そういえばよく総合評価が7.53になるんです。つまり名護さんであり、つまり最高。名護さんが触手である可能性が微レ存?
士道は焦った。
「シドー!デェトだ!デェトに行くぞ!」
昨日、十香とデートの約束をしたら、今日になって突然現れた十香にデートをするよう要求されたからだ。今は〈フラクシナス〉のサポートも無いにも関わらず。
「し、死ぬ…………脳味噌シェイクされて死ぬぅ………」
しかも、何故か今にも死にそうなほどぐったりとした誠を引き摺っていた。何があったのか想像したくない。
「誠に聞いたぞ!デェトとは、仲良くなるために遊びに行くのだろう?約束した通り来てやったぞ!さぁシドー!デェトだデェト!デェトデェトデェトデェトデェト!」
「ちょっと待てぇ!?連呼するな!」
周囲から、クスクスと奥様方の微笑ましいものを見ている笑いが漏れている。
幸いなのは、誠が説得したらしく十香が
頭が痛いことには変わらないが、士道は現状把握から始めることにする。
「十香、昨日はあの後どうなったんだ」
「ぬ?昨日か?」
「昨日はな、あの後誠がやって来たのだ!友達になったのだぞ!共にメカメカ団を相手取ったのだ!まあ、私が殆ど倒したのだがな!」
「た、倒したって…………鳶一は!?だ、
誰か殺しちゃいないよな!?」
士道の知る十香は、明らかにASTに対して明確な攻撃の意思を持っていなかった。それが、『倒した』と言われると、十香が戻れない道を歩み始めたように思えて恐ろしかった。
しかし、それは杞憂に過ぎない。
「あー、………先輩?死者は………出て………ない………です」
空気の抜けた風船、或いは綿の足りないぬいぐるみ。へにゃへにゃの誠が、力なくサムズアップした。
「お前が死にそうだよ!?」
「へ、へへへぇ…………司令のちっぱいが見える…………」
「人の妹で何て妄想してんだお前」
「お、お兄さん…………妹さんのちっぱいを下さい。先っちょだけでもいいんで」
「ゴーサイン出ると思うか?」
「ぐへへぇ…………司令のぱんつ何色?」
「お前実は元気だろ」
取り敢えず、士道の中で、誠を琴里に近付けたくないという思いが膨らんだ。それと、この会話を琴里達に聞かれてなくて良かったとも思った。
『私は赤の縞パンが良いかと思いますアイタァ!?』
『バ神無月は黙ってなさい』
『我々の業界ではご褒美でアイタァ!!二度もぶった!もう一回!!』
士道の想像の中の〈フラクシナス〉が騒がしい。きっと神無月が誠に共鳴して暴走する。この二人を組ませてはいけない(戒め)。可愛い妹のために。
一方十香は、地面に『ちっぱい』と書き遺そうとしている誠の頭をつついて、不安げに覗き込む。
「誠、大事無いか?」
「あるわ!ここまで来る道中ずっとお前に振り回された(物理)からよぉ!?吐くかと思った!」
「す、すまない………そうだ、キビダンゴがあれば百人力だぞ!」
「残念ながらここにはありません。てかどんだけ桃太郎気に入ったんだよ!?」
「うむ。桃太郎は日本の産んだ文化の極みだな!」
「お前それ桃太郎以外の本読んだ後でも同じこと言えんの?」
確かに仲良くなったようだ。桃太郎という単語が出てきたが、大方誠が読ませてやったのだと士道は把握する。十香が笑う姿を見て純粋に嬉しく思うと同時に、やはり誠に聞いた方が話が飲み込めるとも思った。
「誠、今どういう状況なんだ?」
「えーっとですね。先輩は昨日、十香とデートの約束したんですよね?」
「おう、したな」
「昨日十香との別れ際に、デートとは何かと聞かれたんで、『男女が仲良くなるために一緒に遊ぶ』ことだと教えたんです」
「うんうん」
「そしたら十香が一緒に行こうと言い出しまして、無理矢理連れてこられました」
「お前は泣いていい」
「あへぇ」
「喘ぐな」
どっちでもあんまり変わらない気がしてきた。
士道が頭を掻きつつどうしたものかと考えていると、ようやっと回復したらしい誠が立ち上がり、服の埃を払い落とす。
「取り敢えず士道先輩。もう男なら腹決めましょう。今日は先輩と十香でデートってことで。俺は帰ります」
「お前が腹決めてねぇじゃねーか!?」
「ま、誠!私と遊びに行くのは嫌か!?」
十香のうるうるおめめ!!こうかはばつぐんだ!!
「うっぐ………ち、違うんだ十香!デートは男と女、一対一で行くんだ。桃太郎みたいに皆で行くものじゃないんだ」
慌てて誠がフォローすると、十香は寝耳に水と言わんばかりに目をぱちくりさせる。
「何と、そうなのか!?ではあと一人男を浚ってくれば………!」
「さらっと恐ろしいこと言うな!くそ、どうするか………!!」
「───────あ。それだ」
誠が居てはデートにならない。かといって、誠を抜けば十香がデートに乗り気にならない。確かに変態ではあるが、誠を抜くのは気が引ける。堂々巡りする士道の思考がヒートアップ寸前になった所で、誠が手をポンと打つ。
「呼ぼう、今すぐ。追加で一人」
『は?』
◇
「シドー!何やらいい匂いがするな!これは何だ!?」
「パン屋だな。行ってみるか?」
「シドーが入りたいならば」
「入りたくてふるえる」
「ならば仕方無いな!うむ!」
先輩と十香は、上手く行ってるようだ。
で、俺が呼んだのはと言うと、だ。
「誠君!パン屋ですよパン屋!」
「閃いた!俺が、俺達が司令のパンを乗せるトレーだ!」
「では焼き立てのパンを直接我々が!?」
「そうだァ!ヨツンヴァインになるんだよ!直接肌に乗せるんだァ!」
「背中を焼くアツアツのパン!!熱を耐えるトレーは自然と歩みが遅くなり、司令にお叱りを受ける!!トングで叩かれ挟まれる!しかしどんなに痛くてもトレーは逃げられない!何故なら背中には司令のパンがッ!!ああッ!司令、お慈悲を!お情けを!!」
「何たる、何たる苦痛!!」
『だがそれがいいッ!!』
お分かり戴けただろう。
我がソウルヘンタイフレンド、
〈フラクシナス〉に、空間震無しで精霊が出現したとの報を送るついでに、俺が離れることを十香に納得させるべく、応援として送ってもらったのだ。
クルーの中では一番気が合い、尚且つ見た目は同じ金髪。兄妹で過ごしているようにも見えなくない。ダブルデートの形になるので、十香も文句無し。フラクシナスは現場フォローに入りやすい上、俺のデータ観測も可能。いいことずくめだ。
………変態がコンビを組んで過激さを増しただけとも言う。
『まあ、こっちとしては艦橋の環境が良くて助かるんだけど』
「流石司令、隙を生じぬユーモアセンス」
『主砲でぶっ飛ばすわよ』
「待ってます」
司令もあっさり承諾した。まあ、神無月の得意分野知らないけど、間違いなくまともな恋愛のサポートは出来ない。変態にゃ無理だ。
「士道君のことは司令に任せましょう。我々は、影から十香ちゃんをフォローすることです」
「うっかり十香が物を壊しちゃったら俺達が謝る、と」
「衆人環視の中で恥辱に耐える訳ですね」
無言の固い握手。
「十香ちゃんが勢い余って誰かに危害を加えそうになったら、我々が止めましょう」
「俺が、俺達が、クッションだ!」
無言の固い握手(二回目)。
あー、なんか理解者がいるとスッキリするわー。楽しいわー。
俺が内心を隠さず、友がいる感覚にホクホクしていると、神無月が突如神妙な顔をして見つめてきた。
「誠君。君は………司令の胸派ですか?尻派ですか?」
『何話してんのよアンタ達』
「馬鹿野郎!司令の全部だ!!」
「友よ!!」
全力の抱擁。
『止めなさい川越!!放しなさい!!』
『司令、お気をお確かに!ミストルテインは駄目です!』
司令と通話しっぱなしにしてた俺のスマホから物騒な会話が聞こえるが、まあ良しとしよう(震え声)。通話終了。
とにかく、俺は十香と先輩をしっかり見つめていなければならない──────。
ん?
「………………………。」
ポストの影から福引券を手に歩く二人の背中を見つめていると、同じく二人を見つめていた、電信柱の影にいたある人物に気付いた。こちらの視線に気付いた相手が振り返り、目がバッチリ合う。
「お前は…………鳶一折紙!!」
「そういうあなたは、色無誠」
あらら。ASTに見つかってやんの。しかも、何やら装置らしきものを持っている。こいつは参ったね。デートは中止にすべきか?
と思っていた所、折紙はつかつかとこちらへ近付いてくる。
「何を、しているの?」
「兄貴と二人で買い物」
さらりと誤魔化しつつ神無月を兄貴と紹介。二重の嘘。はぁいと神無月が笑うが、折紙は無視して手元を覗き込む。
「兄………?精霊でない、この男が?」
げ。それやっぱ精霊探知機的なアレですか。てことは十香もバレてますね。神無月に目配せ。ウィンクが返ってきたので、大方『艦橋には伝わってます』って所か。流石に副司令なだけはある。なら、敢えて真実を種に撹乱しようかな?
「そうだ。俺が異常なんだ。俺は元人間。それも、四月頭に来禅高校に入学し、本来の今頃は高校一年生だった、元人間の精霊だよ」
「……………信じられない」
僅かに。本当に僅かに、鳶一折紙の目が驚きに見開かれた。すぐに元の無表情に戻るが、度肝は抜いた。少し、時間を稼げるか。
「まあ、それも当然。でも俺は───」
「───────だが、信じる」
………………は?
え?鳶一サン今何テ?
撹乱するつもりがストレートに信じられた!一本取られました!もう駄目だぁ(無策)。
「色無誠。来禅高校一年四組、出席番号四番。私からすれば後輩に当たる。入学式以来出席が無く、消息不明。学校側から捜索願いが出ている。空間震に巻き込まれた、或いは精霊の被害に遭った可能性があり、生存の線は怪しいが一応捜索するようASTにも情報が回ってきていた」
わぁ、そんなスラスラ言われると口挟むタイミングねぇぞ!?というかかなり大事になってたんだ俺!?
「あなたが昨日名乗った時、まさかとは思ったけれど。あなたからくすねた毛髪のDNA鑑定の結果からも、整合率は97.2%。そして今、あなたの口からも証言された。最早疑う余地は無い」
神無月、ちょっと助けて。
ムリ?ムリか。
俺と神無月がアワアワするのもお構い無し。鳶一折紙は俺の両肩を掴む。その瞳には、強い意思がある。暗い炎であり、そして希望を見付けた目でもある。
「私と共にASTまで来て。そしてあなたを詳しく解析させて。けして悪いようにはしない。可能なら人間に戻れるよう治療する」
───────!!
「あなたは、人的被害を一つも出していない。空間震も起こしていない。まだあなたが
本気、だ。
彼女は本気だ。
彼女は本気で、俺を救い、そして俺の力で精霊を倒そうとしている。
精霊を、害悪と信じて疑わず。
俺を、人間と信じて希望している。
「お願い。私に、父と母を殺した精霊を殺す力を。私に、人類に、精霊を倒す力を与えて欲しい」
声に抑揚は無い。しかし、僅かに身体が震えている。細い、陶磁のような白い指が、俺の肩に強く食い込む。それだけで、彼女の必死さが伝わって来る。
両親の、敵。
多人数で挑んでいるにも関わらず、十香に圧倒されている事実への焦燥。
己を摩耗させて尚、精霊に挑もうとしている。
答えなければ。
向き合って、答えなければ。
「鳶一折紙………いや、鳶一先輩。俺と同じように、他の精霊は見てあげられませんか?」
「──────ッ!?」
鳶一先輩の表情が、はっきりと歪んだ。
「俺みたいに、偶々なってしまって、邪魔者扱いされて、それでも生きていこうとしているようには、見てあげられませんか?」
「なに、を………?」
鳶一先輩の目が、すがるように焦りを帯びていく。俺を、引き留めようとするように。
でも先輩。俺は────。
「十香は────桃太郎が大好きなんですよ。読み聞かせてあげたら、子供みたいに喜ぶんです」
俺、何言ってんだろうね。でも、言わなきゃいけない。そんな気がするんだ。
「そりゃあ、人を襲う奴だっているでしょう。でも………俺が思うに、精霊は
「…………理解に苦しむ」
「個人の感想って奴です」
「絆されてはいけない。あれは人殺し」
何としても俺を引き戻そうとするが如く、肩への圧力が一気に増す。だが、俺は、止まらない。
「有無を言わさず精霊を殺すなら、それは人殺しと何ら変わりませんよ、先輩。『家族を撃ち殺した人間が憎いから、銃を持った人間を見たら皆殺しにする』と言っているのと同じです」
鳶一先輩の力が、僅かに緩んだ。
「違う。精霊は違う。精霊は────」
別に、先輩の復讐を、否定はしない。
憎しみからは何も生まれませんなんて、綺麗事は言わない。復讐は弔いであり、過去との決別。過去を
頭の中で、何か引っ掛かった。何だ?
だが思い出せないし、今は鳶一先輩の方が重要だ。
「俺は人間であり、精霊です。鳶一先輩が全ての精霊を殺すなら、俺は友達の為に相手します。でも、鳶一先輩が俺達を助けてくれるなら────その時は、命ごとあげたって惜しくはありません」
つまり────ごめんなさい先輩。お断りします。
「……………本気?」
先輩の目は、俺からぴくりとも外れない。
「本気ですよ、先輩。俺は、人間も、精霊も、等しく愛します」
「そう」
それだけ言うと、先輩は俺から手を放す。その目には、今だ光も炎も宿したまま。無表情にメモ用紙を取り出し、ペンを走らせる。
「以前の借りもあるから、今は諦める。ただし、いずれあなたも精霊が何たるかを理解する。その時は、連絡して。人間であるうちに」
ピッとメモを切り離すと、俺に渡してくる。携帯電話のアドレスと電話番号が記入されていた。
「わかりました」
素直に受けとる。そうしないと、恐らく喧嘩別れになる。鳶一先輩とは、そうはなりたくない。
俺はアドレスだけ先にスマホに登録すると、件名に名前だけ入れたメールを送る。数秒間あって、鳶一先輩が自分のスマホを確認し、俺を登録したと告げた。
「いい返事を期待している」
それだけ言うと、先輩は踵を返し、去っていく。随分早足だ。俺に近寄ってきた時の倍近い。
「………いやぁ、空気でしたね、私」
蚊帳の外だった神無月が、労うように俺の肩に手を置く。あの空気で茶々入れられたら勇者だぞ。
「口挟んだら蹴られてたろうね」
「それは残念」
「それより、十香と士道先輩は?」
「今はラブホに向かってます」
「デートの過程すっ飛ばし過ぎィ!?」
〈フラクシナス〉の皆さーーん!!しれぇ!!何やってんのぉ!?エロに頼るな!KENZEN大事!古事記にもそう書いてあるでしょぉぉおお!?
「まだ好意が実りきっていない相手をいきなりラブホに連れていき、罵倒と共にひっぱたかれ、蔑みの視線を送られる!」
「あ、それは良いかもしれない………って、流石にラブホは十香にゃハードだ!他人の善意と悪意の境界をハッキリ理解してない純粋な奴だから!行くぞ神無月!」
「あっ、待って下さい誠君!!精霊の力で走られたら追い付け………いや、これもまた乙!!」
俺達は、走る。
〈ラタトスク機関〉お抱えのラブホへ。
………うわ、スッゲーいかがわしい字面だ。たまげたなぁ…。
誠、折紙の中の『例外』になるの巻。
人と精霊、男と女。どっち付かずの色無誠、どこへ行く?
何というか、色んなルートが作れそうで楽しくなってきました。
いかん!!このままでは愉悦部からの勧誘が来るッ!!