水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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今回は少なめです。

それと、紳士の皆様。

お ま た せ 。


Date.33「天敵」

  誠と、耶具矢・夕弦の勝負。先に動いたのは八舞姉妹だ。当然だが、二人は精霊最速なのだ。ヨーイドンで戦闘開始するなら、間違いなく先手を取れる。

 

「てぇぇぇえええっ!!」

 

「攻撃。てやーっ」

 

  そして、最速ということは、攻撃速度も尋常でない。瞬間移動に近しい動きで誠に詰め寄ると、耶具矢の突撃槍が風を切って迫る。時を同じくして、夕弦の鎖が鞭のように振るわれ、唸りを上げて誠を打ちのめさんとする。

 

「速いっ!?」

 

  一方で誠は精霊中でも最鈍。速度で八舞姉妹には張り合えない。為す統べもなく二人の攻撃を、その身で受け止めることとなる。

 

  笑みを浮かべる双子。しかし、直後にその表情は驚愕へと変わる。

 

「─────何だ、速いだけか。ビビり損した!!」

 

「そんな!?」

 

「仰天。これは、予想外」

 

  避けられないと判断した誠。足を肩幅に広げて二人の攻撃を真っ向から受けた所、大した反動すらなく受け止めてしまったのだ。確かに槍は刺さり、鎖は誠を捉えた。だが刺さったと言っても精々2cm。捉えたと言っても良くて擦り傷。まともなダメージとは言えなかった。

 

  それもその筈。誠は防御・補助能力に特化した精霊。攻撃力は低いが、タフさは精霊随一なのだ。慌てて二人が退避した直後、二人がいた場所に触手が殺到。獲物を逃して空を切った触手が絡まり合う。

 

「ならば!!我が颶風の神通力にて貴様を八つ裂きにしてくれるッ!!」

 

「反撃。あの触手に捕まる訳にはいきません」

 

  姉妹が手を翳すや、誠を中心にした暴風が吹き荒れる。触手で囲いを作ってガードしていた誠だが、あることに気付いて喚く。

 

「ちょっ、止めろバカ!!キャミソールが捲れて下が見えちゃうだろうが!!────いいぞ、もっとやれ!!」

 

  普通の洋服姿で過ごすことが多いため忘れられがちだが、誠の霊装〈神威霊装・無番(アーシラト)〉は防御力が低い。それは布一枚分の厚みしかないことに加え、胸元の見える露出の高さからもなる。

 

  要するに、風で簡単に捲れてしまうのだ。ちなみにサラシなどは付けていない。ちょくちょくその下、胸の先端部(意味深)が見えそうになり、士道は慌てて目を逸らす。

 

「ちゃんと下に着ろ変態!!」

 

「でも先輩、そういう霊装だから仕方無いじゃないですか!!チラリズムですよチラリズム!!」

 

「露出癖の変態め!!」

 

「そう言いつつもチラチラ見てるじゃないですか」

 

「戦場で目を瞑れと!?死ねと!?」

 

  余裕綽々。戦闘と関係ないことを考えていられる程、誠にとって風は通用していなかった。八舞の二人が幾ら威力を上げても通じない。目に見えて焦り始めている。

 

「何故だ………貴様、何故これだけの風を受けて立っていられるのだ!?」

 

「困惑。このような事態を想定したことはありません。俗的に言えば、ヤッベーという所でしょうか」

 

  痺れを切らした二人は、風に誠を閉じ込めたまま、各々の武器を構えて再突撃する。

 

「おっ、来たか。ならば………別にヤり倒しても構わんのだろう!?」

 

  誠が触手で迎撃しようとするが、荒れ狂う風に切り刻まれて水に還る。気を良くした二人は、持久戦と決めて誠の周囲を飛び回り、擦れ違い様に刺し、叩きを繰り返す。その速度は人間の目に捉えられる限界を超え、まるで誠を中心とした橙色の竜巻が発生したかのようだった。

 

  しかしながら、唐突に変化が訪れる。突然、二人の動きが止まったのだ。空中にピタリと静止して動かない。寧ろ、動けないという表現が適切であるようだった。

 

「う、動けん………!?バカな!?」

 

「驚愕。こ、これは………!?」

 

  それは、誠が合図を出すように悠々と右手を掲げたのと同時。八舞姉妹の全身に、幾つもの触手が纏わり付いていた。全ての触手は、誠の背中へと収束している。

 

「触手は全部私の風が切り裂いてたはずだしっ!!どーやって!?」

 

「愕然。全く突然に触手が現れました。耶具矢が漏らした触手は私が落としたはずで、見逃した触手など………!!」

 

  二人に見落としは無かった。誠がしたのは、風に散らされた水を利用した触手の再構築。エレンを倒した際の水蒸気からの触手の構築に近い。湿気ある所は誠の間合いに同じ。そうとも知らずにのこのこやって来た獲物を捕らえたのだ。

 

  捕まった。速度の領域に於いて絶対の自信を持つ二人のプライドを傷付ける事実。身体の自由を奪われ、最早二人には、睨み付けることしか抵抗する術がない。それも、意味を為さない悪足掻きだと気付いていながら、だ。

 

「お前たちの敗因は、簡単な理由だ。()()()()()()()()()()()()()

 

「天敵………!?」

 

「追求。それは、どういうことでしょうか」

 

  二人は知らない。誠の能力は触手ではない。それはあくまで副次的なもの。誠の能力は、自身を液状化させることに肝がある。即ち─────

 

「俺に物理攻撃は通用しない。故にお前らの武器は俺には脅威となり得ない。風はどうだ?水は吹き飛ばしても形が変わるだけ。風の圧力で潰すか?鎌鼬でも作って切り飛ばすか?それじゃ鎚や剣と何も変わらない。ってわけ」

 

「なん………だと………!?」

 

「諦念。これは白旗を上げるしかなさそうです。くっ殺です」

 

  敗北の二文字が頭に浮かぶ八舞姉妹に、一歩、また一歩と歩み寄る。ザッザッとわざとらしく足音を立て、萎縮している相手に更に追い討ちをかける。

 

「ひいっ!?私は颶風の御子だから美味しくないしっ!?夕弦のほうが脂が乗ってて食べごたえあるし!!」

 

「提案。耶具矢はこう見えてとても美味です。どうぞ世界の珍味、へちょ耶具矢からお食べください。なむー」

 

「お供えするなし!!へちょくないし!!」

 

「撤回。そうですね、脂の少ない耶具矢はスレンダーです。へっちょへちょです」

 

「何故悪化させたし!?」

 

  何だか互いを売り始めた。それと、何故か食べることが前提になっている。面白くなってきたので、誠は少し弄ってみることにした。

 

「じゃあえっと………へっちょい耶具矢だっけ?そっちから食べるかな?」

 

「おう来いや!!私を食べろ!!へっちょくないって証明してやるしっ!!やみつきにしてやるしっ!!」

 

「制止。やはり旨味の足りない耶具矢では美味しくありません。夕弦を食べるべきです。美味しいです」

 

  おや?と士道は首を傾げる。突然二人が、自分をこそ食べろとアピールを始めたのだ。

 

「オーケイオーケイ。その熱意に負けた、夕弦のほうを戴こう」

 

「称賛。それでよいのです。夕弦は今が旬ですよ。調理や味付けはお好みでどうぞ」

 

「待った!!耶具矢のが断然旨いし!!昆布とか煮干し並に旨み詰まってるし!!」

 

  誠がふざけて目標を変えれば、白羽の矢が立った夕弦が安堵するように笑い、逆に耶具矢が慌て出す。

 

  どうやら張り合っているらしい。どこまでも勝負好きのようだ。そのようだが………冷静に考えると、まるで()()()()()()()ではあるまいか?と、士道の中で疑念が首をもたげた。しかし、そう言ってもいられない。士道は意を決して誠に駆け寄り、正面に立ち塞がる。

 

「待てよ。もう決着付いただろ?彩も無事だったんだ。後は二人に謝ってもらえば済む話じゃないか!!」

 

「そうだそうだーー!!」

 

「同調。我々は自由と権利を主張します」

 

  何だか知らないが、交渉してくれるならこれ幸いとばかりに、士道の言葉に乗っかってくる二体の精霊。誠は溜め息を吐いた。

 

「分かりました。先輩の顔を立てましょう。動画アップロードは止めです」

 

「よっしゃーー!!ざまみろーー!!………ゲフン。良くやった人間よ、誉めてつかわそう」

 

「感謝。圧倒的感謝をあなたに。では、この触手を解いてください」

 

  助かった。二人が歓喜に湧く。これで何とか方向修正が出来れば。士道も胸を撫で下ろす。

 

「何言ってんだ。俺のバトルフェイズはまだ終了してないぜ!!」

 

  ─────のは、早かった。

 

「え………、何で、止めるって言ったじゃん………」 

 

「絶望。………そういう、ことですか」

 

  耶具矢がふるふると怯え、夕弦がやがて来る未来を想像して、固く目蓋を閉じる。

 

「お、おい誠!?」

 

「安心してください。純潔は奪いませんよ」

 

「そういう問題じゃ────おわっ!?」

 

  触手が士道の胴体に巻き付くと、その身体は容易く持ち上げられ、八舞姉妹や誠を見下ろす位置にまで掲げられる。

 

「撮影は止めるが触手プレイは止めると言ってない」

 

「ひぃいいいいいいっ!?」

 

「終了。生きてえなぁ………」

 

  迫る触手。縛り上げられる身体。辺りこだます悲鳴と嬌声。

 

「兄貴ェ………………。」

 

「あや、なんででったのおめめふさぐの?みえないよ、くらいよ、ふぇーん」

 

「ちょっと我慢してねでったちゃん」

 

  彩がでったの目を押さえるその横で、ようやっと目を醒ました十香が、鼻先を擦りながら起き上がる。

 

「うう………む………し、どー─────ぬ?」

 

  その目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。

 

「んぶ………ぁああう………はっ、ん、む………」

 

「ふっ、あむ………んんっ!!むっ………あふっ」

 

  青い触手に絡め取られた二人の少女が、抱き合って舌を重ね、恍惚の表情で幾度も接吻し合う。罪人の拘束具か奴隷の縛衣か知れないが、ベルトで構成された衣装は惜し気もなく肌を晒け出している。触手は二人を縫い合わせるように纏わりつき、圧迫された胸が相手の胸を潰し、柔らかな歪さを産み出す。二人を縛らぬ触手は、彼女等の周囲で籠となってその淫靡な遣り取りを包んでいた。それは何処か神秘的ですらあったが、同時に背徳の行いであることがまざまざと感じられた。

 

  ────そう、見えた。

 

  この時、実際は耶具矢も夕弦も必死になっていた。十香からは見えなかったが、二人の舌が触手で纏めて縛られ、離れようにも離れられなかった。しかも、全身を這い擦り撫で回す触手は長大な一本の触手であり、丁度二人の舌の部分に結び目があった。これを外せば拘束が逃れられるとあって、一心不乱に舌を動かしあっていた。

 

  だが、そんなことを十香が知るはずもない。また、誠の霊力の微弱な媚薬作用によって、本人の意に反して、結び付けられた半身の身体と触手と己の身体が擦れる感触に快感を覚え、火照り始めていた。

 

  結果。どう見ても頬を染めて互いを貪り合う双子の構図が出来上がっていた。

 

  口から溢れた唾液が肌を伝い、耶具矢と夕弦の肢体を濡らす。にちゃにちゃと音を立てた、ディープキス。それは十香の知らない世界。

 

「キス………が、激しく………!?」

 

  あまりにも刺激が強すぎた。性を知らない(うぶ)な生娘。恋も恋と気付かぬ純粋な乙女。初めてのキスはきな粉味。男女の恋愛(※仲良く遊ぶだけ)しか知らない。

 

  どうして女の子が女の子とキスしているのだろう?

 

  どうしてキスがあんなに激しいんだろう?

 

  シドーとした時とは、何かが違う。

 

  ──────では、その何かとは?

 

「………きゅぅ………。」

 

  世界の災悪だった少女は、キャパシティを超えた現実を理解しきれず、顔を真っ赤にして気絶した。

 

  夜刀神十香、戸籍上16歳。

 

  大人の保健体育には、まだ早かった。

 

 

 




八舞姉妹はエロだと思います(迫真)。

エロだと思います(迫真)。

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