水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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今回は触手が仕事しません。あ、大丈夫ですよ。ASTの皆さんが出たら猛威振るいますんで。

ASTとか鴨が葱背負ってきたようなもんですから。

あと今回は少なめ。前回が多すぎたんや………。

と言うわけで、第二章:四糸乃編スタートです。序盤のうちは慎重に………。


第二章-四糸乃パペット-
Date.8「変態殺しの四糸乃」


  五月。新年度より一月が経ち、新しい環境に慣れた人々がちょっとずつダレる頃。

 

  雨だ。今日は雨が降っている。そこそこ大降りだ。

 

  公園には雨を凌ぐ場所はあんまり無い。屋根の付いてるベンチか、或いは砂場に鎮座するコンクリート製の山のトンネルの中しかない。

 

  子供の頃は、このデカイコンクリートの山で一晩過ごすのに憧れた時期があった。

 

  で、その夢がまさかの現実となった今の色無誠さんは、と言うと。

 

  今日も一人で自己発電、あ、いや、自己啓発をしております。あぶねぇあぶねぇ、何賢者タイム報告しようとしてんだ。アホか。今はしとらんわ、今は。柔らかくそして湿っていた(ソフトアンドウェット!!)!!濡れてるッ!!

 

  まあ、あれだ………このコンクリの山、俺の城になってんのよ。ビニールシート敷いて、山の穴は触抱聖母の水で埋めてるから、雨に濡れる心配なし。

 

  何ということでしょう!スマホでラジオ聴きつつ、図書館で借りてきた本を読める快適空間が出来上がっております。しかも防音仕様。精霊レベルの聴覚でもない限り音漏れ無し。

 

  占拠してて良いのかって?晴れの日ならともかく、流石に今日は子供来ないでしょ。だって今日雨だぜ。かの南の島の大王の御子息も仰有っておられる。『雨が降ったらお休みだ』とね。

 

  もっとも、これは狂三対策も兼ねてる。流石に士道先輩をいきなり襲った件は気にしている。いつ来るとも分からないからな。これなら、山ごと破壊しない限りは先手は取られないって訳よ。

 

「………………。」

 

  あ、そうそう。遂にこの間、高校一年の指導要領相当の本は読み尽くしてしまった。だって暇なんだもん。皆いつも来る訳じゃないし。今は横山三国志読んでる。げえっ、関羽!?

 

  士道先輩は言うまでもなく、学校。この公園は五河家とまさに目と鼻の先にあるので、おにぎりとかたまに差し入れしてくれる。あんたが神か。

 

  十香は人間としての戸籍を手に入れ、来禅高校に転入して士道先輩と同じ授業を受けてる。こないだ、今日みたくまったりしてたら「因数分解とやらが解らん!!」と十香が駆け込んできてビビった。士道先輩に聞け。ちゃんと教えたが。

 

  琴里司令は中学と〈フラクシナス〉のダブルワークだから、まぁ忙しそう。一昨日メールで『神無月を黙らせる方法を五つ挙げなさい』って無茶ぶりが来た。司令、無理っす。あいつは死んでも「私は死にましぇーん!!」と甦るだろう(白目)。

 

  鳶一先輩は………。学校とASTの訓練の合間に、週二ペースで乾パン持って現れる。音もなく背後に現れるのは慣れないが、気にかけてくれるのはありがたい。世間話をし、去り際に「気は変わった?」と毎回聞かれるが、いつものパターンだ。取り敢えず今の俺は、公園に来る子供達を守る『公園のお姉さん』で満足してると答えている。

 

  まあ、皆それぞれの生活があるわけだ。凄まじく暇してるのは俺だけ。怠惰を貪り、それにすら怠惰して本を読む日々。

 

「………………。」

 

  ところで、さっきから〈触抱聖母(アルミサエル)〉の水壁越しに俺を見ている人影があるんだが。見た感じ、子供だよな。

 

  来ちゃったよ、子供。余裕ぶっこいてた俺を殴りたいね。音は抑えた筈。触抱聖母がバレたか?

 

  ………待った。

 

  この子傘差してるか?差してないよな。ウサギの耳みたいな飾り付きの緑色のフード付コート着てるけど、雨宿りか?

 

「………………。」

 

  おおう。警戒されてる。顔を半分くらい覗かせてえらい警戒してる。そんなにイカ臭いか?いや、俺は女の身体だった、それはあり得ん。

 

  よし。

 

「どうしたの?」

 

「………………ッ!?」

 

  触抱聖母を部分的に解除して、彼女を迎え入れる格好を作る。が、ビクンと肩を飛び上がらせ、儚さを漂わせる青い瞳に怯えの色が混ざる。見つかった!とか、逃げなきゃ!とか思ってる奴だな。どこぞの蛇が見付かった時の音が幻聴で聴こえたぞ。

 

  オーケイ。君はすっさまじく人見知りなんだね。了解。

 

  ところで触抱聖母越しだと気付かなかったが………。君、そのコート凄いな。濡れてない。

 

  ………濡れてない?

 

  ん!?明らかにそれレインコートじゃないよな!?しかもインナーガッツリ見えてるけど、同じく濡れてない。

 

  そして、俺の霊力で充たされてた空間に流れ込む、俺のではない霊力。

 

  間違いない。彼女は精霊だ。あら、随分小さくて可愛らしい精霊もいるのね。子供は好きだぜ、俺。もちろん性的な意味じゃ無く。………いや、小さくてもイケるか?

 

「君も精霊なんだね。俺もだよ。おいでおいで」

 

  同族だとアピール。これでどうだ?少しは警戒心を解いてくれないかな。結果的に触抱聖母見せてたから、少しは行けるかと思うんだが………。

 

「………………!!」

 

『やー、お仲間と会うのは初めてだねぇ。いいんじゃない?』

 

「……でも…………」

 

『よし、じゃあよしのんにまっかせなさい!!』

 

  お、パペットしてたんだ。ちびっことパペットが何やら会話している。それにしてもパペット操ってると偉い軽い調子で話すなぁ。こう、電話だと強気になるとか、メールだと文面絵文字だらけの男子とかと近いものを感じる。

 

『やっほーおねーさん。お邪魔するよ?』

 

「おう、いらっしゃい。靴は脱いでね」

 

『たっはー!砂場でジャパニーズハラキリカルチャーを要求されるとは思わなかったなぁ』

 

「違いないけど、ハラキリは違う」

 

  ちびっこ精霊を招き入れたが………ああ、いつぞやのおっちゃんを思い出すやり取りだぜ。そういやおっちゃん昇進したらしい。おめでとうおっちゃん。

 

  さてと。ファーストコンタクトはまあ成功、か?

 

『おおう、おねーさんなかなか良いとこに暮らしてるね』

 

「キッチン風呂無し家賃無しの一部屋って素敵じゃない?」

 

  このコンクリ山、中が案外広いもんで、身長170台の俺が寝そべってる所にちびっこ精霊が一緒に入っても余裕がある。良物件だぜ。公共の場所だから、俺が使えるのは雨の日か夜限定だけど。

 

「さて、それじゃ早速自己紹介と行こうか。俺は色無誠。この公園でのらりくらり生きてる精霊だよ。因みに元男でーす」

 

  定番の挨拶となりつつある元男宣言に、ちびっこ精霊のパペットが大仰に驚く。

 

『ファッ!?おねーさんはおにーさんだったのかっ!?いや、今は女だから、おにねーさん?』

 

「おにねーさんは止めてくれ、何か鬼って言われてるみたいだ」

 

『おおう、じゃあおねにーさん?』

 

「オナニー?」

 

『何言ってんの変態おねにーさん』

 

「照れるね」

 

『オッケー出ちゃった!?』

 

  パペットが引いているが、ボディのちびっこ精霊はポカンとしている。多分イマイチ分かってない。綺麗なままの君でいて。ソノーマーマーデイーイー('A`)

 

『ま、まあ、気を取り直して。ボクはよしのん。変態おねにーさんがいたのに気付いたから、つい来ちゃったんだ』

 

  どうやら渾名は変態おねにーさんで決定のようです。

 

「へえ。あ、よしのんも氷砂糖食べる?サクマドロップもあるよ?」

 

  俺は乾パンの缶を取り出し、中にある角砂糖を一つ口の中に放り込みつつ、よしのんに勧める。

 

  小さい子を落とす常套手段。必殺奥義〈餌付け〉。ある程度会話した所で、話の茶請けとしてお菓子を取り出す。自分も同じものを食べつつ、()()()食べる?と聞くこと。

 

  知らない人からお菓子貰っちゃダメとは言われるが、相手も同じ物を食べてると油断する。

 

  フッフッフ………このために乾パンの氷砂糖を二十個程食べずに温存していたのだ。ちびっこ対策にな!!鳶一先輩マジダンケシェーン。

 

『だってさ、四糸乃。どうする?』

 

「う、うん………………………………………た、食べて、いいですか?」

 

  本人が口を開いた。いや、パペットも本人か?そして────()()()?よしのんと………四糸乃?

 

  ああ、パペットがよしのんで、本人は四糸乃って名前なのか。なるほど。さっきまでずっとパペットにご挨拶してたのか俺。どんだけ怖がられてんだ。

 

「いいよ。ほら」

 

  四糸乃が恐る恐る角砂糖に手を伸ばす。いや、よしのんの口を伸ばす。

 

『とったどーーーっ!!』

 

  何処かのゴールデン番組のノリでよしのんが叫ぶと、四糸乃は手を引っ込める。パペットの口から角砂糖を受け取り、まじまじと角砂糖を見つめる。

 

  ああそうだ。先に言ってあげないと。

 

「硬いから、口に含んで舐めるんだよ?」

 

「………………………。」

 

  震えながらこくんと頷くと、四糸乃は今からガン手術でもされるのかと言うくらいの真剣な瞳で角砂糖を見つめる。俺角砂糖がこんなにビビられてるとこ初めて見たわ。こう、背後に┣"┣"┣"┣"┣"って劇画タッチで浮かび上がってる感じ。

 

  数十秒躊躇い、遂に四糸乃は意を決して、ぱくん。角砂糖を食べた。

 

  直後にカッ!!と目が見開かれる。フリーな右手の親指を立て、こちらにグッと見せてくる。気に入ったらしい。やったぜ。完全勝利した四糸乃ちゃんUC。君もうちょっと拳高く掲げてみ?脇が見えるくらいに。つよそうだゾ。

 

「………あの………あ、ありが…………とう……………ござい……………ます」

 

  ちょっと打ち解けてくれたらしい。ふるふる震えながらも、瞳からもっと欲しいなーという子供特有のキラキラした欲望と、けど言い出せないなーという慎ましさを感じる。君は実に良くできた子だ。たんとお食べ。

 

  缶ごと渡してあげると、遠慮がちに角砂糖を口に運んでいく。そして、にこっ。小さな幸せを噛み締める笑顔が溢れる。

 

  うっ。

 

  うおお、あ…………。

 

  あ"ぁーー四糸乃が可愛くて下腹部が全く濡れないんじゃあーーー(浄化)!!

 

  何か久し振りに来た孫を甘やかしちゃうお爺ちゃんお婆ちゃんの気持ちが分かった。何この可愛い生き物。世界遺産にしようぜ。クッソ、何なんだこれは。対変態用最終必滅兵器かコノヤロウ!!

 

  四糸乃に見えない所で、爪が肉に食い込みそうなほど拳を握り締める。いかん、自制せよ。今にも左手で四糸乃をロックして右手で無限ナデナデしてしまいそうだ。静まれ左手。右手で左手首を拘束。その為の右手。

 

「あっ」

 

「ん?」

 

『あちゃー………ごめんおねにーさん!四糸乃が全部食べちゃった!メンゴ!』

 

「あらら」

 

  唐突に、よしのんが手を合わせて謝るポーズをする。俺が意識を逸らしてる間に氷砂糖十九個をペロリと食べちゃったのか。あっ、涙目になってる。

 

「ご、ご………ごめんなさ…………」

 

  怒られると思ったのか、最高潮に震え出す四糸乃。君身体の中にモーター何機か積んでない?

 

  ん?モーター?体内!?濡れるッ!!いつもの調子が戻ってきt四糸乃が可愛いんじゃぁーーーー!!ぬわーーっ!!

 

  ひっ、ひっ、ふぅ…………よし、落ち着いたぞ。黙っていることで四糸乃をこれ以上怯えさせるのは忍びない。何一つ怒る要素なんて無いんだ。

 

「全部食べてくどくなかった?大丈夫?他の食べる?」

 

  The 大人の対応。変態舐めんな。変態は紳士だからな。これくらい容易いことよ。

 

「えっ………、え………?」

 

「怒ってないよ。おねにーさんはお友達が欲しいんだ。四糸乃と会えて嬉しいからね。それは俺が四糸乃にあげたんだ。気にしないでいい」

 

  スッと手を出し、四糸乃の頭を軽く撫でてやる。見よ、我が理性。左手で太股つねってハグしたい衝動耐えてるんだぜ。ダメダメじゃねーか。

 

「んっ………」

 

『ぷひぃー、良かったね四糸乃。おねにーさんが優しくて』

 

「うっ、うん」

 

  すっかり身体の震えも治まり、よしのんと会話しながら胸を撫で下ろしている。まだまだぎこちないけど、ちょっとずつ心を開いてくれているんだな。

 

  四糸乃は、十香とは良い意味で正反対だ。十香は、人との繋がりを求めつつ、それを諦めた絶望型。四糸乃は、人と触れ合うことが怖いってタイプだ。警戒さえ解ければ、仲良くなれる可能性は高い。士道先輩にとってこれは良いことだろう。

 

  ………でもこの子とキスすんの?先輩。通報するよ?

 

『おねにーさん。今日はもう帰ろうと思うんだ』

 

  これから起こるであろう四糸乃と先輩のデートについて考えていると、よしのんが声を上げた。

 

「あ、そう?もっとゆっくりしてきゃいいのに。外、雨だし」

 

『いいのいいの、四糸乃雨好きだしさ。今日は急に来たから、また今度ちゃんと来ようかな、って』

 

  なるほど。よしのんも結構律儀な奴。あ、そうか、結局四糸乃だからかなり気が回るのか。デキル女だね。俺?ヤれる女?

 

「気にしなくていいのに。どうせ一人で暇だし」

 

『止めないでおくれおねにーさん。本音を言えば、初めて友達が出来て四糸乃が跳ね回りたいくらいはしゃいでるんだ』

 

「よ、よしのんっ!!」

 

『やめれやめれ、目が回るるるるる』

 

  顔を真っ赤にして左手をブンブン振っちゃってまあ可愛い。こんな子に友達だと思ってもらえるならサイコーだわ。とは言え、ちょっと急なことで舞い上がっちゃってるのね。じゃあ、四糸乃の気持ちを尊重しようか。

 

「四糸乃。雨の日ならいつもここにいる。晴れの日も、日が落ちる頃にはこの公園で四糸乃を待ってるよ」

 

「…………!!」

 

  こくんこくんと、首をどっか飛んできそうな程縦に振る四糸乃。ああもう可愛い。俺、今日からママ兼パパになります。無理か。じゃあ変態おねにーさんで。

 

「あ、の………!!」

 

「何?」

 

「まっ、……………また、来ていいですか!!」

 

  勇気を振り絞った一言。何て健気。俺は本当に四糸乃には全く下心が湧かない。

 

「いつでもおいで?」

 

  だから、目線を合わせて笑顔で返してあげた。俺に、それ以外に用意出来る返事はない。

 

「は、い………っ!」

 

『んふふ、おねにーさんもお人好しねぇ。嫌いじゃないよ。じゃあねーー!!』

 

「気を付けて帰れよー。変な精霊に声かけられても付いてっちゃ駄目だぞー」

 

  コンクリ山を出た四糸乃は、よしのんを着けている左手を掲げ、ちらちらと振り返りながら去っていく。よしのんが、器用にもこちらに手を振っていた。

 

  因みに変な精霊とは狂三のことだ。

 

『おっとぉ!じゃあ変態おねにーさんにも気を付けないとね!』

 

「泣くぞオラ」

 

  二人………いや、厳密には一人だけど、そう思えてしまう精霊の姿が見えなくなるまで、俺は見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シドー!この単語は何だ!むつかしくて敵わん!」

 

「辞書引け辞書!───ん?誠からメールだ」

 

「おお、何と書いてあるのだ!?」

 

「えーと………『先輩、もげろ』………?」

 

「何のことだ?」

 

「俺も知りたい」

 

 




子供には弱い誠であった。

この後めちゃくちゃお菓子買った。

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