水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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やあ。

すまない、繰三が尺を持っていってしまった(責任転嫁)

エロスは、待ってくれ。多分次こそ出せます。許してください、何とかしますから。

あ、次回やっと三章最終話。
あと一つ質問です。
──────別に、一万文字書いてしまっても構わんのだろう?


Date.20「狂三と、繰三」

  狂三の凄惨な死。それが士道に与えた衝撃は、大きかった。琴里も、不安を拭い去れない。

 

  帰宅した士道に、明日狂三と会ったら今日のデートの話題を出すこと、と忠告した際に、士道は明らかにいつもと違う目で、

 

「そうだな………。精霊は、封印しなくちゃな………」

 

  と返した。士道の中で、『精霊を救いたい』気持ちが、『精霊を封印しなければ』という使命感・危機感に呑まれてしまっている。士道の熱い『救いたい』思いが無ければ、精霊の心は揺れない。封印は叶わない。にも関わらず、士道の中に恐れが芽生えてしまった。

 

  しかし、気持ちも分からないでもない。十香。四糸乃。士道の攻略した二人は、よく言えば純粋………悪く言えば()()()()()のだ。人に慣れていないがために、士道の優しさにあっさりと()()()

 

  ぬるま湯に浸かっていた士道を打ちのめした、『純粋な悪意』の塊。狂三を喰らった精霊────識別名〈リリス〉は、士道には、早すぎた。

 

  けれど、精霊は待ってくれない。いや、救いが訪れる日を()()()()()のだ。だから士道には、何としても立ち直って貰うしかない。

 

  兄に、優しい言葉一つ掛けられない。

 

  人を助けるために司令官と呼ばれるまでになった琴里は─────今は、その肩書きを呪った。

 

 

 

 

 

  士道に元気が無い。十香は気付いていた。

 

  十香は頑張った、と自分で思っていた。スタンプラリーを無事制覇し、愛らしいペンギンのぬいぐるみを誠達より先に手に入れた。勝利を称えられ、鼻高々で士道の元に凱旋したが、士道の反応はどこかぎこちない。スタンプ探しの疲労かとも思ったが、明らかに何か無理をしていた。

 

  帰宅した今もリビングで、何をするでもなく、ただソファに座って俯いている。

 

  十香が見たいのは、そんな士道ではない。いつもの優しい笑顔が見たい。そんな顔をして欲しくない。何かに苦しむ士道の、力になりたい。

 

  意を決した十香は、ぬいぐるみを掴んで士道に向かっていった。

 

「………………何してるんだ十香」

 

  士道が人の気配に気付いて顔を上げると、十香がいた。何故か、自分の顔をぬいぐるみで隠して。

 

「十香ではない。私はペンギンのぺんたろう。悩める少年、一つこのぺんたろうにどんと話してみるといい」

 

「いや、十香………」

 

「ぺんたろうだばーかばーか」

 

  よしのんの真似か何かだろうか。十香なりに、士道を励まそうとしているのだ、と察した。それほどに、自分は疲弊し

ていたのか。士道は苦笑した。

 

「ありがとう十香。でも、俺は大丈夫だ」

 

「……………むう。シドー、嘘を吐いても分かるぞ。シドーは今、いつものシドーではない。そのくらい、私でも分かる」

 

  笑ってごまかそうとするが、十香はそれでは納得しなかった。顔の前からぬいぐるみを退けて、士道に抗議の視線を向ける。分かっているぞ、と。

 

  そして、その視線は、寂しげなものに変わる。

 

「シドー………私では頼りにならないか?シドーの悩みを聞いてやれないか?」

 

「十香………。」

 

「シドーは私を助けてくれた。それだけでも、返しきれない恩がある。だが、シドーといると、私は毎日が楽しい。私は、シドーから貰ってばかりだ。少しくらい、私からも返させて欲しい」

 

「…………っ」

 

  そっと、十香は士道の後ろに回って抱き付いた。突然の行為に、士道の頬が赤く熱を持つ。

 

「な、何してるんだ?」

 

「『お母様といっしょ』でやっていた。こうすると落ち着くらしい。………どうだ?話す気になったか?」

 

  子供扱いされた気分だが、少なからずホッとする温もりがあるのも事実。士道は、自分が折れることを決めた。

 

「………………気を悪くするなよ?」

 

「任せておけ」

 

「………狂三が、他の精霊に殺された現場

に出くわして………。俺、その精霊を………いや、精霊のことが、怖い、って思ってしまったんだ………」

 

  十香が思った以上に、深刻だった。このままだと、士道が何処かに行ってしまう気がした。自然と、士道を抱く力が強くなる。

 

「私も、怖いか………?」

 

「いや…………でも、思い返せば、俺は誠の別人格と会った時も、狂三が蘇った時も………怖かった」

 

「………シドー。私も、そうなっていたかも、知れない。シドーが助けてくれたのだ。もし、シドーと出逢えずに、あのまま名無しでいたら………私も、見るもの全てに殺意を抱いていたかもしれない」

 

「…………。」

 

「シドー。もう一方の人格の誠を見た時、私も怖かった。しかし………同時に、可哀想にも思った」

 

  十香の言葉に、士道は驚いた。恐怖ばかりが先行して、思いやりを失っていたと気付いたからだ。()()()()()()()()()()()()、そう決めつけてしまうように。

 

「もう一方の誠は…………私にとってのシドーのような、止めてくれる誰かが居なかったのではないか?と、私は思う」

 

「………確かに………」

 

  思い返せば、《私》の誠は子供そのものだった。自分の好きなもののみを欲し、口を出されると文句を言う。叱られようものなら、嫌いと言う。甘えん坊で利かん坊、玩具を買って貰えず拗ねる駄々っ子だ。

 

  いつか、誠が言っていた。

 

  精霊は()()()、と。

 

  確かに、その通りだ。

 

「……………十香、ありがとう。今度こそ、大丈夫だ」

 

  吹っ切れた士道の笑顔に、もう曇りは無い。士道は大切なものを思い出した。

 

  『精霊を救いたい』、純粋な思い。

 

「おお、シドーが帰ってきた!」

 

  ぱぁと十香に咲く、笑顔の花。士道が守りたかったのは、()()なのだ。背中に抱き付く十香の頭をそっと撫でながら、士道は決意を新たにする。

 

「やってみせる。俺はすべての精霊をデレさせる────あの誠だって、きっと!」

 

「うむ。シドー!私の同胞を、きっと救ってやってくれ!」

 

「おう!」

 

「だが、キスは駄目だぞ。シドー、キスは私とだけだぞ」

 

「お、おう………」

 

  士道が再び苦笑いを浮かべる。キスをしなければ、その約束は出来ないのだが。我ながらふざけた世界の救い方だ。

 

  と、不意に、ころころと音がした。背中側から…………つまり、十香からだ。

 

「………シドー。まずは私から助けてくれ」

 

  赤く染まった顔を、恥ずかしそうに背ける十香。時刻は七時半。とっくに夕飯時になっていた。

 

 

 

 

 

 

  狂三とのデートの、翌日。午前中の授業を終えた士道は、高校の屋上に来ていた。落下防止柵に寄りかかり、肘を突いて空を暫し眺める。

 

  流れる雲を見つめ────覚悟を決めた士道は、スマートフォンを取りだし、電話を掛ける。

 

『はぁい先輩!あなたの可愛い後輩・色無誠がスピーキング!ですよーー』

 

「自分で言うなよ………」

 

『いや、実際の所、俺の見た目ってK点超えしてると思うんですよね』

 

「知らんわ」

 

  相手は、誠だ。昨日一晩考えて、考えて………そして、話がしたかった。すると決めていた。

 

『ところで先輩、今日は何のご用?まだ学校ですよね?────まさか俺の声が聞きたくなったなんていうラブコメイベントでは!?』

 

「ないです」

 

『ウッソだろお前………じゃあ何です?』

 

「誠。お前じゃない、()()()()()()()()()()()()()()()

 

『………………!?』

 

  風が強い。空を流れる雲を千切り、士道の髪を靡かせる。電話越しの沈黙が、風の音を強めている、そんな気がした。

 

「聞いてるんだろ。出てこいよ」

 

『…………先輩、何すかそれ。イタズラなら

切りますよ?』

 

「本気だ。お前、二重人格なのには気付いてるか?」

 

『……………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

  ─────変わった。士道に緊張が走る。

 

『お久しぶり、センパイ。私に宣戦布告って────何考えてんの?何したいの?』

 

  電話越しの、敵意。明らかな不機嫌。しかし、士道はもう退かない。退けないし、その気もない。

 

「誠、覚えておけ。俺は、必ずお前をデレさせる。絶対にな」

 

『何かと思えば。ハッ、男が?私を?センパイって冗談のセンス無い?』

 

「本気だ。俺は、()()()()()()()()()()()()()。楽しみにしておけよ」

 

  啖呵を切った士道の耳に、息を呑む小さな音が聞こえてきた。

 

『────センパイ、ホントに昨日のセンパイと同じ?昨日尻尾巻いて逃げた、あのセンパイと?』

 

  その困惑を、士道は逃さない。昨日のことを知っている。何処かで見ていたかとも思うが、あの場に《俺》と名乗る誠は居なかった。ならば─────

 

「やっぱり、昨日の精霊はお前か」

 

『──────あは。センパイって、面白いね。いいよ、決めたよ。()()()()()()()()()()()()()。センパイも()()()()。ウザったいから、兄妹セットで壊したげる』

 

「やってみろ。その前に、俺はお前をデレさせる」

 

『アハハハハ!!調子に乗るなよ人間。まあでも、()()()()()()()()、たまには助けてあげる、か・も・ねぇーー。感謝はしてよね!!』 

 

「そりゃどうも」

 

  何だか知らないが、協力を得られる可能性があるらしい。予期せぬ収穫はあったが、これで士道は《私》に意識されるようになった。接触の機会も増えるだろう。

 

「もう言いたいことは無い。戻ってくれていい」

 

『あっそう。じゃあ私も無いし、《俺》に返すから。─────()()()()()()()()()()()()()?』

 

  途端に口調が変化し、張り詰めていた緊張が霧散する。確かに戻ったようだ。ついでに言えば、変化した前後の記憶も曖昧になっているようだ。何の話題か忘れている。

 

「いや、話は付いた。悪いな、突然電話して」

 

『………???何か話、しました?まあ、士道先輩がいいなら、いいんですが………ではまた』

 

  通話が切れる。士道は一人、胸を撫で下ろした。これで後には退けないが、寧ろ清々しい。もう迷わない。スマートフォンを仕舞うと、士道は屋上を後にした。

 

 

 

 

  教室に戻る士道の姿を見つめる影が、一つあった。

 

「みみみ」

 

  繰三だ。一人静かに、飴を舐めていた。

 

「みーみみーー。みー」

 

  誰かに語り掛けるように静かに鳴き………流れる雲を見上げていた。それは()()()()()()()()()であり、ただ思案に耽るようでもあった。

 

  風がカサカサ、と誰かの忘れていったビニール袋を拐う。昼休みが終わる予鈴が鳴った。繰三もちょこちょこと教室に戻っていく。

 

  きっと次の時間も、十香が繰三を待っている。

 

  ──────けれど、もう()()()()()()()()()()()()

 

  

 

 

 

 

 

 

  放課後。

 

  狂三に呼び出されていた士道は、令音との簡単な打ち合わせを終え、屋上に向かおうとしていた。

 

  呼吸を整え、十香との約束を思い出す。今も、怖いという気持ちはある。だが、士道にはそれ以上に、精霊を救いたいという気持ちを維持していた。

 

「………よし」

 

『行けるかい、シン』

 

「はい。行きます。行って狂三を、デレさせてみせます」

 

『気負いすぎないようにするんだ。………とは言ったが、今の君の精神はとても落ち着いている。心配は無用だったかな?』

 

「いえ。緊張はしているので、助かります」

 

  覚悟は出来た。後は、飛び込むだけ。屋上に向かおうとしたその足に、何かの重みが加わった。

 

「ん?」

 

  それは、繰三だった。爪先からズボンを掴んで士道の身体をよじ登り、胸ポケットに潜り込む。

 

「るみー」

 

  ひょいとポケットから顔を出し、繰三はニコニコと笑っている。まるで、一緒に行くと言っているようだ。

 

「繰三?遊びに行くんじゃないぞ?」

 

「みみみ、ざふきえる。くーるーみー!」

 

「や、何言ってるかサッパリ分からないんだけど」

 

  意思疏通が出来ないので、仕方無くそのまま歩き出そうとする。

 

 

 

  ──────その時。突如として辺りが暗くなったかと思うと、回りにいた生徒達が呻き声を上げて次々と倒れ出す。部活動の音もぴたりと止み、立っているのは士道だけ。

 

  静寂が、訪れた。

 

「何だ!?何だこれ!?」

 

『来禅高校を中心に、巨大な霊波反応が観測された。何か影のようなものが、範囲内の人間を衰弱させているようだ。十中八九、狂三だろうね』

 

「何だって!?早く止めさせないと………!!」

 

  士道が駆け出そうとした時、ちょんちょんと肩をつつかれた。思わず振り返ろうとして─────誰だ?と踏みとどまった。今しがた、自分の回りにいた人間が残らず倒れたばかり。なのに、急に人が現れるなんて………………。

 

  一瞬とも何分間とも思える思案の中で、ふと士道は気付いた。

 

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「くふふ……………士道さん、そんなに警戒されると、わたくしちょっぴり寂しいですわよ?」

 

 

 

 

  背後の声に確信を抱き、士道は振り返る。

 

  黒いドレスに、白のリボン。赤い右目と金色の左目。左右不揃いのツインテール。色違いの時崎狂三─────()()()()()()が、そこに立っていた。

 

「繰三、お前大きくなれたのか!?」

 

「いいえ、偶々ですの。恐らく、一時的なものでしょうね。この『時食みの城』………狂三(オリジナル)の、影を使った食事が、わたくしに霊力を補給したからだと思いますわ」

 

  繰三は、久々の自分の身体を試すように、伸びをし、その場でターンを決め、と動き回る。明らかに楽しげだったが、士道としては気が気でない。

 

「食事!?みんな喰われてるのか!?止めなきゃマズイ!!そうだ、十香!!十香は無事か!?」

 

「そう慌てずに………。わたくしがいれば、それは大丈夫ですのよ」

 

「え?」

 

  さらりと繰三が言ってのけ、焦ってばかりだった士道は素頓狂な声を出してしまう。

 

「既に、わたくしの影で中和していますの。わたくしにとっても、十香はお友達────美味しく召し上がられてはたまりませんもの。ね?」

 

  ぱちん、と右目でウィンクしてみせる。繰三はどうやら、力を貸してくれるらしい。当座の問題が解決された士道は深い息を吐くと、気付けの為に両頬を叩いた。

 

「よし。繰三、一緒に来てくれるか?」

 

「くふふ、()()()()、エスコートされるのは初めてですの。優しくして下さいましね?」

 

  力強く頷くと、差し出された繰三の手を取り、士道は階段に向けて駆け出した。  

 

「行くぞ繰三!!目指すは屋上だ!!」

 

「デートスポットとしては上出来ですわね。流石は()()()()。では─────此度は、()()()()()()()()()()()()()…………!!」

 

 

 

 

  息を荒くしながら、士道は屋上に足を踏み入れた。続く繰三は、余裕だと言わんばかりにくるくるとターンを決めている。

 

  二人を待ち受けるのは、影の中央に立つ狂三。どこか不機嫌そうな様子だ。

 

「狂三。来たぞ」

 

「あら、士道さん。デートに彼女以外の女の子を─────それも、わたくしの()を連れてくるなんて、どういうおつもりですの?」

 

「あら、あらあら。くふふっ、嫉妬深い()を持つと苦労致しますわ。でぇ、もォ………」

 

  睨む狂三を、繰三が嘲る。彼女の影から黒い棒状のものが突き出し、それを両手で握って引き抜く。

 

分身(イミテーション)では役不足。オリジナル、疾く出ていらっしゃいませ」

 

  全貌が顕になったそれは、時計の長針と短針を模した一対の刺突剣(レイピア)。右手で握る長針の剣を、狂三に突き付ける。

 

  その横で、士道だけが状況を理解しかねていた。

 

「イミテーションってどういうことだ?」

 

「士道さん、ご存知ありませんでしたの?あれは狂三の分身。これまで士道さんとデートを重ねてきたのも、この消耗品ですわ」

 

「なっ…………!?」

 

「その通り、ですわ」

 

  目の前の狂三が影の中に沈んでいき、入れ代わるように狂三が現れる。見た目は士道には、何一つ変わらないように思えた。しかし、繰三が口角をニイィと吊り上げて笑みの形にしたので、どうやら本物らしい。

 

「ネタばらしが過ぎますわよ、わたくし」

 

「誠さんへネタバレ対策をしなかったのが悪いんですのよ、わたくし」

 

「お  の  れ  誠  さ  ん」

 

  ほぼ同じ姿、同じ声の二人が語り合う、異様な光景。士道は一つ、気になることがあった。

 

「狂三。聞かせてくれ、お前は分身について………どう思ってるんだ?」

 

「どう、とは?」

 

  質問の意図を察しかねた狂三は、やや食い気味に尋ね返す。一方で繰三は思うところがあったようで、士道にちらと視線を遣る。

 

「自分と同じ姿の分身が傷ついても、殺されても…………辛く、無いのか?」

 

「なぁんだ、そんな事ですの?まあ、余り気分の良いものではありませんが、消耗品ですもの」

 

()()()()!?()()()!?あんなに笑って、喋って………デートもした!正直ドキドキしたよ!!分身だなんて思いもしなかった!!紛れもないお前だったよ!!」

 

「その通りですわ。あれは()()()()()()()()()()()()()()。わたくしそのものでしてよ」

 

「なら、尚更だ!!分身だなんて関係無い!時崎狂三に変わりは無いだろ!!自分を蔑ろにするようなこと、言うなよ!!」

 

  これだけは言いたかった。喉が裂けそうな程に叫ぶ。狂三は壊れてしまっている。もっと、自分を愛して欲しい。絶えず自分を否定するようなことは、止めて欲しい。

 

「狂三、俺は─────」

 

「─────そこまでですわ、士道さん。その言葉は()()()()には響いても、あの()()()()には届きませんわ」

 

  大きく一歩踏み出し、言葉を継ごうとした士道を、繰三が遮る。静かに、しかしハッキリと。その様子に、狂三は壊れた笑みを見せる。

 

「分かっているではありませんの。情熱的な言葉は好きですけれど、()()()()()()()()()()()()

 

  長短二挺の銃が、狂三の手に現れる。

 

「退きなさい。あなたもまた贋作物(イミテーション)。折角得た命をわたくしに捧げたいと言うのなら、話は別ですけれど?」

 

  不敵に笑う狂三の黄金の目が、日光を受けて怪しく輝く。

 

「丁重にお断り致しますわ。()()()()()()()()。未来を信じたわたくしからの三行半、受け取れないとは言わせなくってよ!!」

 

  双剣を構えた繰三の姿は、細部は異なれど、まさに狂三の鏡写し。

 

  士道を挟んで、時の精霊は対峙する。

 

「〈刻々帝(ザァァァァフキエル)〉ッ!!」

 

「〈刻々偽帝(ザフキエル・メグィエェェェェフ)〉ッ!!」

 

  顕現する、針の無い時計の文字盤が二つ。士道は巻き込まれまいと慌ててその場を離れる。少年が動いたことで、二人の"クルミ"の目線が交わり重なりあい──────

 

「お行きなさい、わたくしたち!!」

 

  影から現れた無数の狂三が、影を揃いの銃へと番え、

 

「〈刻々偽帝〉───【遍在(メシャレット)】!!」

 

  文字盤の数、一つ一つの前に出現した十二人の繰三が、弾丸の如き速度で風を切って飛ぶ。

 

「時を手繰るなら、わたくしが勝る!!」

 

「時を狂わすなら、わたくしが討つ!!」

 

  士道が決して望まない────()()()()()()()()闘いの、始まりの鐘が鳴った。

 

 

 




繰三、でかくなるの巻。

やったね誠、エロ要員(調教済み)が帰ってきたよ!

なお今後ともちび繰三は出てきますのでご安心を。


※精霊識別名を〈グラトニー〉から〈リリス〉に統一しました。申し訳ありません。

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