【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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最終決戦です!


Beak a crossbil

 蝗害という物を、見た事があるだろうか。

 

 現代日本及び大抵の国では殺虫剤が普及した事によって起きる事そのものが稀であるが、アフリカ諸国等、国土が広く駆虫の難しい地域においては、現在も局地的に大きな被害を出している。それが蝗害というものである。

 一度に大量発生した飛蝗(バッタ)は群れを為し、近隣の水稲や作物畑、草木や本など、植物由来のものをすべて食べ尽くしていく。それも、短時間のうちに、だ。

 被害地域での食物生産は非常に困難なものとなり、結果として人間の食糧不足、ひいては飢饉を起こす災害である。

 また、増えに増えた飛蝗は卵を産み、それが翌年に孵って大量に発生するという悪循環を生むために、蝗害は数年続く事が多い。

 

 さて、先人という物は、人類の手に及ばない災害を神格化したがるものだ。雷、山火事、地震、台風など、科学的に解明されるまでは神や悪魔の起こしている物、またはそれ自身が神や悪魔であると考え、畏れてきた。

 

 勿論、蝗害とて例外ではない。

 

 紀元1世紀に描かれたとされる『ヨハネの黙示録』。それに登場する奈落の王は、空を黒く覆い尽くすほどの飛蝗の群れを『天使』として引き連れ、人類に死さえ許さない5ヶ月間の苦しみを与えるとされている。

 

 

 その奈落の王の名こそ、『アバドン』というのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『防衛班! すぐにアラガミ装甲壁前へ集結してください! 5分……いえ、3分後に到達します!!』

 

 ヘリで各地を見回っていた気象観測班からの入電。言葉で説明するよりも速いと、竹田ヒバリの手元の端末へ送られてきた観測情報。それはいつも通りの極東周辺の映像だった。そこに、無数の小さい点が散りばめられていなければ。

 マップアイコンではなく、実際に撮られている映像に映る黒い点。10や20ではない。100、200、1000でも済まないかもしれない。数える事が億劫になるほどの黒点が、ある一点を目指して同心円状に移動している。

 

 ――そこにあるであろう、障害物を全て無視して。

 

 

 気象観測班の一機が望遠レンズを使い、その点をズームに映す。

 赤黒い体、真赤な目(・・・・)、大きく開いたギザギザの口。

 

 通常種のアバドンだ。

 

『2分後に、超多量のアバドンが外部居住区に到達します!! 全ゴッドイーターは、外部居住区外側のアラガミ装甲へと集結してください!』

 

 望遠レンズに映るアバドンは、大岩(・・)だろうと()だろうと無視して一直線に突き進んできている。

 ――穴を穿って。

 

 このまま外部居住区へと到達してしまえば、どうなってしまうのか。

 竹田ヒバリの脳裏に最悪の事態が思い浮かぶ。

 

 最も信頼できる第一部隊はエイジス島へ未知のアラガミの討伐へ行ってしまっている。

 自分にできる事は、ただ無事を願うのみ。

 いつだって彼らを送り出すだけの自分を悔いてきたが、今日はそれが何倍もの悔やみとなって襲いかかってきた。

 

『ヒバリちゃん! 今はオペレーターに集中してくれ! どの方角が一番早く着くかわかるだけで助けになるから! ヒバリちゃんはヒバリちゃんにできる事をやってくれ!』

 

 大森タツミの声がインカムから聞こえる。

 そうだ、自分がサポートすらをも投げてしまえば、彼らは周りを把握できなくなる。

 一部の隙も出さぬよう、全力を以て対応しなければいけない。

 

『タツミさん……ありがとうございます。

 一番近いのは、北東付近! 第2部隊です!』

 

 激戦となる。

 だからどうか、皆無事に帰って来て欲しい。

 

 そう心の中で願い、竹田ヒバリはすぐに次の情報を分析し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウタ、いいよ。行ってきて。

 お母さんと妹さん、守るんでしょ?」

 

 エイジス島・地下・昇降機前。

 これが最後の決戦だと臨んだそこで聞こえた、外部居住区へと集結しつつあるアラガミの報せに、コウタの足が止まった。

 

「で、でも……俺は、みんなと……ッ!」

「……ふん……クソ親父も……ノヴァも……俺達だけで十分だ……」

「じゃあ言い方を変えようか。

 コウタ、防衛班のみんなの実力を信頼していないわけじゃないけれど……人手が足りないんだ。応援に行ってくれるかい? 第一部隊の代表として」

 

 そんな言葉遊びに騙されるほどコウタは幼稚ではない。

 幼稚ではないが、その言葉に乗らなければならない理由がコウタにはある。

 

 終末捕食を起こされれば、母と妹が巻き込まれて死ぬ。それを止める為にやってきた。

 だが、支部長やノヴァとの戦闘中に母と妹がアラガミに殺されてしまえば、何の意味もないのだ。それでは、本末転倒だ。

 

「時間は無いよ、コウタ。迷ってる暇なんかない。あと2分で全てが変わるかもしれないんだ。安心して、僕は……僕らは負けないよ。勿論コウタも。だろう?」

「……ッ!! く……うぅ……うぅぅぅぅうううう!

 あぁ、ごめん! 俺行くよ! 母さんと妹を、外部居住区のみんなをアラガミから守ってくる!!」

 

 返事を待つこともせず、来た道を全速で駆け戻っていくコウタ。見送るソーマとユウの瞳は、どこか我が子を見守るようなものであった。

 

「さて、ソーマ。

 中にアリサとサクヤさんがいる。行こうか」

「……あぁ……」

 

 

 第一部隊は1人欠け、エイジス島へと集う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナンダァ……コイツはぁ……?」

 

 エイジスへと着いて早々目に入るノヴァの母体。

 逆さの女のようなソレ。確か設定では、アイーシャ・ゴーシュの姿と似ているんだっけか。新星(ノヴァ)の子供が神の雫(ソーマ)とは、中々皮肉が効いている。

 

 その母体を見ても雨宮リンドウは攻撃をくわえようとしたりしない。ひとまずの不安は解消できたか。

 問題はこっちだ。

 

「呼んでる……そこに……いけばいいんだね……?」

 

 流暢も流暢。ゲーム終盤よりも話せているんじゃないかと思う程の喋り方で、ぼう……とノヴァの母体、今は薄暗いコア部分を見つめるシオ。これは俺が連れて行ってやればいいのか?

 

『あぁ……なんということだろう。

 特異点が自ら来てくれるとは!! さながら君たちは、特異点を護る騎士と言ったところか?』

 

 誰がボルグ・カムランか。

 

 この仰々しいどこか芝居がかった声は、ヨハネス・フォン・シックザールか。

 どこに――って、おお。

 ウイーンと音を立てて、リフトが上がってきた。その下部についているのが、アルダノーヴァか。『両性具有の(アルダー)ノヴァ』ね……。 そのまんまだな。

 

「アァァァアアア……お前は……オマエガアアアアア!!」

「なに!? 人語を喋るアラガミだと!? いや、この声は……まさか!?」

 

 え、声とかわかんの?

 

 大分……というか多分もう9割くらいアラガミ化して、声帯も完全に変わってると思うんだが……。

 

 ん? 機械の駆動音?

 

 バシュン、と音がして、昇降機の扉が開く。

 出てきたのは……。

 

 うげぇ!? 第一部隊!? なんで間に合ってんの!? イエローがいないみたいだが……。

 

「リンドウ! お願い、戻ってきて!!」

 

「アアァァアアァァアアアアアアア!! クラッテヤルヨォォォオオオ!!」

 

 エイジス島見て戻っていた理性が完全に吹っ飛んだな。

 パク、とシオを咥える。雨宮リンドウの攻撃がノヴァの母体に届きそうになったら逸らすが、とりあえずは様子見だ。

 アルダノーヴァを雨宮リンドウか第一部隊が殺すも良し、雨宮リンドウをアルダノーヴァか第一部隊が殺すも良し。第一部隊をアルダノーヴァか雨宮リンドウが殺すも良しと。

 

 どう転んでもメリットしかない。

 

 とりあえずシオをノヴァの所へ届けておくか。

 

「チィッ……予定変更だが……ふっ!」

 

 お、ヨハネス・フォン・シックザールがアルダノーヴァに入った。上から見るとよくわかるが、あれ本当に喰われてるんだな。まぁ普通の人間だし当たり前か。

 

「クソ親父! 何をしようとしている……!」

 

「ソーマ……残念だが、時間切れのようだ。第一部隊の諸君にも、ここで散ってもらおう!」

 

「オオオオオオアアアアアアアア!!」

 

「リンドウ! お願い、目を覚まして!!」

 

 

 混沌である。

 

 さて、ゆるーりとシオを……うぉっ!?

 

 風切り音。それを察知したとほぼ同時に、俺の真横を狙撃弾が掠める。

 橘サクヤ……違う、神薙ユウか!

 

「キィ……」

 

 

「その少女と君がどういう関係なのかは知らないけど……その母体に特異点を入れられたら困るんだ。君の相手は僕がするよ」

 

 スナイパーの銃口を俺へと一直線に向け、神薙ユウが宣言する。母体を傷つけないように戦わないといけねーってのに……!

 

「俺はクソ親父と……アイツを止める」

 

 ソーマ・シックザールがバスターを強く握りしめる。

 

「ソーマ、加勢するわ。リンドウの目を覚まさないと……!」

 

 橘サクヤがスナイパーを、愛する者へと向ける。

 

「リーダー、任せました。リンドウさん……あの時の借りは、必ず返します!」

 

 後悔を糧に、アリサ・イリーニチナ・アミエーラが神機に思いを込める。

 

 

 

 

 ここに、全ての戦いの火ぶたが切って落とされた。

 




サブタイは『イスカの嘴』


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