【完結】混迷を呼ぶ者 作:飯妃旅立
まさかだった。
贖罪の街の中央部分。大きく穴の開いた教会へとつながる通路が崩れてしまっている。
アリサ・イリーニチナ・アミエーラが撃ち崩した痕だ。
「おーぅ?」
やってしまった。
ミッション名『蒼穹の月』を見逃してしまった。
ゲームをやっていた者として見たかった、というわけではない。
あの瞬間だけが確実に雨宮リンドウを殺しきることができるチャンスなのだ。
あの時ディアウス・ピターやプリティヴィ・マータを倒しきれたのかはわからないが、手傷を負ってアラガミ化寸前までいったということは重傷を負うにまで至っていたはず。
そこを狙ってやれば確実に殺せたのに。
BURSTの追加エピソードやリザレクションのムービーから、ハンニバル化した雨宮リンドウにしっかりと意識があることが分かっている。神機使いを襲ってしまうことに苦悩を抱いていたようだが、その前のコンゴウ2匹をあっさりと潰したことを忘れてはならない。
少なくとも、今のシオと俺では殺す事は敵わないだろう。
問題はどれほどの時間が経っているか、だ。
ヒトの姿を保ったままの、所謂侵食リンドウと呼ばれる状態であるならば、まだ可能性はある。その状態でも異常なまでに強いのだが、ハンニバルの身体能力を持たれるよりはマシだ。
内面世界とはいえ、あの狭い空間で神薙ユウと共にハンニバル侵食種を倒すミッションの時、雨宮リンドウは足手まといだった。
無印のAIが悪いのもあるのだろうが、あの程度であるのならば俺にもチャンスがある。
「おーぅ! おー! おーぅ!」
あれ? そもそもシオが再度雨宮リンドウを狙ったディアウス・ピターを引かせたり、右手にアーティフィシャルCNC機能を与えたりしなければ即アラガミ化するんだっけ?
その辺の時系列は、ぶっちゃけていえば後付である故に矛盾が生じていて考察が飛び交っていたような気がする。
「おー、おー! おー、おー!」
さっきから咥えてるシオが煩い。
なんだ? 何か見つけたのか?
シオの指差す方向を見てみる。
そこでは巨大な雷球が膨張していた。
ディアウス・ピターか!
ラッキーだ。雨宮リンドウを追っている最中かもしれない。
シオがディアウス・ピターを引かせない事で雨宮リンドウは簡単に死んでくれるかもしれないが、念のため最期を見届けるべきだろう。
無印のディアウス・ピターは弱いし。リザレクションでもただのクロムガウェインなんだけど。
シオがそっちへ行きたがっているのは、ディアウス・ピターが高位存在だからかな?
そういえばヴァジュラ系列はまだ喰わせてやれてなかったし、丁度いい。
シオを咥えたまま雷球の方へ進み始めると、シオはきゃっきゃと楽しそうに笑った。
体が重い。
視界が狭い。
腹が減って仕方がない。
「なんだぁ……?」
アイツらは無事に逃げられただろうか。
アイツら……あの、新人共。
名前は……なんだっけな。
「ここは……アァ……どこだ……」
見覚えはあるが、思い出せない。
足を掴んでくる白い土が煩わしい。
腹が減った。
「グルルルルル」
「アァ……? 喰われにきたのかァ……?」
こちらを狙う黒い獣。
腹が減った。
あいつを喰らおう。
「喰らってやる……喰らってやるヨォオオオオオ!」
神機……なんか勝手が違うが、まぁいい。
食えるんなら、手段なんかどうだっていい。
動きは体に任せる。
捕食。
捕食。捕食。
捕食。捕食。捕食。
捕食。捕食。捕食。捕食。
反吐が出るほど不味いが、喰えない空腹感よりはマシだ。
捕食するたびに満たされていく感覚がある。
理性が少しだけ戻っていく。
視界が少しだけ広がっていく。
その視界の隅に、真白の童女とヒトダマが降り立った。
じっと、こちらを見ている。
「あぁ……? 邪魔するならてめぇらも喰うぞ……?」
真白の童女も、赤いヒトダマも動じない。
後ろで喚いてる猫が五月蠅い。とっとと喰らっちまおう。
「おー!」
真白の童女が猫に向かって走り出した。
面倒な……だが、
猫の前足をシールドで防ぐ。
「てめぇ……死にたいのか!! とっとと逃げろ!」
真白の童女は逃げない。
どころか、右手を猫に向けて――捕食を行った。
なんだ、こいつは。
俺と同じなのか?
猫が雷球を出そうとする。
それに構わず捕食を行う童女。
「チィッ!」
その襤褸切れのような服の襟首を掴んで投げる。それを空中でキャッチする、どこか見覚えのある赤いヒトダマ。
「おー! おー! おーおーぅ!」
「キィ……」
こいつらには食欲がわかねぇ。
そういえば、思考がしっかりできるほどに空腹感も収まってきてるな。
「邪魔しねぇんなら……まずあの猫を倒すぞ……!」
こうして、奇妙な1人と1人と1匹の共闘が始まった。
ディアウス・ピターの居る付近にシオと共に降り立つと、声がかけられた。
「あぁ……? 邪魔するならてめぇらも喰らうぞ……?」
雨宮リンドウだ。
雨宮リンドウは未だ人の姿を保っていた。胡乱げな瞳や体を引きずっていることから侵食状況はかなりのものだと思うのだが、それでも会話できるくらいの理性はあるのか。
殺してしまうべきだ。
だが。
「おー!」
シオがディアウス・ピターに向かって走り出してしまった。
食べた事のない味だからってはしゃぐんじゃねぇよ!
そのシオに向かって、ディアウス・ピターが前足を振り下ろす。
こいつもシオを大切なコアだとわからないクチか! 面倒な!
俺が最速でシオを咥え去る前に、その攻撃を雨宮リンドウがシールドで防ぎ切った。
ん?
「てめぇ……死にたいのか!! とっとと逃げろ!」
これは……シオをゴッドイーターだと誤認しているのか?
原作でも内なる声ではあったが、大森タツミや神薙ユウにむかってそう叫んでいることがあった。
シオは一見すれば人の姿だ。明滅するような視界や思考では、アラガミと判断できなくてもしかたがない。
「おー!」
ただ、シオは守られたことなど意にも介さずに捕食を始める。
どんだけだよ……あぁ、でも美味しそうに食べるなぁ。
「グルルルウウウアアアアア!」
それを煩わしく思ったのか、ディアウス・ピターが前足の前付近で巨大な雷球を発生させる。それに構わず捕食を続けるシオ。
「チィッ!」
見かねた雨宮リンドウが、シオの襟首を掴んで雷球の範囲外へと投げてくれた。それを空中でキャッチする。投げられたのが楽しかったのか、本人は満面の笑みだ。
「おー! おー! おーおーぅ!」
「キィ……」
おかしい。
いつもは人類を殺せと鬩ぎたててくる地球が、今だけは静かだ。
雨宮リンドウを殺そうという気持ちが湧きあがってこない。
何故だ?
雨宮リンドウは、害だろう? 現在においても、未来においても。
何か、別の――。
「邪魔しねぇんなら……まずあの猫を倒すぞ……!」
え、なに、共闘する流れなの?
呆然としたせいでシオを離してしまう。
華麗に着地し、ディアウス・ピターへと向かっていくシオ。
あぁ、もう!
とりあえず父猫を倒してから考える!
主人公の地の分、基本的に相手をフルネームで呼ぶんですが、アリサ・イリーニチアナ・アミエーラって何度も続くの読む側として邪魔くさいですかね?
2016/6/27
アリサ・イリーニチナ・アミエーラでしたね!!!!! 全編修正しました!!!!!
あとサマエルという名称がまるで生きていない!!(作者も使ってない)