水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

37 / 38

四糸乃成分(ヨシノミン)が足りない。

四糸乃をもう滅茶苦茶に愛でたい。

親バカになりたい。

そして嫁に出したい。

お前がママになるんだよ!!



Date.36「デート・ア・ストレイ」

「士道」

 

   折紙から身を裂かんとばかりに腕を引かれ、士道は痛みに耐えつつ困惑していた。普段とは違い、水着のために袖がない。腕を直に引き抜かれるような感覚は流石に御免被りたかった。

 

  ビーチで美少女に抱き付かれているというのは、回りから見ればとても羨ましいことだろう。しかし、当事者になってみれば、いかに士道は士道で辛いか分かるだろう。

 

  そして、いつも傍にいる少女が、今日は一人足りなかった。

 

「………。」

 

  十香だ。突然中身が四糸乃と入れ替わったかのように、物影から士道を窺っている。ただし、どうやら嫌われた訳ではないらしい。妙に視線が熱っぽい。士道と目が合うと、サッと物影に隠れてはまた顔を出し、目が合って隠れるを繰り返す。

 

  折紙が士道に抱き付こうものなら実力行使も辞さずに排除する十香が、今日は物影で悔しげに睨むばかり。それに気を良くした折紙は、ますます士道と密着する。

 

  この状況を産み出した全ての元凶は誠。昨夜の出来事が引き金である。

 

 

 

  誠のセッティングした士道への『看病』現場に、二人が飛び込む。結果、部屋の中で行われていた看病とは名ばかりの情事をしかと見られることとなった。尚、先に部屋へ飛び込んだのは顔を三人に殴られ仰け反って跳ね上げられた誠であった。即座に繰三に抱えられて連れ去られたが。

 

  二人の反応はそれぞれ相反していた。

 

「あっ、あ、うぁ………しど………」

 

  十香は頬を真っ赤に染め、両手で顔を押さえて悶えた。時おりチラチラと指の間から様子を覗き見ては、怯えるように、それでいてもっと知りたいと望むように身体を震わせる。

 

  八舞姉妹のディープキスを見た時のようなカルチャーショックに似た症状こそ起こさなかった。が、洗礼を受けたことにより『性への興味』が生まれた十香には、────士道への『()()()()()()()()』が、この瞬間芽生えていた。

 

  一方の折紙と言えば。

 

  彼女としての、正妻としての、女としてのプライドに火が付いていた。

 

「──────。」

 

  故に少女は何一つ語ることなく。

 

  それは拳銃を抜き放つが如く神速に。

 

  懐から〈人造霊結晶(イルデー)〉を取り出すと、握り潰すように力を込める。結晶を持つ右拳から眩い光が部屋中に広がり、部屋の明るさが戻る頃にはその身をメイド服に変えていた。

 

  人造精霊一号、キャラマール。

 

  初めて(厳密に言えば二度目)見る姿に士道が驚くより速く、折紙のメイド服より伸びた触手が裸の士道を絡めとり引き寄せた。

 

「ひゃっ!?」

 

「うぶっ!?」

 

  互いに士道へ体重を預けていた八舞姉妹は、支えを失い布団に沈む。不満を述べようと折紙を睨む二人であったが────それよりも前から、折紙が右手に構えるガトリングガンの銃口が姉妹を睨み付けていた。

 

「どちらにも慈悲はない──────死ぬといい。女狐、泥棒猫」

 

  霊装を纏っていなければ、いくら精霊でも無事では済まない。それに、今の折紙に相手が生身の人間か否かは問題ではなかった。

 

  その刺し殺すような殺気を肌で感じた士道。折紙の姿は置いておいて、とにかく凶行を止めようと叫ぶ。

 

「おい折紙!待て!!それはヤバいだろ!?」

 

「安心して」

 

  その表情は普段と変わらないが────

 

「続きは、私が引き受ける」  

 

  乙女のように朱が差していた。

 

「ぎゃああぁぁーーーっ!?」

 

「戦慄。退避、退避です」

 

「お、おのれ鳶一折紙!!私まで撃つか!!」

 

  果たしてその台詞と共に、断末魔が木霊する中、魔力弾を躊躇いなくばら蒔くその姿が、真っ当な乙女と言えるかは兎も角として。

 

  その晩ホテルの一室が吹き飛び、『生徒が持ち込んだ花火を室内で点火した』ことにして従業員に頭を下げる令音の姿があった。無論のこと看病は中止、関係者全員別々の部屋に分けられ、部屋から出ないよう釘を刺された。

 

 

 

 

  この顛末が原因であるのは間違いないが、朝から十香と折紙が普段の調子でないのだ。

 

  十香はより生娘に。

 

  折紙はより貪欲に。

 

  面倒なことになった、と士道は頭を抱える。二人とも自分から離れてくれそうにない。折紙は勿論のこと、物理的距離こそ離れている十香も、戸惑いながらしっかり付いてきている。  このままでは、八舞姉妹攻略にいつ横槍が入るか分からない。

 

「士道」

 

「うぉっ!?な、何だ!?」

 

  突如折紙に話し掛けられ、思考の海から強引に引き上げられた士道の心臓が跳ねる。

 

「二人きりになりたい」

 

「え"っ"!?」

 

  若い男女が二人きり。その台詞が意味する所は、士道とて知っている。更に昨日の今日だ、昨晩の折紙を思い出すのは容易だった。

 

『続きは、私が引き受ける』

 

  確信めいた直感が脳を貫く。これは、ヤバいと。焦りが導き出す未来予想図が、士道の不安を加速させる。

 

『士道。今日から私も五河家の一員』

 

『琴里。私のことは、今日から義姉ちゃんと呼ぶといい』

 

士道(あなた)。女の子。目元が貴方似』

 

士道(あなた)千代紙(むすめ)をお風呂に入れて』

 

()()。千代紙が眠った。今夜は寝かさない』

 

  何故こんなにもハッキリと想像出来るのかは自分でも分からないが、まあ幸せそうな風景が浮かぶ。

 

  但し、それはこの場に於いては大問題。もしもこの未来(折紙エンド)に踏み込んだ上で今後精霊攻略などして身の回りの女子が増えようものなら、どうなるか分かったものではない。

 

「いや………えーと………折紙サン?」

 

  ダラダラと脂汗を流し、折紙の表情を窺う士道。

 

「………駄目?」

 

  自分の腕に抱き付く折紙の顔は、普段の能面────ではなく、心なしか眉が下がり、普段より僅かに弱々しく見えた。

   絡められていた折紙の腕が、僅かにその締め付けを増す。

 

  普段と違う折紙にどぎまぎしつつ、言葉を選ばなければならないという考えに至る。断らねばならない。しかし傷付けてはならない。意を決した士道は、折紙の肩を掴んで引き寄せ、対面になる。

 

「駄目だ………俺にまだ甲斐性がない!!」

 

「問題ない。対策はする」

 

  折紙が両ポケットに手を差し入れ、帯状に連なったシートのようなものを取り出す。

 

  右手にゴム。左手にスッポングレート錠剤。各10シート綴り。

 

「幾らでも求めて欲しい。私は構わない」

 

「外堀を埋められている!?」

 

「士道は常識外れ(インモラル)な行為が好み。望む全てに応えてみせる」

 

「それは誤解だ!!」

 

  士道のすべてを受け入れる姿勢は漢らしくすらあるが、昨日の晩にあったことは誠監修であって士道が要求した訳ではない。そう説明してはみたものの、

 

「なら、士道の好みは?」

 

「何を言ったところで首が絞まるのか………」

 

  背に腹は変えられない。士道は半ばやけくそで、伝家の宝刀・強引な話題転換を発動することにした。

 

「そうだ、そういえば折紙!お前、昨日のあの変身は何なんだ?」

 

「あれは誠が作った〈人造霊結晶〉によるもの。則ち、人造精霊(マホウショウジョ)

 

「魔法少女ってオイ………」

 

「まだ発展途上ながら、性能面は従来のCR-ユニットを凌駕する。あとはコストさえクリアすれば、そのまま実戦投入されてもおかしくない」

 

  見た目に反して優れた能力。それが誠の人造精霊である。折紙が評価するからには、有用性があるに違いない。新たな敵の出現を予感していた士道だが、その思考はまたも中断される。

 

「士道は、やはりメイド服が好き?」

 

「しまった、藪蛇だった!!」

 

「………まさか、精霊を助けるのは………変身が好き、だから?」

 

「話が変な方向へ壮大に!?」

 

  他所でガタンという大きな音がしたが、気のせいだろう。丁度、十香が隠れていた自動販売機が倒れ、その背後で夜色の髪がプルプルと震えているが、きっと気のせいだろう。士道はひとまずそう思うことにした。

 

  今は、目の前の折紙(鬼門)が先だ。そう考える士道に、救いの手が差し伸べられる。

 

「折紙さぁーーーん!!」

 

  旅館の方から、小柄な少女が駆けてきた。来禅高校の制服を着ているが、顔つきは明らかに高校生より幼い。

 

  士道は彼女を知らないが、折紙のASTにおける同僚、引いては誠にとってもDEM特技局の同僚である岡峰美紀恵であった。

 

「やっ、やっと見つけましたぁ………旅館の中にいらっしゃるとばかり………」

 

  息を切らしてやって来た美紀恵は、折紙の目の前で立ち止まり、

 

「あっ」

 

  今の今になって状況を理解したらしい。茹で上がったタコのように、急激に顔が真っ赤に染まる。

 

「あひゃぁーーーっ!?ごっ、ごごごごめんなさいどうぞごゆっくりぃーーーッ!?」

 

「ミケ、落ち着いて」

 

「みぎゅっ!?」

 

  大いに取り乱し、来た道を脱兎のごとく戻ろうとして折紙に襟首を掴まれた。首が絞まった美紀恵の喉から、声にならない声が漏れる。涙目で噎せる美紀恵に、折紙は問う。

 

「ミケ。この件の重要度は?」

 

  無理矢理引き留めた折紙だが、既にある程度察しがついていた。美紀恵が焦って自分を探す程の内容ならば、恐らくは精霊絡みか特技局関係。しかし、自分のAST用端末には何の連絡もない。となれば後は、DEMしか残らない。

 

「大至急、です!!」

 

「分かった。士道、また後で」

 

「折紙さん、こちらへ!!」

 

  返答は得た。折紙は持っていたものをポケットに押し込むと、士道の応答を待つことなく、美紀恵に続いて森の中へ消えていった。

 

  残された士道は、一難去った安心と折紙への心配が去来していた。

 

  それを油断と言わずして、何と言うのだろうか。

 

「シドー………」

 

  折紙と入れ替わるように、十香が背後に立っていた。頬を紅潮させ、もじもじと指を弄びながら、身体を左右に捩っている。元々均整の取れた肢体で身体を揺らすものだから、立派な胸元が動きに合わせて揺れている。

 

「そ、その………シドーは、私が霊装を纏うのが、好き………なのか?………シドーが見たいなら………私はやらなくもない、が…………」

 

  そんなことを、潤んだ瞳で上目遣いに提案された。

 

  一難去ってまた一難。

 

  士道の苦難の道のりは、まだ始まったばかりだと言うのに。

 

 

 

 

 

 

  折紙と美紀恵は、森の中を駆け抜ける。

 

  美紀恵から伝えられた一大事。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、ジェシカからの報告だった。

 

  これは、あり得ない話だった。何故なら、DEM特技局で造り上げた〈人造霊結晶〉は、折紙の持つ第一号(キャラマール)以外、一切存在しないのだ。

 

  現状、霊力の結晶を生成する技術は確立されていない。従って、新たな人造精霊を産み出したのは誠に他ならないのだ。

 

  更に話はここで終わらない。

 

『そノ人造精霊………アナタ達の近くにいるのヨ。執行部長が付近で極秘作戦を展開中らしいノだけレど、随意領域に件の奴が引っ掛かったようヨ』

 

  現在は、丁度来禅高校が利用している旅館付近の森に潜伏中という。何をするつもりか分からない。行動を開始する前に接触し、場合によっては身柄を抑えなければならない。

 

  程なくして、二人は開けた場所に出た。キャンプ用の薪を伐るためであろうか、幾つかの切り株を残して、後は背の低い草が広がっている。

 

  その中央にある株に、女が一人腰掛けていた。ワイヤリングスーツ姿である以上、魔術師であろう。

 

「待っていたぞ、鳶一折紙………おや?あの時の小娘まで釣れたか!これはいい!!」

 

  再会に歓喜するその女は、二人にとって想い出深く、しかし記憶とは少々姿が異なっていた。

 

  アルテミシア・ベル・アシュクロフト。

 

  嘗て、ASTに最新型のCR-ユニットが搬入されたことがあった。その名も〈アシュクロフト〉。このユニットを巡る戦いに、折紙と美紀恵は身を投じた。

 

  後になって分かったことだが、そのCR-ユニットは、超一流の魔術師(ウィザード)であるアルテミシアの脳内情報を用いて造られた非人道兵器であった。アルテミシアは脳死状態となっていたが、美紀恵の装着した〈アシュクロフト〉を通し、彼女を護り導いた。

 

  戦いの末、全〈アシュクロフト〉は完全に損壊。奇跡的にアルテミシアの脳内情報は一切喪失せず、本人へと戻された。

 

  その彼女が、目の前にいる。

 

  否。容姿は確かに同じだが、肌や髪の色が異なっている。嘗て出逢ったアルテミシアは金髪であったが、今目の前にいる彼女は、肌の色が日焼けしたように浅黒く、また髪も銀髪なのだ。

 

「あなたは………アルテミシアさん、ですか?」

 

  警戒しつつ尋ねる美紀恵に、女は(わら)いかける。

 

「そうだと言ったら?」

 

「………違うんですね?」

 

  問答が琴線に触れたのか、女は大いに笑い転げる。一頻り笑い尽くしたのか、目元に滲んだ涙を指で拭い取ると、傍らのレイザーブレイドに手を掛けた。

 

「その答えはお前なら分かると思ったのだがな、岡峰美紀恵!!ならばサービスしてやろう!!」

 

  柄だけだったレイザーブレイドから魔力の刀身が現れる。戦闘態勢を取る二人だったが、その切っ先は二人へ向くことはなかった。

 

  女は、自分の右目を、()()()()()

 

「なっ!?」

 

  額から上頬にかけて走った斬痕から血が溢れ出る。しかし、出血はわずか数秒で治まった。

 

  残ったのは、目を跨ぐように走る傷。

 

「まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!?」

 

  それは、嘗て闘った女の顔だった。

 

  新型顕現装置〈アシュクロフト〉を巡る戦い、その引き金となった─────アルテミシアをDEM社に()()()人物。

 

  それこそが、ミネルヴァ・リデル。

 

  アルテミシアに対抗心を抱き、破れ、憎しみはやがて羨望に、歪んだ愛情に変わり、()()()()()()()()()()()()()()()()ことを望んだ女。

 

  しかし彼女はアルテミシアになれなかった。アルテミシアなら出来た〈アシュクロフト〉の五機同時制御を成し遂げられず、敗北。騒動の最中に死んだと思われていた。

 

  そのミネルヴァが、アルテミシアの姿になって、そこにいた。

 

  美紀恵が、折紙が、顔を歪めるのを確かめると、ミネルヴァはくくくと喉を鳴らした。

 

「思い出したか。せっかく旧友と思い出を温めようというのに、私だけ覚えてましたでは面白くないからなぁ!」

 

「アルテミシアさんの姿で………喋らないで下さい」

 

「つれないな。残念だが私はアルテミシアでありミネルヴァだ。フフフ………」

 

  犬が体温調節をする際のように、ミネルヴァは舌をだらしなく垂らす。そして、

 

「あぁ………アルテミシア。やっ………とお前になれたよ!!嗚呼、アルテミシア!!アルテミシア!!これでいつでもお前を傷つけられる!!いつでもお前に傷つけられ………あっ、ああ、あぁああああああっ!!かっ、感じる!!お前を感じ過ぎるぞアルテミシアァ!!」

 

  唾液を胸元へと溢すと、全身の感覚を確かめるように、手で肌へ塗りたくる。己の行為に昂ったのか、立つことすらままならなくなり、崩れ落ちて尚その行為は止まらない。醜悪な音が響こうと、二人が蔑みの目を向けようと、ミネルヴァは自分の世界へ堕ちていた。

 

「ふ、く………ッくっく………!!鳶一折紙ィ………!!お前もなったんだろう?人造精霊に………お前の欲望が形になっただろう!?」

 

   何度目かの痙攣から立ち直ったミネルヴァは、 ゆらりとその身体を起こす。自傷に使ったレイザーブレイドを、今度は剣道の上段に酷似した構えにして。

 

  応じるように、ミネルヴァの身体を霊力の鎧が覆う。それは幾分有機的になってはいたが、嘗てミネルヴァが使った〈アシュクロフト〉─────No.Ⅱ、〈ジャバウォック〉に酷似していた。

 

「あなたの醜悪なそれと、折紙さんを同じにしないで下さい!!」

 

  CR-ユニットを展開する美紀恵。例えスペックでも技量でも劣ろうと、譲れない闘いがここにある。

 

  それは折紙とて同じ。

 

  折紙は〈人造霊結晶〉を握りしめ、その姿をメイド服へと変じさせる。相対するのは、否定しなければならない過去の呪い。

 

  失われた恋人(アルテミシア)のために戦った戦友の為。

 

  信じた正義のために奮闘した仲間(美紀恵)の為。

 

  そして今、この戦いを知らぬ恋人(士道)の為。

 

「ミネルヴァ・リデル。あなたの存在を抹消する」

 

  今、魔法少女は相対(デート)し────激突(ストライク)する。

 

 

 

 

 

 




美紀恵が出張ってた時点でお気付きの方もいらしたでしょうが、私はストライク読んでます。

尚、ミネルヴァは元から変態。
だから人選は間違ってないハズ。

変態は変態に惹かれ合う─────!!


尚、誠がいないとホモ臭が抜けるという不思議。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。