【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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プロローグは短いの法則

すみません、幕間消しました。
やっぱ雰囲気に、というか幸せなシーンはアレなんで……


餓狼の渇き
序章・混迷の王


 赤い雨が降っている。

 緋い雲から、さめざめと。

 

「キィ……」

 

 赤い雨が体に馴染む。

 欠けたところを、埋めるように。

 

「キィ……」

 

 赤い雨。

 赤乱雲。

 

 ――GOD EATER。

 

「キィ……」

 

 酷い既視感だ。

 というか前にもやった流れだ。

 

 最後の記憶は、こちらを見下ろす神薙ユウ。

 

「キィ……」

 

 嗚呼、俺は負けたのか。

 そうだ、シオの入ったノヴァが月へと打ち上げられて……。

 止めようとして、阻まれて。

 殺そうとして、殺されたんだ。

 

「キィ……」

 

 そうか。

 そうかそうか。

 

 それは……なんとも屈辱だな。

 

「キィ……」

 

 だが、こうして俺の意識はまたアバドンに宿ったようだ。

 地球はまだ、俺にチャンスを与えてくれるらしい。

 

 人類を滅ぼす、チャンスを。

 

「キィ……」

 

 聴覚を広げる(・・・)

 

 

 

『うわあああああああああ! 何故だ、何故神機が動かない!』

 

 

 

 ――見つけた(キコエタ)

 

 さぁ、行こうか。

 世界を新しくす(おえ)るために。

 

「キィ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは……? まさか、極東のみに現れる赤いアバドン!? エミールさん、逃げて!』

 

 

 

 エミール・フォン=シュトラスブルグの神機が使用不能となり窮地に陥るも、土壇場でブラッドアーツに覚醒したブラッド1がマルドゥーク――後に、感応種と呼ばれるソレを撃退した矢先の事だった。

 

 エミール・フォン=シュトラスブルグが前のめりに倒れたすぐ横。

 何もない地面から、湧き出る様にして一匹のアラガミが出現する。

 

 フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュが焦り声で退避を促す。

 

 

 

 闇夜に輝く月の様な眼孔。

 全てを嘲笑うかの様な口。

 

 

 

 ――そして、鮮血よりも更に紅い体躯。

 

 

 

 アバドン――いや、サマエルと呼ばれるアバドン神属第一接触禁忌種(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 エイジス計画が頓挫した原因(・・・・・・)とされるそのアラガミの特徴は、異常なまでの速度を有する事。その速度によって行われる体当たりは高い威力を誇る。

 

 

 

 一番最初に現れた一匹以外(・・・・・・・・・・・・)攻撃行動を行った個体は確認されていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ものの、その危険度から指定接触禁忌種とされている。

 

 

 主に極東のみに出現し、間違っても黎明の亡都周辺(こんなところ)にいるアラガミではない。

 

 

「キィ……」

 

「う、うぁあああああああ!? く、くるな! 来るなあああああ!」

 

 

 先程、マルドゥークはエミールを素通りした。

 取るに足らない敵だったというよりは、先に殺すべき相手がいるとでもいうかのように。

 

 しかし、こいつは――サマエルは、その場から一歩も動かずにこちらを見据えている。

 それが、その程度の事が、エミールには恐ろしかった。

 

 

「キィ……」

 

 

 そいつは、一瞬エミールから視線を外す。

 視線の方向は――ブラッド。

 

 香月ナナ、ロミオ・レオーニ、そして――神威ヒロを見て、気のせいだろうか……サマエルは、少しだけ目を見開いた。

 

 そのまま、サマエルは。

 

 消えた。

 

 

「なぁっ……!?」

 

 

 直後、巻き起こる突風。

 サマエルのいた場所に空気が入り込んだのだ。

 

 コンゴウの放つ風と同等――いや、それ以上の突風は、エミールを無様に転がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、混迷の王……」

 

 その後ろ姿を見て(・・・・・・・・)、バナ――ジュリウス・ヴィスコンティは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日を境に、世界各地でサマエルが出現するようになるのであった。

 




バナ――――ジュリウス・ヴィスコンティさんとユノ、そして主人公。

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