人間不信になった俺は魔法使いに出会いました(打ち切り) 作:”アイゼロ”
このシリーズ久しぶり。前回言った通り、時間をすっ飛ばしました。
それではご覧ください。
「おし、いくぞ八幡!」
「おう。いいぞ」
深い森の中、俺はシズク、リア、ジークに見守られながら、キリヤと互いに見合って対峙している。今は魔法の練習中だ。
「くらえぇ!」
すっかり炎と化したファイアボールが、勢いよく近づいてくる。
その炎に手を向け、自作魔法のメテスタを発動させた。俺の出現させた紫色のゲートに、ファイアボールが吸い込まれ、全く別の場所にゲートが現れ、ファイアボールが空の彼方へと消えていく。修行のおかげで俺の背中に当たることは無くなったのだ。
「やっぱすげえな。八幡のその魔法」
「おう。今じゃ3つくらい出せそうだ。キリヤも、あれはもう炎そのものだったぞ」
「まぁな。お前らと2年間修行したから、当然だろ」
キリヤ達と知り合って、早2年。現在は中学3年の夏。キリヤ達が通う中学校は本格的に魔法の訓練を始めているおかげで俺の知らない所でかなり強くなっていた。
「それにしても、2年たったんだね。早いなぁ・・・」
シズクが、物思いにふけながら、そう呟く。
こいつらと友達になって、2年。早いもんだな。今では、お互い冗談を言い合えるような仲にもなった。もちろん、魔法だって技も豊富に成長した。
ちなみに俺も色々習得したが、いちいち紹介せずに、日常生活で使うときがあった場合に説明します。
「ほっ、せいっ!とおっ!」
さっきから謎の声をあげている奴の正体はキリヤだ。あいつは、将来騎士になるために、剣の練習をしている。使っているのは木刀だ。
「ねえキリヤ。本当に大会でないの?キリヤなら結構いいところまで行けそうなのに」
「ああ。俺は、人と優劣をつけるために魔法や剣を扱ってるわけじゃないからな」
リアがキリヤに聞いていることは、この星で行われている、魔法で勝負をする大会の事だ。まぁ、よくある誰が一番強いかを決めるんだ。中学3年生から出場が可能らしい。
さっきも言ったように、キリヤは出る気もなく、その他も出ない。・・・だって結構痛い思いするし。平和が一番だもんなぁ。
「あ、八幡。この後森の魔草採取、一緒に来てくれない?」
「ん、またかシズク。いいぞ」
シズクはこの頃よく俺を魔草採取に同行させている。魔草というのは、超簡単に言えば魔力を宿した草。主に治療に使われて、調合などの工夫すれば、魔力が上がるとか属性効果の上昇など、様々な使い方があるのだ。
シズクはその調合師を目指しているらしい。まぁ、地球で言う薬剤師みたいなものだ。
「なんか、いつも俺を誘ってないか?別にリアとかジークでも」
そのジークとリアの方を見ると、俺の視線に気づいた2人は突然魔法で適当に遊び始めた。なんだ?衝動的に狂っちまったのか?ちょっと心配になってくる。
「い、いいでしょ!八幡の方が暇なんだから!ほら、行こう!」
シズクに顔を赤くされて、手を引っ張られてしまった。確かに暇だけど、そんなに怒らなくてもいいじゃん・・・。
◆
「気を付けろよ。また襲われると面倒なんだから」
「うん。ありがとう」
「一応《デテクション》をしてるから安心しろ。何かあったら呼んでくれ」
「分かった」
何でこんなに注意深くするかというと、中学2年の秋のころに、とある出来事があったのだ。
森の中で修行をしていたら、聞き覚えのある声の悲鳴バージョンが聞こえるではありませんか。行ってみると、バスケットを大事に抱えているシズクと、大きい熊型の獣。一目で襲われそうだと思える画が目に飛び込んできた。
《ダークチェイン》
新しく覚えた魔法で、その熊を撃退し、シズクを助けたのだ。ちなみに《ダークチェイン》というのは、その名の通り、鎖をつくり、対象の相手に巻き付かせ、そのまま縛り付けるか、《アブソープション》と組み合わせで、力を吸い取るか、という結構強い魔法なのだ。まぁ、速さは結構遅いから隙だらけなんだけど。
「おいおい大丈夫かシズク?」
「は、八幡?何でここに」
「あ?修行中に悲鳴が聞こえたから駆けつけただけだ。そしたら案の定」
「そっか・・・。ありがとう八幡」
「次からは気を付けろよ」
「うん」
とまぁ、そんなことがあり、それ以来俺がついていってる形だ。何でいつも俺なのかが本当に疑問。
・・・・ん?あ、シズクが向かった方向に獣みたいな反応があったな。行ってみよう。
「あ、八幡!こっち来て」
駆けつけると、集団の生き物が群がっていた。獣ではない、鳥類だ。
「八咫烏がこんなに・・・」
日本でも言い伝えられているカラス、八咫烏はここにも存在したんだ。日本神話において神武東征の際、高皇産霊尊によって神武天皇のもとに遣わされ、熊野国から大和国への道案内をしたとされるカラス。3本の足を持つと言われているが、こちらの八咫烏は4本足がある。
ソフィーラでは危険視されているという、闇系統をもった厄介な生き物らしい。噛みつかれたり、目を付けられたりすると、深い傷は覚悟しなくてはいけない。
けど、可笑しい。八咫烏はあまり群れをつくらない。それに気づいた俺は、少し近くで見ようと、八咫烏の群れに足を運んだ。だが、その瞬間、一斉に耳つんざくほど大きく鳴かれた。
当然警戒されるよな。けど、理由が知りたい以上無理してでも行かせてもらう。
・・・・っ!成程、そう言う事か。
「シズク、何か治療できるものないか?」
「それなら、この前調合できたものならあるけど。・・もしかして、怪我してるの?」
「ああ」
その通りだ。集団の中に一匹、深い傷を負った八咫烏がいる。見た所、まだ子供のようだ。周りの大人はこの子を守っていたんだろう。そして何匹か治すために飛んでいるという事か。
この子は仲間に恵まれてるな・・・。危険だろうが何だろうが、治さなきゃ俺の中にしこりが残る。
魔草から調合した治療液をシズクから貰い、八咫烏の群れに入る。
「あ、危ないよ八幡!」
「ほっとけねぇよ。見た以上な」
手を掴まれて阻められたが、優しく振り払い、八咫烏の群れに入っていった。当然、警戒心はMAXになり、中には攻撃してくる奴も。
「いってーな。落ち着け。治すだけだ。いやマジでいてぇ・・・」
言語は通じないのはわかっているが、こうやって訴えるしかないんだよなぁ。少し強引だが、おとなしくしてもらおう。
身体に力を入れた途端、ピタリと八咫烏は止まった。ちょっと闇のオーラを出しただけだ。怯えなくていい。
「お?治ったか」
治療液を塗ると、痛みで半開きだった眼は大きく開き、震えも止まり、立ち上がった。
「よし、これ食ってみろ。地球産だぞ」
おそらく野良猫とかにあげる人が多いんじゃないかと言われている、魚肉ソーセージをちぎって、与えた。非常食用に携帯してるんだ。ここ地球じゃないし。
・・・お、元気になったか。かあかあ、と元気よく鳴いてくれた。それに便乗して周りの大人たちも鳴き始めた。
シズクの所に戻ろうとすると、コートの端を引っ張られた。どうやらまだ何か用があるらしい。振り返ると、先程治した子供八咫烏を先頭に、大人八咫烏が横に並んでいる。やはりカラスは頭がいいな、と思っていると、子供が俺の肩に乗っかるように飛んできた。そして、艶やかな濡れ羽色の羽毛で俺の頬に擦り擦りと、甘えてきた。
「なんだ?俺と一緒に行きたいのか?」
俺がそう聞くと、かあ!と力強く鳴いた。大人たちの方を見ると、俺に訴えかけるように鳴き始めた。
・・・全く、何が危険視された生物だよ。案外いいやつじゃん。
「じゃ、一緒に行くか。八咫烏」
「かあ!」
子供八咫烏がついていくことになった。ポケモントレーナーになった気分だ。いいんじゃないか。闇系統特化の俺に、八咫烏。中々良い。
「じゃあ、お前らも気を付けろよ」
八咫烏に別れを告げ、シズクのもとに戻る。
「凄いなぁ、八幡・・・。八咫烏をなつかせるなんて・・・」
八幡を見るシズクの目線は、どこか熱く、尊敬の意が込められていた。
「助かったシズク。ありがとな」
「ううん。役に立てたならいいよ。でも、凄いね八幡」
「そうか?怪我してたからほっとけなかっただけだが」
「謙虚だなぁ。・・そこもカッコいいけど」
ん?急に声がぼそぼそと小さくなったぞ。全然聞き取れなかった。
「魔草採取、続けるか?」
「もう日が暮れてきたし、今日はやめにする。キリヤ達の所に戻ろう」
◆
「わりぃ、遅くなった」
「おう八幡。問題ないぜ・・・・って、八咫烏!?」
俺の姿を確認するや否や、肩に乗っている八咫烏に驚き、目を見開いた。
「あー、落ち着け。害はない。今日から俺のペット?になった」
リアがキリヤに続く。
「で、でも八咫烏って、危険で誰にも懐くことないのに・・・」
「っ!」コクコク!
3人共混乱しているため、俺とシズクで一から順に説明した。
「へぇ、すげぇな八幡。・・名前とか決めてんのか?」
「いや、決めてないが」
そうか。名前か・・。ペット枠に入るだろうから、何か名前付けてあげた方がいいだろう。呼びやすいし。
八咫烏だから・・・・・・・。全然浮かんでこない。もっと視野を広げよう。例えば、英語とか。
烏は英語でクロウ、八咫なんて英語は無い。という事は、闇系統から、ダーク、シャドウ。
・・・・クロウでいいや。
「決めた。こいつはクロウだ」
「クロウ、か。英語そのままだな」
「安直だけどいいね」
「英語?」
「?」
我ながら、簡単な付け方だが、皆もこのクロウも納得してくれたみたいだ。リアとジークは英語を知っていないらしい。
・・・・ん?あれ?おかしいぞ。
「何でキリヤとシズクは英語知ってるんだ?」
「え?・・・あっ!やべ」
「た、たまたまだよ!うん、そうなんじゃないかって思っただけ!」
「・・・そうか」
なんて、納得するほど俺はちょろくない。だが、隠したいことがあるんじゃないかと察したため、あえて追及することはしない。
◆
クレアの家に帰ると
「や、八咫烏!?ど、どうして!八幡危ないよ!」
案の定、驚かれた。クレアの焦り具合結構面白かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
バトル描写はあんまり書きません。日常生活で魔法を使っていく物語にしています。
また次回。