俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。 作:nowson
―総武高校体育館―
海浜と行われている練習試合。
総武高のサーブから始まった試合は、八幡のサーブで崩し決める理想的な展開。
続く二本目も、八幡のジャンプサーブサーブで崩し、今度は真ん中を使ったCクイックを決めブレイクポイントを取る。
※ブレイクポイント
要は連続ポイントの事。これ稼ぐか稼がれないと始まらない。
総武高校 2 ― 0 海浜高校
「比企谷、次もナイサー頼むぞ」
稲村が八幡にボールを放り声をかける。
「ああ……次、ちょっと試してみたい事がある、もしかしたら失敗するかもしらねぇが、いいか?」
「失敗?何をするつもりですか?」
後衛にいる長谷が問う。
「遅延取られるから説明いいよ!キャプテンが許可します」
「すまん」
(きっと比企谷は布石を敷く気だな)
かつて八幡と試合をした七沢だからこそ分かる事。
八幡の敷く布石。
試合中でないと分からない状況の把握の為、罠を張る為、自分の手札を増やす為。
数セットという長いようで短い時間に欲しい情報と状況の把握を行い、ここぞという場面で使う、それが彼のやり方の一つ。
レギュラー不在でブレイクポイントを取った今が、欲しい情報を得て、罠を張るチャンス。
八幡はボールを数回床に叩きつけながら、相手コートをジッと見据える。
(小菅は中学時代はオーバーが苦手だった、前に動画で見た時はアンダーばかり、レギュラーが入ってからじゃ確認するのはリスクが高い、試すなら今しかない)
笛が鳴りルーティンを入れ無回転のトスと軽い助走。
ジャンプフローターサーブを相手リベロ、小菅のいる方へ打つ。
「「「今度はジャンフロ!?」」」
OB達が、またまたビックリ。
「オーライ!」ボッ
小菅は、変化前にジャンフロをとらえるべく前にステップし頭上にきたボールを後ろに逸らさないよう、しっかり指をつくり両手でとらえトス、きっちりセッターに返すAパスを上げる。
(軽いドリブルぽいがサーブカットだから関係ない、にしても、きっちり上げたな。得意ではないけど練習して何とか、ってとこだな)
打った八幡は素早くポジションに戻る。
※ドリブル
ダブルコンタクトの別名、サーブカットやブロックなどの特殊な場合を除いてボールに二回触れると反則になる。
海浜のミドルはAクイックの助走から跳び、飯山もそれに合わせ跳ぶ……が
「チッ!」
(かかった!)
Aクイックは囮、レフトが回り込みセミを打つ体制に入る。
「騙されても二回跳ーぶ!!」
某赤髪の丸坊主のような跳躍で直ぐに二度跳びをしブロックに入る。
(嘘だろ!?けど躱せる!)
相手レフトは寸前で指を巻き込むように打ちコースを変えるが
(狙い通り!)
ブロックのコースから予測した七沢がきっちりAパスを返す。
「ナイスだ」
絶好の好機、試したかった事のもう一つが使える。
ジャンプトスではなく普通の態勢で構える、頭上に来たボール、かつて何度も繰り返した動作と同じように腰を軽く下げ、肘を軽く締め、やや窮屈な状態になる。
(何をしてくる?)
相手ミドルは八幡の一挙手一投足を逃さないよう駆け引きに備え集中する。
八幡は頭上に来たボールを、いつものように体のばねを使い綺麗なトス……を上げずにキープ。
(ホールディング!?)
※ホールディング
ボールを長く触って保持してしまうと取られる反則、汗で手が濡れていて、ボールをトスする際に滑ってドリブルをとられてしまうケースと同じく、セッターが取られやすい反則でもあります。
「しまっ!」
しかし笛は鳴らない、タイミングをずらされた海浜のミドルはタイミングがずれ飯山にAクイックを決められる。
ピィィィィ!
総武高校 3 ― 0 海浜高校
「うまく線引けたみたいだね」
七沢が八幡に声を掛ける。
「まあな、なんとか上手くいった」
八幡はそう返すと口元をわずかにニヤケさせ、再びエンドラインへと戻った。
バレーボール、ラグビー、バスケットボール、野球、サッカー等、スポーツという競技である以上、必ず付きまとうのがルールという名の制約。
その制約があるからこそ、そのスポーツの特色が色濃く出る。
ボールを相手にぶつけてはいけない、ボールを持って歩いてはいけない、ボールを前に投げてはいけない、ボールを手で持ってはいけない。
バレーボールにおいて特徴的な反則となると、このホールディングが上げられる。
ボールを掴む事はおろか、長く保持してはいけないという制約、それによりボールを自コートに落としてはいけないという競技の特性上、一瞬の勝負と駆け引きが生まれる。
セッターは、相手のフォーメーションはどうか?誰に上げるか?どうやってブロックを振るか?他にも様々な事を考え
ブロッカーは誰にスパイクが上がるか?、セッターはどこを向いているか?セッターに負けじと考える。
一瞬の中の駆け引き、それがスパイクとブロック。
八幡が突いたのはまさにそこだった。
何も駆け引きする相手が対戦相手だけとは限らない。判断をする審判が人である以上、基準が違い、当然ミスもある。
八幡は海浜との駆け引きと同時に審判とも駆け引きをした。
ボールをホールディングギリギリにキープしてのトス。
反則を取られたら、そこがこの審判の判断基準だからキープはもう少し浅くしよう。
取られなかったら、これを基準にトスワークの一つに組み入れよう。
そして結果は後者だった、審判は今のを取らなかった。
なら次に同じキープをしても審判はとらないだろう。
これで自チームのアタッカーが遅れた時、若干の余裕が欲しい時、こちらが余裕があるという事は後の場面に間違いなく生きてくる。
八幡はそれを頭に入れ、考えていたパターンの組み立てを合わせ、自分の手札に加えた。
※これはあくまでも一例です。
自分がその競技で審判をする時は、試合前に基準を頭に入れ、一度その反則をとったら、それを判断基準にし、公平にするように努めます。
正直、判断基準がコロコロ変わる審判とか競技者側から見たらマジでなえます。
人である以上、ミスがあるそれは当たり前ですし明らかなジャッジミスなら改めるのもアリですが、グレーゾーンならあからさまに変える理由にはなりません、甘くとったら甘く、辛くとったら辛く行ってほしいもの。
ビール片手に野球中継を見て、緊迫した展開での駆け引きを満喫してる最中に、あからさまな可変ストライクゾーンとかやられて試合が崩れたりとか特に。
選手じゃなく審判が流れ変えるプレーしてんじゃねぇよと言ってしまいたくもなります。
「もしかして比企谷君線引いたのかしら?」
雪乃は先ほどの八幡のプレーの真意に気付く。
「多分だけどね、序盤でブレイクポイントをとってこっちが有利、早い段階で布石を敷いたんだろうね」
葉山もそれは感じ取ったのだろう雪乃の言葉に同意する。
「ブレイク?線?」
何の事?言葉の意味をいまいち把握できていない結衣。
「ブレイクは連続ポイントの事よ、そして今のプレーで彼は反則になるか、ならないか、ギリギリを攻めたのよ」
分かってない結衣にユキペディアさんが答える。
「それが何と関係あるの?」
「審判が人間である以上、反則か否かを決めるのは審判の裁量次第。秒数や回数を決められていない反則は最初の反則を基準にボーダーラインを決めたりするんだよ」
「そして審判は今のを反則と取らなかった。つまりあの程度なら反則にならないって線を引いたのよ」
「でもそれって何か卑怯な気が……」
「何馬鹿言ってんだし結衣。そんなのスポーツじゃ当たり前だし」
「俺らだって、審判がどのくらいの強さの当たりでファールとるか線引いたりするし当たり前だべ」
「???」
雪乃を除くと、この中で運動部未経験者は彼女だけ、いまいちわかってない様子。
ちなみに海老名さんとその近くにいる相模が別目線でメモをとりながら試合を見ている為、皆スルー中。
「まあ、結衣が言ってる事は、野球で言えばストライクゾーンギリギリを狙うのは卑怯って言ってるようなものだからね。審判がとらなかった以上、あれは卑怯じゃないさ。それにああいうプレーは一歩間違えば味方の士気を極端に下げる事につながるリスクもある、やる側も十分にリスクを背負っているのさ」
葉山はそう言うと、再びコートに目を向けた。
「何ですか監督?」
先ほど呼ばれた山北が監督の前に立つ。
「もしかして奴はお前と同じチームにいたセッターか?」
「はい、あいつは元チームメイトで正セッターだった奴です」
「何故今まで出てこなかった?」
「バレーを辞めたからです。現に3年ブランクがあるし、この試合限りだと言ってました」
「そうか」
その言葉を聞き、軽く目を閉じ何かを考える。
3年前の大会、八幡がバレーを辞めるきっかけになった大会。
海浜の監督は将来、活躍するであろう選手をスカウトする為、見に行っていた。
目当ては、すでに噂になっていた清川と山北。
共に1,2位を競うチームにいる二人のエース。
この大会も決勝は二人がそれぞれ所属するチームが勝ちあがってくる、そして下馬評通りその2チームが決勝で対戦した。
(俺があの試合を見て欲しがった選手は4人)
オポジットの山北、ウイングスパイカーの清川と七沢、そしてセッターの八幡。
清川と七沢に対角を組ませ、セッターに八幡、セッター対角のオポジットに山北。この4人を軸にチームを作り、ミドルとリベロを鍛え上げチームを仕上げる。
ミドルを鍛え、セッターの八幡を中心に連携と個の力を絡めたチームになれば、自分がやってきた中でも最高のチームが作れる。
(それを考えた時は胸が躍ったな)
先ずは山北と清川をチームに入れ、次の年には七沢と八幡を入れる事を決めた……だが、結果は彼の考えた通りに行かなかった。
山北は海浜に来たものの、清川と七沢はまさかの総武高校に進学、八幡はあれ以来試合で見ていない。
彼の目論見は外れる事となった。
(まさか、あいつまで総武高に行ってたのかよ……。インハイ予選の時に出てこなくて良かった事を喜ぶべきか、取れなかった事、敵として表れてしまった事を悔やむべきか)
閉じてた目を開け、総武高側のコートを見る。
(にしてもあの2番は何だ?あの顔も老けてるし。七沢以外にあんな奴もいたのか)
いずれにせよこれは想定外だ、監督は一つの決断をする。
「……もしかしたらこのセットの途中から後交代させるかもしれん、そのつもりでいろ」
「ハイ」
もしかしなくても交代する、山北はそのつもりで返事を返した。
総武高校 3 ― 1 海浜高校
ジャンプサーブでコーナーへと打ったもののラインを割ってしまいアウト。
「すまん」
「ブレイクとれたんだから上出来だ」
稲村がそれをフォローする。
「ナイサー!」
海浜のサーブ。
やや高めに入れに来たジャンプサーブ。
向かう先は、総武高のウィークポイントでもある後衛のミドル。
「あっ!」
長谷がレシーブをするもDパス。
だが、このパターンは何度もシミュレートしたパターン。
「稲村!」
七沢が素早くカバーに入りレフトのネット寄りに高いオープンを上げる。
稲村は普通の助走とはちがいコートの外側付近からの逆脚からの助走、基本とは違うやり方ではあるが彼独自のやり方で跳びトスに合わせる。
(こいつも高ぇ!!)
飯山には及ばないものの、高い身体能力から繰り出されるスパイクに舌を巻く。
「ワンチ!」
何とか触れ威力を弱め、自コートの仲間にフォローを呼ぶ。
「カバー!」
アウトコースへと逃げたボールをバックライトにいた選手がカバーに入り何とか拾いつなげる。
「チャンス!」
あれでは打ってこれない、そう判断し一歩下がり稲村は叫ぶと、次に備える。
(チャンスにさせるか!)
さらにカバーに入ったリベロの小菅が低いトスで相手コートの八幡に返す。
「チッ」
八幡がファーストタッチさせられる。
Aパスで上がったものの、これで八幡のセットアップは無くなった。
セッターの代わりに誰かがセットアップしなければならない場面。
『温水、お前に求めているのは二段目のトスだ』
『このチームのアタッカーは優秀だ、お前はそれを信じてそいつの打ちやすいトスを上げる事を意識すればいい』
(この場面は俺だ!)
「オーライ!」
温水は声を上げ、素早くセッターポジションに入る。
―月曜のミーティング―
「チャンスの際、俺がファーストタッチ取らされた時なんだが。温水、最初はレフトを呼びつつ、真ん中(ミドルブロッカー)を使ってくれ」
「それは、相手に守りの選択肢を増やさせるためですか?」
「ああ、二本目からはお前にセットアップ決めてもらうが、一回目はそれをやって欲しい」
「分かりました」
最初のポジション決めとローテの確認の際に決まっていたこと、それが自分のやるべき事と理解し温水は首を縦に振る。
「どうせならAパスならCって具合に一本目はあらかじめ決めてみないか?セッターじゃないから崩したつもりが速攻だから海浜は少なからず慌てるだろ」
「自分にできますかね?」
「出来る出来ないは練習してから決めてもいいだろ、男は度胸!なんでも試してみるもんだ!」
飯山が不安がってる温水の肩をバシバシ叩きながら励ます。
「よし、じゃあ明日の練習で温水とやる連携は、それをメインにしよう。温水のセットアップで連携となるとAとCに平行の組み合わせが多分一番使う事になるだろうしね」
これはアリだね、そう判断した七沢がホワイトボードにその作戦を追加した。
(ここは飯山先輩にCで……)
「トスくれ!」
稲村が自分にトスを呼ぶ。
「っ!!」
海浜ミドルの頭にはさっきのスパイクが頭に過る。
おまけに今のセットアップはウイングスパイカー、ブロッカーの意識は自然とレフトの稲村に向かう。
(……役者だなこいつ)
彼がやったのは自分にトスを要求した事じゃない、フェイントをかける為の声、稲村をみる八幡。
「レフト!」
意図を理解した温水もそれに乗り、叫ぶ。
ブロッカーの意識が完全にレフトの稲村に向く。
そして、実際に上がったのはCクイック、打ち合わせ通りに入って来た飯山が決める。
ピィィィィ!
「何ぃぃ!?」
ブロックを振られ思わず叫ぶ。
(これがトスで相手を振る感覚……)ブルッ
「ナイキーです!」
「ナイストス!」
飯山と温水がパァァン!!と音をならしたハイタッチを交わす。
総武高校 4 ― 1 海浜高校
ピィィィ!!!
海浜は早くもタイムアウトをとる。
「海浜は飲まれてるな」
ギャラリーで試合を眺めているOB達、コートの外から見てるからこそ分かる事、明らかに乱れている海浜のペースに気付く。
「大方、宗を何とかすれば大丈夫と踏んでたんだろうけど、読みが外れたんだろうな。おまけに今までと違う総武高の攻めに乱されて自分たちのペースで戦えていない」
「3年出すかな?」
「流石にまだ出さないと思うけど、このままペース掴めないならあり得るだろうな」
「すごいな、あいつら」
相手は控えとはいえ海浜、対してこっちは1,2年の6人だけのチーム。普通なら勝ち目の薄い試合のはずなのに実際は総武高が押している。
「ああ、ここまでとは思ってなかったっしょ、このまま行ったら勝てるんじゃねぇ?」
「いや、彼らはまだ控え、レギュラーが出てくるとどうなるか」
「大丈夫ですよ、先輩たちなら」
いろはがコートをニコニコし見ながら答える。
「そうだといいけどね」
陽乃はそのやり取りをどこかあざ笑うかのような笑みで呟いた。
―海浜ベンチ―
「お前ら優しいな、相手に胸貸してやってんのか?まさかと思うけど七沢さえ何とかすれば楽に勝てるとか思ってた奴いないよな?」
「「!!」」ギクッ
八幡を馬鹿にしていた二名が跳び上がる。
「正直に言うと、俺は思っていた。だが認識を改めなければならない。それはお前たちにもわかるな?」
はい!!
「1,2年にとっては、この先も対戦する可能性が高い相手だ。舐めてかかるんじゃねえぞ!!もし不甲斐無い試合したら直ぐにレギュラーと交代だからな!そうなったら帰りは学校まで罰走だ!覚悟しとけ!」
は、はい!!
(たしかに2番と6番それに4番のセットアップは予想外だが、やってる事は普通のバレー、気を引き締めて臨めば、あいつらなら勝てる)
(監督はまだ気付かないのか?2番が目立ってたけど他も十分ヤバかったぞ……。おまけにセッターは比企谷だ!これは不味いな)
総武高はまだ何かやってくる、山北はコートに入れないもどかしさと、不安を抱いた。
―総武高校ベンチ―
「おうおう慌ててる慌ててる」ニヤニヤ
「嬉しそうですね比企谷先輩」ニマニマ
先ほど、相手ブロックを振ったのが嬉しかったのか温水もニヤケ面。
「それはお前らもだろ?」
「いえ、そんな事無いですよ」
(こいつらすっかり緊張が解けてる、萎縮していたのが一気に押せ押せだから当たり前か)
八幡はメンバーを見て得点板を見る。
(ここまではかなり順調だ。七沢のクイックや稲村のブロードと癖玉打ち、バックアタックの連携はまだ見せていない。温水も良いところでCを上げてくれた。以前の総武高校の速攻はAのみ、それとは違う連携を見せれたのはデカい、しかもウイングスパイカーがセットアップでそれをやった。さぞ混乱してるだろうな)
海浜の監督の檄が飛び、それを眺める。
(海浜の監督が檄を飛ばしてる……。気合い入れて仕切り直したところで、こっちは稲村がサーバー、相手が控えなのを差し引いても出来過ぎな展開だ)
「次のサーバーは稲村だから返って来る時はチャンスの可能性があるね。何か作戦立てる?チャンスの場合、ミーティングの通りなら速攻で行く所だけど」
このチームに指示を出すし指導者はいない、七沢が確認の為に口を開く。
「今回は控えが出てるうちは、七沢のクイックは温存して飯山中心で攻めたいからそれでいいんじゃねぇか?」
「つまり、たっぷり目立ってもらって、いい場面に優秀な囮として活躍してもらうって事?」
「ああ、なにより次のローテで飯山は後衛だからな、目立たせるなら今の内だ」
八幡と七沢が話し合い、他のメンバーにも確認する。
「それでいい?」
その問いに各々に「おうっ!」「はい!」と声を上げ頷き同意する。
ピィィィィ!
タイムアウト終了の笛が鳴り、各チームがコートへ戻る。
「ナイサッ!」
七沢が稲村に声をかけボールを放る。
稲村は、そのボールを持ったままエンドラインのライト側から数歩センターに寄り、そこからさらに数歩下がる。
丁度バスケットのヘルプサイドのフリースローレーンが引かれた線に左足がかかる位置、そこが彼のサーブの定位置。
床にリズムをつけボールをドン!ダダン!とリズミカルに数回叩きつけリズムを体に合わせる。
(どうする?俺のサーブは海浜のリベロに通じるかを試すか、点数を取りに攻めるか)
タイムアウト明けの大事なサーブ、勢いをつけるために相手後衛の間を狙うかを考える。
流れを切らせないためのサーブを打つ?
いや
ピィィィィ!
サーブ開始の笛の音が鳴る。
(多分リベロはレギュラーとメンバーチェンジしても変わらない、なら!)
(リベロを狙ってやる!!)
グッと絞るように右手を折り畳みながら空手の引手のように脇の下へ力をためるように持ってくる、ここだというタイミングで低いサーブトス、よせていた肩甲骨の力を緩め、折りたたんだ我慢させいた手首を急激に反らしてひねる。
腰、肘、肩、手首の一連の動作で瞬時に連動させボールへミート、拳のように硬い掌と丹田にグッと力を入れボールに威力を通す独自の体の使い方。
鈍器で打ったような鈍い音を響かせ、ネットギリギリに通った早い弾速に乱回転の球威のあるサーブが海浜のコートへ向かう。
普通のフローターとは一線を画す稲村のサーブが小菅目掛け打たれた。
(来たっ!)
小菅は正面でボールをとらえる。
(えっ?)
そのまま誰もカバーできないようなカットになりコート外へ飛んでいく。
総武高校 5 ― 1 海浜高校
「うそだろオイ!」
監督が思わず声を上げる。
小菅のレシーブは間違いなく海浜一、その小菅が正面で捉えたボールを弾いた。
その場にいた海浜の全員がその事実に唖然とする。
「想定外だ……」
海浜の監督が呟く。
始めは、総武高には七沢がいて背が高い選手が二人いる、が数が足りない。試合が出来たとしても数合わせに一人入った安パイのチームだと思っていた。
安パイとはいえ、個の力から察するに、それなりのレベルは期待できる相手。
春高予選を突破したら1月まで3年が残る海浜にとって出遅れてしまう新チームの練習にもなり、チームの調整にも使える相手……そのはずだった。
だが蓋を開けたら、それは悪い意味で裏切られる事となった。
(2番の飯山、3番の稲村、6番の比企谷……か。というか2番3番に至っては中学ですら見ていない!何故こんな奴らが今まで出てこなかった!!)
答え
飯山 稲村→二足わらじの上に、バレーを一度辞めている。
八幡→バレー辞めてしばらくボッチ後、奉仕部。
(これでは七沢が別のチームに一人入ったような物。もはや今までの知る総武高校とは別のチームだ)
(初めから分かっていれば、ここまで一方的な展開にならなかったはずだが。現状は飲まれてしまっている。これ以上は痛手じゃ済まない!)
このままではこのセットを取られるどころか新チームの出足をくじかれ、2セット目にも影響が出てしまう。
そんな海浜に残された道は一つだけ。
「メンバー交代するぞ、次のプレイが切れたら小菅以外、レギュラーと変える」
次回で1セット目の終わりまで書ききる予定です。
更新については早くて来週、遅くて再来週を予定しています。
台本だけなら既に完成してますが、シーズン入って練習時間が増え執筆時間が減る&地の分と加筆修正に時間を要する為今しばらくお待ちください。