水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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調子に乗って今日だけで書き上げてしまいました。

みんなー!!次回から夢と希望に満ちた水着ワールドだよー!!

これまで溜めてきた触手、解禁の時ィ!(でも今回はお預け)


Date.31「集え、或美島へ」

  七月ともなれば、加速する暑さに、クーラーが月月火水木金金のブラック労働を始める頃だ。

 

  という訳で俺達特技局の面々も、休憩室でクーラーガンガンにして涼んでいる。時刻は夜七時を回ったところ。今日も皆お疲れ様だ。特にメカニックを一手で引き受けているミリィがへばっているからな。

 

  それに、皆ぶっちゃけ楽しく仕事してるが、同時にかなり暑さにやられてる。

 

  DEM社第一執行部:セオリカスナンバーの三人は、備品取りに行って貰ったり模擬戦やってもらったり(流石に前回みたく瞬殺されてないが)と大忙し。納品チェックはミレイナに任せちゃいけないってそれ自明だから。大抵やらないでパンダの絵描いてるから。

 

  折紙先輩はテストパイロットとして、学校から帰るなり様々なメニューをこなしている。もう魔法少女としては貫禄の動きだ。いや違うな。あれは歴戦の兵士だ。

 

  ミケは書類整理にお茶汲み、皆の健康管理。下手すると食事もせずに工廠に籠っているミリィみたいなのが出てぶっ倒れるから、それ対策。特技局施設内の往復回数はメンバー最多だ。

 

  ジェシカさんはDEM社や備品メーカーとの連絡・営業で特技局に居ない日もある。戻ってくるなりビールの缶を開けて大いに愚痴るのは止めて欲しい。見た目はあれだが俺、未成年です。飲ませようとしないで下さい。

 

  俺はミリィに付き合って工廠で霊力結晶を作りまくってる。上手いことCR-ユニットに適合するよう作るのが中々難しいが、結晶作りにはかなり慣れた。

 

  繰三は俺の横でミックスナッツ食ってる。たまに人間大になってエールを送ってくれる。そしてサクマドロップ食ってる。

 

  ………あれ、約一名何もしてねぇ。こないだジェシカさんの纏めた経費一覧に『繰三のエサ』って書いてあったけど、ペット扱いなのか?

 

「ふぃーー………死ねますぞ………ぐぅ」

 

「ぬはー………ぬはー………………」

 

  ソファにぐったりと沈むミリィとミレイナ。気を利かせたミケが冷蔵庫へと向かい、ペットボトルのお茶を取り出す。

 

「お茶飲む方いますかー?」

 

「鳶一折紙、戴く」

 

「ゼラ、お願いします」

 

  これ、特技局メンバーの決まりだ。自分の希望を出すときは自分の名前を言う。分かりやすいからね。

 

「ミルルをバルトに至れると思ったかい?」

 

「コーラがいいってさ。アイミーはビールで」

 

「何でアイミーさん分かるの?」

 

  各々の希望通りにミケがドリンクを届けたところで、折紙先輩が口を開く。

 

「七月十七日から三日間、休暇が欲しい」

 

「きゅーか?急ですね先輩。ASTから呼び出しですか?」

 

  俺が素で尋ね返すと、ミケがカルピスウォーターから口を離し、折紙先輩に先回りして答えた。

 

「違いますよ誠さん、修学旅行です」

 

「そう」

 

  ああ、もうそんな時期か。なるほど納得。周囲の面々が頷く中、年長組のアイミーが真っ先に食い付いてくる。

 

「ジャパンのハイスクールだと、寺社仏閣(オンボロ)海水浴(ガランドウ)のどっちかに行くって聞くけど、どうなんだい?」

 

「海。或美島だと聞いている」

 

「或美島?それ、我が社(DEM)の系列会社が目玉にしてるリゾートじゃなイ?」

 

「あ、そうなんですか?」

 

  俺がジェシカさんに聞き返すと、ビール缶を一つ煽って飲み干してから補足して説明してくれた。

 

「我が社は軍需が主力だけど、他の事業をやってる企業を幾つも子会社化しているワ。確か、日本で花屋やスーパーマーケット辺りもやっていたハズ」

 

「意外に身近だった」

 

「その旅行会社は、日本でも活動してることから考えても、クロストラベルでしょうネ。まあ我が社のことだから、裏があるのかどうかは考えても仕方無いことヨ」

 

「アデプタス3が言うと重たい!!」

 

  ともかく、ちょっとDEM社が絡んでそうな話な訳だ。アイザックにメールしてみよう。『来禅の修学旅行で何かやんの?』、っと………。

 

  さて、話が逸れたな。先輩が旅行に行くから休める?って話だったもんな。

 

「ジェシカさん、結局のところ休みって取れそうですか?」

 

「そのくらい出すわヨ」

 

「「「休暇Yeeeeeeear!!!! 」」」

 

「セオリカスにまで出すとは言ってないワ」

 

「何でさ」

 

「ナン生地」

 

「なにゆえ」

 

  賑やかな人達だ。しかしちょっと援護してあげよう。何故なら俺も修学旅行にちゃっかり行きたくなった。久しぶりに士道先輩や十香に会いたくなってきたぜ。司令?あー、うん。無理かも。

 

「でもジェシカさん、テストパイロットがいないんじゃどーしようもないですよ」

 

「ミケにでもやらせれば────」

 

「私も行くんですが………」

 

「………そういえばあなた、オリガミの補佐として同じ学年にいたわネ………」

 

  頭を抱えるが、こればっかは仕方無い。何せ七人精鋭のメンバー。施設運営は他の契約社員がやってくれているが、プロジェクトに関わっているのはここにいる面子のみ。一人欠けた時点で回らなくなる。

 

「………あー、分かったワ。そこの三日間は全員休み!これで文句無いでショ!?」

 

「感謝する」

 

「ありがとうございます!」

 

「………ミリィが寝てる間に何か決まったですか?」

 

「「「セオリカスに乾杯!」」」

 

  額に手を当てたジェシカさんは、そのままフラフラとビールを求めて冷蔵庫に向かっていった。

 

  いやぁ、めでたい。激務の日々から解放だ。気分上場!

 

「気分いいし、みんなでチーム組んでマリオカートやろーぜ!」

 

  と唐突にWiiU持ち出す俺だった。ちなみにこれゼラのやつな。

 

「何か賭ける?賭ける?金?」

 

「アイミーさん、俺ら未成年。晩飯で」

 

「じゃあ三レースやって、一番多く最下位になったチームが、一番多く一位になったチームのメシを奢る!」

 

「ミリィはお肉食べたいですぞー」

 

「たらふく食わせてやるよ………勝てたらな!!」

 

  ビールをがぶ飲みしているジェシカさんを除いて、やる空気が出来上がっていた。いずれ来る休暇に大ハシャギ。実に仲の良いメンバーだった。

 

  最終的に、勝ったのは折紙先輩率いるチームAST。最下位はチームセオリカス。俺と繰三のチーム精霊は二位だったので火傷も美味い汁も無かった。いや、出費が嵩んで涙目のセオリカス見ながら食う飯は美味かったが。

 

  それと。

 

  アイザックからメールの返信が来てた。

 

『答えは自分の目で確かめておくれ』

 

  言ったら面白くないじゃんってか?アイツちょっとぶん殴りてぇ。

 

 

 

 

 

 

  一方、〈フラクシナス〉にて。

 

「修学旅行の行き先が変更?」

 

「ああ。元の行き先が事故でダメになった所にDEM系列の会社が接触してきてね。或美島のリゾートに招致されたんだよ」

 

  琴里達も、修学旅行にきな臭さを感じ取っていた。〈ラタトスク機関〉からすれば最大の敵、警戒して当然と言えば当然だ。

 

「ふぅん。ま、その日には〈フラクシナス〉を随行させればいいでしょ。無駄足ならそれでよし。クルーの休暇になるし」

 

「司令!泳ぎますか!泳がれますか!?是非この神無月をビート板に!!」

 

「今すぐ主砲で或美島に送り届けてあげるわ」

 

「ア"ッりがとうございまぁす!!」

 

  神無月の鼻っ柱にコークスクリューパンチを決めた所で、琴里は令音に尋ねる。

 

「で、いつだったっけ?行く日取りは」

 

「七月十七日から、二泊三日だね」

 

  それを聞いて、琴里は顔をしかめる。

 

「私の出向と被ってるじゃないの………」

 

  ちょうど本部に出向する日取りと同じだった。ずらすのはまず無理。誠の人造精霊の件について、報告しなければならない。

 

「えぇ………じゃあ、代理艦長決めましょ」

 

「この神無月が────ぐはあっ!?」

 

「立候補だ。その大任、任されようではないかっ!!」

 

  小さな影が神無月を押し退け────ようとして勢い余って壁にまで叩き付けて、姿を艦橋に現す。

 

「主人よ。このカマエル、この一月の間に艦長としての指揮の心得を学んだ。安心して任されよ。フハハハハァ!!」

 

  高笑いを上げるのは、琴里と瓜二つの少女にして、琴里の意思ある武器。受肉した天使、〈灼爛懺鬼(カマエル)〉である。彼女はこの一ヶ月、世間の一般常識を学んでいたが、琴里の手伝いがしたいとして艦長としての勉強もしていたのだ。

 

  ………もっとも、精霊の攻略をするには常識に欠けているので、本当に『艦長代理』しか出来ないが。

 

「………令音、どう思う?」

 

  不安しかない琴里は、令音に意見を請う。答えは普段と変わらぬ表情のまま返された。

 

「ん。DEM社とぶつかる可能性を考えれば、戦闘指揮が出来る艦長は悪くないと思うがね」

 

「本当に大丈夫?」

 

「後はやらせてみるしかない」

 

  ちらとカマエルを見る。ふんぞり返っているが、幻の尾が千切れんばかりの勢いで振られているのが見える。尊大だが琴里に忠実、琴里に構って貰いたがる。まさに犬だった。

 

「………………カマエル」

 

「応!」

 

「クルーの皆の言うこと、ちゃんと守んなさいよ」

 

「承知!!」

 

  ここに、カマエル艦長代理が爆誕した。

 

 

 

 

 

 

  兄は、何故姿を変えてしまったのか。ベッドに横たわる少女は一人、枕を抱いて天井を見つめる。

 

  色無誠の妹:有栖部彩は、未だに兄の変化を理解出来なかった。

 

  士道や十香、琴里といった面々から、精霊の存在とそれを巡る戦いについて知らされた。

 

  自分の生きてきた世界が、にわかに色を変えてしまった。

 

  兄は今日も、仲間を守るために、どこかで頑張っている。兄は優しいから。

 

  でも。

 

  会いたいと思うのは、自分勝手だろうか。

 

  もっと施設にいた頃みたいに、一緒にいて欲しいと思うのは、我儘だろうか。

 

  だって、唯一の『家族』なのに。

 

  枕を抱く腕の力が増し、形を変える。

 

  兄の行方が知れなくなったと聞いた時、本気で泣いた。自分の足で、来蝉高校まで行ったし、天宮市を隅から隅まで尋ねて回った。でも会えなくて、………寮に数日引き籠った。

 

  それでも兄ならばきっと、

 

「笑顔のお前の方がいいって!」

 

  と言うような気がして、頑張って学校に通って数ヵ月。兄は生きていた。

 

  彩は安堵したが、同時に兄の変化も知ることになって。

 

  ………一人、取り残された自分を見た。

 

  声に出してみる。

 

「一生のお願い」

 

  いつだって、優しい兄は叶えてくれたから。

 

「私も手伝いたい」

 

  何度だって、兄は力を貸してくれたから。

 

「足手まといになってもいいから」  

 

  自分だって、兄の苦しい場面を助けたい………!

 

「兄貴に会いたいよ………!」

 

  枕に顔を埋める。誰が見ている訳でもない涙を隠す。誰が聞いている訳でもない声を塞ぐ。

 

 

 

「かなえてあげるね」

 

 

 

「えっ!?」

 

  驚いて飛び起きる。この寮は一人一部屋。他の誰かが自室にいるのはおかしい。だが、夜風を取り込むべく開けた窓に、人形のような白いドレスの、白髪の美しい少女が座っていた。

 

「こんばんわ、あや。こーんばーんわー」

 

「だ、誰………!?」

 

「でった、ってよんでね」

 

  身構える彩に対し、警戒を解くでもなく、ただ朗らかな笑顔を向ける。

 

「あやがまことにあいたいっていったから、むかえにきたよ」

 

「でったちゃんは………何者なの?兄貴の、何なの?」

 

「てんしだよ。まことのてんしだよ」

 

  天使。それは精霊の持つ最強の武器、と聞いた。つまり、このでったと言うのは、兄の武器。

 

  賭けるか、安全を選ぶか。

 

「いこうよ。まことのばしょならでったわかるよ。いかないの?」

 

「………ちょっと、考えさせて。行くにしても、準備が要るの」

 

「そっか。がっこう、がっこうだね。でった、いいこだからまてるよ!」

 

  楽しそうに、少女は笑う。この状況を楽しんでいるような、はたまた彩との会話そのものを喜んでいるような。

 

「ねえ、兄貴は今どこ?」

 

「んと、かがみ………や、ま……し?でも、じゅーしちにちに、あ、あ、あ………あーる、びー、とぅー?にいくみたいだよ?」

 

  でったいえたよー!!と嬉しそうに体を揺らす。それを尻目に、彩はノートパソコンを起動させてネットを検索する。

 

  或美島。クロストラベル保有のリゾート。

 

  彩は更にクロストラベルの予約サイトから或美島の予約を確認し─────十七日から三日間、全予約が埋まっていることを確認する。間違いなく、ここだ。

 

  続いて彩は、枕元に置いていたスマートフォンを手に取ると、素早く電話番号を打ち込みコールする。

 

「あや、かっこいい」

 

  てきぱきと動く彩につられたでったが室内に上がり、彩を覗き込んでいた。

 

「ちょっと黙っててね」

 

「むゅ」

 

  言いつけ通り口を塞ぐでったに苦笑しつつ、相手と繋がった彩は矢継ぎ早に捲し立てる。

 

「────もしもし、先生ですか?夜分済みません。あの、親戚の法事が入ってしまって、十七日から三日間ほどお休みを………ええ、移動時間を含めると、はい」

 

「むむゅ」

 

  失礼しますと通話を切り、でったに向き直る。

 

「もういいよ」

 

「わーい」

 

  それだけで気分が高揚したのか、でったはくるくると踊り出す。彼女に向かって一言。

 

「でった、お願い。私を連れてって。ただし、十七日に、或美島にね」

 

「わかった!()()()()()()()()()()()()!でったはいいこのてんしだよ!」

 

  じゃあね、ばいばーい。そう言って、どこまでも明るく、でったは窓から夜空に飛び出し、そして消えていった。

 

「兄貴………私、兄貴のこと、知らないから。もっと、教えて貰うよ。絶対。絶対に………!!」

 

  有栖部彩は、決意した。

 

  ─────普通の女の子を、辞めると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  そして、役者が揃う。

 

  全ては、或美島に。

 

 

 

 

 




彩ちゃん参戦。兄貴追い掛け三千里。

ただし触手の餌食にはならないとは言ってない。

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