【完結】混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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ちょっぴり時間が進んでるんじゃ


舞え、踊れ、そして散れ

 

「エイジス島……特務……アーク計画……リンドウ、あなたは一体何をしていたの……?」

 

 極東支部・アナグラ。ベテラン区画の一室。橘サクヤの部屋で、その部屋の主である橘サクヤは一つのデータを閲覧していた。

 

 ふと思いついた配給缶ビール。その底に張り付いていたデータチップ。

 

 そのデータチップの内容は、到底サクヤには想定し得なかったものばかり。愛する人である雨宮リンドウが単独で特務というものを受けていた事、そのリンドウが調べ上げたアーク計画の全貌。極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールの陰謀。

 調べれば調べるほど、嫌な符合が合致していく。

 

 事柄を照らし合わせて行き、サクヤが辿り着いた事実。

 

 ――それは、支部長による雨宮リンドウの暗殺だった。

 

「嘘……でしょ……?」

 

 カタカタと音を立てて端末の――任務履歴を検索する。

 あの日。ミッション『蒼穹の月』の任務だ。

 

 だが。

 

「ない……あの日の記録が一切ない……!」

 

 自身の辿り着いた事実が真実味を帯びてくる。

 

 即ち、味方の裏切り。

 

「誰かに……ッ!」

 

 ダメだ。

 支部長が裏切り者だとして。

 誰が信用できるだろうか。

 

 ツバキさんは……私情では動いてくれないだろう。

 

 ソーマ? 息子だ。隊長? 支部長によく呼ばれているではないか。コウタはまだ頼りにできない。防衛班も同じだ。

 サカキ博士なら――、いや、彼は支部長の旧来の友人のはず。信用は――できない。なんか胡散臭いし。

 

 ならば、この状況でただ一人、あの事件の当事者(・・・・・・・)で、且つ被害者である彼女しかいない。

 

 行動は速い方が良い。

 データチップを閲覧したという記録を消し、データチップそのものは懐へ仕舞い込む。

 

 そうして出た自室の先。昇降機の前。

 

 こちらを背に……つまり壁の方――自販機がある方向――へと何かを呟いている隊長の姿が見えた。

 ドクン、と心臓が跳ねる。

 

 まさか、通信機で支部長に連絡を――?

 

 1歩、2歩と隊長に近づく。足音を立てない術は、スナイパーとして自信がある。

 3歩、4歩。まだ隊長は話している。ちらと聞こえる語尾は、敬語ではない。

 5歩、6歩目。死角が無くなる。つまり、隊長の真後ろだ。

 

 

 

 果たして、隊長は通信機を身に着けていなかった。

 だというのに、自販機に向かって……いや、視線はその少し前だ。その虚空に向かって何かを呟いている。

 

「ひ……」

 

 悲鳴が出そうになる。

 

 その隊長が、ゆっくりと……こちらを向いた。

 

「ん……あぁ。サクヤさんですか。どうしたんですか? 汗、びっしょりですよ。まだ部屋で寝ていた方がいいんじゃ……」

 

 いつも通りの、いや、少し心配の色が見える声。リンドウと同じく人を安心させるようなその声は、今だけは恐ろしかった。

 

「い、いえ……大丈夫よ。隊長こそ……ここで何を?」

 

 聞かない方が良かったはずだ。

 藪蛇。そんな単語が脳裏に浮かぶ。

 

「僕は……あー、なるほどね。

 僕はお話ししていただけですよ。彼の軌跡と」

 

 嘯くような言い回し。

 やっぱり、彼も支部長の……?

 

 一度浮かんだ疑念はそう簡単には消えない。

 

 サクヤは逃げるように、ちょっと用事があるからと言って、昇降機へ入った。

 

 

 

「ふぅん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず今の俺達の現状を話そうと思う。

 

 まず、雨宮リンドウの侵食はかなり進んでいる。

 見た目で言えば、ほぼ半身。黒い羽根をまき散らすハンニバルそのものだ。

 更に、理性はほとんどアラガミに近い。シオや俺に対しては会話を試みる――シオとも会話になることが或る――が、アラガミを前にすると「喰らう」か「死ね」くらいしか言わなくなった。

 

 初めはシールド等を使っていたが、今の戦い方はハンニバルのソレだ。未だ人間の部分を残しているからか体が動きについていけていないようで、ヘマをしそうになったら俺が助けるという繰り返しである。正直顔の半分がハンニバル化しているとはいえ、その小さい口からファイアブレスや壊劫球を出すのはどうかと思う。

 

 あと、剣乱舞の時の炎の剣を神機のように扱うので、全体的な攻撃力が向上し狩りが楽になった。

 

 ちなみに捕食は口で行っている。

 

 

 次にシオだが、こちらは戦闘面ではあまり変わりない。

 接触と同時に捕食できるというステキ性能を持つ両腕の触手を振り回し、強いて言うなら未来でのサイズのような攻撃方法と取っている。

 学習能力が高く、一度戦った相手の攻撃パターン等すべて記憶できるようで、最近は俺の助けが無くても被弾はほとんどない。

 また、俺の速さにもある程度順応してきたようで、今はまだ『たまに』程度だが、俺の最速の移動を目で追うことがあるようだ。正直恐ろしい。

 

 それで性格面というか精神面だが、こちらの成長スピードは戦闘面と比べ物にならない。

 比べ物にならない程、速い。

 

 雨宮リンドウの話す単語なんて少ないはずなのに、自身で考え、組合せ、それらしい単語を造りだすという所業をやってのける。その単語を雨宮リンドウが逐一訂正するので、カタコトさを除けば普通に喋る事が出来る。先程の相手のパターンを学習する、もそうなのだが、観察眼に長けているらしい。

 だというのに俺や雨宮リンドウの存在は疑問にならないらしく、まるで一緒にいる事が当たり前、というような態度で来るので調子が狂う。雨宮リンドウは吝かでないようだが、俺は違う。

 

 そういう情はいらないのだ。もしこれでノヴァのコアとなり地球を覆い尽くすときに、雨宮リンドウや俺に遠慮などされたら堪ったものではない。

 尤も、いらないと俺が思ったところでシオは勝手にその感情を育てて行ってしまうのだが。

 

 

 最後に俺だが、これと言って大きく変わった部分は無い。

 

 最高速度が少し上がった気がするとか、体色が所謂静脈色から動脈色になったとか、聞き取れる音の範囲が半径5kmくらいになったとか、そんな些細な程度だ。

 

 精神面は勿論変わらないし――相変わらず雨宮リンドウを殺せない――戦闘方法も変わっていない。

 

 そもそもアラガミが変異していくのは偏食傾向を強めるからだ。何も食べていない俺が変わるはずがないだろう。

 

「ゴハンノー! ジカンダゾー! サマエルーリンドウー!」

 

「ん……アァ……喰らいにいくかァ……」

 

「キィ……」

 

 食事の時間だ。

 一応時期的にそろそろエイジス計画……いや、アーク計画を橘サクヤが知る頃だと思う。シオがいないからな。読めないのは神薙ユウだが……単独じゃどうしようもないだろう。

 

 俺のすべきことは、この2人を神機使い達と鉢合わせないようにすることと、この2人を護りきる事。出来る事ならとっととアーク計画を進めてくれ、ヨハネス・シックザール。

 

 

 ……あ、特異点が見つからなくて焦ってたりして。

 




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