俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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今回は長くなりましたが繋ぎ回です。


専門用語が多々出てきますので、ある程度の補足をさせていただきました。


第3章 練習試合
バレー部は試合に向けて


「海浜相手とか、何考えてるんですか先生!」

 

「いや、断ろうと思ったんだが、どうしてもって言われてな……うちも試合相手探してたし丁度いいかなって、ほらインハイ予選では接戦だっただろ?だから大丈夫だって」

 

(何言ってんだよこいつ!)

3年がいた時と違い、今は1、2年生のみ。しかも八幡が助っ人に来なければ試合すら出来ない状況なのは流石に知ってるはず。

 

七沢は顧問の無神経な発言に苛立ちを隠せないでいる。

 

 

 

「いずれにせよ決まった事だ、今更変わらないさ!な?」

自分が地雷を踏んだのは分かったのだろう、荻野は話を試合に戻そうとする。

 

 

「……日時はいつですか?」

 

「あ、ああ、来週の金曜日の放課後だそうだ」

 

「分かりました失礼します」

これ以上話しても時間の無駄だ、必要最低限な情報さえ聞ければ後はいらない、そう判断しさっさと職員室を出ることに決めた。

 

 

 

―奉仕部―

はちゃめちゃ状態だった面々も落ち着きを取り戻し、皆で紅茶を飲みながら話し合う。その内容は奉仕部の顧問である静に生徒会長になる事を含めた奉仕部の今後の事。

 

 

 

「では、雪ノ下は生徒会長に立候補、選挙で当選の暁には奉仕部は解散、それでいいんだな?」

 

「はい」

 

「君たちもそれに異論はないな?」

 

「「はい」」

雪乃が静の問いかけに静をじっと見つめ頷き、八幡と結衣も同じように返事をし頷く。

 

 

 

「ふむ、まあ君たちが決めたことだ、私としては寂しくなるがそれも受け入れよう」

 

「すみません、先生」

 

「なぁに気にするな雪ノ下」

静はそう言うと優しい微笑みを向ける。

 

 

 

「という事は、一色の依頼は消滅する形だから、バレー部の依頼が奉仕部最後の依頼になるわけか……バレー部の方はどうだね?」

 

「まあ、あいつらなら余程強い相手が来ない限り、ちゃんとした試合になるだろうし大丈夫だと思います、前にも言いましたが足りないのは経験だけです」

八幡は目を閉じ、バレー部のメンバーを思い浮かべながら口にする。

 

 

「なら大丈夫だね!ヒッキー、バレー上手だし」

「たしかに、それに先輩カッコよかったですよ」

確かにバレーしてる時の彼はカッコよかった。普段がアレなだけにギャップ萌えだ。いろはは、あざといくらい八幡に近づきニッコリと笑みを浮かべる。

 

 

「お、おい……」

 

「「……」」ムッ

それに対し照れる八幡と睨む雪乃と結衣。

 

 

 

何か修羅場る予感……そんな時だった。

 

 

 

ピロン♪

 

 

(ん?)

突然なるスマホの通知音、ポケットから取り出し画面を確認する。

 

 

「どうしたのヒッキー?」

「アマゾンから荷物の連絡かしら?」

「なんで、断定してんだよ、他にも連絡しあう事あるから、小町とか小町とか戸塚とか。

小町の次にやり取りしてるであろう材木座は無視である。

 

 

「じゃあ私がいっぱいメールするよ!嬉しい?」

 

「ああ、多分な」

 

「えへへ!……多分?」

八幡は結衣を受け流す。

 

 

「ところで、誰からなんですか?」

 

「七沢からlineだな」

 

「何かあったのかな?さっきも校内放送で呼ばれてたみたいだし」

 

「さあな」

結衣にそう返答し八幡はlineを開き返信をする。

 

 

“今どこ?”

“奉仕部”

“すぐ行く!”

 

 

「ところで、セ・ン・パ・イ」

八幡がラインを打ち終わったのを確認すると、あざとく言葉を区切り、掌を上にし八幡の方へ向ける。

 

「なに?先生の前でカツアゲとかやめた方がいいぞ、それともお手でもすればいいの?」

 

「ちがいますよ!番号交換しましょうよ~」

自分のスマホを取出し、ニコニコ。

 

 

「!!」

番号交換、その言葉に雪乃は敏感に反応する。

 

 

「俺の番号知りたいとか、どんな物好きだよ」

そう言いながら、かつて結衣にスマホを渡したように、ホラよという具合で渡し、いろはがそれを元に番号登録し、八幡に返すとメールを送る。

 

「えへへ、番号ゲットだぜ!ってやつですね」

 

「あざとい……」

 

 

「あ、あの比企――」

乗るしかない、このビックウェーブに!雪乃も意を決して番号を聞き出そうとした時だった。

 

 

「大変だぞ比企谷!!」ガラガラ

 

「……」

彼女にとってはバッドタイミングでお邪魔虫、ノックをせずにやってきた七沢に睨みを効かす雪乃。

 

 

「ノックも無しはよろしくないな七沢、ちゃんとしたまえ」

この前の件を反省しとらんのかこいつは、とあきれながら注意する静。

 

 

「あ、すみません!この前の鼻からぎゅ――」

 

「衝撃のファーストブリットォォォォォ!!!」

 

「グハァァァ!!」

 

 K・O!

 

(あれ、痛いんだよな……)

 

あ、すみません!この前の※鼻から牛乳の件以来、気を付けてはいたのですが気が動転してしまいました。そう言おうとしたのだが、そんな事を静が言わせるわけもなく口封じの正拳中段突きを食らわせる。

 

※第6話 比企谷八幡はその誘いを断る  参照

 

 

 

 

「で、何の用なんだ?」

 

「用も何も大変なんだよ!」

 

「だから何が?」

 

「練習試合の相手、海浜だってさ……」

 

「……は?何考えてるの!?無茶だろ!!」

八幡は七沢の言葉にしばし絶句した後、声を荒げる。

 

 

「海浜ってそんなに強いの?」

結衣がキョトンとした顔で問いかける。

 

 

「強いも何も全国常連校、そして今年のインハイの代表校、3年もそのまま残ってるし千葉で一番強いチームだよ」

 

「何でまたそんなチームと?」

雪乃も不思議に思い問いかける。

 

 

「うちに練習試合の申し込み来たみたいで、顧問が勝手に引き受けたんだ」

 

(なんでウチに?いや、今はそんな事考えてる場合じゃないな)

「それで、あいつらには?日時は?」

 

 

「金曜の放課後、あいつらにはまだ言ってない……二年は今トレーニング室にいるから一緒に来てくれないか?」

 

 

「……えっと」

八幡は七沢への返答に戸惑う、行った方が良いのは分かる。でも後ろ髪をひかれる思いに躊躇する。

 

 

 

「行ってきなさい」

その躊躇した八幡の背中を雪乃が押すように声を掛ける。

 

「雪ノ下」

 

「これは奉仕部の依頼よ、だから行ってきなさい」

 

「力になれる事があったら言ってね!」

雪乃と結衣は八幡に力強い目を向け頷く。

 

 

「お前ら……。その、行ってくる」

 

 

「「いってらしゃい」」

 

 

「なんなら私、今から先輩の手伝いしてきましょうか?」

チャーンスと言わんばかりに、いろはも席を立とうとするが―――

 

「いろはちゃんは、ちょっとここでお話ししようか?」ニッコリ

結衣が威圧感全開の笑みを向け

 

「そうね、ついでに先ほど盗み聞きしていた平塚先生も一緒に……ね」

雪乃も静かに同じような笑みを向ける。

 

「「ヒィ!」」ガタガタ

突如感じた恐怖、それは尋問と説教になり二人を襲う事となった。

 

 

 

 

―トレーニング室―

 

「てぇへんだ!てぇへんだ!」

七沢がお決まりのセリフと共に扉を開ける。

 

「うるせぇぞハチ!」

 

「俺、何も言ってないぞ」

稲村がノリのよいツッコミをかまし、自分が言われたわけじゃないが八幡も乗る。

 

 

「おお比企谷!夢の国へようこそ」

まさか来ると思わなかったのか飯山が歓喜。

 

 

「さっきの放送、何があったんだ?」

 

「実は」

 

 

―事情説明中―

 

「「まじかよ……」」

 

「どうする?」

 

「どうするもこうするも、ミーティングして練習試合までのメニューと方針決めて備えるしかないだろ」

 

「だよな、とりあえず一年にlineするわ」

何せ時間がない、とにかく話し合わねばと飯山が提案し七沢がスマホでラインを打つ。

 

 

 

“一年、いまどこいる?”

 

“教室で温水と囲碁打ってます”

 

“ちょうどよかった!練習試合の相手決まったからミーティングする、部室集合で”

 

“了解です”

 

 

 

―部室―

 

「急に集まってもらってゴメンな」

 

「いえ、ところで試合相手って?」

 

「その……」

一年にどうソフトに伝えようか悩む七沢だったが―――

 

 

「試合は金曜日の放課後、相手は海浜だ」

飯山が、さっさとしやがれと言わんばかりに相手を伝える。

 

 

「「えっ?」」

 

「ど、どうしてですか?」

動転した温水が問いかける。

 

「申し込みあったみたいで、顧問が勝手に了承しちまったの」

 

「そんな」

その言葉に長谷は大きい体に似合わず、力なく俯く。

 

 

「うだうだ言っても決まったもんは仕方ねぇだろ、やれる事やろうや!……で、何する?」

飯山が男らしく言ったかと思ったら、他人に投げっぱなしする。

 

 

「考えてないのかよ」

思わず八幡がツッコむ。

 

 

「俺がチームの為に出来る事、それは心・技・体のうち体のみ!しかし、一週間で筋肉つけるの無理だ!俺のトレーニングの知識が生かせない以上、スポーツ栄養学の知識総動員でリカバリー含めたサポートさせてもらう」

 

「いっそすがすがしいなオイ」

頼りになるんだか無いんだか、八幡は苦笑いする。

 

 

「まあ、実際その辺は飯山が一番詳しいから、どの道任せるんだけど他にないかな?」

ホワイトボードの前で七沢が皆の意見をまとめるべく話を振る。

 

 

「ひとついいか?」

 

「何、比企谷?」

 

「海浜の動画とかある?俺は見てないから対策の立てようがない」

 

「ああ、あるよ」ゴソゴソ

確かここにあったような?七沢が棚をあさりDVDを取り出す。

 

 

「どうせ今日は体育館つかえないんだ、いっその事皆で見ないか?」

その方がミーティングしやすい八幡は七沢に案を出す。

 

「ああ、賛成!でもどこで見る?」

 

(奉仕部には雪ノ下が使ってるノートパソコンがあるだけ、視聴覚室借りれるか?)

 

 

「すまん、ちょっと電話する」

八幡はそう言うとスマホを取出し、数少ない電話帳から目的の番号へ電話を掛けた。

 

 

 

 

―奉仕部―

 

「おっ!すまない電話だ(た、助かったーー!!)」

突如鳴った電話に静、カ・ン・ゲ・キ!誰からだろう?その電話の相手を確認する。

 

「比企谷から?」

 

「もしもし、どうしたのかね比企谷」

 

「視聴覚室借りたいんですけど手配できます?」

 

「分かった直ぐに出るとしよう、OKなら連絡する」プツッ

(一刻も早く奉仕部を出なければならない私にとって、これは渡りに船だな)

 

 

「彼に何かあったんですか?」

 

「視聴覚室を貸してほしいだそうだ、多分ミーティングでもしようとしてるのだろうな、というわけで私は直ぐに部屋が空いてるか確認して押さえてこなければならない、ここで失礼する」

「わ、私もサッカー部に行かないと」

乗るしかない、このビックウェーブに!二人は、すたこらさっさと部室を後にする。

 

 

 

「どうしよう、私たちも行った方が……」

 

「やめておいた方がいいわ、素人の私たちが行っても力になれないもの」

立ち上がり、八幡の所へ向かおうとした結衣を雪乃が制す。

 

 

「でも……」

 

「なら、今から私の家に行きましょうか」

 

「ゆきのんのお家に?なんで?」

結衣は首を傾げ、意味を考える。

 

 

「彼の力になりたいんでしょう?」

 

「う、うん」

 

「なら行きましょう」

雪乃はそう言うと立ち上がり帰り支度をする。

 

「行きましょう由比ヶ浜さん」

 

「う、うん」

結衣は何の事か分からないまま雪乃の後をトコトコついていった。

 

 

 

 

 

―視聴覚室―

バレー部はインハイ予選の総武高対海浜の試合を視聴していた。

 

 

総武高校は上げたレシーブをとにかくレフトの清川と七沢に集め点をもぎ取り、海浜は経験に裏打ちされた柔軟性と連携で総武高校を翻弄。

 

お互い一進一退の攻防を見せている。

 

 

(まじか……。予想はしてたけど、これはまずい)

 

ミドルブロッカーのクイックからのパイプや時間差、サーブカットの連携やブロックフォロー含めたポジショニング等、経験に裏打ちされた完成度の高さ。

 

そして、かつてのチームメイトだった二人、山北とリベロの小菅の姿。

 

コースを予測し、高い技術で相手を翻弄する展開に持っていける速いレシーブ。

そして、崩された時でもしっかり得点に絡む左利きのウイングスパイカーの山北、元チームメイトの成長した姿と実力を目の当たりにする。

 

 

「どうだ比企谷」

 

「強いな、レフトとセンターの連携だけでもやっかいなのに山北先輩と小菅までか……」

 

「そこなんだよ、小菅君はコースを読んで拾うの上手いし、他を狙って崩して連携止めても、オポジットの山北さんがライトやセンターバックからバンバン打ってくるからやっかいなんだよ」

 

※オポジット

セッター対角の選手の事

このポジションにどういった選手を配置するかでチームのカラーが変わってくる。

一つが温水のようにセッターの補助兼アタッカーな守備型や万能型の選手を入れる。そしてもう一つが山北のようなスパイク専門、俗にスーパーエースと呼ばれる選手を入れる。

一般的な中高生のチームでは前者のようなバランス型や守備型の選手を入れるのが多い。

 

ハイキュー見てる人は前者が烏野の澤村、後者が白鳥沢の牛若なので直ぐ分かると思います。

 

 

 

「それは3年いた時のウチも、相手にとっては同じように厄介だったろうな」

対する総武高校はレフトのWエースに上げればよいと割り切り、連携使うわけじゃないから、セッターに返すというよりボールをある程度高く上げれば大丈夫という状態でとにかく拾う事を専念したチーム。崩されようが関係ないチームカラー、ある意味お互いが厄介だと感じる対決。

 

 

「だけど今はいない、俺たちで何とかしないと……」

このメンバーで残っているのは七沢のみ、少し拳に力を込めながら映像を何かを思う表情で眺める。

 

 

(ん?)

八幡は若干の違和感を感じ取る。

 

 

「なあ七沢」

 

「何?」

 

「このDVD借りてっていいか?」

 

「ああ、いいよ」

さすがセッター、研究熱心だなと感心しながら七沢は答えた。

 

 

 

 

 

―数十分後―

 

試合の動画を見終わり、七沢が黒板前に立ちコートの全体図を描くと磁石を貼り付けていく。

 

 

「じゃあ試合、見終わった事だしミーティングしようか」

何か意見のある人いるかな?という感じで全員を見渡す。

 

 

「とりあえず練習試合が終わるまで、フィジカルは中止してスキルに絞ろう」

 

「えっ!?」

そんな中言葉を発したのは飯山、筋トレがアイデンティティのような彼の思わぬセリフに声を上げてしまう。

 

 

 

「なんだ、やりたいのか?残念だがトレーニングは競技の為の物、試合一週間前は止めた方がいい、試合に響けば元も子もない、はっきり言ってやるだけ無駄だ。フィジカルは日ごろの積み重ね、根性でトレーニングして数日で体が変わって、試合で発揮できるのなんか漫画の世界だけだ」

筋肉はそんな甘くはないんだよ、と言わんばかりに語りだす飯山。

 

「そ、そうか」

 

「まあ、お前ならマッスルメモリーの関係上、栄養管理しっかりした上で後2週間あれば心肺機能含めて、かなり違ったと思うけどな」

 

「マッスルメモリー?」

 

※マッスルメモリー

言葉の通り筋肉の記憶、昔取った杵柄の筋肉verみたいな物。

昔スポーツやってた人やトレーニングしてた人の場合、筋肉はその事を覚えていて、競技やトレーニングを再開した場合、筋肉が一定のレベルまで直ぐに戻るという物。

競技にもよりますが、アスリートの場合この特性を生かした方法をとったりします。

オフに高負荷のトレーニングで体を作りシーズン1,2ヵ月後の試合にむけてトレーニングを休止し競技の練習に専念。

再びオフになるとこのマッスルメモリーを頼りに再び強化といった効率化を図ったりします。この事をディトレーニング、略してディトレと言います。

 

 

 

「飯山にその手の話題振ると大変だから戻すね~。というわけで比企谷!よろしくね」

 

「ちょっ!なんで俺!?」

七沢が突如話を振ってきたため、八幡が慌てる。

 

 

「俺たちと違ってお前は客観的にチームを見やすいでしょ?何か気付いたことでもあれば」

 

「何言ってんだ七沢!ほら、お前らも何か言ってやれ」

急に何言ってんだコイツ、と言わんばかりに反論し周りにも強力を求めるが

 

「ん?俺は異論ないけど」

「同じく、と言うか3対3やった時から既にお前を認めている、むしろ聞きたい」

飯山と稲村の二人に却下される。

 

 

「そういう事、それに今までオープンバレーやってたウチでコンビバレー経験者は比企谷だけ、意見を聞きたいのも無理ないでしょ?」

このチームにはコーチや監督がいない、外部の意見を聞こうにも聞けない中で八幡の意見は貴重なのだ。

 

 

 

「分かった……。当たり前だが相手の方がチームとして上だな。経験、技術、チームとしての練度ははるかに相手がはるかに上だ」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

「ただ、身体能力とセンターの高さレフトの個の力はこっちが上だから相手にとっても脅威だろうな、問題はこっちの連携が全然なのと山北先輩への対応だな」

 

「さすが比企谷」

よく見ているねと褒める。

 

 

「ていうか、これくらいならお前も同じ事思ってんだろ?」

 

「まあね」

いたずらな笑みを浮かべながら七沢は返答する。

 

 

「それよか山北先輩と対戦経験あるやつ、俺とお前以外が誰かいるか?」

 

「……いない」

 

「やばいな」

その言葉に二人の顔が曇る。

 

 

「山北さんってそんなにやばいのか?」

 

「ある程度経験ないとヤバい。それだけ左利き相手は難しい」

右利きと左利きでは球の回転や出しの角度など全く変わってくる為、レシーブも普通より数段取りずらい。

かつてのチームメイトだった八幡と、中学時代から何度も対戦してる七沢は体で覚えてるが、他のメンバーは未経験だった。

 

 

「まあ、それに関しては当日に対応して慣れるしかないよね」

左利きでスパイク打てて練習に参加してくれる人なんて簡単に探せるわけがない、結局はそれしか無い。

 

 

「となると後は、付け焼刃でもいいから武器を増やすしかないか」

 

「例えば?」

 

「そうだな……温水」

七沢の言葉にすこし考えるそぶりを見せ、自分と対角を組む温水に目線と言葉を向ける。

 

 

「はい」

 

「お前、オープンと平行以外にAを上げれたよな?」

 

「はい、でもトスは比企谷先輩ほどではありませんが……」

 

「トスの精度抜きに打ちやすさはお前の方が上だろ」

 

「え?」

突然の言葉に温水が困惑する。何の冗談だろうか?トスの速さや正確さは自分の比ではない、そう思っている相手に言われたのだから無理もない。

 

 

「お前は今まで、こいつらにトスを上げてきた、一人ひとりの癖や好みは俺より分かってるはずだ。それにプラスして、バックアタックのトスを覚えれば戦略の幅が段違いに広がる。だからお前はバックアタックのトスを覚えろ」

 

「は、はい!」

 

「それが出来たら前にもいったが、こいつらの打ちやすいトスを上げる事を考えればいい、それだけで十分だ」

 

(上手くいけば俺が前衛の時攻撃に参加して3枚にする事も可能、そして俺が拾えない二段目のトスがその場に合わせたのツーセッターの状態になるのも可能になる)

八幡のトスが味方の能力上限をつくトスなら、温水は見方が最も打ちやすいトス、試合における違うトスワークの二人がいる、相手はこの二つを対応しなければならない、これだけでも攻撃の幅が違ってくる。

 

 

 

「おい、俺にも何かあんだろ比企谷!早く教えろ」

 

「分かったから落ち着け飯山、お前と長谷はいつも通りAとCを鍛える事だ、この精度が高いだけで全然違う。後、余裕があったら飯山はバックアタック覚えてくれ」

 

「分かりました」

 

「分かったけど、何か地味じゃね?」

お利口さんな返事をする長谷に対し、反論する飯山。

 

 

「短期間でレシーブ上手くなってくれるんなら、そっちやってもらうんだが無理だろ?あくまでも出来る範囲でやらなきゃ意味がない。もし十分だと判断したら他もやればいい」

 

「だよなぁ~、時間無さすぎだよな」

そう、試合は今週の金曜日、時間なんて限られてる。

 

 

 

「俺は?」

 

「稲村もバックアタックと、この前のブロードをライトの平行でも打てるようになってくれれば……と言ってもお前ならすぐ出来るだろうが」

 

 

「つまり、センターラインのAやCを速攻の軸にしてバックアタックと平行混ぜたスタイルにするって事か?」

 

「そういう事だ」

 

レフトの二人、七沢がセンターとでAとBの速攻や、平行とAのコンビを、稲村がAと並行、さらにCとライトのブロードの平行、そしてバックアタックを加えた今までとは違う連携への変化、もしそれが出来たらオープンバレーと幅が段違いになる。

 

 

 

「てことはAに、この前俺がやったライトのセミのブロードを混ぜると時間差にもなるな……」

(まさかコイツ、あの時既にこの連携も頭に入れてて俺にやらせたんじゃないだろうな?)

もしかして比企谷はそれを想定した上であの時、セミのブロードをやらせたのか?稲村は言いかけた言葉を飲み込んだ稲村は2対2の試合を思い出す。

 

 

(比企谷には悪いが、海浜に行かないでくれて助かったわ、こんなの敵に回したくない)

稲村は身震いを覚え、軽くため息を吐く。

 

 

 

「ちなみに、俺は?」

 

「七沢は既にクイックも出来てるから、パイプもやってもらう」

 

※パイプ

速いテンポのバックアタックの事。

 

 

「パイプ?トス出来るの?」

 

「一応、自信ないから合わせてくれ」

 

「嘘こけ」

お前なら普通にできるだろと笑い。

 

「嘘じゃねえよ」

どうせ、軽くミスしてもお前なら合わせるだろうが。と言わんばかりの目線を七沢に向ける。

 

 

「とりあえず、明日からの為に今決めた連携含めてローテの確認しませんか?」

 

「だな、練習できない以上せめて打ち合わせでもしないとな」

長谷の言葉にメンバーは賛同し黒板の前に集まると、皆で連携について話し合いを始めた。

 

 

 

試合まで残り数日、このメンバーで出来る限りの事をし海浜を迎え撃つため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―千葉県某ドーナツ屋―

ドーナツをモグモグさせながら電話をする一人の姿。

 

 

「頼まれたとおりにしましたけど、本当にいいんですか?」

 

「いいの、いいの!ありがとね」

電話している女性は雪乃の姉の陽乃。

 

「でも、なんでわざわざ?」

 

「貴方は知らなくていいの」

そう言うと女性は表情一つ変えず電話を切る。

 

 

「さて、と……」

 

「期待してるよ、比企谷君」

そうお気に入りの男性の言葉を口にすると、残りのドーナツをモグモグ頬張り、残ったコーヒーを片手に店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※練習試合編に入るにあたり、八幡とオリキャラの設定を書きました。

 

 

 

 

 

 

七沢 宗(ななさわ そう)

2年F組

バレー部キャプテン  180cm

趣味:バレーボール  温泉

ポジション:ウイングスパイカー(レフト)

特徴:バレー選手としては非凡 スパイク、速攻、レシーブ、トスなど、どれもも高いレベルでこなす

備考:バレー大好きバレー馬鹿

 

 

 

飯山 克己(いいやま かつみ)

2年C組

バレー部副キャプテン   186cm

ポジション:ミドルブロッカー(センター)

趣味:筋トレ、スポーツ生理学と栄養学の勉強、温泉

特徴:身体能力に頼ったプレーが特徴、意外と細かい

備考:筋肉大好き筋肉馬鹿

 

 

 

稲村 純(いなむら じゅん)

2年C組

178cm

ポジション:ウイングスパイカー(レフト)

趣味:格闘技 トレーニング 温泉 

特徴:身体能力に似合わず、そつなくこなすプレーと変則的なサーブとスパイクが売りの選手

備考:格闘技大好き格闘馬鹿

 

 

 

温水 博(ぬるみず ひろし)

168cm

1年A組

ポジション:ウイングスパイカー(ライト)

趣味:読書、バトミントン

特徴:レシーブとトス、反応速度には光るものがある、以前はバトミントンをしていた。

備考:よく“ぬくみず”と間違えて呼ばれる

 

 

 

長谷 建(はせ けん)

190cm

1年A組

ポジション:ミドルブロッカー(センター)

趣味:釣り、盆栽、囲碁

特徴:長身を生かしたブロックが売りの選手、レシーブとトスは経験浅い為あまり上手くない

備考:ノッポさん

 

 

 

比企谷八幡

175cm

2年F組

ポジション:セッター

特徴:味方の上限いっぱいのトスワークとサーブが売り。3年のブランクがあるため、不安要素も多い

備考:主人公

 

※八幡の設定はバレー要素以外あまりいじりたくないので、こんなもので勘弁してください

 

 




次回から練習試合編に入ろうと思います。



以前から既に書き出しているのですが、試合の描写がかなり難しく悪戦苦闘しています。
あっさり書けば何も伝わらない台本になってしまい、深く描写すれば素人には伝わらないであろうマニアックかつ長文な文章の完成。

特にバレーボールという団体競技の性質上、ブロックフォローやフォーメーション、連携の時の対応など敵味方1人1人の動きが違うため、それを踏まえた描写が難しくびっくりしております。

何でこんな題材選んだんだろうと若干の後悔もありますがエタらずに最後まで書き上げます。



投稿ペースはかなり落ちるかもしれませんがご了承ください。


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