【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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Kight of NOVA

 シオをノヴァに届ける。そう決意した瞬間とも言っていいほどのタイミングの良さで、アバドンの大群がエイジス島の外壁から押し寄せる。こいつらの向かう先は――ノヴァの母体。蝗害として、その母体を貪り喰らうように穿っていくこいつらは、その実全くの逆だ。

 

 ノヴァの母体に触れたトコから、ノヴァの母体に喰われている。

 自ら、その身を捧げる様に。

 

 

 

 ノヴァの、ひいては地球の意思がはっきりと聞こえてくる。

 

 

 

 

 そういう事だったのか。

 

 雨宮リンドウの右手に現れたアーティフィシャルCNC。あれは、地球が与えた物(・・・・・・・)。何のことは無い、地というこの星に住む以上必ず触れているソレを介してアーティフィシャルCNC擬きの形成を行い、理性を保たせた。

 その理由。

 

 地球は迷っていたのだ。

 人類を殺すか否か、ではない。

 

 

 どちらを(・・・・)特異点(・・・)とするか、だ。

 

 

 

 アラガミにしてヒトという害への適応を経たシオと、ヒトという害にして地球の意思であるアラガミへと成った雨宮リンドウ。

 両者ともに、特異点に適していたということ。

 

 

 だから地球は雨宮リンドウを保たせた。 俺やシオと行動する事で、様々な種のアラガミを捕食させた。

 

 

 始まりこそ違えど、奇しくも雨宮リンドウはシオと同等になっていたのだ。

 

 

 だが、その雨宮リンドウが人間へと、害へと完全に戻ってしまった。

 その事に地球は雨宮リンドウへと見切りをつけ、シオの方へ全力を、全ての意思を注ぎ始めたということだろう。

 

 なら、俺のすべきことは変わらず一つ。

 

 

 

 このアバドンの波に乗じて、シオを母体へ届ける。

 

 多少の被弾は気にしない。最も、被弾する前に周囲のアバドンに当たるだろうが。

 

「キィ……」

 

「ピキィ……」

 

「キィ……」

 

「ピキィ……」「ピキィ……」

 

 

 

 俺達(アバドン)から漏れ出る、この音。

 鳴き声なんかじゃない。

 

 

 俺達は歯車(パーツ)なのだ。地球の設計図の隙間を埋める、あらゆるものに対応したコア。

 

 体内の歯車が()を上げる。

 

 キィキィと。キリキリと。

 

 俺達を以てして、ノヴァは完成する。

 

 

 

 

「サマエル……ありがとう(・・・・・)

 

 

 

 ノヴァの母体の額。

 そこに自ら潜って行ったシオの残した言葉だ。

 シオ自身の意思なのか、地球の意思なのかはわからない。

 

 わからないが――。

 

 

「キィ……」

 

 

 なるほど、王を護りたくなる騎士というのはこういう気持ちなのかもしれない。

 未来のエミール・フォン=シュトラスブルグ。

 今だけは、その姿勢を褒め称えよう。

 

 

「キィ……」

 

 

 さぁ、俺達(アバドン)よ。

 囲え、囲え。生れ落ちる新たなる星(ノヴァ)を囲え。

 

 

 身を挺して、神を喰らう不届きもの達を遠ざけろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ! なにがどうなっていやがる……!」

 

 

 

 ほとんど一瞬の事だった。

 

 エイジス島に(おびただ)しい量のアバドンが入ってきたかと思えば、一直線の天井のノヴァの母体へと殺到し、取り込まれた。

 その直後と言っていいほどの短時間で、いつのまにか移動していた白い少女がその身を光らせながらノヴァの内部へ。彼女が特異点だとヨハネスは言っていたから、コアとなったのだろう。

 

 そして、今。

 ノヴァの母体――いや、特異点を取り入れて完成したノヴァを竜巻のような勢いで取り囲むアバドンの群れと――こちらを見据え、騎士の様に佇むサマエル。

 

 やられた、と。

 

 神薙ユウは、また1つ負けを認めた。

 

 

「あはは……これが予定調和なのか偶然なのかはわからないけれど……、どうやらノヴァが完成してしまったみたいだよ」

 

 

 自嘲気味に笑うユウ。

 しかし、そこに悲観の色は無かった。

 

「サクヤさんとリンドウさん、ヨハネス支部長は?」

 

「とりあえず、お2人とも昇降機の所まで運んでおきました」

 

「クソ親父は、もう死んだ……。アホな事をほざいてな……」

 

 

 せめてお前だけでも。

 そう言って眠った父親の最期。

 それに、どんな意図があったのか。

 ソーマはわかりたくなかった。

 

 

「さて、これからどうしようかな……一匹一匹撃ち落とすのは流石に現実的じゃないけど……」

 

 

 

 

 

『それは流石に時間がかかりすぎるね。そんな案よりもっと夢のような案があるのだけれど、乗ってみる気はないかな?』

 

 

 

 

 

 突然インカムから聞こえる胡散臭――信頼できる、サカキの声。

 

「サカキのおっさん……早く言え、どんな案でも乗ってやる……」

 

「サカキ博士! 勿体ぶってないで教えてください! 成し遂げますから!」

 

「酷いなぁサカキ博士……悪巧みなら混ぜてくださいって言ったじゃないですか……」

 

 若干信頼されていないような、若干酷い扱いのような気がしないでもないが、気を取り直して、とサカキは咳払いをする。あと別に悪巧みではない。

 

 

『ふふふ、僕はずっと気になって「博士、そういう前置き良いから早く喋ってあげて」――リッカ君……はぁ。

 エイジス島の外縁部に、ヨハンの残した箱舟……アーク計画に使われる予定だったロケットがあるはずなんだ。ユウ君も確認しただろう?

 ――それを用いて、ノヴァを宇宙へと……月へと飛ばす。どうだい? 夢物語のようで美しいだろう? 新星(ノヴァ)を文字通りの存在にしてあげるんだ」

 

 

 

 

「それで……俺達は何をすればいい……早くしろ、サカキのおっさん!」

 

 

 

『せっかちだねぇ……あ痛っ!? 抓らないでくれよリッカ君……。

 何、簡単な手順だよ。

 ノヴァを地に堕とし、ロケット全てにノヴァを括り付け、飛ばす。たったこれだけだ。 既に技術班がロケットの準備をしているから、君たちはノヴァを落としてくれたまえ。 括り付ける作業は僕達が責任をもって熟すよ』

 

 

 

 

「それを先に言えばいいんです! ソーマ! 壁、登れますよね!?」

 

「簡単に言ってくれる……だが、そうだな……やるしかないのなら、やるだけだ……」

 

「幸い捕食対象はうじゃうじゃいるからね。逐一ソーマにも受け渡し弾を撃つよ。さ、アリサ、ソーマ。最終決戦と行こうじゃないか」

 

「応!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 ソーマはエイジス島の内壁へと足を掛け、その人外染みた身体能力を以て駆け上がっていく。勿論道中をアバドンの群れが阻むが、アリサの的確な狙撃やレーザーがそれを撃ち落としていく。

 

 アリサを狙ってアバドンが殺到すれば、ロングブレードへと神機を変形させたアリサが弧を描くように切り払い、捕食してソーマへと受け渡し弾を放つ。

 

 神薙ユウも、アラガミは混じっていないはずなのにその人外染みた最小限の動きで内壁を昇って行く。

 切り払うより回避を優先し、身体が落ちそうになった時にのみ、アバドンを斬る事で反動を得て駆け上がる。

 ユウとソーマ、どちらもがノヴァの触腕の根元に近づくと、アバドンの群れの苛烈さが増した。更にユウの方へは奴――サマエルが突進してくる。

 

 

 

「キィ……」

 

 

 しかし。

 

 

 

 

 

「そう……何度も見せられて……!

 反応できないと思われているのが、一番屈辱だ、よっ!」

 

 

 

 

 

 音速(・・)に近い、シオがいないことでもしかしたら音速をこえているかもしれない速度で動くサマエルに合わせて(・・・・)ショートを振るう神薙ユウ。その口元は、普段彼を知る者が見たら驚きに飛び退るほどに吊り上っていた。

 愉しくて、愉しくて、愉しくて愉しくて愉しくて仕方がないというような様子の神薙ユウ。

 神機使いになってから、物足りなかった。

 強い敵を……もっと強い敵を。手応え(・・・)のある敵を。

 

 

 この相手(サマエル)は、それに値する!

 

 

 サマエルもそのまま斬られるということは無い。

 背後から迫るそのショートに、急激な制動力を以てショートの対応できない角度で曲がったり、剣速に合わせて身体を回転させて往なしたりする。

 進路上に他のアバドンがいても関係ない。

 

 

 

 突撃、斬り伏せ、突進、切り払い。

 

 

 

 ただ、その応酬。

 

 混迷を呼ぶ者の王と、神を薙ぐ貴方(ユウ)の名を持つものの戦い。

 それは凄まじいモノで――。

 

 

 

 

 

 

 しかし、神薙ユウは、本当にバグだった。

 

 

 

 

 

 

 一合一合の元、サマエルの身体に当たらなかった(・・・・・・・)斬撃。

 

 それを、神薙ユウはわざわざ振り切っていた。その身体能力を以てすれば、途中で止めて次の攻撃に移れたはずなのに。

 

 サマエルとユウは移動しながら戦闘し、その位置の操作はユウが行っていた。

 

 

 結果、起きる事……。

 

 

「ソーマ! こっちは終わったよ(・・・・・)!」

 

 

 その言葉と同時に斬られたのは、サマエルではなく――ノヴァの触腕。

 サマエルがそれを確認するまでもなく、ノヴァがエイジスの天井から堕ちる。

 

「こっちも……これで最後だっ!」

 

 

 左手で天井のでっぱりに掴まりながら、右手のみでチャージクラッシュをするという離れ業を以て、ソーマが最後の触腕を切裂く。

 彼にとって、動かない敵を斬ることなど造作もない事なのだ。

 

 

 ソーマの切った触腕が、ユウの切った触腕に遅れて地に堕ちはじめる。

 

「おい……サカキのおっさん! 堕としたぞ!」

 

『あぁ……よくやってくれた! リッカ君、射出(・・)してくれたまえ!』

 

『いくよー!』

 

 

 リッカの掛け声と共に、エイジスの6方向からジャラジャラという音がノヴァに殺到する。

 それは、これでもかという程に太い鎖。

 

 

『エイジス計画に使われるはずだった巨大なアラガミ装甲を、繋ぎとめる役割をするはずだったオラクル技術製の鎖だよ。エイジス島の地下に眠っていたものを、急ピッチで拝借させてもらったのさ』

 

『縦方向への力は最高強度といっても差支えないけど、サマエルの突進みたいな横方向の突撃は耐えられるかわからないから、絶対に守ってね!』

 

 

 未だ天井に掴まっていたソーマとユウは、目を合わせ頷く。その2人に受け渡し弾を撃ち、アリサは他のアバドンを狙撃する。

 

 

「キィ……」

 

 サマエルも黙っているわけではないが、極東最高峰のバグ2人を前にしてはどうしても攻めあぐねる。

 

 

 

 

 

 そして、時が来た。

 

 

 

 

 ドクンと。

 ノヴァの脈動が聞こえ、その触手が凄まじい勢いで伸び始める。

 

 同時にロケットの燃料に着火がなされ、掴む物が無いノヴァを空高くへと引き上げる。

 

「キィ……」

 

 

サマエルが鎖に突進をするも、既に500mの上空だというのに未だ鎖に乗っている神薙ユウに阻まれる。

 

 

「ははは……やらせないよ……!」

 

 そこから加速的にロケットが速度を増す。

 神薙ユウは落ちながらも、降り注ぐノヴァの触腕を足場に絶対にサマエルをいかせまいと妨害する。

 

 

 ――行かせない、絶対に!

 

 ――退け! 神薙ユウ!

 

 

 既に神薙ユウは、あの少女がサマエルを操っていたと考えていない。

 

 その目から、確実たる意思を読み取っているのだ。

 

 ノヴァが空の彼方へと粒になった瞬間、2人の心は奇しくも合致した。

 

 

 

 

 

 ――ここで、殺しきる!

 

 

 

 

 

 地上が近づく。触腕を足場に、不規則的な行動をするサマエルと、まるで演舞のような戦いを繰り広げる。

 サマエルはその笑うような口とは逆に怒りに燃え。

 神薙ユウは声を上げて笑いながら剣を振るった。

 

 

 

 

 その、決着は。

 

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラの受け渡し弾でバーストし、剣速を上げた神薙ユウの一振りによって。

 

 

 

 ――人類の勝利で、終わった。

 

 

 

「キィ……」

 

「ハッ……ハッ……はぁっ……はぁっ……。

     ――――僕の……勝ち、だよ……!」

 

 黒ずみながら地に溶けていくサマエル。その恨みがましい瞳は、最後の一時まで神薙ユウを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、人類は1度目の終末捕食(ほしのいし)に打ち克つ。史実通りに月は緑化し、降り注いだノヴァの触手は各地のアラガミに異常な変化を齎した。

 大量のアバドンの死骸は雪が溶けるように消え、そのコアを捕食できたのは極わずかだったという。

 

 この件における死傷者は、ヨハネス・フォン・シックザールのみが死者として1名。他は重軽傷者という結果となった。

 

 神薙ユウは奇跡的に、被弾0という、ひいては人外染みた戦績で帰還。いきなり高所へ行った事による体調不良もなく、安静期間0という驚異の記録を残す。本当にただの人間なのだろうか。

 

 ソーマ・シックザール及びアリサ・イリーニチナ・アミエーラは被弾こそあれど、軽傷。

 最も、過度な疲れにより安静期間は1日であった。

 

 藤木コウタ及び遠距離型防衛班は、疲労困憊とオラクル不足――生体オラクルまでをも使い、撃ち続けた事で入院。期間は1週間だった。

 

 大森タツミら近接型も同じく疲労困憊。期間は5日間。

 

 こうしてあげると、どれだけ神薙ユウが異常かわかるだろうか。

 

 最後に、雨宮リンドウと橘サクヤ。

 

 雨宮リンドウは半月の間集中治療室でオラクル細胞除去手術を受け、右腕(・・)右目(・・)にアラガミ化を残しながらも生還。右腕を覆う篭手と、右目を覆う仮面をつけることでソレを隠している。

 

 橘サクヤは他人の神機を扱ったことにより、検査を受けるも異常なし。安静期間と検査期間を6日取り、その後新型神機へと適合が認められ、ロングブレードスナイパーシールドを持つ極東第3の新型神機使いとなった。

 

 その2か月後に2人は結婚するのだが、それは別の話だろう。

 名付け親が神薙ユウになるのも、別の話だ。

 

 ペイラー・榊や楠リッカの昇進など、細々とした話もあるが、語らずとも好いだろう。

 

 

 以上の事柄は極東支部極秘事項扱いとなり、極一部のみをフェンリル本局へ報告し、この一件は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイジス島。天蓋部分。

 

 神薙ユウによって斬り伏せられたサマエルが、黒く地面へと消えて行った場所だ。

 

 本来拡散するはずのオラクル細胞は、しかしゆるゆると集まり、形成を行う。

 

「キィ……」

 

 

 

 

 

 

 

 赤い蛇は、未だ死せず。

 




無印及びバースト篇は、これでおわりです。

次は2、レイジバーストとなります。

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