【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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また最初の方に考察(笑)がありますが、読み飛ばしても何の問題もナイッス。


ルビー・アイ

「オープンチャンネルに緊急要請! 繋ぎます!」

 

 常ならば冷静な声色でブラッド隊(かれら)をオペレートするフランの焦った声がフライアに響く。直後にぶつん、という回線を切り替える音。そして、フランよりも焦りに塗れた男性の声が響き渡る。

 

「こちらサテライト拠点第2建設予定地! 感応種と思わしき反応を観測等から北北東30km地点に確認!

 複数の通常アラガミを引き連れている模様、至急応援を求めます!」

 

 感応種。極東地域で確認されている、特異な能力を有するアラガミの総称だ。強力な『偏食場パルス』を一定範囲内に発生させるため、強力な『感応現象』が発生し、周囲一帯のアラガミはその感応種の支配下に置かれる。

 また、既存の神機使いは一時的に神機を使用できな状態に陥り、実質的な戦闘不能に追い込まれてしまう。

 対抗できるのは、既存の神機使いに投与されているP53偏食因子とは別の、P66偏食因子に適合したブラッド隊員だけ。

 

「ブラッドに緊急連絡! 近くに感応種と思わしき反応を確認! 先程の要請地点とほぼ一致しています! 救助、ならびに感応種討伐をお願いします!」

 

 この日、初の感応種討伐をブラッドが成し遂げる――――か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イェン・ツィー。

 

 青色を起点とした体色をもつ美女のような姿の『シユウ神属感応種』。

 その能力は、『周囲のアラガミの攻撃目標を一点に絞る』『チョウワン(げぼく)の生成』である。

 チョウワンそのものも『オウガテイル神属感応種』であるのだが、イェン・ツィーの能力で生成された『不完全なコア』で身体を保っているために、オラクル細胞が機能停止すると瞬時に霧散してしまう。また、感応種と名乗っておきながら特別な能力はこれと言ってない。

 強いて言うならば神機使い共に余計な素材を与えない事くらいか。邪魔するだけしてドロップ品無しというのは中々良い能力かもしれないな。

 

 シユウ種だけあって、その両翼を使った攻撃を多数持つ。一時的ではある物の、サリエル種よりも高い位置で滞空、その後滑空してくる辺りは、他のシユウ種より鳥らしいと言えるだろうか。

 

 もっとも、名前や翼の形、三趾足(さんしそく)からしてシユウはエミュー(而鳥)が中国にてアラガミ化し、兵主神、戦の神として称えられる蚩尤として名付けられたのだろうが。だから普通のシユウ種は飛べないし、かと思えば足が速い。脚が硬くて頭が弱点なのも納得だ。

 

 それを踏まえて考えると、イェン・ツィーはシユウというよりは……いや、シユウがサリエルを食べた種なのではないかと思える。

 

 サリエルは蝶と人が融合したような姿、とノルンで紹介されている通り、翅や尾状器官がまんま蝶だ。

 

 サリエル種の出現時、多くのザイゴート種が同時に現れる事が多い。

 ザイゴートの由来はzygote. 接合子、もしくは受精卵という意味だな。もしかしたらサリエル種は数多のザイゴートが喰らいあった結果なのかもしれない。プロモーションのアニメでもがぶりと人間を食べていたし。

 

 サリエル種の持つ女性像のような肢体と、シユウ種が合わさったアラガミ。

 サリエルを食ったシユウが赤い雨に打たれたのか、はたまた逆なのかはわからない。だが、それがイェン・ツィーなのだと俺は考える。イェン・ツィーのチョウウン生成能力も、サリエル由来だったりするんじゃないだろうか。

 

 

 

 さて、眼下にて――凡そ300m程離れているが――ブラッド隊(しゅじんこうたち)の初の感応種討伐が行われている。邂逅としてはマルドゥークが初だが、明確な任務としてはキラー・プリンセス、つまりイェン・ツィーが初だったはずだ。

 

 ブラッド1――神威ヒロ(♀)――が使っているブラッドアーツは『風斬りの陣』。色合いからしてまだⅠ。

 ブラッドアーツを替える事が出来るのか、はたまた他の面々の様にアナザーにでもならない限り発現したものを使い続けるのかはまだわからないが、替えられるとしたら少々面倒だ。ダンシングザッパーみたいな理不尽な挙動の物はやめてほしい。

 

 さて、ここでイェン・ツィーに加勢する、というのも一つの手であるのだが……正直うじゃうじゃいるチョウワンが邪魔だ。制動力によってワールドワイドホワイトボール的な挙動を行うのも吝かではないのだが、如何せん意思疎通がとれない奴と共闘したくないという気持ちをわかっていただけるだろうか。

 

 なので、俺はもっと確実に、多くを摘みとれる方法を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 ここはサテライト拠点第2建設予定地。多くの角材が集う資材置き場にて、金髪の若い男性がため息をついていた。

普段であれば気障ったらしい笑みと、周りが引く程の金への執着を――理由あっての事なのだが――見せている彼にしては珍しい落ち込み具合である。

 

「馬鹿が……」

 

 暗い、あの日を思い出すような厚い雲に覆われた空を見ながら悪態を()く。

 まるで悲しみを隠すように。去来する虚しさを追いやるように。

 

 彼の名はカレル・シュナイダー。元第三部隊所属の第一世代神機使いであり、今は極東支部サテライト防衛班に所属している。陽動、遊撃、強襲など様々な役割を熟すユーティリティープレイヤーで、報酬の高い任務ばかりを受けてはそれに見合った――ともすればそれよりも高い戦果を出すことが多く、その手腕はフェンリル本部の幹部からも一目置かれている程だ。

 その彼が憂いでいる理由。

 それは、最近居なくなった――死んだ、長年つるんできた悪友ともいうべき相方の存在が関係している。

 

 小川シュン。

 同じく元第三部隊からサテライト防衛班へと異動した神機使いで、よく部隊長の大森タツミから『アホアホコンビ』等という不名誉な――アホなのはシュンだけだと思っている――コンビ名を付けられるほどには、共にいた存在。

 彼は今、土の下に冷たくなって眠っている。

 

 突然の事だった。

 順風満帆とは言い難い物の、着々と進んでいたサテライト拠点の建設。サテライト防衛班の面々は、その候補地となる場所の警護や探索を担っていた。

 重要な仕事であり、それに見合った金も入る――たとえアラガミが現れなくても入るのでカレルは気に入っていた――のだが、如何せん地味だ。

 徐々に協調性を付けてきたとはいえ、シュンにはそれが我慢ならなかったらしい。

 

 「ちょっと行ってくるぜ」

 それが最後に聞いたシュンの言葉だった。

 自分が何と言って送り出したのかは覚えていないが、多分悪態を吐いたのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 その後すぐだ。竹田ヒバリの焦った声が聞こえてきたのは。

 

 自分で言うのもなんだが、カレルもシュンもそれなりの実力がある。

 それこそ最近出始めたという感応種にでも遭遇しない限り、こんな短時間で危機に陥るということは有り得ない。

 有り得ないはずだった。

 

 有り得ないはずなのに、竹田ヒバリの「応答してください、応答してくださいシュンさん!」という声に、言い様のない不安を覚えた。

 すぐに丁度ロビーにいたタツミとアイコンタクトを取り、シュンの救援に向かった。

 

 道中は、まだまだ世話の焼ける奴だ、等と言う余裕があったのだが、シュンが向かった嘆きの平原に到着して、言葉を失った。

 

 異様な静けさ。

 空気が死滅している様な――3年前、雨宮リンドウが行方不明となった時と同じ感覚に襲われたのだ。2人が、2人とも。

 

 初めこそ二手に分かれて探索しようと思っていたのだが、作戦を変更、共に行動して捜索に入った。

 

 未だ戦闘が続いているなら(・・・・・・・・・・・・)戦闘音が聞こえるはず(・・・・・・・・・・)という事に気が付かないフリをして。

 

 そして発見した――仰向けに、大の字に倒れている悪友の姿(シュン)

 

 傍らにはシールドの割れた神機が無造作に転がされていて。

 シュンはピクリとも動かない。

 

 タツミの、シュンへと呼びかける声が遠退いて行く。

 

 そんなことよりも(・・・・・・・・)大事な物(・・・・)を、カレルのアサルトとして誇れる視力は捉えていた。

 

 悠々と飛び去る、赤い点。

 

 遠くてもわかる。何故なら、あの日嫌になる程の数を見たのだから。

 

 その体色。

 そのカタチ。

 

 ――アバドン。いや、サマエル!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣で必死に竹田ヒバリへと救護班の要請を行っているタツミの声が近くなる。

 そうだ、今はシュンを――。

 

 ありったけの回復弾を、これでもかと撃ち込んでもシュンは起きなかった。

 回復柱を立て、回復球をぶつけ、エリキシル錠を無理矢理口に突っ込んでもシュンは起きなかった。

 救護班が到着し、いくら時が過ぎても――シュンは起きなかった。

 

 小川シュン。享年21歳。KIA。

 

 その報告を受けて――しかしカレルはそれをすんなりと受け入れることができた。

 自分でも薄情だと思う。タツミは、「それは薄情ではなく心が死んでいるだけだ」と言っていたが、それは違う。

 

 それよりも、それよりも。

 

 それよりも真赤に燃える様なあのアラガミを許せないだけだ。

 存外、本当に存外だが……カレルはシュンのことを気に入っていたらしい。

 なんだかんだと言いつつも、第三部隊が――サテライト防衛班の面々と働く事が楽しかったらしい。

 それに気づいて、自分自身へと悪態を吐く。

 

 どうやら自分は仇を取りたいらしい。

 

 もしあのサマエルが3年前に現れたあの(・・)サマエルなら――種として根付いた、速いだけのアバドンではなく指定接触禁忌種としてのサマエルならば――どれだけ金を積まれても見合わない仕事だ。

 なんせ、あの第一(ばけもの)部隊が手こずった敵なのだから。

 

 さらに言えば自分はサテライト防衛班。遠くまで探索に行くことなど出来ない。一度受けた仕事を放りだすのは、カレルのプライドが許さない。

 

 自分ではどうにもできない。

 

 その事実に、ため息と悪態ばかりが出る。

 

 今もこうしてサテライト拠点第2建設予定地の資材置き場で何をするわけでもなく、強いて言うならば感応種と戦闘を繰り広げるブラッド(いけすかない)部隊を待っているだけだ。

 

 この場所はギリギリ感応種の偏食場パルスの届かない場所の様で――そうなるように観測班が地点指定したのだが――神機は使えるものの、それが何の意味があるのだとカレルは言いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんなカレル・シュナイダーに、神は微笑みを見せる。

 

 

 ――にこりと、讃えるように、嘲るように、荒々しき神が――。

 




どうでもいいけどシュナイダー! ってかっこいいよね。シュナイダー! ゼーレシュナイダー! シュナイダークロイツナッハ!



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