【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

32 / 48
かきなおしました


エンド・ロール

 赤い雨が降る。

 

 極東支部を覆う程の赤乱雲から降るそれは、確実に人類を特異点へと蝕んでいく。

 

 誘導の人員は足らず、通信機器にも不備が発生していた。

 

「コウタさん! コウタさん! ダメだ……繋がらないよ!」

 

「この通信障害は……ルシフィルが近くにいるということか……? まずいな、第一部隊では感応種を相手取れない」

 

 ロミオが各方面の部隊に向かって端末の通信を試みるが、どれもノイズばかりで繋がらない。 赤い雨は既に大雨の域に達しており、第一部隊の生存は危ぶまれる。

 

「ロミオ、一般人の収容リストを確認してくれ! 俺とハルはここでアラガミの侵入を食い止める!」

 

「わかった!」

 

 ロミオはシェルター内に戻り、ジュリウスとハルオミが残った。

 

「副隊長……無事で居てくれ……」

 

 史実であれば、シエルが担当した区画は神威ヒロとナナが埋めたのだ。 『直覚』が無い以上、目は多いに越したことはない。

 

「ルシフィル……くそ、どこまで……!」

 

 ハルオミの()()()は索敵に向かず、ブラッドアーツにも覚醒していないのだ。

 ジュリウスは言わずもがなである。

 

「ごめん、ジュリウス! 俺ちょっと行ってくるよ!」

 

 今さっきシェルター内へ入って行ったはずのロミオが、二人の間を抜けて外に出た。

 黒い外套――赤い雨に少しでも濡れないようにするため――を羽織り、その手に神機を携えて。

 

「おぃ、待てよ! ロミオ! くそっ!」

 

「待て、ハル。 俺が連れ戻す。 ハルはここでアラガミを食い止めてくれ」

 

 追いかけようとしたハルオミを左手で制したジュリウスは、自身も黒い外套を羽織ってロミオを追いかける。 同時、神機兵がその動きを止めた。

 

「何……? どうなってんだ……?」

 

 

 

 

 

 通信機器が使えない事で情報の伝達が為されない。 極東各地で神機兵が停止していることを知っているのは、ラケル・クラウディウスのみだ。 神機兵にトロイの木馬のような時限式の停止機構を付けていただけの事。 

 彼女は今、極東に設けられた自室で天を仰ぎ見ている。

 

「かくして時計仕掛けの神は眠り……『王のための贄』も、眠りにつく。 おやすみなさい、ロミオ。 新しい秩序の中で会いましょう」

 

 彼女の言葉とほぼ同時。

 

 ロミオがノースゲート付近へと辿り着く。 

 ガルム。 そして、ガルム神属感応種であるマルドゥーク。 他にも数多のアラガミを引き連れ、今まさに外部居住区へと侵入を果たそうとしていた。

 

「うぉぉぉぉおおおおおお!」

 

 雄叫びを上げ、アラガミに単騎で向かっていくロミオ。

 だが、ブラッドアーツの1つも覚えていない新兵に倒せるほど、マルドゥークは弱くない。 突進。 叩きつけ。 爆発。

 

 バスターという鈍重で、回避行動に向かない武器。 被弾は増え、着実にロミオの体力を削っていく。

 既にフードはとれ、多量の雨をその身に浴びてしまっているが、そんなこと関係ないとばかり我武者羅な戦闘を続けるロミオ。

 

「ロミオ! 戻れ!」

 

 ジュリウスが到着した。 だが、その声は届かない。

 

 何故なら、今まさにロミオが天へと打ち上げられたからだ。

 

「うおおおおおお!」

 

 神風ノ太刀・鉄。 『血の力 統制』を誘発するソレは、かつてないほどの踏み込みによって放たれる。 その間合いは一瞬で彼我の距離を詰め――。

 

「ガッ!?」

 

 斬撃を受けながらも突進するマルドゥークに弾き飛ばされた。

 

 ドシャリ、と落ちるジュリウス。 完全に気を失っている。

 

「うぁああああああおおおおおおおおお!!」

 

 ロミオは、悲鳴とも取れる雄叫びを上げて、神機を――振り上げた。

 

 赤い、鮮血の様な光がマルドゥークを逸れ、ガルムに向かう。

 ブラッドアーツ。 CC・アービターだ。

 

 その一撃は、ガルムの頭を砕き、後足までをも結合崩壊させる超一級の破壊力を生み出した。 

 そのまま――。

 

 

 

 

 

 マルドゥークの攻撃で、ロミオは地に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラケル・クラウディウス。

 

 言わずと知れたラスボス系博士である彼女だが、ゲームプレイヤーとしてでなくアラガミとして彼女の言動を思い出してみると、多々、疑問に……というか、アラガミとしての思考回路ではない部分が見受けられる。

 

 まず、多数の言動に於いて『人類』が起点であったこと。

 

 『人類の試練』だとか、『人類は生まれ変わる』とか、まるで終末捕食に打ち克ってほしい、みたいなニュアンスで話している事が多かった。 

 

 俺も純粋なアラガミとは言えないのだが、地球の意思にして言わせてもらうのならば『人類』は『害』である。

 確かに自然の作用の一部であることは認めよう。 地球が作り出したものには変わりないからな。 だが、『害』に生き残ってほしいとは思わない。 生き残ってしまう、なら仕方ないのだが、生き残るように仕向けたりはしない。

 

 彼女はそれが顕著なのだ。

 

 思えばブラッドを造った事もそれに起因する。 神威ヒロの『喚起』と、ジュリウス・ヴィスコンティの『統制』――そして、ロミオ・レオーニの『対話』が必要だったことは理解できる。

 だが、ギルバート・マクレインの『鼓吹』やシエル・アランソンの『直覚』、香月ナナの『誘引』は、果たして必要だっただろうか。 

 マグノリア=コンパスという施設を作り上げ、ブラッド以外の子供を収容する必要はあっただろうか。

 葦原ユノというもう一つの可能性を、残す必要があっただろうか。

 

 思うに、彼女の『人間部分』……つまり、ラケル・クラウディウスの本来の部分は、自身の子であるブラッドに対して母性を抱いていたのではないだろうか。 

 終末の捕食に、打ち克ってほしいと。

 

 

 だが、逆に。

 アラガミとしての部分も、彼女の言動に顕れていた。

 

 『王のための贄』『適者生存』『晩餐』『新たな秩序』。

 これらすべての単語は、地球の意思によるものだろう。 もしくは、それをラケル・クラウディウスなりに解釈した結果か。

 ジュリウス・ヴィスコンティを特異点にしたこともアラガミとしての彼女だろう。

 ジェフサ・クラウディウスを殺したこともアラガミとしての彼女だろう。

 

 

 

 だから――。

 

 

 

 眼下で()()()()ロミオ・レオーニ。

 

 比喩表現ではない。

 本当に、地に沈んでいっているのだ。

 

 

 

 この現象は。

 螺旋の樹内部で、ロミオ・レオーニが生存を果たしたあの現象は。

 

 人間としての、ラケル・クラウディウスによるものなのだろう。

 さしずめ試練に対する褒賞と言ったところか。

 

 

 

 

 

 これで、ロミオ・レオーニとジュリウス・ヴィスコンティが抜けた。

 

 残るブラッドは、香月ナナ、そして神威ヒロのみだ。

 




大分場面が飛んでいますが、ナナのシーンはハルさんとヒロが頑張りました。 というか猫ちゃんとオウガテイルの群れに囲まれたところで窮地に陥ると思えないのは私だけでしょうか。



ルシフィルは真壁ハルオミがブラッドになったことを知らないので修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。