【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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サ ヨ ナ ラ


イリーガル・イビル

「ゴッドイーター! アラガミだ! 対処を頼む!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()わからないが、サテライト拠点候補地の入り口側から棟方クニオが駆けてくる。 建築技師としての腕は大したものだと思うのだが、戦えない癖に資材回収と称して拠点の外をうろつくのはやめてほしいものだ。

 カレルは今までの暗い思考をとりあえず追いやり、神機を持ってその声がした方を振り向いた。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 そして、その姿を見て、自ずと笑みを浮かべた。

 

 余裕のつもりなのか、こちらの事など取るに足らないと言いたいのか、ふよふよと浮いて候補地へと入ってくる赤い姿。 サマエル。

 カレルはすぐさま極東支部へと連絡を取る。 激情に身を任せて周りが見えなくなる程、カレルは子供ではないのだ。 しかし――。

 

「こちらサテライト拠点資材置き場。 指定接触禁忌種であるサマエルと遭遇。 こいつが()()サマエルかどうかはわからないが、念のため至急の救援を要請する。 交戦許可を頼むぞ」

 

 どこの支部もそうだが、勝手な交戦をさせないためにまず交戦許可を得なければ命令違反となる。 面倒な事であるが、規律を護れない者にお金を落とす上司がいないことを知っているので、丁寧に報告をする。

 

『……』

 

 だが、いつもなら直ぐに聞こえるはずのあの快活な、聞き取りやすい竹田ヒバリの声は聞こえなかった。 インカムから聞こえてくるのはザザザというノイズのみ。 職務怠慢か? と思いもしたが、カレルから見ても真面目すぎる竹田ヒバリがそんなことをするとは思えない。

 考えられるのは機器の故障か。 試しに大森タツミへ通信を繋げようとしてみたのだが、繋がらなかった。 本格的に自分のインカムの故障らしい。

 

「ま、もっともらしい理由ができたな……」

 

 機器の故障により。 通信機器の不具合により。 交戦許可を得られる状況ではなかったので。

 様々な理由(いいわけ)を思い浮かべ、どれを報告書に載せるか迷うカレル。

 

 普段の彼ならば、アラガミの前でそんな隙を見せるはずがないのに。

 

 

「キィ……」

 

 

 その甲高い音が()()()()で聞こえた瞬間、カレルは前方に回避を行った。

 直後、今までカレルがいた場所にジェット機でも通ったかのような風圧が通り抜ける。

 そして、遅れてやってくる悪寒。 死の恐怖。

 

 カレルは遠距離型神機使いとして、目にも耳にも自信がある。 その自分が、これほどの接近を許すとは到底思えなかった。 それほどまでにシュンの事を引きずっていたのか? だとしたら、度し難い油断だ。

 

 すぐに風圧の向かった方向へ神機を向ける。 しかし、そこには()()無かった。

 

 

「なに……?」

 

 

 どこへ行ったのか。 周りを見渡しても、()()()()。 目で追えないならばと目を瞑り、耳で気配を探るも()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ――そこでカレルは、違和感に気付いた。

 

 

 何も無い……何も見えない? そんな馬鹿な。 ここはサテライト拠点の資材置き場で、そこら中に角材が転がっている。 

 何も聞こえない? そんな馬鹿な。 さっきまで棟方クニオが叫んでいたし、自身の足音、神機の駆動音など何かしら聞こえているはずだ。

 

 呼び起される記憶は、シュンの救援へと向かったあの嘆きの平原。 

 異様な静けさだったあそこだが、それは本当に雰囲気だけの問題だったか?

 

 今の様に、異様に静かで――異様に暗くなかったか?

 

「何が起こってる……ッ!?」

 

 

 一瞬。

 

 風を切るような気配を()で感じ取り、そちらへ神機を向けてバレットを撃つ――――撃ちだそうとして、神機が動かない事に気が付いた。

 

 神機が動かない。 この現象が当てはまるのは、ただ一つ。

 

「感応種……!? クソ、こんな時に……ブラッドは何をやっている!?」

 

 偏食場パルスが近づいたのか。 何故情報の伝達が為されない――そこまで考えて、自身の通信機が壊れていることを思い出して舌を打つ。

 

 またも風切り音。 それだけを感じ取れる事だけが救いだが、装甲を展開できないカレル(だいいちせだい)ではいつまでもつかわからない。

 

 

 だからカレルは、攻勢へと出る事にした。

 

 

 スタングレネード。 既に手元すら怪しい状況故に、慎重に取り出して叩きつけようとする。

 

 

 

 

 

 ――だが、それは最速の機動力を持つ相手には最高の悪手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ミさん! タツミさん! 応答してください!!』

 

 カレルのいた地点から少し離れた、また別の資材置き場。 角材に腰を掛けていた大森タツミだったが、()()()()()()()()通信と、愛する人――一方的だが――の声に軽口を叩こうとして、しかしその緊急を思わせる声に口を噤んだ。

 

「どうした、ヒバリちゃん。アラガミか?」

 

 サテライト防衛班の隊長として、安心感のある声色で訊ね問う。

 

『良かった……()()繋がりました……! タツミさん、カレルさんと連絡が取れないんです! 最後に確認された地点の情報を送信しましたので、至急向かってください!』

 

 送られてきた地点を見るや全速で駆けだすタツミ。 その移動法は、過去に神薙ユウの使っていた物を真似た物だった。

 

 ――嫌なデジャヴュだ……。

 

 あの時も、シュンと連絡が取れなくなっていた。

 

 

「無事でいてくれよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『任務完了。 ブラッド、帰投してくださ――え?』

 

 イェン・ツィーを倒して直ぐの事だった。

 ジュリウスがやけにキョロキョロと辺りを見回していて、それが気になって声を掛けようとしたときに入ったフランの通信。 いつも通りかと思いきや、途中で困惑したような声が混じる。

 

「フランさん、どうしたのですか?」

 

『……いえ、今一瞬だけ計測機器にオラクル反応があったのですが……誤差かと思われます。 帰投をお願いします』

 

 ここでいう計測機器とは、対感応種の物の事だ。 今まで感応種を相手にしていて、それがまた反応したという。 急いで振り返るも、そこには何もない。 既にイェン・ツィーは没しており、周囲にアラガミの影もない。 

 強いて言うならば未だキョロキョロしているジュリウスがいるくらいだ。

 

「帰投準備に入ります……ジュリウス、ロミオ、ヒロさん、帰りましょう」

 

 面々に帰投を促す。 ロミオはおう、と元気よく返事をし、ジュリウスは明後日の方向を見つめてから一度頷き、こちらへ歩いてきた。

 

「折角出てきたってのによー……帰ったら寝るかぁ……」

 

 ヒロはどこまでもマイペースに、イェン・ツィーの弱さと任務のつまらなさを嘆いていた。

 正直出会った時の言動からして戦闘狂タイプ。 協調性の欠片もない人物だと思っていたのだが、任務中はジュリウスに並ぶほど頼りになると考え直した。

 心を許せるほどに彼女を知っているわけではないのだが、味方のフォロー含めて戦闘狂であり、その戦闘能力は噂に聞く『神薙ユウ』の伝説に追い縋るモノがあると、シエルは思う。

 

 曰く、百里をを10秒で駆け抜ける。

 曰く、空中でアラガミと高速戦闘を熟す。

 曰く、全ての攻撃がクリティカル。

 曰く、装甲を一切使わないのに被弾0。

 

 ……それよりはまだヒロは人間らしいと思うが。

 

 

 帰投用ヘリに全員が乗り込み、フライアへと帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らはフライアに帰ってすぐ、サテライト拠点候補地でアラガミの被害が――訃報があったことを知るのだった。

 




漸く能力っぽい物を出せました。

詳細はもう少し後になってからスターゲイザーさんが解説してくれると思います。

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