザール、雨宮リンドウ、そして、サカキの用意した秘蔵っ子の4人が担当する。

 内訳は以下の通りだ。

 第1フェイズ、ディアウス・ピター1体、荷電性シユウ2体。

 第2フェイズ、ウロヴォロス堕天1体、荷電性コクーンメイデン10体。

 第3フェイズ、デミウルゴス1体、ラーヴァナ1体。

 第4フェイズ、ウコンバサラ、過熱製グボロ・グボロを各2体。

 第5フェイズ、ハンニバル、ヤクシャ・ラージャ、過熱製グボロ・グボロ各1体。

 第6フェイズ、強毒性サリエル、アイテール、ツクヨミ各1体。

 

 そして、第7フェイズ。

 

 正直、彼らバグにとって第6までのフェイズはお遊びに近い。 ディアウス・ピター、ハンニバルとツクヨミが辛うじて、と言ったところだが、他は真に雑魚だ。

 問題は最後のこのフェイズ。 

 ()()()マルドゥークの感応波範囲にいた、スパルタカス1体である。

 

 

 

 そう、感応種なのだ。 ハンニバル神属感応種、スパルタカス。 トウモロコシなどと揶揄される黄金の鱗で身体を覆っている。

 感応能力は周囲のアラガミからオラクルを吸い取り自身をパワーアップさせるという物。

 オラクルを吸い取られた周囲のアラガミは弱体化するのだが、マルドゥークの感応波の影響で小型アラガミが之でもかという程に集まっている現在、それを退治するのはあまりに効率が悪い。

 

 

 

 

「かといって、僕達は第二世代と第一世代。 感応種相手にはまともに戦えない。 ですよね?」

 

「あぁ、ユウ君の言うとおりだ。 だが、第二世代や第一世代でも戦えるようになる方法が2つある。

 1つはヒロ君の能力『喚起』によってブラッドアーツを発現する方法」

 

 そして――とサカキは一息おいて、彼……もしくは彼女の()()()に手を置いた。

 

 

 

「状態異常『封神』……これを感応種に付与することで、感応能力及び感応波を封じる方法だ」

 

 

 

 サカキが手を置いた……人物? は、・λ・という顔をしたまま首を傾げた。

 

「紹介するよ。 彼……もしくは彼女の名前はキグルミ。 理由(わけ)あって喋ることが出来ないが、その実力は折紙付きだ。 今回、クレイドルのみんなのサポートに当たってくれる。 

 何か質問はあるかい?」

 

 

 足先、左手、()()はピンク。 右腰から左肩、左肩から右側頭部にかけて縫い目があり、左側は黒や灰色、右側は青や白といった色分けが為されている。

 青い右手には無骨な腕輪。 色が赤であることからブラッドではない。

 両足には青いブーツ。 首にはこれまた無骨な赤い首輪。 右目は黒で左目は鮮血の様な赤。 背部にはフェンリルマーク、胸にはハートが刻まれているキグルミ。

 

 

 そう、もこもこふわふわした着ぐるみ。 耳を除いても巨大といって差し支えない大きさの、うさぎの着ぐるみがそこに()()

 

 

 

 

「……着ぐるみ?」

 

「ナナ君。 キグルミ君だよ。 着ぐるみではなく、キグルミ君だ」

 

「はぁ……?」

 

 字面上でないとわからない間違いを指摘するサカキ。 案の定、ナナは首を傾げる。

 

「おー、お前さんが俺達をサポートしてくれんのか。 よろしくな」

 

「……!!」

 

 身振り手振りで喜びを伝えるキグルミ。 ? を浮かべながらも、リンドウは苦笑いで返した。

 

「……」

 

 真壁ハルオミ、香月ナナ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、雨宮リンドウが? を浮かべる中、それらとは違う反応を持つ者が3人。

 

 

 1人は神薙ユウ。 彼は、ニコニコとキグルミと――ソーマを交互に見ては、更に笑みを深める。

 もう1人は神威ヒロ。 キグルミをチラっと見た後、興味を無くしたように欠伸をしていた。

 

 

 

 そして、最後の1人。

 神薙ユウにニコニコとみられていた、ソーマ・シックザールは。

 

 憤怒を浮かべる地獄の鬼のような表情で、キグルミとサカキを睨み付けていた。

 

 

 

「さて、作戦決行までの時間は短い。 各自、部屋で準備をしてくれたまえ。

 ――そしてソーマ。 あとで、支部長……いや、あの部屋に来るといい。 君の聞きたいことに答えてあげよう」

 

 では、解散。

 その言葉にゾロゾロと部屋を出ていく面々。 ナナは必要以上にキグルミを撫でたり揉んだりしてから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、来たね、ソーマ。 君も知っているとは思うが、ここは特異点を保護する予定だった部屋だ。 盗聴なんかの心配はない。 それで、聞きたいことはなんだい?」

 

 真白な壁の部屋。 ラボラトリの右奥の部屋で、史実であればシオを保護していた場所だ。

 

 そこにいるのは、ペイラー・榊、ソーマ・シックザール、――キグルミ。

 サカキの斜め後ろでキグルミは佇み、サカキとソーマが向かい合って対峙していた。

 

「とぼけるな……! サカキのおっさん……ソイツは、それは、()()()()……!」

 

 ソーマの父。

 ヨハネス・フォン・シックザールこそが、キグルミの正体でないかとソーマは問う。

 しかし。

 

「いいや、違うよ。 ()()はヨハンじゃない」

 

 サカキはそれを、明確に否定した。

 

「俺は半分アラガミだ……! だから、そいつがアラガミだということを感じ取れる……あの日、エイジスで戦った親父と同じ感覚もな……!」

 

 

 ソーマはさらに畳み掛ける。 彼の感覚が言っているのだ。 あれは、あの日ヨハネスの成ったアルダノーヴァだと。

 

「いいや、これはヨハンじゃない。

 これは、アルダノーヴァでしかないんだ。 ヨハンの性格や記憶は持っていない」

 

「何……?」

 

 

 まぁ、座ってくれたまえと着席を促すサカキ。 3年前ならばそれに従う事の無かったであろうソーマだが、サカキならば不誠実な事はしないと思い直し、渋々と椅子に座った。

 

 

「そうだね……どこから話そうか」

 

「長くなっても構わない……。 準備は終わっている。 それよりも、ソイツの事をわからないまま、戦場に出たくはない……」

 

 

 

「そうか……じゃあ、まず神機兵の話をしよう。 関係のあることだよ。

 

 神機兵。 ジェフサ・クラウディウス博士やレア・クラウディウス博士、クジョウ博士の開発しているものだね。 この神機兵だけど……長剣、大剣型がいて、どうして短剣型がいないのか、疑問に思ったことはないかい?

 

 あぁ、そうだね。 ソーマの言うとおり、神機兵の現在の技術ではあの変態軌道――もとい、機敏すぎる動きが再現できないからだ。 大きさが大きさだけに、どうしても鈍重となってしまう。

 

 だからこそ、僕達……僕とリッカ君は、圧縮できないかを模索していたんだ。

 本来であれば他人の畑を荒らす行為になりかねない、科学者や技術者としては禁忌に近い模索だったんだけど……赤い雨やルシフィルのせいで、四の五の言ってられなくなった。

 

 そうして、完成したのが()()、神機兵短剣型だよ。 見た目でそうとわからないようにファンシーな型を目指したんだけど、どうかな?」

 

「どうでもいい……さっさと続きを話してくれ」

 

 

 自信があったのだろうか、どうでもいいと言われて落ち込むサカキ。

 ゴホンと咳払いをし、再度話し始める。

 

「最初は他の神機兵同様鉛色だったんだ。 だけど、エイジス島での稼働実験中、何かを取り込んでしまったようでね。 あぁ、そうだよ。 あの突発的な停電の時だ。 クレイドルの方にも連絡が行っていたようだね。

 あの停電だが、エイジスから少し離れた所に設置されていた感応波の計測装置に一瞬だけ振れがあってね。 おそらくであるけれど、ルシフィルによって引き起こされたものだと考えられるんだ。

 君も知ってのとおり、ルシフィルの能力は周囲のオラクル細胞や電子機器へのジャミングだ。

 

 その能力は、何故か神機兵には及ばない。 圧縮されているとはいえ、キグルミ君にもそれは効かなかった。 神機兵だからね。

 だが、キグルミ君が接触していたエイジス島の地面……ノヴァの残滓や、アルダノーヴァの沈んだ床の機能へ変に作用したらしくてね、3年間()()()()()()()()()らしいオラクル細胞が、キグルミ君へ入り込んだんだ。

 

 ヨハンの執念か……これはよく、わからないけどね。

 

 結果、キグルミ君の色は2色になった。 成分を調べてみた所、青の部分がアルダノーヴァで言う男神で、ピンクや赤の部分が女神と同じになっているようだ。

 黒や灰色の部分は元の神機兵としての色で、白い部分はノヴァの残滓だね。 まぁ、神機兵部分とノヴァ部分はもう少しグロテスクだったから、僕とリッカ君で縫い合わせたんだけどね?

 

 ちなみに、この腕輪も首輪もオラクル細胞の制御装置だ。 あまり大きな声では言えないのだけれど、()()()エメス装置から技術を拝借させてもらったよ。

 いやぁ、ラケル博士は発想こそ異端だけど、技術は確かなものだね。

 

 神機兵として元から持っていた短剣に、アルダノーヴァのスーパーノヴァ……所謂オラクル打消し能力がどう作用したのか封神能力が、銃器は男神の持っていたオラクル放出能力が変に作用してスラッグ弾になっている。 

 頑張った、とだけ言っておこうか。 僕もリッカ君もね」

 

 だから、と間を入れるサカキ。

 

「聞いての通り、これはヨハンじゃない。

 アルダノーヴァのオラクル細胞とノヴァの残滓を取り込んだ神機兵短剣型だ。

 感応波の中でも戦闘行動が可能で、封神能力の付与に長けた存在。 それがキグルミ君だよ」

 

 

 

「なら……そいつの自我は、なんなんだ……」

 

 キグルミには明らかに自我があった。

 先のリンドウとのやり取りもそうだが、こうしてサカキの話を聞いている今も首を傾げたり手を振ったり屈伸したり伸脚したり長座体前屈したりと、自由に動いている。

 これがただの機械だと、ソーマには思えなかった。 既にヨハネスだとも思えないのだが。

 

「あぁ、これは……」

 

 

 

 

「――僕の性格だよ。 神機兵短剣型としてのデータは、僕から取ったからね」

 

 

 

 

 今までの流れが聞こえていたかのように、扉を開けて入ってくる神薙ユウ。

 盗聴は出来ないんじゃなかったのかという目線をサカキに向けようとして、ソーマはバッと神薙ユウを二度見した。

 

「お前の……性格だと……ッ!?」

 

 なん……だと……! と幻聴が聞こえてくるような顔で聞きなおすソーマ。

 無邪気とは言い難いが、()()()()()()()()行動をとるキグルミと、神薙ユウがどうしても結びつかないのだ。 

 神薙ユウに邪気が多いかどうかは、ご想像にお任せしよう。

 

「そう、僕の性格だよ。 ですよね、博士」

 

「…………あぁ……うん。 そう……だよ……?」

 

 サカキもソーマと同じ気持ちなのか、事実ユウからデータを取っていたとしても疑問の残る声で肯定する。 サカキとて、こんな腹黒がこんな存在になるとは思いたくなかった。

 

「まぁ、何はともあれ……納得したかい、ソーマ」

 

「……あぁ。 大丈夫だ」

 

 理解はした。 納得も……したはずだ。 目の前のファンシーな存在が、クソ親父と罵っていた存在の成れの果てであるということに、納得したはずだ。

 

 最初にここに来た時とはまた別の怒りが込み上げてくるような気持ちのソーマだった。

 




速く作戦決行しろよっていう。


封神で感応能力防げるのはゲームでも同じなので、ついでに感応波も防げることにしました。
前回ユウが言ってた神機を使わずに戦うというのは、封神トラップいっぱいもってくってことです!


あと、過熱製グボロ・グボロは誤字じゃないんです! RBの誤植そのまま書いただけなんです!(誤字じゃねーか)

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