俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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今回で練習回は終わりです。


スパイクとブロック

―そんな練習が続いたある日の事―

 

 

「比企谷手を出してくれないか?」

 

「な、なんだよ飯山?」

 

「これをお前の指にハメたい」

 

「は?それを俺の指にハメてなにすんだよ!」

 

「いいから!俺に任せろ、悪いようにしないさ!ほらっ」

 

「お、おい!」

飯山は八幡の指に強引にハメる。

 

 

ピピピ ピピピ

 

 

「ふむ、予想していたより血中酸素濃度は悪くない……。今日の練習もきつくなるのを想定してカーボとBCAAを強めにするか?いやプロテインバー摂取にして、クエン酸を強めにするか。朝の水分量と摂取量から察するにデキストリンとBCAAはこのくらいか、サプリはマルチアミノと念のためビタミン、後は循環用にNO系も入れるかな……」

メモ帳を取出し記入し、何やら呪文のようにぶつくさ言葉を発する。

 

 

※NO系

アルギニンやシトルリンといったアミノ酸のサプリメント。興味のある方は検索を、NOブースターで調べても出てきます。

血中の一酸化窒素(NO)を増やし、それにより血管を広げ血流を良くする効果がある。

私の場合はクエン酸強めにしたスポーツドリンクと合わせ疲労回復、カルニチン等の燃焼系と合わせ冬場のトレーニングのアップ用などに使ってます。

 

※デキストリン

マルトデキストリンの事、別名粉飴

早い話が糖分の一種、純度が高く炭水化物の補給にうってつけ

近年流行っているトクホの難消化デキストリン(不溶性食物繊維)とは別物ですのでお間違いなく。

 

 

「ほらよ」

 

 

「お、お前本当にガチだな」

 

※ガチホモの意味ではありません。

 

 

「おう!専属マネージャーみたいでイイだろ?」

モストマスキュラーのポージングをとりながら笑顔を向ける。

 

※モストマスキュラー

ボディービルのポージングの一種

 

「やめてくれ」

暑ぐるしい筋肉と笑顔のドアップに思わず目を背けながら八幡は呟いた。

 

 

 

「ねっ?いいでしょ!最近のバレー部、いま一押しの胸熱スポットなんだよ!」

 

「すごいね!私こんな世界があるなんて今まで知らなかった」

相模は海老名の言葉に相槌を打つと、再びバレー部の方に目を向ける。

 

「「ぐ腐腐腐」」

どうやら彼女は目覚めてしまったのだろう、“はやはち”“ななはち”“とつはち”といった単語を混ぜながら会話を弾ませていた。

 

 

「なあ、さっきからすげぇ寒気するんだけど」

 

「ああ俺もだ……念のためマルチビタミンも入れるか」

そう言うとバックから英語で書かれた容器を取出し、2つ手に取り八幡に渡す。

 

「ああ、さんきゅ」

 

「お互い気を付けようぜ、今風邪ひいたらシャレならん」

 

 

ある意味、風邪より悪いものが発生しているのだが、二人がそれに気づくはずもなかった。

 

 

 

 

―総武高校体育館―

体育館では授業でバレーが行われ、八幡のチームと七沢のチームが試合をしている。

 

 

「いくぞ!比企谷!」バチン!

スピンをきかせた高いトスからの助走にエンドラインギリギリからのスパイク、ジャンプサーブを相手コートにいる一人の男に目掛け打たれる。

 

 

「っ!!」

八幡は態勢を低くし、サーブを受けると勢いを殺すように体で受けるが一本で返してしまう。

普通ならチャンスでも体育では違う、一本で返ったボールをモブがカバーできない方向に飛ばす。

 

 

 おお!すげぇ!!

 

 あのサーブ打つ方も取る方も半端じゃねぇ!!

 

 

 

「体育でジャンプサーブ打つなよ」

 

「俺は比企谷しか狙わないから大丈夫だよ、お前も俺だけを狙えばいいじゃん」

 

 

 

「八幡!」

今度は戸塚が八幡に向けトスを放つ。

 

 

「フッ!」バチン!

さっきのお返しだこの野郎!と言わんばかりに七沢とモブの間目掛けスパイクを放つ……が。

 

 

「うらっ!」

トス、腕の振り、打点、それらから導き出されるコース。七沢は予測し八幡のスパイクをカットする。

 

 

 おおおおお!!

 

 

「ナイキー!比企谷」

 

 

「この野郎」

 

 

 

 

「ヒキオ、あいつマジで元バレー部だったんだ」

あきらかに素人じゃないプレーをする八幡をみて三浦が呟く。

 

 

「優美子、次私たちの番だよ~」

鼻にティッシュを詰め込んだ海老名が三浦に声を掛ける。

 

 

「……」

 

「優美子?」

 

「分かってる、今行くし」

三浦は何か思うげに、男子のいるコートを見ていた目線を戻すと自分のチームへと向かった。

 

 

 

―ベストプレイス―

昼休み いつもの席で お弁当(5・7・5)

 

奉仕部の二人が作ったくれた弁当をモグモグさせながら、八幡はテニスコートを眺める。

 

 

「あっ」

 

「ん?げっ!」

声のした方を見る八幡、その先にいたのは結衣の友達でもある三浦優美子、思わず声が漏れる。

 

 

「何見てんだし」

 

「いえ、何も」

あーしさんが苦手なので警戒するあまり、げっ!と言ってしまいましたなんて言えない。

 

 

「……ヒキオ、あんたマジで元バレー部だったんだね」

 

「ま、マジでって、そんなに意外かよ」

 

「意外過ぎだし」

三浦は嘘をつく。

 

思い出されるのは、戸塚の依頼の時のテニスの試合。

彼女のサーブによるサービスエースから始まったものの、自分のサーブがまさか触れられるとは思ってもなかった。

 

女子とはいえ、県選抜に選ばれた実力者のサーブ、本気で打たれたら素人には想像出来ない早さ。

 

テニスの経験もない一般学生なら初見であれば普通なら身動きがとれない。にもかかわらず八幡は反応した。

 

 

(何もないような奴にあーしの本気のサーブに反応できるわけないし……。そう言えばあの時)

 

 

『……まあ、素人だしな。単純に打ち合って点取り合う、でいいんじゃねぇか。バレーボールみたいな感じで』

ルール決めをする際に彼が言った言葉を思い出す。

 

 

(そういう事だったんだ)

何気ない言葉でも今では違う意味に聞こえ、納得する。

 

 

「バレー部、練習試合の相手がインハイ予選優勝校なんだって?勝てんの?」

 

「何で知ってんの?」

 

「結衣が今朝しゃべってたっしょ」

 

 

「……たく、あいつは。まあ、七沢が4人いて俺が2人いれば勝てる」

 

「ふざけんなし、真面目に答えろ」

そりゃ守備も上手いエース4人に攻撃的セッター2人いれば勝てる、八幡はふざけた返しをし三浦に注意される。

 

 

「ポテンシャルとフィジカルはこっちが上、だけど経験と技術含めた総合力は海浜のが圧倒的に上だ。経験積んでたら勝負は分かんないだろうけど、現状は分が悪すぎる」

 

「ふ~ん」

自分から聞いたくせに適当な相槌を打つ。

 

 

「てか、なんでバレーの依頼受けたし?」

 

「……まあ、バレーがしたかったから。だな」

 

「っ!!」

バレーしたかったから、その言葉に彼女は必要以上に反応し唇をかみしめテニスコートを見る。

 

 

(こいつ、もしかして)

三浦のあの時と今の言動、導き出される一つの答えが頭に浮かぶ。

 

 

「お前、もうテニスやらねぇの?」

 

 

「はぁ!?何言ってんだし」

 

 

「1学期にお前がテニス部に乱入したのって、戸塚がテニスやってんの見て、いてもたってもいられなくなったから、違うか?」

バレーから離れ、バレーがしたかった彼だから分かった事、彼女はテニスがしたかった。

 

 

「は?なわけねぇし」

 

「そうか?コート見ながら、すげぇやりたくて仕方ないって顔してるぞ」

 

「……だったら何だし?」

 

「もしテニスしたかったら、やればいいんじゃないか?戸塚なら歓迎してくれると思うが」

 

「……今更やったところで無理っしょ」

三浦は俯きながら静に呟く。

 

 

「やって後悔する位ならやらない方がマシってやつか(その気持ち、よく分かる……が)」

 

「はぁ!?」

 

「ひゃい!に、睨むなよ」

べ、別に怖くなんかないんだからね!勘違いしないでよね!

 

「ふん!」

 

(多分、三浦はテニスがしたいんだろうな。でも周りの事、今までの言動、自分の置かれた環境に自分で勝手に蓋をして、がんじがらめで動けないんだろうな。まるであいつや俺みたいに)

 

(きっと三浦はきっかけが欲しいんだ)

 

「別に好きにすればいいんじゃねぇか?やるもやらないも自分の勝手だ。何ならバレーでも始めたらどうだ?テニスよか余っ程楽しいぞ」

 

「はあ!?テニスの方が楽しいし!」

 

「じゃあ、やればいいじゃねぇか。俺はバレーの方が楽しいと思うが、それよりテニスが面白いっていうなら、そんな楽しい物やらなきゃ損ってやつじゃないか?」

それに、本当は今からでもテニスやりたいんだろ?その言葉を飲み込み伝える。

 

プライドの高い三浦に伝えれば恐らく反発し誰がやるかと怒るだろう、八幡はあえてその言葉を使わなかった。

 

 

「っ!!」

 

 

「何なら練習試合見に来たらどうだ?」

 

 

「なんであーしが」

 

 

「俺のブランクは3年ちょい、お前は2年ちょいだろ?試合見て自分もまだイケると判断したら、復帰でもなんでもすればいいんじゃね?」

 

 

「ふん、あんたらが海浜に勝ったら考えてやるし」

 

 

「いや、無理だから」

 

 

「それぐらいあーしの復帰も無理だっての」

三浦はそう返すと、テニスコートに目を向けどこか寂しげに見つめる。

 

 

しばしの静寂。

 

 

風が二回吹き昼休みの時間が残り少なくなった事を伝える。

 

 

「時間無くなるから戻るわ」

 

 

八幡はテニスコートをジッと見つめる三浦を残し教室へと戻った。

 

 

 

 

―放課後―

バレー部はアップにパスを終え、スパイク練習に入る。

 

八幡がセッターポジションに入り、各々が練習したいトスを告げ打ちこんでいた。

 

 

 

「今日はスパイク打ちに来たぞ!」

現れたのは清川と

 

「よっ!」

見た目かわいい系の男の子、3年の元リベロでセッターの恩名。

 

 

お疲れさまでーす!!

 

 

「あ、いいから続けて練習の邪魔はしたくない」

恩名はそう言うとカゴから一個ボールを取出し直上トスを上げる。

 

「そうそう、こっちは勝手にアップしてるから」

数回直上トスを上げた後、清川にトスを上げ二人はパスを開始した。

 

 

 

「あの助っ人セッター経験者?めちゃ上手いじゃん」

 

「ああ、おかげであいつら目に見えて成長してるよ」

 

「今まで何してたんだ?つーか、あいつ初めからウチにいたらインハイ行けたんじゃ―――」

 

「たらればを言えばきりがないさ」

清川は恩名の言葉を遮るように言葉をかぶせる。

 

 

「だな……よし!打ってこい!!」

今は目の前のボールに専念しよう、恩名は大きなトスを上げ腰を軽く下げ強打に備える。

 

 

「おう!」バチン

清川はそのトスに合わせ、ボールを思いっきり打ち下ろした。

 

 

(流石元リベロ、上手いな!)

八幡はトスを上げつつもちゃっかり二人を見ていた。

 

 

 

―そして―

 

 

「レフトオープン行くぞ!」

 

 

さぁ来い!

 

清川はボールをセッターに放り、恩名が回転を殺した綺麗なオープントスをレフトへと上げる。

 

七沢と同じ、やや高めなかぶり気味、何度も上げた彼の為のトス。

 

飯山と稲村のブロックのわずかな間、そこを抜いてストレートにスパイクを打つ。

 

強烈な打球、フェイントとブロックアウトを警戒していた長谷はまさかブロックの間を抜かれると思ってなかったのか反応できず、スパイクが決まる。

 

 

「すいません!」

 

「いや今のはブロックが甘かった。お前ら、絞めが甘いぞ、ストレートに誘導じゃないならちゃんと絞れ」

謝る長谷だったが、清川が的確に助言を入れる。

 

「「はい」」

 

「長谷、今の位置取り良かったよ本番もそれで行こう」

七沢も長谷に声をかける。

 

 

「「もう一本お願いします!」」

ブロックを注意された二人がもう一本を要求する。

 

「次はちゃんと絞めろよ!」

 

「「はい!」」

 

清川の劇に強く答えると、飯山と稲村は身体能力を生かした高い壁で今度は止めて見せた。

 

 

 

 

―数分後―

 

 

「ふむ……我が同士八幡を見に来ては見たがどうやら衆道に落ちてはいないようだな」

八幡より高い身長にはちきれんばかりの肉体、材木座が体育館のギャラリーの片隅からバレー部を見ていた。

 

「それにしてもさすが我が同士、バレー部員と比べても遜色ないではないか」

素人目に見ても分かる彼のプレーのレベル、それは分かるのだろう。八幡のみせるプレーに舌を巻く。

 

 

 

「誰かボール放ってくれる人いればなぁ平行にクイックも混ぜた練習も可能で効率も上がるんだけど」

恩名が袖で汗を拭いながら少しぼやく。

 

「……」じーっ

 

「ん?あやつ我の方を見ているが気付いたのか?」

 

「……」こいこい

八幡は材木座目を向け手招き。

 

「えっ?」

 

「……」こいこい

 

 

「あやつ!闇属性である我に光属性の世界へ来いというのか!」

オタクで帰宅部にとって運動部はハードルが高いのか、中二病チックな事を言いながら狼狽える。

 

「……」いいからこいこい

 

 

「どうした比企谷?」

さっきから手招きしている八幡を不審に思ったのか、七沢が八幡に問う。

 

 

「いや、知り合いがギャラリーからこっち見てっから、手伝わせようかなって」

 

「いいの?」

 

「いいだろ、あいつにはさんざん貸し作ってるし」

何度も小説見てアドバイスしたり与太話をしたり

 

 

―そして―

 

「材木座君だっけ?ありがとな!」

 

「ひゃ?い、いやなにこれしき造作もない」

 

「それじゃあ、その位置からセッターにボールを放ってくれ」

 

「う、うむ(こうかな?)」

材木座は、セッターの恩名に向けて下からボールを放る。

 

恩名は一歩前に踏み出しセカンドテンポ、ライトへの平行を上げる。

 

前衛は七沢、飯山、温水の三枚、前衛のはずの温水は後衛に下がり稲村と一緒にレシーブの態勢、長谷がフォローできる位置に移動し、八幡はセッターポジション。

 

温水の低いブロックを狙われ、レシーブに難のある長谷が狙われるくらいなら長谷をカバーに回し、温水にレシーブさせた方が良い。

 

苦肉の策ではあるもののお互いの長所と短所をカバーしたポジショニング、月曜のミーティングで話し合った物。頭でシミュレートしたものを実際に試す。

 

 

清川はライトの平行をクロスに打ちこむ。

 

ブロック二枚の後衛に温水と稲村、カバーが長谷。

 

(良いポジショニング!だけどブロック甘ぇよ!)

清川の好きなトスは七沢と同じややかぶり気味、打ちにくさはある物のブロックから若干離れる分コントロールはしやすい。

 

ブロックをかわしインナー気味のスパイクを打ち決める。

 

 

 

「飯山、今のは横っ飛びしなくてもイケるだろ、追い付くならちゃんと上に飛べ」

 

「は、はい!(なんで俺ばかり注意されるんだ……)」

昨日から注意されっぱなしの飯山が若干へこむ。

 

(あいつのフィジカルに技術が身に付けば)

 

 

「このままだとブロックは長谷に負けるぞ、ちゃんとな」

それを察知した恩名が発破をかけるべくあえて挑発をする。

 

「なっ!」

まさかそれを言われるとは、飯山はビックリし。

 

「えっ?」

まさかの飛び火に長谷もビックリ。

 

 

「たしかにね」

 

「な、七沢?」

 

「長谷はタッパあるしブロック良いからな、なあ比企谷」

 

「まあ、長谷は基本的にリードブロック、ウチみたいにリベロがいなく守備に課題があるとブロックがかなり重要になる。いまのとこ長谷の方が守備には貢献してるな」

 

「ひ、比企谷まで!」

 

※リードブロック

トスを見て跳ぶブロック、最近では主流なブロック。確実性は高い半面コミットブロック(予測して跳ぶブロック)と比べシャットアウトはしにくい。

現在では主流のブロックだが、身長が低いと遅れが生じる為やらないとこも多々ある……はず。

 

自分がバレー始めた時はリードブロックは世界レベルでの話でリードブロックすら知らない人がけっこういた為、遅い!ちゃんと相手に合わせて跳べ!って怒られたりしました。

 

……ワンチならかなり取ってたのに!!

 

 

長谷の場合190の長身を生かし、とにかく触れる事、トスに振られない事、コースを絞る事、この三つに重きを置いてブロックをする事を意識していた為、大崩れは無かった。

 

 

「負けねぇぞ長谷!」

 

「え、えええ!?いやいや、え?」

そもそも勝てると思っていない、まさかの宣言に狼狽えまくる。

 

「ほら、次行くぞ!」

時間がもったいない!早く打たせろ!本音と建て前を使い分け清川が檄を飛ばした。

 

 

 

 

―休憩中―

 

「材木座だっけありがとな」

飯山はジャグからドリンクを取り出すと材木座に渡す。

 

「な、なにこれくらい造作もない」

 

「あっさりして飲みやすい……それにこの清涼感ある香、これは梅?」

 

「ああ、意外とイケるだろ」

 

「うむ、これは中々」

普段運動しない彼にとっては放るだけでも良い運動、汗を流した後のスポーツドリンクを美味しくいただいた。

 

 

 

「今日はありがとうございました」

八幡が恩名に声を掛ける。

 

「何、俺も気晴らししたかったし丁度良かった」

壁にもたれ掛かってタオルで汗を拭い、久しぶりの手作りスポーツドリンクを飲んでいる。

 

 

「今のチームどう思います?」

 

「良いんじゃないか、かなり……。比企谷だっけ?お前は俺なんかより良いセッターだ。セットアップじゃ勝てねぇ。お前がこいつらの力を上手く引き出せば、攻めは問題ないだろうな、まあレシーブじゃ俺が余裕で勝てるけどな」

 

(そりゃあんた、本職リベロじゃん、俺が勝てるわけないでしょ。むしろそれで勝てたらどんな天才だよ)

聞き耳を立てていた八幡が心の中でツッコミを入れる。

 

 

「後は守備が課題、でもちゃんと自分たちの弱点を分かった上でのローテとポジショニングしてるじゃないか、後は経験だけ、そうだろ?」

 

「そんなとこです」

 

 

 

「分かってるなら大きなお世話かもしれないがブロック重要だぞ……。そんでそこのミドル二人!!!」

 

「「は、はい!」」

突然声を掛けられkたまる二人。

 

 

「二人ともレシーブじゃドデカい穴だけど、ブロックでは要だ。ブロックがレシーブの出来を大きく左右する、お前らは守備の弱点と同時に高いブロックっていう守備の強みでもある、しっかりな」

 

「「はい!」」

 

「まあ、今回のブロックの練習相手は清川でお前らが普段相手にしてんのは七沢に稲村だろ、こいつら以上のアタッカーはそうそういない、それに俺もたまには顔出すから今日みたいな練習がまた出来る」

 

「そうだぞ、試合までの間、手伝ってやる!だから海浜に勝てよ!」

清川が拳を握り前に出し、熱い目を向ける。

 

「え?でも海浜に勝つのは流石に……」

 

「「そこはハイッ!って言えよ!!」」

キャプテン、まさかの弱気に先輩方二人が思わずツッコむ。

 

「ハ、ハイッ!」

 

 

「……たく、じゃあなまた明日くる」

 

 

ありがとうございましたー!!

 

 

「あ、材木座君もありがとうな、トス上げやすくて助かったよ。また手伝ってくれると助かるよ」

手伝ってくれた材木座に対し恩名が礼を言う。

 

 

「ハッハッハ、我で良かったら構わぬ!!」

普段こういう機会がない材木座はテンションが上がっているのか二つ返事でOKする。

 

「そうか、じゃあ頼むよ」

 

「おう、我に任せろ!」

 

「「ハハハハ!」」

 

 

「もしかしてあの人扱いやすいのでしょうか?」

 

「さあ、ただ頼られる事あんまねえだろうから乗せやすいだけじゃねぇか?」

 

 

 

その後スパイクのレシーブ練習を終えたバレー部は、女子バレー部との試合をし、先ほどの練習で確認できたポジショニングの、試合での動きの確認。

 

その後はひたすら2対2をし練習を終わらせた。

 

 

 

―練習後―

 

「今日はこれまで」

 

 

「「「「「おつしたー」」」」」

 

 

 

「何か比企谷先輩きてからやけに中身濃い練習してますよね」

今まで、漠然とやっていた基礎練習に、2対2をやってきた総武高だったのが八幡が助っ人で入ってから練習内容がガラリと変わった。

 

 

「そうか?まあ5人と6人じゃ効率が違うしな」

気恥ずかしいのか話をはぐらかす八幡。

 

「お前、照れるとはぐらかす癖でもあるのか?褒めゴロすぞ。そうだな……意外とツラがいい、スポーツもこなせて、雪ノ下さんに由比ヶ浜さんがいる部活にいて仲良し……か。殺していい?ウラヤマ私刑」

稲村は冗談半分で物騒なことを言う。

 

 

「物騒な事言うな、てか意外にって」

 

「意外ではないよな、お前はイイ男だよ。今度学校で見かけたらウホッ!イイ男……て言っていいか?」

飯山がニヤリと笑いながら目線を八幡に向ける。

 

「お願いだからやめて」

ただでさえ最近、一部から腐った目で見られるのに。八幡は止めてと懇願する。

 

「そうですよ、飯山先輩が言ったらシャレなんないです」

あんたが言うとシャレにならん

 

「俺そんなにガチに見える?」

 

「まあ、スマホの待ち受けボディビルダーの画像だし、体もムキムキだから勘違いされやすいかもね」

 

「言っておくけどボディビル=ガチホモって物凄い偏見だからな!」

マジで偏見です!待ち受けをロニコーとか某全日本チャンピオンとかミスターパーフェクトの画像にしただけでホモ扱いとかマジ勘弁です!

 

あくまでも憧れの筋肉を連想し自分を高めたいのであって性的な意味合いなんてありません!

 

 

「それより腹減りましたね」

飯山の言葉を遮るように温水は声を上げる。

 

「まあ、女子と試合やった後は、ひたすら2対2やったからな、ヘトヘトだし腹減るのも無理ねぇな」

そう言いながらマッカンをグビグビやる八幡。

 

疲れた体に沁みわたるような甘みとグリコーゲンが心地よい気分にさせてくれる。

 

 

「何か食っていくか?今週は稽古に行かない予定だから時間あるし」

稽古に出て、怪我でもしたらよろしくない。稲村は試合が終わるまでは稽古に行かないようにしていた。

 

「いいねぇどこ行く?」

腹が減っては何とやら、すでに今日は終業モードだが飯は食いたいその話に乗るが

 

「あ、俺は今日予定あるからちょっと無理」

七沢はそういうとバッグを持ち立ち上がる。

 

「予定?」

 

「まあね」

 

「宗!準備できたんなら行くよ」

「ああ、今行く!じゃあまたな」

声を掛けてきたのは女子バレー部キャプテンで七沢の彼女でもある丹沢。七沢は部員にまたねと手を振り去って行く。

 

 

「「……」」

 

「うし!今から飯食いに行くぞ!!やけ食いだぁ」

 

「おお!あいつが女食ってる時、こっちは飯食って体の礎にして差をつけてやる!行くぞ野郎ども!俺についてこい!!」

べ、別に悔しくなんてないんだからね!勘違いしないでよね!と明らかに勘違いじゃないほど悔しさを見せる二人。

 

(いや、こういう時はリア充爆発しろと念じながら普通にするのが一番だろ。そんなわけで七沢爆発しろ!!……まあ実際はバレーしに行ったんだろうけど今言っても聞かないんだろうなぁ)

 

((でも、僕たちは先輩たちを尊敬しています……バレーでは))

 

 

―玄関―

 

「おっ、今部活終わったのか?」

図書室で勉強した帰りなのだろう先ほどのザ・バレーボーラーな姿とは正反対な制服姿、これぞ受験生。

 

 

「はい、そんで今から飯っす」

 

 

「宗はどうした?」

 

 

「丹沢とどっか行きました」

「今頃乳繰り合ってるんでしょうよ」

そう言うとペッと唾を吐きすて、やさぐれモードに入るカラテマンとマッチョ。

 

 

「ああ、奈々とか……。ならOB がいるチームにバレーしに行ったんだろうな」

清川、七沢、丹沢は同じ中学でバレー部、3人とも交友があった為か呼び捨てで呼ぶ。

 

 

「「……バレー?」」

 

 

「あいつら練習終わった後も練習しに行ってるんだ。知らなかったか?」

 

 

「「ハ、ハハハ」」

 

「まあお前らは練習後は道場行ったりジム行ってたから知らないのも無理ないだろうな」

 

 

「ひとつ思ったんですが、そのチームってどんなのですか?」

八幡が清川にOBのいるチームの事を聞く。

 

「男女混合だけど、大会は男子女子の両方で出てる感じだな、まあ社会人だから日によって集まりちがうし、そこまで強くはないけど」

 

「……だったら、そのチームと試合すれば良いんじゃ?」

 

「「「「「……あ」」」」」

 

 

「急いで宗に連絡だ!!」

清川は携帯を取出すとちょっぱやで、しもしも~な具合にコールする。

 

 

「とりあえず俺のプロテインバーでも食え、こんな事もあろうかと多めに作って来たんだ!今回はスイートポテト味だ」

要はスイートポテトにプロテイン混ぜたもの。飯山は清川含めた5人にそれを配り始める。

 

 

※自分的には、飽きが来ないようにスイートポテトやカボチャで作った2種類のプロテインバー、もしくはスモークササミや鶏ハムを&玄米おにぎりをローテーションで間食に入れたりしてます。

 

 

(((((う、旨い!!)))))

 

 

「練習参加はむしろ大歓迎だそうだ。仮想海浜とはならないが良い練習になるだろ、頑張れよ」

 

「「「「「……」」」」」コクン

プロテインバーをモグモグさせながら頷く5人。

 

「……食うのに夢中なのね」

まさかの無言の返事に寂しさを覚えつつ、自分もプロテインバーを口に運ぶ。

 

 

(う、旨い!!)

 

 

 

 

―千葉某体育館―

体育館を借りての練習、社会人サークルではよく見られる光景だが、今日はいつもと明らかに違う。

 

高校生のチームとの試合形式の練習試合、今日は男子がちょうどフルメンバーという事でむしろカモン!カモン!だったらしい。

 

人数が少なかった女子チームは得点板についたり審判などをかって出てくれた。

 

「ねえねえ奈々ちゃん」

「なんです?」

得点板にいる丹沢と20代後半程の女性が会話をしている。

 

「彼らバレー強いの?アンタの彼氏なら分かるけど他は初めて見るし」

「ああ」

奈々はその言葉に納得しコートの方に目を向け。

 

「本気だと多分強いですよ」

(多分、うちらとの試合は手を抜いてた……というよりこっちに合わせてた。お手並み拝見させてもらうよ)

 

そして試合は総武高校が圧倒した展開となった。

 

 

「高速トス、ダイレクトデリバリー……マジで?」

八幡のトスが相手のブロックを振り切り。

 

「ブロック三枚間抜いた!」

七沢のスパイクが3枚ブロックを巧みに破り。

 

「何て高さ、ブロックよりずっと上!」

飯山が身体能力の高さを見せつけ。

 

「今のトスをストレートに打つ!?てか腕の振りクロスじゃなかった?」

稲村が変則のスパイクで相手を翻弄し。

 

「ブロック高っ!」

長谷はトスに振られる事なく、持ち前の高さを生かしたブロックをキープし。

 

「嘘っ!あれ拾った」

温水は反応の良さで難しいボールに食らいつく。

 

 

 

「……凄いねぇ彼ら」

 

「ええ想像以上です(あいつらウチとの試合はかなり手抜いてたな)」

 

 

 

「強ぇよ……お前ら」

自分がいた頃の総武高とは別次元のプレーにOBの一人がおもわず呟き。

 

「まったくだ、七沢だけかと思ったけど全然違うじゃねぇか。こんだけ強いなら海浜相手にもいけんじゃね?」

もう一人もそれに同意する。

 

 

「いや、まだまだです。もう1セットお願いします」

まだまだ練習が足りない、七沢がもう1セットを要求する。

 

「おうおう若いなぁ」

 

「まあ、こっちとしても普段できない相手と試合のはありがたい、付き合おう」

 

「お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

(すげぇ集中だ。バラバラだったチームが経験に合わせてだんだん形になっていくのが分かる……これならもしかして)

試合が進んでいく中で感じる、シミュレートと現実のかみ合い。

 

元々の高い力に足りなかった経験というピースが、集中という状態によって物凄い勢いで填められていくのがわかる。

 

 

(いや、今は試合に集中だ)

 

 

ローテの状況に合わせた守備のポジョニング、試合に向けて使えるようにする為、それぞれが頭に刻み込む、海浜に勝る武器の一つである頭。それを使い己を成長させるべく一人一人が集中しプレーした。

 

全ては試合の為、言葉には出さないが頭で考えて居る事、海浜相手に勝つために。

 




次回の更新は早くて来週、遅くても再来週を予定してます。

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