俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。 作:nowson
なので次回が後編になります。
―総武高校体育館―
バレー部では、AチームBチームに分かれ2対2形式の試合が行われている。
「長谷!耳貸して」
「は、はい!」
先ほど八幡と稲村がしたようなコンビプレーの打ち合わせと同じなのか何やら話し合う。
「できる?」
「はい、やってみます」
(何かやってくる気だな)
八幡はその様子を確認し、サーブを打つべくエンドラインに向かう。
「ナイサー!」
「カット一本!」
「さあ来い!!」
(切り崩す、初っ端はジャンプサーブいくか)
床にボールを数回たたきつけながら自分の打つサーブを決める。
ピィィィ!!
笛の音が鳴る、サーブを打つまでに与えられる8秒、その間にボールを頭に持ってきて集中する彼のルーティンを入れ、気を入れる。
(この助走……ジャンプサーブだ!!)
七沢は深く構え、そのサーブに集中する。
「フッ!!」バチン
強力なドライブのかかったサーブが七沢と長谷の間目掛け放たれる。
レシーバーとレシーバーの間、難しい場所への早い弾速、サービスエースが取れそうなサーブだが。
「うらっ!!」バシッ
八幡と稲村のプレーに火が付いた七沢、初めから自分がボールを取ると決め込みそのボールに食らいつく。
「アレを上げるか普通……」
稲村は呆れながらも相手の攻撃に備える。
カットしたボールは高く上がりネットを越そうとするような放物線
(チャンス!!)
稲村はすぐ対応できるようポジショニングをとる。
「ッ!!」
長谷が何とかワンハンドでそれを止め……
「ナイスだ!!」バチン
まるで示し合わせたようにそこにいた七沢が強烈なスパイクを打つ。
「クイックかよ!!」
完全に出し抜かれた稲村はブロックに飛べずコースを絞らせることが出来ない。
「チッ!」
スパイクは八幡がカットできないエリアに鋭く打ち込まれた。
『俺カットしたら、ワザとネット越すように上げるからそれワンハンドで止めて、ボール置くような感覚で……長谷なら出来るでしょ?』
先ほど長谷に耳打ちした言葉。
「ナイストス!」
「ナイキーです」
Aチームがお互いたたえ合う。
「どうする?比企谷?」
「ちょっとやってみたい事あるんだがいいか?」
八幡もその気になったのか、稲村に再度耳打ちする。
両チームとも譲る気はない、2対2の試合は激戦となる。
―そして―
Aチーム 21 Bチーム23
いくら七沢がいるAチームでも相手は2年生二人のBチーム、おまけにサーブが強くてウィークポイントの少ない二人、高さ以外ではAチームが不利。
事実、最大8点差の点数をつけてBチームが勝っていたはずだったが……。
「うりゃ!!」バチン
「ッ!!」バン
七沢の強烈なサーブに稲村はカバーしきれない方向にボールを飛ばしてしまう。
Aチーム 22 Bチーム23
七沢の個人技でその点差を縮めていた。
「化け物め……」
3年前、互いに敵同士で競った二人。
その後の3年間、方やバレーを続けた人間、方やバレーを離れた人間。いくら八幡がセンスを持っていても感じるスキルとフィジカルの差。
「どうする?このままじゃヤバいかも」
「俺があのサーブを止める、範囲を広く取るからカバー頼む」
「分かった」
八幡はセンター寄りに構え守備範囲を広げ、稲村は逆に前衛レフト側に寄る。
「へぇ……」ニヤリ
そのポジショニングが意味する事、七沢のサーブは八幡が取る。
(多分あいつの性格なら……)
やる気スイッチオン状態の七沢、その彼に対し八幡は「お前のサーブは俺が取る」と言わんばかりのポジショニング。
「行くぞ比企谷!!」
「来い!!」
七沢は完全に狙いを八幡に定める。
(トス、助走、腕の振り……ドンピシャだ!!)バチン
球威、回転、弾速すべてが今日最高のジャンプサーブ、まるでスパイクのようなサーブが八幡目掛け放たれる。
(狙い通りに動きすぎだ七沢)ニヤ
いくら八幡でも、どこにくるか分からないジャンプサーブを取るのは難しい。
だが、勝負を楽しんでる今、七沢に八幡と真向勝負させたいと思わせ、打たせるコースを誘導する、それなら何とかカットできるかもしれない。
現に放たれたサーブは八幡に真っ直ぐ飛んできている。
八幡はそのサーブをレシーブ。
重心をやや後ろ、インパクトの瞬間後ろに倒れこみ威力を流す、腕だけじゃなく体を使い威力を弱める。
そしてボールは綺麗な放物線を描き……。
「ナイスだ!!」
落下点に構える稲村の元へ来る。
「やられた!!」
なのにどこか嬉しそうな笑みを浮かべ七沢は自分のポジションに向かう。
稲村は八幡が起き上がりスパイクを打つ時間を考慮し高いオープントスを上げる。
「よし!」
既に起き上がっていた八幡は助走をつけ腕を振り最高打点目掛け跳ぶ。
対する長谷はキルブロック(ボールをシャットアウトするブロック)でライト側のコースには打たせず、七沢の方へレシーブさせるよう跳ぶ。
(比企谷の目線……)
審判をしていて周りがよく見える飯山は八幡のスパイクの目線に違和感を覚える。
『俺のやるブロックアウトの場合、ボールがフワッと打点に来た時こう、クイッとやって……ヨイショ!って感じかな』
『分からん!お前は某球団の名誉監督か』
『比企谷はどうやる?』
『俺の場合はお前らと違って打点が高くないから、高いブロック来た時に手首軽く反らしてわざとフカす感じにして、相手の指を狙う形だな』
『よく咄嗟にできるな』
(まさかあいつ!!)
(ここだ!)バン!
手首を軽く反らしミートポイントを変える、何もなければホームランなボールでも相手のブロックに当たれば話は別、そのボールは長谷の指目掛けぶつかり……。
「アッ!!」
長谷の手から大きく離れカバーできない場所へと飛んでいく。
ピィィィ!!
Aチーム 22 Bチーム24
Bチームのマッチポイント
「ここでブロックアウトをやるか」
やられた!というような顔をして七沢が声をかける。
「あそこが使いどころだろ……それに」
「ただでさえ疲れる2対2でこれ以上もつれたら俺が持たないから、ここで決めさせてもらった」
ふぅと一息つき目に入りそうな程流れ出る汗を袖で拭う。
「まだ終わりじゃないぞ比企谷!」
「次のサーブは稲村だけど?」
「あっ……やべぇ!!」
ピィィィ!!
「稲村!俺に打ってこい!!」
カモン!カモン!と自分にボール打てアピール。
その稲村のサーブ
「お前じゃないんだ……誰がわざわざ待ち構えてるやつ狙うか」ドンッ
当然、長谷のところを狙いサーブを打つ。
「ああっ!!」
頑張ってカットするもののボールを弾いてしまいゲームセット。
「卑怯だぞ!お前ら!!」
「お前が正直すぎなんだろうが」
「一人で点数ガバガバ稼ぐやつが何を言う」
その日の残りの練習はひたすらメンバーを入れ替えた2対2で進み……。
「「「ばたんきゅ~」」」
練習が終わるころには八幡と一年がクタクタになり倒れこんでいた。
―練習後―
クールダウンのストレッチを済ませるバレー部。
稲村は練習後、自身が通う道場へ向かい、飯山は……。
「君たちはマダマダ鍛え方が足りないなぁ、僕が特別に“夢の国”へ案内してあげるよ!」
1年を夢の国へと誘う。
「「ひぃ!!」」
※夢の国
俺ガイルの舞台は千葉ですが、彼の言う夢の国はトレーニング施設。
マッチョにとって筋肉を作ることが出来る、正に夢のような場所という意味。
「おやぁ?比企谷がいないようだけど……仕方ない!時間が惜しいから今日は3人だけで行こう」ズルズル
1年二人をズルズル引きずり、飯山はトレーニング室に向かう。
「あ、危なかった……」
彼の持つ特殊能力、ステルスヒッキーにより身を隠し難を逃れる。
「比企谷、自主練しようぜ?」
ステルスヒッキー発動中の八幡に磯野約野球しようぜ!なノリで七沢が声をかける。
(こいつにはステルスヒッキーが通じないのか!?)
「ちなみに拒否したら飯山に連行する」
「拒否権無いのね……」
トレーニングとバレーどっちをとるか?答えは一つしかなかった。
―昇降口―
「ヒッキーまだかな……」
先ほどから八幡が来るのを待つ結衣の姿。
「靴はまだあるから帰ってないと思うんだけど……」
八幡の箱を開け外履きがあるのを確認する。
「あれ?」
そんな結衣の目に、昇降口に向かってくる一人の生徒が見える。
「あれは、確かバレー部の……ヒッキーの事聞いてみよ」
「あ、あの!!」
「ん?何?(おいおい、この子はF組の由比ヶ浜さんじゃないか!!)」
学内でも評判の可愛い女の子に声をかけられる、稲村は平静を装い返事をする。
「……えっとヒッキー知らない?」
人の事を聞くのに内輪のあだ名を出しちゃいけません。
「ヒッキー?」
案の定、誰それ?状態の稲村。
(時間から察するに部活終わりの俺に声をかけてるからバレー関係か?たしか七沢と比企谷は由比ヶ浜さんと同じクラス……という事は)
「もしかして比企谷の事?」
推測から答えを導き出す稲村。
「うん!!」
その言葉にパァァァッと明るくなる結衣。
「あいつは多分、七沢と自主練してるよ(この顔そういう事か……)」
「ありがと!!」パタパタ
お礼を言うなり体育館の方向へ駆けていく結衣。
「比企谷、あいつリア充だったのか……」
下駄箱で内履きと外履きを入れ替え靴を履き自転車置き場へと向かい。
「特に理由はないけど、今日は何だか組手かミット打ちがしたい気分だな!!」
自転車にまたがり自身の通う道場へと走りす。
―体育館―
「自主練って言っても何やるんだ?」
「クイック打ちたいから上げて欲しい、中学時代よく上げてたでしょ?」
「お前がクイック?」
一般的には主にセンタープレーヤー、俗に言うミドルブロッカーがやることが多い。
「なんでまた?」
八幡が知る限り中学時代、七沢がいたチームは彼と清川のダブルエースによるオープンバレーが主体だった。
また、練習に参加した際もサインはオープン、平行、Aクイックのみと中学時代とあまり変わらないスタイル。
そんな彼がクイックの練習というのにいまいち引っかかる。
※オープンバレー
言葉通りオープン主体のトスをエースに集めるバレー。
「俺の身長、180で一般人では高い方だけどバレーじゃそうでもないでしょ?」
「まあな、俺からすれば贅沢だと思うが」
最も八幡の175センチも平均以上で十分高いのだが。
「前は俺とキヨ先輩中心のオープンバレーが攻めの中心、他は守備重視のスタイルだったんだけど、先輩たちいなくなって守備力が低下した今、エースだけじゃなくコンビバレーで攻めてくる海浜とか相手になると厳しいと思う、だから攻撃の手札は増やしておきたい」
(稲村がレギュラーなれないくらいだ、前のチーム相当守備力高かったんだろうな)
高い守備力で、とにかくボールを拾い高いトスをエースに繋ぐチーム、飯山と稲村がレギュラーになれなかった理由がそれだった。
「トス上げても良いが、俺は練習試合までだぞ?」
「構わないよ、打った事ある経験あるだけで違う」
「……分かった」
八幡はそう答えるとセッターポジションに向かう。
「サンキュ!先ずは普通にBクイックよろしく」
七沢はそう言うとトスを八幡目掛けトスを上げる。
「早めに行くぞ、遅れんなよ」
その頭上に来たトスを早いトスで狙った方向に向け飛ばす。
(良いトスだ!!)
ボールが彼の想定する場所に跳んでくる、まるでトスが彼に合わせているように。
(このトスが打てるのも、練習試合まで……少しでも味わなきゃ)バンッ
「次よろしく!」
「おう」
ふたりはしばしスパイク練習に興じた。
―数分後―
「すごい……」
体育館についた結衣は二人のプレーにあっけにとられる。
八幡がチームに入りまだ数日、なのにまるで昔からコンビを組んでいたような息の合ったプレー、八幡が合わせてるのか、七沢があわせてるのか、多分両方なのだろう。ただのスパイク練習なのだがその高いレベルは素人の結衣にも分かる程だった。
顔色を伺う癖のある結衣は、その二人のプレーに声をかける事が出来ずただ眺めていた。
「由比ヶ浜?」
そんな結衣に気が付く八幡、なぜここに?と不思議に思う。
「お前に用あるんじゃないか?」
「いや、あの、えっと……何か手伝う事ある?」
「……じゃあ俺の頭上めがけてボール放ってくれないか?そうすれば七沢も色々な助走できるから練習の幅も広がる」
「うん!分かった!!」
まるでマネージャーがついて練習してるような状況になる。
「いくよ!」
「おう」パス
「フッ!!」バン
(何かヒッキーと共同作業してるみたいで嬉しい)
本当は八幡に何か用があったはずなのにすっかりドリーマーになっていた。
―某空手道場―
「せりゃぁぁぁ!!」ズドン!!
「グフッ!!」バタン
「今日の稲村は気迫が違うな!!」
「ああ、さすが黒帯だ!!」
総武高校2年 稲村純(16)
彼女いない歴=年齢の高校男子である。