俺の青春がスポコンになるなんて間違っている。 作:nowson
今回は文章短めですが、キリよかったのでここで切ります。
3年前
中学地区予選決勝
清川・七沢の中学と比企谷八幡の中学が試合をしていた
1セット
21-25
2セット
30-28
現在
21-15
点差こそまだ追いつけるかもしれない点差だが、セッターである八幡は焦っていた。
Wエースによる、どのローテーションからでも点が取れる七沢達に対し、こちらは3年のキャプテンを除くと相手ほどの決定力が無い。
そして、そのキャプテンは2セット目で勝負を決めるべく、前衛でのプレイだけでなく後衛の際のバックアタックなど、フルで動いた為疲労が出てプレイに精彩を欠き始める。
しかし彼以外はどうしても決定力が弱く、その彼もローテーションで後ろに回る。
バックアタックは通常のスパイクに比べ消耗が激しく、今の彼には多用できない。
流れはすでにあっち、このままでは負ける、そう感じ取った彼がとった選択。
ギリギリをつくようなトスワーク。
時間差や平行トス、クイックを相手の状態を見極めたうえで瞬時に判断してトスを上げる。
それにより相手のリズムを狂わせ単調にさせる。
いくら相手がエースでも単調になった攻撃の場合、ブロックでコースを絞れせれば守りやすさが変わってくる、そして自チームのリベロなら拾える。
何より、このまま続けばどの道ジリ貧で負ける、彼は賭けに出た。
しかし結果は上手くいかなかった。
ギリギリをついたトスワークはアタッカーも打ちにくく精神的な消耗も激しい。
点自体は入ったものの、試合に負けるかもしれないと言う、精神的な余裕の無さからかミスが連発し相手にも点が入る。
その結果冷静さを失ったアタッカー達はさらにミスを重ねる。
そしてアタッカーの怒りの矛先、それが八幡に向かった。
「お前!さっきからなんてトス上げてんだ!!打つ身にもなってみろ!!」
八幡の胸倉をつかむチームメイト。
見かねた監督はタイムアウトを取った。
「なんで、ギリギリなトスワークばかりする?」
「現状を打破するためです、このままだとジリ貧で負けます」
「お前!俺が弱いってことか!?」
チームの状態は最悪なものとなる。
監督はここで悩む
八幡をこのまま出して賭けに出るか、外してパスワークが苦手だが味方の打ちやすいトスを上げる控えセッターを出して空気を変えるか。
監督は後者をとった。
正攻法だけじゃ通じない相手に対し、八幡がいたからここまでできた、その彼がコートを去る、それはチームの負けを意味した。
その後、流れを掴むことができず試合は25-19で敗れた。
八幡にとっての不幸はここからだった。
学校内で奴のせいで負けたと、部員が愚痴を言った場合、中学というまだ心身共に成熟していない年頃にとって、近しい友人の話は間違いであっても正解として認識される。
学内に広まる彼に対する悪意と噂、そんな中バレー部が彼に下したのは無期限の休部……事実上の退部であった。
そして彼は自らバレー部を辞め、噂が沈静化しても二度とチームに戻ることはなかった。
ちなみに、三年が引退で抜け、中心選手の八幡が辞めたバレー部は長期低迷することになる。
「……俺がバレー部なわけないだろ」
放たれたボールをキャッチする。
「いや、壁打ちの時点で明らかに素人の動きじゃなかったから」
「俺は一人で野球ができる男だ、壁打ちなんて造作もない」
「お前、気付いてなかったかもしれないが、試合の時あきらかにバレー知ってる奴の動きしてたからな、カバーとかポジショニングとか」
「……気のせいだ」
「何より、俺が戸塚に向けて打った天井サーブをお前無理矢理奪ってトスで上げただろ」
「やっぱりあの時戸塚狙ってやがったな!!ぶっ殺すぞ!!!」
「話をそらすな!問題はお前がトスで上げた事だ」
「?」
「球技大会とかでもそうなんだが、天井サーブってバレーボーラーにはただのチャンスだけど、素人には超絶難しい魔球なんだよ」
「……」
「球技大会だと、さすがにジャンプサーブやコーナー狙いのフローターでやると顰蹙かうから、高くして緩いフローターとか天井サーブやるんだけど、みんな見事にレシーブで取ろうとして失敗すんの」
(どこの誰かさん、体育の時普通のフローターで無回転とかやってたよね?)
「だけどお前はトスで、それもホールディングギリギリにキープしてワザと相手コートのコーナーに返した」
「まあ、他にも直上トスとか色々あるが、さっきのパスの前のアップ、ナチュラルにやりすぎ、経験者でもなきゃあんな自然にはできないわ」
(マジで?言われてみると心当たりありすぎる……)
「ネタは挙がってるんだ、さっさと白状した方が身の為だぞ」
どこかの刑事ドラマみたいなセリフを吐く。
(白状するしかないか……)
「ああ、やってたさ!てか中2の時、決勝でお前と試合したからね!覚えてないと思うけど」
「うそ!?そんな目の腐った奴いなかったぞ……」
驚愕し目を見開く
「昔は今ほど腐ってなかったんだよ!」
七沢は少し思案し当時を思い出す。
「もしかして、あの性格悪いトスばっか上げてたセッター?」
「そうだけど、性格悪いってなんだよ、せめてしたたかとか言い方あるでしょ」
「試合開始と同時にツーアタック(セッターがトスを上げずにそのまま相手に返す攻撃)かましたり、ホールディングギリギリからのクイックとか他色々、性格悪いのにじみ出てたし」
「勝つためにしただけで性格とか関係ないから、トスワーク重視のセッター皆性格悪くなっちゃうから」
そう、つまり俺は普通だ、八幡は自分の心でそう言い聞かす。
「いままで試合してきたセッターでお前が一番イヤらしかったがな……」
「でも、敵だとムカつくけど、味方だと頼もしい!」
「……」
「本当はバレー部に入って欲しいが、ひとまず練習試合までの間よろしく頼む!」
七沢が八幡に手を差し出す。
「あんまり期待すんなよ、3年のブランクはデカい」
ブランクあるのに活躍した人間なんて“炎の男みっちゃん”くらいだ。
そう言いながらも八幡はその手を握り返す。
後に彼らが総武高校二枚看板として旋風を巻き起こすことになる。
のは不明だが方やエースとして歩んだ男、方や司令塔として挫折した男。
二人の男が一つの目標に向け手を組んだ瞬間だった。
次回からバレー部と八幡の顔合わせからの……を書く予定です。
オリキャラ設定など実は細かいとこ決めてないので更新遅れるかもです。