水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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気付いたらえらく時間が経っていて衝撃。
就活、就職、色々ありました。
もう皆さん、私など忘れているでしょう。

それでも上げてみる蛮勇。


Date.35「八舞に死す」

  風呂に入ったのに冷えました(矛盾)。そら頭から海へ飛び込みゃそうもなるわな。

 

  ということで、二度目の入浴をし、適当に旅館をぶらついている。浴衣姿の金髪美女姿、とくれば、胸元緩めの下着チラ見せがベストだろう。フルーツ牛乳片手に、色気をムンムン解放である。すれ違う男性の視線が自ずから胸に行く。もっと見てくれ。

 

  そういえば人間ってフェロモンを感じる機能が退化してて、まるで感じ取れないとか。バカじゃねーのか。ほんとバカじゃねーのか。あ、でももし機能してたら今襲われる可能性もあるのか。複雑。どうせ襲われるなら美少女に襲われたい。あっ、それってASTじゃん。襲われる違いだけど。わーい、夢が叶ったぜチクショウ。

 

  色気ムンムン、煩悩モンモンで歩いていた俺だが、ふと視界の端に何やらクロワッサンが見えた。廊下の角から、ちろりと覗いている。

 

「警戒。じーっ」

 

  否。それは巻き上げられた鮮やかな横髪。風の精霊:八舞姉妹の片割れ、ジト目の方の夕弦だ。鎖野郎でも可。いや女の子だから野郎は悪いな。つまり………鎖野郎(語彙不足)。名前で呼んでいいかは聞いてない。近寄らせてくんないから。

 

「何か用?」

 

「肯定。マスター折紙より、色仕掛けならあなたにも意見を聞けとのご指示を受けましたので、大変不本意ながら教えを乞いに来ました」

 

  え、何?今回は士道先輩が攻略するんじゃなくて士道先輩が攻略()()()の?俺が〈フラクシナス〉探してた間にそんな話になってたの?後で令音さんにちゃんと聞いとかないと。

 

  それはさておき。面白いじゃないか。士道先輩にちょっかいを出すなら俺も仲間に入れてくれよー。そういうことなら仲良くやろうじゃないか。

 

「オーケイ、それなら任せてくれ。静の折紙先輩、動の俺の変態タッグが合わされば、インモラルの限りをお前に提供しよう!!」

 

「疑念。それはそれで身の危険を感じるのですが、こちらの勘違いでしょうか」

 

「初心者には無理もない。えーとそれで、ジト目」

 

「指摘。夕弦と呼んで構いません」

 

  いいのか。ならばそう呼ばせてもらおう。最悪ジト目ナポリタンとかジト目クロワッサンとかいう渾名になる所だったからな。

 

「サンクス。じゃあ夕弦。シチュエーションと、折紙先輩からどんな策を授かったか教えてくれ」

 

「説明。今回の目的は、士道の看護です。尚、マスター折紙には誰を看護するかは伝えていません」

 

  あれま………風邪でも引いたのか。先輩もツイてないなぁ。折角の修学旅行、十香や折紙先輩がイチャイチヤしたかっただろうに。

 

「詳細。我々の悪戯の末、露天風呂から海に飛び込んで冷えきった風邪引き士道を、看護の名目でめろめろにする作戦です」

 

「お前らも海にぶち込んだろか」

 

  この悪戯娘め、どんだけ寒いか知ってんのか。知らない?ほならね、自分も飛び込んでみろよと。軽く睨み付けると、夕弦はちろりと舌を出す。あざといな。表情が動きにくい奴はあざとい。折紙先輩はあざとさがアグレッシブな方向に進化過ぎて18禁だけど。捕食者系女子だよねアレ。

 

  それはさておき、こいつらは今までにないパターンだ。精霊にしては人と関わることに抵抗ないどころか、ちょっかい出したくなる。人間に対して比較的態度が寛容だ。………まあ、悪戯の度が過ぎる感はあるが。士道先輩、死ななきゃいいけど。あ、カマエルがいたか。心が折れなきゃ大丈夫か。あの人に限って挫折はあるまい。

 

 「それで?折紙先輩は具体的にどうしろと?」

 

「想起。風邪を引いた場合、発汗は放置できない。きちんと()()()()べし、と」

 

「………何使って?」

 

「開示。舌です」

 

「流石」

 

  流石性欲の塊、肉食獣のごとき怒濤の攻めだ。本人にやらせたら、間違いなく唾液でベトベトになるまでやるだろう。なお一部は士道先輩の下の槍から出た液の模様。そして事後ティッシュと同じように、拭き取る呈でおさわりして二度美味しい。マーキング効果で十香を牽制して三度美味しい。やはり天才か。

 

  しかし、初心者には些かハードルが高過ぎやしないか?現状好きでもない相手にやるにはちと重たい。

 

  物事には手順がある。いきなりブチ込んではいけないのだ。お風呂で洗いっこして、「おい、待てぃ(江戸っ子)。肝心な所♂洗い忘れてるぞ」「羞恥。そ、それは………」みたいなレベルで、外堀を埋めることから始めないと。ということで、もーちっと色仕掛けチックに行こう。

 

「夕弦。敢えて聞くが、士道先輩のことを舐めたいと思うか?」

 

「応答。勝つためならば、やりましょう」

 

「意気込みの問題じゃない。じゃあ言い換えよう。ヤりたいか、ヤりたくないか」

 

「飛躍。極端ではありませんか?」

 

「そうでもない。お前が士道先輩を好きでやるか、それともヤりたいからやるか、はたまたイヤイヤだけど背に腹は変えられないからやるかでかなりシチュエーションが変わってくるんだ」

 

  ていうかフツーあり得ねー状況だしなこれ。という台詞は飲み込む大人な俺こと誠さんであった。俺がフツーを語るとか、ちゃんちゃらおかしいけど。

 

「要求。それぞれの違いを説明して下さい」

 

「まず①、好きパターン。溢れる愛と欲求から、士道先輩の汗を摂取したいという行為に他ならない。全身余すところなく舐めることになる。ちなみに折紙先輩の域だからなこれ」

 

「困惑。好きでこれでは、残り二つが心配です」

 

「じゃあ②、ヤりたいパターン。派手な自慰と何も変わらん。主に相手の性感帯を徹底的に攻める。身体や舌使いを見せ付けるようにねっとり攻める」

 

「驚愕。流石に無理です」

 

「最後③、イヤイヤパターン。上目遣いに睨みながら、文句を垂れてやれ。それか、抵抗感や嫌悪感を隠したぎこちない笑みを作り、必死に言われるままにする。これはどれも相手の嗜虐心を刺激し、征服欲を高める。自分には拒否権などなく、命令されるがままに、行為の中心は徐々にいきり立つ─────」

 

「制止。それ以上いけない」

 

  おっといけない、夕弦のドクターストップが入りました。熱が入りすぎた。このままだと堕ちる所まで説明しそうだった。話が変わってくるからな。

 

「不承。マスター折紙とはまた異なる手練れとお見受けしました。一時休戦して教えを請います。私はどうすれば良いでしょうか」

 

  結果オーライだった模様。先輩と変態度合いが近かったか。愛を拗らせた折紙先輩と、肉欲に溺れた俺。………どっちも酷いな、うん。

 

「よし夕弦。ズバリどれが今のお前に当てはまる?」

 

「思案。五秒下さい───────出ました」

 

「言ってみ」

 

「結論。①です」

 

「チョロい!!」

 

  なんだこれは、たまげたなぁ。どの辺に惚れる要素があったのやら。またか、また主人公補正なのか。

 

「反論。士道は誠実です。魅力満点の夕弦と、へちょいとは言えそこそこの美貌の耶具矢に言い寄られても、容易く手を出すことはありませんでした。好意にまで至った訳ではありませんが、好感を抱いたのは確かです」

 

「俺なんか出逢って数分で触手プレイしたからな」

 

「侮蔑。人として、精霊として、どうなのかと思います」

 

「うるせーほっとけ」

 

  俺のことはまあいいさ。ともかく士道先輩の評価は悪くないことは分かった。ならば話は早い。

 

「よし、では夕弦。冷えた身体を暖めるにはな────何よりも、人体がいいんだとよ」

 

「懐疑。確かにフィクションでは良く聞きますが、その信憑性は疑わしいです」

 

「分かってないな。()()()()()んだよ。得に士道先輩みたいなウブな人に」

 

  特に下半身に効く(意味深)。

 

「納得。腑に落ちました。では、具体的な作戦を教えて頂きたいです」

 

「オッケー、ではこういうのはどうだ?」

 

  俺の提案する作戦とはこうである。『見せずに見せる』。

 

  まず、士道先輩に正面から抱き付き密着する。この時点で、士道先輩は拘束から逃れられなくなる。脚を絡められれば上出来だ。身長差から、夕弦の頭は恐らく先輩の胸板から首元までの間に来る。

 

  ここで、先輩の浴衣を緩めて先輩の肌に舌を這わす。先輩は、夕弦の顔、或いは致す内にはだけた胸元までが見えることになる。しかしその下はどうだろう。

 

  八舞姉妹が伝家の宝刀、お腹の出番である。

 

  士道先輩もガッツリ見ているであろう、霊装から覗く健康的なくびれ。綺麗なヘソ。肉付きも非常に程好い。これが先輩のどこに押し付けられる?───そう、下腹部である。

 

  先輩からは、けして見えない位置のお腹。しかし、先に見た姿がフラッシュバックすること間違いない。妄想の夕弦、現実の夕弦。()()の夕弦に挟まれ、先輩の悶々は加速していく。きっと、先輩は理性的故に手は出さない。()()()()()()()()()()()()という寸法である。そして二人は危険な領域に─────

 

「─────という感じで………ん?」

 

  滔々と語り尽くした後に夕弦を見ると、俺との距離が5m位離れていた。あれま、引かれましたねこれは。

 

「恐怖。マスター折紙といいあなたといい、何故ここまで考えられるのでしょう」

 

性欲(あい)でしょ」

 

「苦笑。ぱちぱち」

 

「うるせー触手ブチ込むぞ」

 

 

 

 

 

 

  一応俺に礼を言って立ち去っていった夕弦。報酬はコーヒー牛乳でした。いい仕事をした、と額の汗を拭う俺の視界に、新たな陰が現れた。

 

「………。」

 

  耶具矢だった。明らかに夕弦より警戒している様子で、夕弦が立ち去った側とは反対の角から頭を覗かせている。よその家に連れてかれた子猫が、見慣れぬ人間にフシャーと威嚇しているかのような、微笑まし………微笑ましい殺気を放っている。

 

「何か用かね、耶具矢君」

 

「うそ、気付かれッ!?………かか、颶風の巫女の隠れ身を見破るとは、やるではないか」

 

  角から全身を現すや、キャラを取り繕おうとしているが、まあ無駄だ。ポーカーフェイスが出来てない。その玉のような冷や汗を拭えよ。

 

「頭出ててバレバレだったぞ」

 

「うっさい!夕弦よりは上手いし!」

 

  ………分かった。めんどくさくなりそうだから追求は止めよう。恐らく夕弦と同じような理由で来たんだろうが、一応聞いておく。

 

「そんで?何しに来たの?」

 

「士道に取り憑く悪鬼悪霊を祓う術を求めていた折、我が眷属が進言したのだ。貴様の知恵を借りてはどうか、とな。貴様のことは心底憎いが、忠実なる僕の言だ。我が深淵の叡知を勝り得ずとも、試してみる価値はあると見た故に来てやったのだ、ありがたく思うがいい」

 

  ────そのグルガン族の男は静かに語った────。

 

  いや、わかんねぇよ。誰だよ眷属って。俺はノムリッシュはさっぱりなんだ。暗黒創造神耶具矢、もっとゲヘナ使役してゲヘナ。え、違う?

 

「なあ」

 

「何だ」

 

「その厨二喋り、疲れねぇ?」

 

「厨二言うなし!」

 

「ハイハイ、既にネタが割れてるのにキャラ作りお疲れ様でーす」

 

  耶具矢のぐぬぬ顔を拝んだ辺りで、そろそろ潮時と見たので話を進めることにする。

 

「で、眷属って誰?」

 

「………十香」

 

「ああ、なるほど」

 

  十香のことだ、闇魔法カッコいいフレーズにやられて耶具矢と仲良くなったんだろう。きっとそうだ。初対面の時は圧倒的な凄みと共に美少女ヒロイン感出てたのが、今では愛すべきアホの子だ。これも士道先輩の調教の賜物である。これはポンコツ精霊専属調教師の士道先輩ですね、間違いない。

 

「で?俺にどうしろと?」

 

「士道を看病するついでに、夕弦と魅力勝負するの。私の美貌と十香の情報さえあれば負けるはずないんだけど、十香が行け行けって言うから、いちおーーーうあんたの意見を聞きに来てやったのよ!」

 

「そうかそうか。じゃあ頑張れ」

 

「え"!?」

 

  何を驚いていらっしゃる。受けるとは一言も言ってないぞ、受けるとは。

 

「あーあー、俺夕弦にも聞かれちゃったんだよねぇ。どうアタックすればいいかって。どうしようかなぁーー、夕弦からは報酬としてコーヒー牛乳貰ったしなぁ」

 

「なっ!?────ぐうっ………ちょっと待ってなさい!!」

 

  声を残して俄に耶具矢の姿が消え、その数秒後、強風と共に再び現れた。左手には牛乳瓶が二本握られている。即行で買ってきたのか(困惑)。流石風の精霊、とんでもなく速い。最強のパシリじゃないか。

 

「イチゴ牛乳でどうよ!!二本な!!」

 

「別に買ってこなくて良かったのに。言ってみたかっただけだから」

 

  こう、弄ってくれオーラのようなものが出ていたのでやった。今は反省するとでも思ったか。取り敢えず一本受け取り、詫びとして代金を渡す。………牛乳三本目は重いな。繰三飲むかな?溢してエロ展開にならんかな?

 

「私が真の八舞になったらブッ飛ばす………!!」

 

「悪かったって………あ、リベンジは日中で宜しく」

 

「なぜだし」

 

「夜は右手が忙しいのさ」

 

「?」

 

  リベンジが実現する日は来ないし来させない。士道先輩がそうさせないから。俺もそのためにやってる訳だし。

  そういや、俺自身はどうなんだろう。いつか封印される日が来るのだろうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それはさておき、話を進めよう。十香は何をやれって言ってたんだ?」

 

「一緒に布団に入って寝ろって」

 

「微笑ましい………十香らしいな」

 

「前に士道の家で寝てたら、いつの間にか同じベッドに士道が潜り込んで来てたとか」

 

「あっ(察し)」

 

  脳裏を過る琴里司令の笑顔(黒リボン)。流石司令、実の兄どころか保護対象にも容赦ねぇ。本当はご自身が潜られたいんでしょうが!!しかし十香、先輩が添い寝大好きと勘違いした模様。そうじゃない、それは機関の陰謀だ(ガチ)。

 

「で、他には?」

 

「え?」

 

「だから、他には?」

 

  割りと真面目に聞いてみると、素頓狂な返事が帰ってきた。

 

「それだけだけど………?だって、一緒に寝るんでしょ?」

 

「おーい、肝心の看護どこいったねーん」

 

「ハッ、確かに!?」

 

  十香の知識不足が炸裂。それは医学的にも性的にも看護じゃない。しかも士道先輩は経験済みなので効果激減だ。耶具矢も、恐らく十香の力説(と性知識不足)によりウブなねんねを本気で信じた模様。これは危ない。夕弦が優位になり、焦った耶具矢が予期せぬ行動に出てハプニング直行コースになるところだった。素人モノは攻めがプロだから成立する。双方素人とかただの放送事故だ。

 

  ………しかしだ。ここで十香を全否定するのも可哀想だ。本人は本気だろうし、せっかく耶具矢に信頼されたのを無下にするなど下策。それに、今回は八舞姉妹に士道先輩を攻略させるようだけど、結局は二人を封印するのが目的。なら敢えて()()()()()ことで共同作業にし、絆を深めさせてもいいってことだよな。

 

  方針は決まった。耶具矢には────()()()()添い寝して貰おう。

 

「耶具矢自身の考えは、何かあるか?」

 

「ない………。」

 

  焦りの余り、玉のような汗がナイアガラ。滝のように吹き出している。目も泳いでいる。耶具矢に余裕が無いのは明白である。

 

「だろうな。だが十香は士道先輩が喜ぶと思ったことを言ったんだ。方向性は間違ってない。あと一歩踏み込めば、立派な策になる」

 

「えっ、ホント!?」

 

「ああ。夕弦にも負けないし、何よりネタが被らない。耳貸せ!!」

 

  覚悟するといい、士道先輩。

 

  今宵の八舞は刺激的ですよ。

 

 

 

 

 

 

  八舞姉妹が部屋に入ってから、どれくらいの時が経っただろうか。酷く落ち着かない夜だ。

 

  俺は士道先輩の部屋の外に陣取り、先輩が寝たからと人払いをしている。最悪触手で物理的にも近寄らせないつもりだ。つい十分程前に玉恵先生を追い返し、それからはこの部屋を訪れるものはいない。

 

「困惑。段々汗と唾液の区別が付かなくなってきました。士道、如何ですか?」

 

「い、いや、もういいよ………。」

 

「察知。効果てきめんだと判定しましたので、続けさせていただきます」

 

「やめろォ(建前)やめろォ(本音)」

 

  予定通り、夕弦は士道先輩に抱き付き汗を舐めとる。初めはぎこちなかったが、先輩の反応に触発されて八舞の『悪戯好き』な部分がむくむくと膨れ上がり、開始から20分後には既にノリノリで舌を這わしていた。

 

「ちょっと夕弦。士道は寝るんだから、あんまり刺激しないでよ。────ほら士道、もうそろそろ一緒に寝よう?ね?」

 

「お、おう………?」

 

  一方の耶具矢の作戦。それは、そのまま添い寝────即ち、子供を寝かしつける(バブみ)シチュ或いはお姉さん系幼馴染とお泊まり(砂糖を吐く青春)シチュである。

 

  耶具矢に包容力が無いと思ったアナタ、舐めて貰っちゃ困る。耶具矢は多大な素質を持っている。それはギャップ萌え。耶具矢は尊大に振る舞おうとする結果、素が出た際の『親しみやすさ』が他の同じような性格の奴よりも強く感じられる。『背伸びカワイイ』のだ。

 

  では耶具矢が醸し出す背伸び感とは何か。それは当然、『余裕』である。普段のキャラは演じているもので、しかも長続きしない。即ち余裕が無い。余裕が無い尊大キャラなどポンコツ厨二病である。蓋を開ければただの元気な少女に過ぎない。

 

  だが、それがいい。元気一杯な娘に顔を覗き込まれ、「大丈夫?もう寝ようよ。明日も頑張ろう?ね?」と言われたら、その包容力は天元突破だ。ついでにいいこいいこされたら死ぬ。

 

  そう────耶具矢は、微笑みが爆弾なのだ(90年代臭)。耶具矢には「素直になれ」とも伝えてある。威力の底上げに余念などしませんよ先輩。

 

「ごめんね士道、寒かったよね。暑いかもだけど、ちゃんと寝るのが一番だよ。一緒にお布団で暖まろうね」

 

「い、いや、だけど夕弦が………」

 

「同調。夜はまだこれからです」

 

  対する夕弦も負けていない。否────熱が加速している。

 

  八舞姉妹は双子だが、夕弦はどちらかと言えばサディスティックな気質をしている。耶具矢を弄り倒す姿はまさにそれだ。であるからに、士道先輩が抵抗できないこの状況は格好の得物だ。

 

  士道先輩とて男。僅かでも好意を向けてくる美少女が、腹の上でくねりながら自分の汗を舐めてくるのは()()()()。色好い反応を見せる士道先輩に、夕弦は思っている以上に興奮しているはず。

 

  更に様々な板挟みに遭っているのを見るのは、サドにはご馳走と言ってもいい。耶具矢と夕弦、エロスとプラトニック、性欲と睡眠欲。士道先輩が一方を求めれば求めるほど、もう一方がそれを阻害する。そう、愉悦である。

 

「ちょっと夕弦、士道は私と寝るの!」

 

「反論。士道はおままごとよりアバンチュールがお望みです」

 

「………一人で寝かせてくれない?」

 

「「絶対にノゥ!!」」

 

「誠ぉおおおっ!!お前だろこの状況作ったの!!」

 

  そうだよ(爆笑)。

 

  どちらを選ぶことも、どちらも拒むことをも出来ない。士道先輩に出来ることはただひとつ。()()()()()()のみ。存分に大人の階段を登って下さい。

 

  ちなみにこれ、士道先輩だから通じる奴ね。試しにこれを折紙先輩に置き換えてみよう。士道先輩が二人に増えて折紙先輩を看病するとして───間違いなく3pが始まりますね。勿論折紙先輩が士道先輩sを食う訳だが。変態にエサをあげないでください。

 

  ところで────俺は今、戦場にいる。

 

  俺の任務は、何が来ようと、士道先輩のいる部屋に立ち入らせないこと。そのために、〈触抱聖母(アルミサエル)〉でビッチリ戸をコーティングして塞いでもいるのだ。

 

  何人たりとも。そう、例え相手が誰であっても───例えばそれが、

 

「誠!シドーに会いたいのだ!意地悪をしないで通してくれ!」

 

  純真無垢な天使(精霊)、士道先輩の正妻こと夜刀神十香であろうとも。

 

「邪魔をするならば、遠慮はしない」

 

  己の恋路を邪魔する者は、己の足ではっ倒す鳶一折紙先輩であろうとも。

 

「誠さん、また浮気ですの?」

 

「お前は何を言ってるんだ!?」

 

  何故か怒り心頭の時崎狂三のイミテーション、繰三であろうとも。

 

  ────正直、勝てる気がしない。

 

  おかしいな、ここにいる誰より俺のが身体能力は上だぞ。

 

「いや、あのね皆さん?この部屋には病人が────」

 

「「「そこを退けぇええええっ!!」」」

 

「にべもねぇぇえええっ!?」

 

  その後のことは、敢えて言うまい。

 

 

 

 

 

 

  翌朝。

 

  海の見えるベンチで、一人の男と一人の精霊が、噛み締めるような、何か悟ったようなとてもいい笑顔を浮かべながら、朝日を受けて光る海原を見つめていた。

 

「誠」

 

「何です先輩?」

 

「昨日仕込んだの、お前?」

 

「そっすよ」

 

「そうか………。」

 

「それで、士道先輩?」

 

「何だ?」

 

「昨日、何発でした?」

 

「3発………かな」

 

「そっすか………。」

 

  二人の間に、沈黙が訪れる。

 

  ただ静かに、二人の浴衣が潮風に揺れていた。

 

 

 

 

 




三発(意味深)

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