魔法少女なゼロ!   作:千草流

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第四話

ルイズの故郷であるハルケギニアと地球の近世ヨーロッパは技術や文化という点において非常に似通っていた。尤も、メタな事を言ってしまえば、『ゼロの使い魔』というライトノベルのモデルとなった物が、近世ヨーロッパの物語であったので、似通っているのは当たり前なのだが、それは置いておこう。

 

しかし、ハルケギニアには中世ヨーロッパには絶対になかったモノが一つあった。すなわちそれは『魔法』である。

 

魔法の存在は非常に強大であった。これにより生まれた違いの中で最も大きな影響があったのは、貴族のあり方の違いであった。革命の波が静かに押し寄せて来ていた中世ヨーロッパとは違い、ハルケギニアでは魔法を持つ貴族に対抗出来ない平民が多く、とてもではないが革命など無謀な事であった。

 

勿論、魔法の存在による違いはそれだけではない。水を扱う事を得意とし、水を操り、水の流れを感じるとることが出来る水メイジの存在による衛生観念の違いがあった。彼ら水メイジは人体の水の流れを読み、そこに澱みがあれば人体に不具合が生じることを知っていた。そのことから彼らは人体の中の水だけでなく、全ての水に関して澱みは身体に悪影響を与えるという、漠然としたものだが効果的な衛生観念を持っていた。

 

中世ヨーロッパにおいては、一部の貴族の邸宅や教会などを除いてはトイレは少なく、下水整備も不十分であったので、多くの人間は携帯トイレやオマルのような物に糞尿を溜めておき、ある程度溜まると街道に用意された水路に捨てていた。

 

ハルケギニアでもかつて、同じような整備がされていたが、水メイジの特に医療に携わる者たちの、水の澱みやべえ、の一言によって、土のメイジも巻き込んでかなり大規模な下水整備がなされた。これにより貴賤を問わず衛生観念が発達し、裏通りなどの整備が行き届き難い場所や、都市から離れた小さな村々以外では、地球の現代日本程ではないがトイレの文化が発達した。

 

そのトイレであったが、発達したといっても精々が個室の中に穴と終わったあとにお尻を拭くための布切れや藁が置いてあるもので、穴はそのまま、地下を流れる水路に繋がっているシンプルなものであった。トイレに並々ならぬこだわりを持つ現代日本とは比べものになるものではなかった。

 

特に紙といえば羊皮紙であり、現代日本のお尻に優しいトイレットペーパーなんてものがあるはずも無かったので、一般的には布切れや藁であったが、一部では手で拭いてその手を後でまた洗うようなところもあった。

 

これもあまり衛生的なことではないだろうと考えていた水メイジもいたが、高価な紙で拭くわけにもいかないし、まさか始祖より賜った魔法を尻を洗うためだけに使うのもはばかれるし、これくらいはまあ仕方ねえか、という結論に至っていた。

 

しかし、これに我慢が出来ないと思った人間が、おそらくハルケギニアでたった一人だけいた。

 

ハルケギニアよりも遥かに発達した文明を持つ地球の中でも、殊更トイレに関するこで妥協を許さない日本という国で、ふんわりと優しいトイレットペーパーを使い生活していたルイズにとって、ハルケギニアのトイレ事情は許せないレベルであった。

 

ルイズがハルケギニアに帰還するに当たって、最も惜しんだのは地球で出来た友人や知人との別れであったが、その次か次の次くらに惜しんだのはトイレであった。地球でいつものようにトイレに入った時に、ふとハルケギニアに帰ってしまえばこのトイレともおさらばであることに思い至り絶望していた。それ程までにルイズは地球の日本のトイレを気に入っていた。

 

そこでルイズは考えた。まず便器であるが、これはある程度形のイメージさえ出来れば土メイジにより、形と材質程度であれば模倣も可能だろうということ。そしてルイズにとって最も大切な事であるトイレットペーパーであるが、これも模倣は可能かもしれないが地球産の物をハルケギニアでも作ったならば、きっと金と同程度の価値を持ったペーパーが産まれるだろうからコスト的によろしくない、仮に大量のペーパーを土産にしたところでいずれは無くなってしまう。

 

ならばどうすればいいのかと、考えに考え抜いた末にルイズは紙は諦めるという結論に至った。しかし、それはトイレの快適性を諦めることとは同義では無かった。確かに紙はない、だがそこは変態技術国家日本、トイレに置いて最先端かつ偉大なる発明があった。それを紙の代わりルイズは持ち帰っていた。

 

ルイズが地球のことをつらつらと語りながら、持ち帰ったお土産などを披露しているとその道具は出てきた。見慣れない道具の数々に対してそれぞれに説明をしていたルイズはその道具に関しても勿論説明した。

 

時には関心し、時には驚愕しながらルイズの話を聞いていたヴァリエール夫妻であったが、その道具の説明を聞いた時には少しばかり眉をひそめた。理に叶った道具ではあるかもしれないが、果たして本当にそこまでする必要があるのか、という疑問によるものであった。それに貴族が大っぴらに話をするのは少しばかり問題のある道具であった。

 

両親の理解を得られなかったルイズは、それなら試して見ればいい、ということで実際に使用してもらうことにした。

 

では未知なる道具に初めて出会ったトリステイン人の反応を見てみよう。

 

まずは、主に何かあってはいけないからまず自分が試してみる、と言った執事長からだ。

 

「ふむ、こんな感じですかな」

「む、こ、これはこれはなかなか・・・」

「おおぅふッ・・・ふう・・・」

 

次に試したのは、男性と女性では感性も違うでしょう、ということで偶然近くにいたがために実験体にされた哀れなメイドである。

 

「えっと、こう・・・でしょうか・・・」

「ひゃっ!いや・・・や、やめて・・・」

「・・・・・・グスン」

 

そして次に試したのは、涙目になっていたメイドを見て恐ろしさを感じたが、ここで引いてはヴァリエール家の名が廃る、何より男として夫として妻を先に犠牲にするわけにはいかない、などと言ったヴァリエール公爵その人であった。

 

「こんな物がいったい何だというのだ」

「ふ、ぬう・・・こんな・・・ものに・・・!」

「ふふ、ふははは、最高にハイッてやつだぁ!」

 

そして最後はわれがヴァリエール夫人こと、烈風のカリンちゃんであった。いままでの3人の様子を見ていた彼女は手に持つ道具が、人格を破壊してしまう恐ろしい拷問器具に見えていたが、ワクワクと純粋な瞳で自分を見てくる娘の期待を裏切ることは出来なかった。

 

「・・・」

「くっ、あ・・・わ、私は、私はこのようなものに屈しないッ!」

「ああッ!始祖ブリミルよ!非力な私をお許し下さい・・・」

 

悲喜こもごも様々な反応を見れたルイズは大満足であった。そういえば私も初めて使った時はさっきのメイドみたいな感じだったわね、などとしみじみしながら自分のチョイスが間違ってなかったことを悟った。

 

そして地球の技術力の高さを十分に示し、よりスムーズに話を進めることが出来たことにより、地球という世界に少しばかり懐疑的であったヴァリエール夫妻を納得させることが出来たのであった。

 

その後、ヴァリエール家において一大トイレ革命が起き、そこらの安宿に泊まるくらいなら公爵家でトイレを借りたほうがいいとまで揶揄されるようになるのであった。

 

もう気がついてる方が殆どであると思われるが、ルイズが持って帰った最先端のトイレ道具とは携帯ウォシュレットである。決していかがわしいナニかではない。

 

因みに、巻き込まれたメイドから噂が広まり、ルイズ様は異国の拷問器具で人々を虐げる趣味があると、おかしな誤解を受けてルイズが凹むのはまた別の話。




エロいこと想像した人はカリンちゃんからのお仕置きが待ってます。

それにしても携帯ウォシュレットを交えて地球のことを語る話の筈がいつの間にか携帯ウォシュレット主体の話になってた。
T○T○は偉大と言わざるをえない

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