俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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お待たせしました。

タイトルを前編とか分けてしまった為に、その話に収めようとして四苦八苦して何度も書き直した挙句、結局まとめきれませんでした。

なので次回に繋ぎ回を入れて帳尻合わせたいと思いますのでご了承ください。


それぞれの向かう先 ―後編―

―総武高校体育館―

「宗、まだ練習してんの?」

居残り練習中の体育館に響く声、声の主は八幡と同じ学年であろう女子生徒、身長は静より高いであろう178センチ、女性としてはかなり高く、ベリーショートの髪形にキリッとした顔立ち、着ているジャージには総武高校女子排球部の文字。

 

 

「ああ……せっかくセッターいるから思う存分打ちたくて」

目元に入りそうな汗を袖で拭い、一呼吸おいて七沢が答える。

 

「へー……その人がセッター?」

同じバレーボーラーとして興味津々、まじまじジロジロ八幡を見る。

 

 

(み、見られてる!!)

怪訝そうな顔や虫を見るような目で見られることはあっても興味津々で見られることは、戸塚や陽乃などの、ごく一部でしか体験がない。

 

その為、八幡は顔を赤くし固まってしまう。

 

「ヒッキーキモイ!!」

嫉妬からか、いつものように八幡を罵倒する結衣。

 

「俺は何もしてないんだけど……で誰?」

「ああ、こいつは女子バレー部キャプテンの奈々、俺と同中でポジションはウイングスパイカー」

「丹沢奈々です、よろしく」

自己紹介し八幡と結衣の方を向き軽く会釈をする。

 

 

「そんで、こいつが比企谷!今助っ人でバレー部に来てもらってる、さっきも言ったけどポジションはセッター」

「うす」

八幡も軽い会釈で返す。

 

 

「そんで彼女が比企谷と同じ部活の由比ヶ浜さん」

「あ、えっとよろしく」

まさか自分も紹介されるとは思ってなかったのか、慌てて反応し会釈ではなくお辞儀をする。

 

 

「ところで、今日何かあった?」

「何かあった?って……今日は社会人サークルの練習に参加する約束でしょうが」

忘れてるよコイツとため息をつく。

 

「やべ!!時間は!?」

「急いで準備しないと間に合わなくなりそう、手伝うから早く準備!」

「分かった!!」

 

「「うりゃぁぁぁ!!!!」」

転がってる球をダッシュで拾いカゴの中にぶち込み、全速力でネットの紐を緩め、クランクを回しワイヤーのテンションを緩める。

 

※次の日が休日で同じ体育館のコートを使う場合、ポールを撤去せずネットを緩めるだけにして置いておく場合があります。

 

 

「「ぽかーん」」

息の合ったコンビネーションで迅速果断に動く二人にあっけにとられる八幡と結衣。

 

 

 

「じゃあまた!二人とも今日はありがと!!」

「またね!」

七沢と丹沢は二人に手を振ると、すたこらさっさと体育館を後にした。

 

 

 

 

「そういえば由比ヶ浜、お前何か用があったんじゃないのか?」

用もなしに体育館に来るもの好きはいない、八幡は結衣に問う。

 

「あ、その……一緒に帰ろうと思って」

「……ああ、いいよ着替えてから行くから先に行って待っててくれ」

 

 

 

 

 

 

―帰り道―

夕暮れから夜に代わりそうな薄暗さの中、八幡と結衣はならんで歩く。

 

若い男女が二人でいるだけでリア充と認識してしまう人種(※私ではありません)が見たらカップルが一緒に下校している光景なのだが、実際に付き合っていない二人は、口を開くことなく無言のまま肩を並べて歩いている。

 

 

「……あのさ、ヒッキー」

その静寂を打ち消すように結衣が口を開く。

 

「なんだ?」

「私さ、ヒッキーに言いたい事があって……」

「言いたい事?」

部活帰り、一緒に帰宅する男女、そして言いたいことがあるという流れ……好きとか嫌いとか最初に言い出したり、メモリアルが駆け出しそうな、なんともときめきなシチュエーションであるが多分違う。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!!!!」

結衣は八幡に向かい深々と頭を下げ大声で謝罪の言葉を発する。

 

 

 

大音量で響くごめんなさい、その言葉に道行く人々が振り返る……。

 

 

 

(ああ、あの男の子振られたんだ)

(まあ、あきらかに釣り合ってないよな)

(頑張れよ若人!人生まだまだこれからだ)

(ようこそ、非リア充の世界へ)

八幡が振られたと勘違いした通行人たちは空気を読み聞こえないフリをし、通り過ぎていく。

 

 

 

「ちょ!ちょっと待て!!いきなり何?何の事!?」

ものすごく周りに誤解された気がする、何が何だか分からない八幡は焦る。

 

 

「私さ、いつもヒッキーに頼ってばかりで、助けられて……なのに私はなにもしないで……」

結衣は俯きながら、でも自分の気持ちを言葉にしながら八幡に伝える。

 

 

「由比ヶ浜、お前何言って……」

「ヒッキーが体育館で言い争いしてた時、私も居たの!聞いたの!」

否定しようとした八幡の言葉を最後まで言わせず重ねるように結衣は続ける。

 

 

『何が部の事を考えろだ!!お前こそ相手のことちゃんと考えろよ!!自分が信頼してる人間に、自分を否定されるってどんだけキツイかわかってんのか!?』

 

『否定するなら自分でやれよ、何で任せるんだよ……』

 

『やめろよ……』

 

 

八幡の脳裏に浮かぶのは、体育館で飯山と言い争った場面の事。

 

 

「……うそ?お前アレ聞いてたの!?」

恥ずかしさをこらえるように頭を抱え現実を受け入れる八幡。青春万歳な場面を見られたのはさすがに恥ずかしいらしい。

 

 

「ごめん、ヒッキーが心配になって隠れて見てたの」

八幡へ苦笑いを向け形だけの謝罪の言葉を向ける。

 

(なんという事だ、何という事だ!このままじゃ数多い黒歴史が追加されてしまう)

 

 

 

「私、生徒会長に立候補する!!」

「お前なんで……」

突然の結衣の宣言に先ほどの黒歴史追加などどうでもいい。

 

「今までずっとヒッキーに頼ってきたんだって気づいたから」

「俺はなんもしてねぇよ」

 

「ヒッキーならそういうと思った」

「……」

まだ言葉を続けそうな結衣を八幡は無言でみつめる。

 

 

「私はこの部活が好き、ゆきのんがいてヒッキーがいて、他愛もなく話したりゆきのんが淹れた紅茶のんだり、皆で依頼に取り組んだり……いつも顔色伺ってばかりだった私でも自分をぶつける事もできたり……」

奉仕部での事を思い浮かべ、笑顔を作りながらも寂しそうに言う。

 

「だけど、ゆきのんが生徒会長になれば多分、奉仕部はなくなちゃう」

「別になくなったりしないだろ」

「無くなるよ……ゆきのんは一つの事をするとそれに集中するのヒッキーも知ってるでしょ?」

「……」

文化祭の時の雪乃を知っている八幡は、その言葉を否定せず聞き入れる。

 

 

「あたし、この部活が好きなの」

「……」

「そ、それに私なら適当だし、周りも期待してないから多分大丈夫!」

(いや、それは大丈夫じゃないから)

 

「だから、ゆきのんに勝つよ」

「だからヒッキーがバレー部の依頼終わって戻って来た時、奉仕部がなくなってるなんて事はないから」

「由比ヶ浜……」

 

 

「私ここでいいよ、バレー頑張って!試合応援行くから!」

結衣は決意を浮かべた顔を八幡に向け、手を振り駆けていった。

 

 

 

 

―自室―

 

(俺はどうすればいい……)

何かしなければいけない焦燥感、だが何が問題か?自分は何がしたいのか?それさえ分からない。

 

(俺は……)

普段なら熟考していたであろう八幡も、今回ばかりは状況が違う。

 

激しい運動による酷使、連日の部活による疲労、晩飯を済ませた八幡を襲う強烈な睡魔、回復を求める体は睡眠を求め、それにこたえるかのように意識は途切れ深い眠りへとついた。

 

 

 

 

 

―翌日 総武高校体育館―

土曜日ということもあって今日は学校が休み、この休みというのは部活に勤しむ生徒にとって、ある意味最も効率よく練習できる時間である。

放課後と違い練習時間が多く取れる為、基礎練習した後では中々やりこめないような練習をガンガン出来る。

 

 

そんなバレー部が行っている練習

 

「じゃあこっちレシーブね」

「はいよ、比企谷サーブよろしく」

女子バレー部との試合形式の合同練習が行われていた。

 

 

試合形式と言っても男子と女子では体格やパワー等のフィジカルも違えば、男子ネットは240センチ、女子ネットは220センチとネットの高さも違う為、男子同士の練習試合のようにはいかない。

 

それでも行う理由、それはローテーションの確認。

 

このローテでサーブレシーブした時、セッターはどう動くか?このエリアのボールは誰が拾うか?等他色々、それらを試合の中で自然な流れで行えるようにならなければいけない。

 

バレーボールという自コートにボールを落としてはいけない競技では、一瞬の判断ミスや連携ミスは即失点に繋がる。

普通はサーブを控えに打ってもらい、レギュラーが連携の確認をしたりするのだが、今の男子バレー部は人数ギリギリでそんな余裕もない為、七沢が女子部にお願いし、女子バレー部にとっても良い練習となると判断した為か、今回合同練習となった。

 

 

女子相手にジャンプサーブでサービスエース狙いは練習にならない、八幡はジャンフロを相手リベロ目掛け打つ。

 

 

「オーライ!」

相手リベロは無回転の軌道のボールを何とか崩しながらも拾い上げる。

 

「レフト!」

カバーに入った選手が丹沢のいるレフトへオープントスを上げる。

 

高いトスという事でしっかりブロックを揃えスパイクに備える、飯山と稲村がブロックにつき温水はセンター付近でブロックカバーに付く。

 

 

(6人になってもちゃんと考えて動けてはいるな)

 

 

(やばっ!やっぱ男子のブロック高い)

女子の試合ではバンバンスパイクを決める彼女でも、男子の中でも最高到達点の高い飯山と稲村のブロックという女子ではお目にかかれないブロックは、なかなか経験できるものではない。

 

 

(これしかない!!)バシッ

丹沢は相手のブロックを利用しブロックアウト狙いのスパイクを打つ。

 

(上手い!)

 

ボールはコートの反対側、温水がカバーしていない方向に飛び、カバーできずアウトコースに落ちる。

 

「「げぇ!」」

まさか女子にやられと思わなかったブロッカー二人の声がハモる。

 

 

「「女子にやられた……」」

「この試合は勝つことじゃなくて、ローテとフォーメーションの確認だから気にしない!」

ショックを受ける二人に七沢が檄を飛ばす。

 

 

(これは想像よりいい練習になるな)

この試合形式の練習で出るであろう良かった点や改善点、そこを確認できるだけでもかなりの収穫になる。

 

 

(とりあえず、この試合で試せる事を出来る限り試すか)

八幡は気を入れなおし意識を再びコートに向けた。

 

 

 

 

―数セット後の休憩時間―

 

「ありがとな、かなり良い練習になった」

「こっちこそ、私のスパイクバンバン止められるし、良い練習になったよ」

七沢と丹沢が壁に寄りかかりながらスポーツドリンクをグビグビ飲む。

 

 

「にしても彼、いいセッターだね」

「そりゃあな、昔試合であいつにかなり苦しめられたもん」

「苦しめられた?という事は違う学校だから中学として……」

その言葉に過去の彼が苦戦した試合を思い出す。

同じ中学の為、試合を応援していた丹沢、あの時の八幡のプレーと先ほどのプレーが重なる。

 

「もしかして彼、地区大会の時のセッター?」

「そうだよ」

「何で今まで出てこなかったの!?」

「詳しくは知らないけど色々あったみたい」

「そうなんだ……」

 

 

(そういえば何でバレー辞めたのかちゃんと聞いてなかったな……)

後で聞いてみよう、七沢は心の中でそう決意した。

 

 

 

 

「ねえねえ、あのセッターかなりイケてたよね?」

「私同じポジションだから話かけてみようかな」

「あ、ずるい!!」

バレーをしている目が腐らない状態の八幡を見たためか一部の女子が八幡に興味を持ち話しかけることとなるのはまた別のお話し。

 

 

 

―???―

 

「!!」

「!!」

「!!」

(何か猛烈に嫌な予感がする……)

なんとなく嫌な予感を感じ取った者が数名ほどいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―男子バレー部部室―

練習を一旦切り上げ、バレー部は部室で休憩をしている。

 

「なあ比企谷」

朝握ってきたおにぎりを頬張り、飯山と共同買いしたプロテインをグビグビ飲んでる八幡に七沢が声をかける。

 

「何だ?」

「色々聞きたい事があるんだがいい?」

「……何?」

「ここじゃちょっと、男が語り合う場所へいかないか?」

「……え?」

何やらデンジャラスなオーラを感じる言葉に身構える。

 

「ああ、俺も比企谷に聞きたい事があったし、疲労もあったからちょうどいい」

「あっ!俺も俺も!それに、一年も連れて行かなきゃ」

飯山は椅子に座り、ジョーになってる二人を指さす。

 

「お前、昨日どんだけしごいたんだよ……」

「一緒にジャイアントセットやった後ケトルベルでタバタ」

「お前、よりよって……」

 

 

※ジャイアントセット

例:ベンチプレス→ダンベルフライ→ベンチプレス→ダンベルフライ 4セット

トレーニングの際インターバルを入れず、同一筋に働きかけ短い時間で効かせるトレーニング方法。短時間でパンプに追い込み強烈に効かせる事ができ、心肺機能にも効果あり。

私の場合はオフで体力あってトレーニング量増やしたい時、朝にこのジャイアントセット、帰宅して普通のウエイトトレーニングのダブルスプリット(一日2回の筋トレ)にしたり、時間ない時によく取り入れます。ただ、効かせ方がまだ理解できない筋トレ初心者にはおススメしません……。

 

 

「というか行くってどこだよ?」

場所も分からないのに勝手に盛り上がらないでほしい、八幡は質問をする。

 

 

「「「それは、温泉さ!!」」」

 

 

 

 

―そして現在―

 

(温泉に来てサウナ入ってるナウ)

八幡とバレー部は某千葉にある温泉に来ていた。




次回の更新ですが、業務多忙と試合が近く来週以降時間が上手く取れない可能性があるので更新未定となります。

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