【完結】混迷を呼ぶ者 作:飯妃旅立
シオは気まぐれだ。
気まぐれというより、食欲に突き動かされていると言った方が良いのだろうか。
より上位の存在を、より高等な存在を。そう求める偏食傾向に対して、シオ1人ではその高等な存在に勝つ事が出来ない。
だからおこぼれを――主に神機使い達の――もらうために、あっちへいったりこっちへいったりしている。
初めて会った時のように、人間の墓地を食い荒らすことはほとんど無くなった。
代わりに様々なアラガミを食している。
オウガテイルやコクーンメイデン、ザイゴートと言った所謂雑魚は非常食で、最近は専らコンゴウやグボログボロを食すことが多い。シユウ種だけは食べたがらないが。
しかし、コンゴウやグボログボロ程度では高等な存在足り得ないのか、いつも腹を空かせているようだった。
しかたない、か。
これで神機使い達に見つかり、捕獲でもされたら元も子もない。
心臓を生かすためだ、髪の毛の一本や二本、自ら抜けてくれるだろう。
抜けてくれないなら、抜くまでだ。
ボルグ・カムランの盾に向かって最速の突進をする。俺の質量*速さであるこの突進は、破砕攻撃扱いだ。その狙いは正確に、盾をぶち抜く。
一撃で結合崩壊を起こす盾。その肉を求め、シオが右腕を触手状に伸ばして攻撃を行う。ゲームでやっていた神機の真似事ではない。ただ捕食する事に特化した触手。
童女の腕から先がグロテスクともとれる触手に変化する様は圧巻。シオがそうして捕食を行っている間にも、前足、口、尻尾を破壊していく。破壊箇所が無くなったらあとは星形を描くように突進しまくるだけだ。正面からぶち当たることを考えていない、撫でるような軌道は切断攻撃のような効果さえ生む。
悲痛な声を上げて倒れるボルグ・カムラン。シオは左腕をも触手に変えると、そのまま両腕と口による捕食を行い始めた。
ぐちゃぐちゃ、びちゃびちゃという音が響き渡る。
硬質なボルグ・カムランの身体もオラクル細胞の結合が解ければただの肉同然。シオにおいしくいただかれることだろう。
「おー!」
ん? なんだ?
いつのまにかこちらに近づいていたシオが右腕を差し出してきた。既に両腕は人間の形に戻っている。
その手に乗っていた物は、何とも形容しがたい肉。ボルグ・カムランのオラクル細胞か。
俺にくれる、ってことか? 生憎食欲は無いんだが……。
まぁ、くれるってんなら貰っておこう。食欲が無くても食えるだろ、同じアラガミだし。
「キィ……」
大きな口でシオの腕ごとパクり。
その行為に驚きもせず、腕を引き抜こうとしもしないシオに呆れつつ、オラクル細胞の肉だけを喰らってシオの腕を離す。唾液は出ないようで、シオの腕は濡れていない。
「おー!」
とても嬉しそうだ。
なんだろう、一緒に戦っている犬に餌付けでもしている気分なのかもしれない。
「お? おーう!」
またアラガミを見つけたようだ。
視線の先にいるのは……ん? ハンニバルか?
白い体躯だから雨宮リンドウではないようだが……そういえばハンニバルって何度も再生するんだよな。
それって、おいしいよなぁ?
ガントレットに体当たりをする。2撃、3撃目で破砕。
頭を壊す。OK、これで大分楽になった。
逆鱗を壊さないようにしないと。シオに当たりかねん。
俺はシオを殺してはいけないと、本能で思えているのだが、どうやら他のアラガミは違うらしい。普通にシオを攻撃するし、隙あらば喰らおうとする奴までいる。
ハンニバルもその類いだ。
こちらを視認したハンニバルは、俺よりも先にシオを狙って攻撃してきた。咄嗟にウォーンフラッグの襟首を咥えて屋根の上――言い忘れていたがここは鎮魂の廃寺だ――に逃がしたからいいものの、終末捕食のための大事なコアに何かあったらどうする気なのか。
シオはシオでまだ食べたことない味なのか、興味津々で捕食をしようとするから油断が出来ない。必要以上に近づきすぎるのだ。
ハンニバルを攻撃し、シオを逃がす。これを同時処理でやらなければいけない。とっとと倒れてくれりゃいいものを――。
『偵察班より入電! 付近に大型アラガミがいます! 何者かと交戦中……?』
げ、近くにゴッドイーターがいやがるッ!?
ハンニバルなんてどうでもいい。
捕食を楽しんでいるシオの襟首を咥えて、空へと飛びあがる。先程の回避とは違う飛行にシオがはしゃぐ。危ないから暴れんなっての!
音速まで出すとシオの身体がひしゃげかねないので、3割ほどのスピードで飛ぶ。眼下に見える神機使いは……ソーマ・シックザールに神薙ユウ、それに……橘サクヤか。
ん? こいつらだけ? そういえばアリサ・イリーニチナ・アミエーラを全く見ていないな。そろそろ加入時期だと踏んでいたんだが……この班の隊長である雨宮リンドウもいないし。
……まさかね。
主人公の聴力はどんどんあがっています。速力もどんどんあがっています。魅力はどんどん下がっています。