俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。   作:nowson

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怪我をしてしまい、練習できず暇なので予定より早く投稿しました。



今回はただ試合をするだけです。


体が覚えてる

「おい比企谷!経験者なの黙ってんじゃねえよ、卑怯者!!」

八幡のプレイ&よく見ればバレシュー履いてるという状態で彼が経験者だと気付いた飯山は抗議の声を上げる。

 

 

「いや、お前勝手に勘違いしただけだから、俺最初からバレシュー履いてたし」

バレシューを床にトントンあてながら答える。

 

 

確かに八幡は最初から履いていた。

そして自分から素人と言っておらず、はじめから初心者だと決めつけていたのは飯山本人だ。

 

 

 

「もしかして、七沢もグルか?」

恨めしそうに七沢に抗議の目を向ける。

 

 

 

「言おうとしたけど聞く耳持たなかったじゃん」

軽く拗ねた口調でおどけてみせる。

 

 

 

「~~~!!!」

言い返せないのか声にならない声を発し頭を掻きむしる。

 

 

 

「それよりこっちのサーブ権だろボールくれないか?」

八幡は相手側に声をかけるとエンドラインに向かう。

 

 

 

「ほいよ」

稲村がボールをネット下から放る。

 

 

 

「比企谷、最初打つ?」

ボールを受け取った七沢が質問する。

 

 

 

「そうだな体力あるうちに打っておいたほうがいいかも」

 

 

 

「ほらよ」ポイ

 

 

 

(比企谷のサーブ、確かあの時はジャンプサーブ、※ジャンフロの使い分けだったな……体育では緩いフローターだったけど何やるんだ?)

 

※ジャンプフローターサーブの略

 

 

 

「「さあ来い!!」」

飯山と稲村がレフトとライトそれぞれポジションにつき気合いを入れ、温水はセッターに入る。

 

 

 

八幡はエンドラインより離れた位置に立ち床にボールを数回叩きつけ、昔を思い出す。

 

 

(この感覚、久しぶりだな)

 

 

ピィィィ!

サーブ開始の笛が鳴る。

 

 

 

(3年振りのサーブ、体が覚えてればいいが……)

 

 

 

深呼吸をし、ボールを一度頭の位置に持ってきて目を閉じる彼のルーティンを入れる。

 

 

 

(リズムを思い出せ……)

 

 

 

息を大きく吸い、ゆっくりと吐き出しながら足を踏み出す、片手ではなく両手で前方に向け無回転のトスを上げる、すうっと一気に息を吸い、左手をボールに添えるように向けタイミングを合わせ跳ぶ。

 打点の高い状態、添えた左手を引き反動で右手を呼び起こす、手首を固めボールの回転を殺してミートさせる。

 

 

 

(ドンピシャだ!)

 

 

 

そのボールは相手のレフト目がけ、高い打点からネット寸前を通るほど低く、そして早い弾速で飛んでいく。

 

 

 

「ジャンフロだと!?」

自分に向かってきたサーブに身構える。

 

 

 

サーブレシーブが得意ではない飯山にとっては天敵の様なそのサーブ、ジャンプサーブほど成功率が低くなく、それでいてカットしにくいサーブ。

 突然伸びたり、落ちたりと予測不能な球筋、そのサーブはまるで意思を持ったように変化し、飯山の手前で落ちる。

 

 

ピィィィ!!

笛の音が八幡のサービスエースを告げる。

 

 

(もしかして彼はあの時のセッターか?)

清川はかつて決勝で争ったチームのセッターと八幡の姿を重ねる。

 

 

(彼ほどのプレーヤーが何故今まで出てこなかった?)

 

 

 

「「ナイスサーブ(です)」」

サービスエースを決めた八幡に声をかける二人。

 

 

 

 

 

 

「ヒッキーすごい!ジャンプサーブ決めちゃった!」

八幡の活躍に喜びを隠せない結衣。

 

 

 

「あれは、ジャンプフローターサーブよ由比ヶ浜さん」

解説役のユキペディアさんが声をかける。

 

 

 

「ゆきのん来てくれたんだ!!」

雪乃に抱き付く結衣。

 

 

 

「べ、別に戻って来ないから様子を見に来ただけよ」

内心嬉しいながらも結衣を引き離す。

 

 

 

「ところで、そのじゃんぷふろ何とかって何?」

おバカキャラを前面に押し出す。

 

 

 

「ジャンプサーブが強力なスパイクだとすると、あのサーブは飛んで高い位置から無回転で打つサーブ、その予測しにくい動きで相手のミスも誘えるから、世界大会でも使う選手が多いサーブよ」

 

 

 

「へえ……」

あまりよく分かって無い表情。

 

 

 

「予測しにくい動きってことは、つまりヒッキーみたいなサーブってことだね!!」

何とか納得したものの、無邪気に毒を吐くガハマさん。

 

 

 

「比企谷君、みたいな、サーブ……」プルプル

ツボにハマったのか震えながら必死に笑いをこらえる雪乃。

 

 

 

 

(何かナチュラルにけなされてる気がするんだけど……)

絶賛活躍中の八幡だったが、何故かその気配を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

「ドンマイ飯山」

稲村がショックを受けてる飯山を励ます。

 

 

 

「ああ、まさかジャンフロまで打ってくると思わなかった」

ため息を一つつく。

 

 

「あの先輩、何者なんですかね……」

ただの経験者の動きじゃない、それは経験の浅い温水でも感じ取れた。

 

 

 

「それより飯山、お前はタッパあるんだからジャンフロなら前詰めてオーバー(オーバーハンド)で捕ればいいだろ、最悪後ろに思いっきり逸らさなきゃいいんだから」

無回転系は下手にアンダーで捕ると難しいのでオーバーで捕る人が多い。

 

 

「自分もそれならカバーに入れます」

 

 

 

「わかった、次はそうする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、よく3年振りで打てたな」

 

 

 

「体が覚えていたみたいだ」

 

 

 

「比企谷先輩、次もサーブガンバです!」

八幡にボールを渡す。

 

 

 

「あんま期待すんなよ」

期待されるとミスした時に気まずくなる、それが彼の経験から導き出した結論。

 

 

 

 

 

再びエンドライン後方に行きボールを打ち付ける。

 

 

(さっきのを見る限り飯山は見た目通りサーブカットが苦手と見た、稲村や温水はまだ未知数……)

次の選択肢を頭に浮かべる。

 

 

(あの手で行くか)

 

 

 

笛が鳴り先ほどと同じルーティンからトスをあげる。

 

 

打つ瞬間、手首の力を弱め振りぬかずミートさせやや高い弾道。

ネットギリギリに落ちるフェイントのようなサーブ、飯山と温水の間を狙う。

 

 

 

 

「!」

ジャンフロが来ると思ってた飯山は咄嗟の事に対応できない。

 

 

 

(この性格の悪いサーブ懐かしいな)

清川は八幡のプレーを思い出す。

 

 

 

「さすが比企谷君、せこいわ……」

雪乃も思わず呟く。

 

 

 

「くっ!」

セッターポジションにいた温水が何とか反応しボールをアンダーで拾う。

 

 

 

(あいつ、咄嗟の事にもちゃんと反応したな)

相手コート全体を見渡しながら、自分のポジションに戻る八幡。

 

 

「飯山さん!!」

温水は飯山にカバーを求める。

 

 

「稲村!!」

ライトに向けてオープンのトスが上がる。

 

 

 

長身の長谷がブロックに向かう。

 

 

(トスはライトのアンテナより奥に向かう軌道でネットに近い、ストレートはかなり打ちにくい、長谷もその辺考えてかしっかりブロックのコースをレフトに誘導してる)

プレイしながらも八幡は部員一人ひとりの動きを把握し頭に入れる。

 

 

(1年生が経験少ないながらもしっかり動けてる、指導者いない中でよくここまで育ったな)

 

 

(とりあえず今俺がするのは、ブロックカバーもできる位置でボールが来たら拾い、七沢がカットしたらそれをトスだ)

 

 

 

ライトのトスに合わせ稲村が横から助走に入る。

 

 

(打ち分ける技術があってもあの位置じゃストレートはない)

 

 

稲村は勢いよく跳ねクロスに腕を振りぬく。

 

 

 

 

バシッ!!!!

 

 

 

 

(ウソ!?)

 

 

 

確かに彼はクロスで振りぬいた、だが決まったのはライトからのストレート。

 

 

 

 

「どういうこと?」

自分の理解を超え、さすがの八幡も動揺する。

 

 

 

「あれが、稲村の得意技だよ」

やられたという顔をしながら七沢が説明する。

 

 

「得意技?」

 

 

 

「あいつ自分でクセ玉にしてそれコントロールしてるの」

 

 

 

「まじで?」

何それチートじゃんと八幡は思う。

 

 

 

「その代わり威力がかなり落ちるから、フェイントみたく奇襲技として使う感じになるのが難点、コースがバレたら意外と拾われるし」

稲村が手首をヒラヒラさせながら言う。

 

 

 

「いや、それかなり使えるだろ」

 

 

(実際これは使い方次第でかなりの戦力になるな、クイックやブロードにまぜるだけで幅が広がる、ちゃんとしたセッターがいてサインにコースも決めれば相当な武器に化ける)

勿体ないな、と小さくつぶやく。

 

 

 

(とりあえず、稲村はチェックだな)

要チェックや!!とノートに書くわけではないが、守りの選択肢を増やすことにするよう頭に入れた。

 

 

 

 

 

再びセッターポジションに入る八幡。

 

 

(長谷はブロックは良かったがスパイクはどうなんだ?試してみるか。)パパッ

ライトオープンのサインを向ける。

 

 

Bチームのサーバーは先ほどスパイクを決めた稲村。

 

 

 

(どんなサーブがくる?)

 

 

 

ドンッ!!

稲村はエンドラインから離れかなり離れフローターのサーブを放つ、そのサーブは先ほどの八幡のサーブよりも早い弾速、奇妙な回転でコートに向かう。

(何だあのサーブ?)

 

 

向かった先は長谷と七沢の間。

 

 

「七沢!!」

八幡は七沢に取るよう指示。

 

 

「任せろ」

七沢はアンダーで拾うがアウトコースに弾かれる。

 

 

(七沢がミスだと?)

弾かれた瞬間、無意識に体がカバーに向かい走り出す。

 

 

 

「すまん!!」

 

 

「大丈夫だ!!」

 

 

 

カバーに入った八幡はボールを追い越す。

 

 

「ああっ!」

ミスだと思った結衣が声を上げる。

 

 

 

「ライト!!!」

八幡はそのまま勢いをつけて跳び、ボールが自分の頭上を通過する寸前で合わせ、バックトスをライトに向ける。

 

 

綺麗なライトへのオープントスが上がる。

 

 

 

「「「うそぉぉぉん!!!」」」

Bチームの声が揃う。

 

 

 

(すごいトスだ、何なんだこの先輩!?)

トスに合わせ助走をつけ跳ぶ。

 

 

(さすが長身、打点が高い!!)

着地し振り向き、すぐさまコートに向かう八幡。

 

 

バシッ!!

長谷がスパイクを放つ。

 

 

「やらせるか!!」バン!

レフトにいた飯山が走り込みワンレッグで跳び長谷と同じ高さでブロックする。

 

 

「ワンチ!」

 

 

※ワンタッチの略

ブロックで触れた場合、味方にカバーしてと頼む時ワンチと伝えたりします。

 

 

 

稲村がカバーに入るがギリギリ届かない。

 

 

 

ピィィィ!!

Aチームに得点が入る。

 

 

「なんだよあのブロック……」

長谷のスパイクの高さと腕の振りはかなり良い部類だった、だが飯山はそれを片足で跳んで合わせ止めた。

 

 

「飯山のフィジカルは部でダントツのナンバーワンなんだ。」

戸惑う八幡に七沢が声をかける。

 

 

 

「お前よりか上なのか?」

 

 

 

「と言うより、フィジカルなら俺三番目」

相手コートを見ておどけた仕草をとる。

 

 

 

「バレー部少数精鋭かよ……」

半分あきれ顔の八幡がつぶやく。

 

 

「だから言ったろ“お前が欲しい”って、普通の数合わせじゃついて来れないの」

七沢はホラねとドヤ顔を八幡に向けながら言った。

 

 

 

一方のBチーム

 

 

「あいつ、経験者ってレベルじゃねえぞ……」

 

 

「というか崩しても関係なくトス上がるから、チャンスのハズがスパイク飛んでくるとか厄介だな」

 

 

「なんで比企谷先輩あれでバレー部じゃないんですかね……」

 

 

 

 

八幡以上に困惑していた。




次回は3対3決着の予定です。

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