水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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ちょっと前回より少ないかな?

更新ペース下げるよかいいかと思ったのですが。

どちらのほうが良いのでしょう。


Date.2「ラタトスクからのお誘い」

「起きなさい変態テルマエロマエ」

 

「痛てぇ!?」

 

  頭をはたかれて目が覚めると、何やら見知らぬ部屋。病院の診察室のような部屋のベッドに寝かされていた。

 

「よく眠れたかしら」

 

  目の前には、何だか眠たそうなマッドサイエンティスト的に見えなくもない眼鏡の女性と、今しがた俺をはたいたと見える赤髪ツインテロリがいる。

 

  ちょいまち。このロリ見たことある。

 

  起き上がってベッドに胡座を掻き、脳内検索ソフトを展開(ただ思い出してるだけ)。こう、ツインテをほどいて、髪を下ろして……………。

 

  該当一件。

 

「ああどうも………眼福でしアイタッ!?」

 

  身体能力は向上してる筈なんだが、どうもこの平手が見切れない。恐ろしい。女子、恐ろしい。

 

「忘れなさい。今すぐ」

 

「二度もぶった!いや通算で三度目か!だが断る!」

 

  中々に無茶を仰る。紳士が夢と希望の膨らみ(ちっぱい)を忘れる時は、則ち死ぬ時と決まっている。故に忘れることは出来ない。俺は紳士だ!俺は必ず墓前にちっぱいを供えて逝く(断言)。

 

「…………最低ね」

 

「もっと激しく!」

 

「最低のクズね」

 

「ありがとうございます!」

 

  強気ロリの罵倒ハァハァ。我々の業界ではご褒美です。

 

  いかん、完全に俺の中の変態が覚醒しつつある。どうやら美少女になったことでわりとマジでナルシスト気味になってるらしく、貶されることに何か快感を覚える。悔しい、でも感じちゃう!

 

  と、俺がビクンビクンしていると、ツインテロリの一歩後方にいた、目の下に熊を放し飼いにしている女性がロリに話しかける。

 

「琴里、彼女は神無月の妹か何かなのだろうか?」

 

「知らないわよ。もしそうなら、神無月は簀巻きにして海に沈めるわ」

 

「悦ばれそうだ、止めておきたまえ」

 

  ………………どんだけ変態なんだ?その人。上には上がいたわ。変態業界も上下関係が激しいんだな。くそう。世間の荒波に揉まれて………揉まれ?揉む!?濡れるッ!!

 

  ところで脱線しまくってるけど、ここ何処だ?そもそも俺はどうなる……ハッ!?そうか!(コテリン!)閃いた!

 

「俺に酷いことするんでしょう!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

 

「ちょっと淫獣、発情するのは止めてくれる?」

 

「改造ですか!開発ですか!感度3000倍とかですか!?」

 

「こいつから海に沈めるわ」

 

  おふざけから一転、強張った俺の喉から風を切るような音がした。

 

  琴里という名前らしい少女に、汚物を見るような目で見られました。何か玉ヒュンした。もう無いんだけど。カエルがヘビに丸呑みされる五秒前って感じ。自分が本質的には被虐嗜好ではないとまざまざと感じてしまった。琴里様と呼ばせてください。今だけ。

 

「〈ラタトスク〉の目的に反するから我慢したまえ」

 

  眠そうな人にもカワイソーなものを見る生温かい視線を向けられました。流石に自重します。すいませんでした。無言の土下座。

 

「こんな精霊もいるのね。何か救う気になれないのだけど」

 

  俺が大人しくなった所で、空気が緩んだ。琴里さんがチュッパチャップスを咥える。それ、バインダーに綴じるものかよ。飴だけを綴じるバインダーかよ!ビルギットさん!

 

  さて、それよりも気になる単語が出て参りました。

 

「精霊って何ですか?」

 

  何だかとってもへろへろ、あいやファンタジーな響きですね。ファンタジーそのものか。ドライヤドとかニンフとかだっけ?ニンフ、ニンフ、妊婦!?止めて!俺よ思考を止めて!ニッチな好みがバレる!

 

「そこからなのね。精霊とは、………あんたみたいな奴のことよ」

 

「美少女になってハァハァしてる人の事ですか」

 

「違うわよ。あんたみたいに、人間辞めた奴のことを言うの。───────美少女になった?」

 

  あ、ミスった。言っちゃったよ。仕方無い、バラそう。

 

「水晶みたいなの拾ったら女の子になってました。てへぺろー」

 

  わざわざ女の子座りに直してから、ダブルピースしてみた。え、顔?えへ顔ですが何か?何もされてないのに無様は晒さんぞ!?アヘ顔は別料金だ!高くつくぜ!

 

「何と。意外な事例だ、過去に例がない。中々面白い精霊を見付けたね、琴里。…………琴里?」

 

  研究者らしい反応を熊の飼い主(眠そうな人)がし、琴里さんの方を見る。

 

  反応が無い。

 

  沈黙が流れ、琴里さんの眉が険しくなる。ウケなかったか。プルプルと小刻みに震えながらチュッパチャップスを口から取り出し、頭を守るように両手を交差させる。顔は羞恥に赤く染まり、目尻には涙が…………。

 

「おにーちゃん以外の男に、変態に、は、はだか見られた………」

 

  吹いた。笑う方面じゃなくて、意表突かれて肺の空気全部噴いた。

 

  やっちまった。

 

  NA ☆ KA ☆ RE ☆ TA  。

 

  ぐすん、ぐすんとこれはマジ泣きですわ。

 

  あ、やべえ。これはやべえ。可愛い。超可愛い。さっきまでの女王様オーラとのギャップが今の年相応のロリオーラ(ちから)略してローラ(ちから)を呼び覚ましリーンの翼がハイパー化(意味不明)。しかもお兄ちゃん大好きッ子とか素晴らしく可愛いのは確かなんだが。

 

  今、スゲェ死にたい。

 

  いたいけな少女を泣かせた事に関して謝罪の意を表明したい。お兄様、どこにいらっしゃる。今すぐ俺をカイシャクしてくれ、ハイクも詠まない。

 

  ああっ、止めて!眠そうな人!またもや俺にその兄弟ゲンカを諫める母親のような生温い視線を投げないで!ツラい!色々と突き刺さる!今なら俺を目で刺殺出来ますよ!

 

「ほらッ!俺もう男辞めたから!身体は完璧に女だしっ!ノーカウントですよ!ノーカン!ほら笑って!笑って琴里さん!お兄さんも笑顔のあなたが好きなはず!さあ笑ってー!!お願い泣かないでーー!!」

 

  何かの儀式か躍りかの如く、なりふり構わず俺は琴里さんの回りを舞い回る。

 

  ここでやらずに何をやる。だからって何やってんだとは言うな。知ってる。

 

   だけど俺がっ!全ての涙をっ!止めてみせるッ!

 

「君も必死だな」

 

「女の子に泣かれて黙ってる奴は男じゃない!」

 

「じゃあ君は男性じゃないか」

 

「昨日から俺は女だ問題ない!!」

 

「事の発端は君だけどね」

 

「ごふっ!!」

 

  完封されました。眠たい人手強い。勝利の美酒を飲むように、或いはラムネを一気食いするように、睡眠導入剤を煽っている。異様な光景だ。

 

  このあと延々と、琴里さんが泣き止むまで、同様の励ましを喉が枯れるまで続けた。後半の記憶は無い。

 

  ともかくも、俺には絶対逆らえない人が一人出来た事には変わりがなかった。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、琴里さんのお兄さん………五河士道先輩が精霊とキスをすると、精霊の持っている天使と霊装(世界の脅威)を体内に封印出来るので、精霊は人間として生活が出来るようになる、と」

 

「そうよ。ところで何故士道を先輩呼びなのよ」

 

「俺、昨日都立来禅高校に入学した身だったんで」

 

「あ、そうなの。まあいいわ、続けなさい」

 

「はい。で、琴里さん達〈ラタトスク機関〉の皆さんは、士道先輩と精霊をデートさせてキスを導き、精霊をお手軽に幸せにするお仕事をしていると」

 

「その認識で間違いないわ。流石に発情期のサルよりはマシね」

 

「発情してるにはしてますけどね」

 

  あれから十数分後。

 

  俺は空間投影モニターを利用しながら、精霊と〈ラタトスク機関〉についてのレクチャーを受けていた。

 

「椅子、座りにくいわ」

 

「アイ、マム!」

 

  琴里さんの椅子になりながら。

 

  端から見ると、子供軍人が娼婦に乗ってるみたいで絵面がヤバイ。そんなことより、琴里さんを落っことさないように姿勢維持すんのが結構辛い。

 

  何より、画面が見にくい。そして琴里さんのきゅっと締まったおしりの感触を悦ぶ俺、醜い。喧しいわ。

 

「貴方は誠君と言いましたか!是非、私と代わってください!」

 

  それと例のスペシャル変態が現れた。確か、神無月。これで副司令とかどうなってんだ〈フラクシナス〉。まあ、変態は大体ハイスペックって相場が決まってるから。

 

「神無月さん。良いんですか?()()()()()()()手段で快楽を得てしまって?」

 

「ハッ!?そうか、君は同志か!!」

 

「下がってなさい神無月」

 

「放置プレイですか!」

 

  目と目が合う瞬間変態(ダチ)だと気付いた。握手出来ないのが歯痒い。あ、部屋出てった。素直だ、欲望に。さらば友よ。君のことは忘れよう。きっと交わらない道なんだ。おれはしょうきにもどった!あれ、変態って誰だっけ。神無月のことかな?

 

  取り敢えず、ここまでで分かったことを一言で簡潔に言おう。

 

  超展開。これに尽きる。

 

・戦艦持ち出しといてデート

・中学生が秘密組織の前線司令官

・兄貴を女たらしにしようとする妹

・キスで世界を救う兄貴

死ぬか口説くか(デッド・オア・デート)

・対するASTという例のくっ殺団は自衛隊

・つまりあのエロスーツ税金の塊(ナイスゥ)

・顕現装置なる現代的魔術兵器(ハイテクマジカルウェポン)

・DEMとかいう厨二心が燃える存在

・そもそも精霊への対応が二択しかない

 

  何だこいつら。意味わからん。俺が言ったらお仕舞いだが。俺だって昨日からめでたくイミフ世界にお邪魔してんだから。

 

  ところで、今思ったんだけどさ。俺、この流れからすると、琴里さんの兄貴とらぶらぶちゅっちゅしなきゃいけないよね。

 

「男とキスすんのやだぁ………」

 

「まぁ、そうなるでしょうね」

 

  背中の上から、深い溜め息が俺の旋毛に吹きかかる。こそばゆいぜ。あ、何か甘いニオイ。飴だ、チュッパチャップスだな。

 

「それにですよ琴里さん、俺、力封印されたら男に戻るかもしれないんですよね」

 

「ウソ、戻るの嫌なの?」

 

「はい」

 

  だって美少女ですよ美少女。人生それだけで薔薇色ですよ。何の取り柄も無いボンクラな見た目の男よか、俺は女として生きるゥ!

 

「今のままだと、日常生活なんて無理よ。分かったでしょ?」

 

「三度の飯より美少女食べたい」

 

「〈フラクシナス〉の主砲に詰めて流れ星にするわよ」

 

「すいません。覗きとおさわりに絞ります」

 

「死ねばいいのに」

 

「わー、例えとか一切無くどストレートに言われるとかなり心痛いわー」

 

  でも譲る気は無い。どや。

 

  生憎、俺の心はとっくに固まっている。

 

「俺は、精霊のままでいい」

 

「馬鹿なこと言わないで………後悔するわよ、必ず」

 

  琴里さんの目が、何かを物語る。まるで、俺の行く末を肌で知っているかのようだ。

 

  本当に、年下とは思えぬ気迫だ。

 

  俺を、本気で心配してくれてるんだ。

 

  今、全く不安はない。ASTとやらも、何とかなる気がする。だって、特に触抱聖母を使わなければ、追われにくいと言うことも昨日判明した。

 

  楽観視だろう。でも、俺はそれでいい。

 

  こんな馬鹿にもかかわらず、琴里さんは俺と本気で向き合ってくれた。昨日、迷惑かけた変態なのに。言ってて悲しい。

 

「ならこうしましょう、()()。貴女やお兄さんが俺を呼んだら、俺は必ず助けに行く。代わりに、俺がヤバくなったら助けてください」

 

  だから、力になりたいと思った。

 

  嗚呼、俺は本当に変態だ。

 

  貴女に()()()と、今気付いた。

 

  司令の器、しかと見させて戴きました。

 

「交換条件、って訳?随分上から目線ね」

 

「変態は強欲なので」

 

  呆れて見せるが、琴里さんの目からは先の気迫が失せている。俺を止める気は、もう無いのだろう。

 

「天使を悪用しなければ、まあ当面は目を瞑るわ」

 

  ほらね。

 

  俺が、いつか()()()と言うことを、約束したから。今はその時じゃないと、そう言ったから。

 

「転送して好きなとこに送るわ。どこか希望はある?」

 

「そうですね、景色が素敵な所で」

 

「宇宙ね」

 

「勘弁してください」

 

「冗談よ。見晴らしのいい公園があるの。今の時間なら、良いものが見れると思うわ。精霊として生きることを望むなら、私達はバックアップ出来ない。餞別代わりよ」

 

「へえ、楽しみですね。司令お気に入りの場所ですか。そこで士道先輩とデートしたことは?」

 

「ブッ飛ばすわよ」

 

「ワタシナンモイッテナイデス」

 

  やーい司令赤くなってやんの。あ、ヤバイヤバイ心読まれてら。目から光が消えつつあるぞ。万歳!琴里司令万歳!

 

「全く。いい?警察沙汰は避けること。空から見張ってるから、何時でも主砲撃ち込むわよ?」

 

「肝に銘じときます。霊装腹丸出しなんで」

 

  頭を振って肯定すると、琴里さんは俺の上から降り、部下に指示を出す。埃を払いつつ立ち上がった俺の回りに、何らかの力場が生じていくのが肌で感じられる。これも精霊の力か。

 

  もう、行くのかな。

 

「さようなら、色無誠。戦争(デート)の先約、取り付けておくわよ」

 

「ははっ、お相手は司令じゃなく、先輩でしょ?」

 

「馬鹿ね、士道を動かすのは私よ」

 

「──────それは、楽しみですね」

 

  力場に加わる力が、増大する。

 

  さあ、司令のプレゼントを堪能するために。俺よ、今は目を閉じようじゃないか。

 

  プレゼントは、サプライズ含めてのサービスだからな。

 

 

 

 

  そして、〈フラクシナス〉から、一人の精霊が立ち去った。

 

「馬鹿なやつ。精々後悔すればいいわ」

 

  一人残った五河琴里は、誰に向けた訳でもない言葉を、ぽつりと漏らす。

 

「ま、でも、アイツみたいな精霊がいても、いいのかも、ね」

 

 

 

 

 

 

  静かだ。

 

  風が心地好い。

 

  そっと目を開く。

 

「ん、っ…………」

 

  眩しい。けれど、俺が精霊になった時と異なり、心地好い。

 

  天宮市の外れ、開発地の高台にある公園に、俺はいた。

 

  俺を迎えたのは、春の穏やかな風と、そしてもう一つ。

 

「ははっ、これは敵わない」

 

  司令からのプレゼント。

 

「こいつはでかすぎて、持っていけませんよ、司令」

 

  今、まさに水平線から顔を覗かせる、あの()()だった。

 

  最高に眩しくて、最高にビッグスケール。この宇宙で一番素敵なものをプレゼントされてしまった。

 

「惚れ直しましたよ、司令」

 

  これは、ちょっとやそっとじゃ返せないなぁ。

 

  落下防止柵に頬杖を付き、太陽が総て露になるまで見つめることにした。今は、俺が太陽を独り占めだ。

 

  俺は、司令と約束した。

 

  司令と、お兄さんの危機には必ず現れると。

 

  安請け合いしちゃったな。つまり、正義の味方って訳だ。触手系変態精霊には、荷がちと重たいか。

 

  だが、ただ無意に生きていくより何倍も楽しい。

 

 

 

「さあ、俺の人生(デート)を始めようか」

 

 

 

  誰も聞く者の無い俺の言葉が、宙に溶けて、消えた。

 

 




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