納得行くまで書いたら長くなってた件。
それといつもご愛顧頂いている紳士淑女の皆さん。文章の書き方について、わたくし絶賛皆さんのご意見お待ちしております。
いまのままでいい、ですとか、こうすれば良くなる、とか。どしどし感想欄にて教えてくださると嬉しいです。
Date.13「ねんがんの くるみを てにいれたぞ!」
「わたくしと決闘して下さいませんか、誠さん」
「えぇ………………(困惑)」
四糸乃の手を引く俺の前に。
またまた狂三が来た。性懲りもなく。定期便ですかコノヤロー。
時は六月。四糸乃を無事封印し、ただの可愛い女の子にするのに成功してから一月。おねにーさんとして、毎日〈フラクシナス〉に顔を出し、四糸乃に付き添っていた。
ご飯も一緒に食べたし、一緒に遊んで昼寝もした(寝過ぎて四糸乃に起こされた)。勉強にも付き合ったし、お風呂に二人で入ったことだってある。色々とぷにぷにしてたな、ぐへへ。
訓練を重ねた四糸乃は、知識としては既に一人で生活出来るレベルだ。勿論、料理は無理なので〈フラクシナス〉頼りだけど。依然として人見知りが直らないので、艦を降りるのはまだまだ先だ。
で、今日は訓練の一環かつ四糸乃の気晴らしのため、艦からの外出が許可されたのだが………。
「あのさぁ………………それ、四糸乃の公園デビュー………もとい、ピクニックよりも大切な案件?」
俺の影に隠れてふるふる震える四糸乃を庇いつつ、割とマジめの殺気を放つ。
ヤロウ。俺の右手には、四糸乃と一緒に作ったサンドイッチ入りのバケットがあるんだぞコノヤロー。タマゴとツナマヨとハムきゅうりだぞコノヤロー。四糸乃が一生懸命作ったんだぞコノヤロー。こんなタイミングでまた君かぁ、壊れるなぁ………。俺のこと怒らせちゃったねぇ!?
「すっかり母親の顔になっておりませんこと!?」
『あながち間違いとも言えないねぇ………』
四糸乃の母親?光栄だね。ママンと娘の二人で親子丼しねーか親子丼。つり目巨乳とタレ目ロリのセットだぜ、理想的だろ。
「ピクニックならまたの機会、とは参りませんこと?わたくし
狂三が短銃を弄び、ヘアアイロンのように自分の髪を巻き付けてはほどいている。受ける以外の選択肢は無し、か。
「誠、さん……………」
四糸乃の小さな手が、俺のスカートの裾をきゅっと引っ張る。可愛い。
「四糸乃。〈フラクシナス〉でちょっと待っててくれるか?三十分で戻る」
「は、はいっ!」
『おねにーさんかっくいーーっ!ヒューッ!』
バケットを四糸乃に預け、走り去る四糸乃の姿を見送る。小さな背中がブロック塀の角に消えると、俺は狂三に向き直る。
「あら?【
「バカ、ちげーよ。そもそも【
「本当に母親と化してますわね………」
「………………で?ここでやる気か?」
「いいえ、いいえ。こぉぉおんな街中で戦るつもりは流石にありませんわ。ですので………………」
狂三の口角が三日月のようにつり上がる。嫌な予感がして、持っていた飲料水のペットボトルを握り潰す。吹き出した水に霊力を浴びせ、身の回りに滞空させた。今はあの霊力とか魔力とかを吸収する力は
「今日は
「へ?」
俺が情けない声を上げるのとほぼ同時。
地面から無数の影のような弾丸が飛び出し、俺の立っていた地面が崩落する。
「へあっ!?」
「
バランスを崩し、足元に気を取られた俺の隙を突き、狂三の踵落としが眼前に迫る。咄嗟に
「きひぃ!きひひひひ!!もぐら叩きで、す、わ、ねぇぇぇぇええ!!」
追い立てるように降り注ぐ銃弾を逃れるべく身を捩り、暗い地の底に着地する。ここはどうやら下水道トンネルらしい。やけに広いが、非常灯も点灯しているので完全な暗闇でない。それに、水が全く無い。もしかすると、空間震時の避難にも使えるようにしているのかもしれない。
だがそんなことよか、俺の気を引くものがあった。
「きひひぃ」
「くすくす」
「誠さァん」
「遊びましょぉぉぉおう?」
「八人のわたくしと」
「九人入り乱れて」
「
俺を囲うように、七人の狂三が待ち構えていた。そして、俺に接触してきた狂三が加わり八人になる。
「如何です?誠さんはどうやら乱れ交わる方がお好みのようですし」
「俺を痴女みたく言うな。変態淑女と呼べ」
「そのこだわり要ります!?」
「要るとも。痴女というのはなぁ………」
俺は狂三にビッと指を突きつけ言い放つ。
「───────こういう奴の事を言うんだよ!キャストオフ!!」
輝く閃光。
弾け飛ぶ俺の衣服。
惜し気もなく晒け出される肢体。
突然下着の束縛から解放され、揺れる豊かな胸。
大事なとこだけ隠す鉄壁の水。
そう。痴女に四七ある正装の一つ、ZE☆N☆RAである。
「見よ狂三。これが由緒正しき原初の痴女だ!!キッチリ訂正して貰おうか!!」
「たった今痴女だという証明が完了しましたわよ!?」
「今回は分かりやすく全脱ぎしただけだ!紳士淑女ならニーソは残す!」
「知ったこっちゃありませんわ!!!!」
何だか残念な人を見る目の狂三達が一斉に弾を撃ち込んできたので、リンボーダンスするかのように仰け反ってみる。
「痛スギィ!?」
八人分の射撃が胸に直撃しました。主に先端部分に。っべー、マジヤベー。ちょっとこれからリョナを見る目が変わりそうだ。これは痛い。マジでヤバい。取れる。取れちゃうから。おうここは初めてだ、力抜けよ。頼むよ。調子こいてすいませんでした。調子に騎乗位してすいませんでした。
「あの、誠さん?」
回復体位、或いは某噛ませ犬のように地面に倒れ伏す俺に、呆れ果てたような声がかけられる。
「ちょっとタンマ」
「は、はぁ………どの程度?」
「本当に待たなくていいから(困惑)」
痛みを堪えつつ立ち上がる。ダメージとしては軽い。小指の角に箪笥ぶつけたくらいだ。逆か。流石に反省したので、霊装をきちんと纏う。これ以上ふざけたら四糸乃に悪い。
「じゃあ、やり返していいよね」
「ええ、どうぞ」
おっ。許可が出たぞ。髪の埃を払い落とし、倒れていた間に制御を離していた飲料水に再び霊力を浴びせる。右手に水を纏わせて、正面の狂三に攻撃をかけるべく突進する。
「天使は出しませんの?」
狙われた狂三は俺のタックルを飛び越して回避し、他の狂三を集結させた。集合写真を取る時のように、前列をしゃがませて四人ずつ二列で並ぶと、俺の逃げ場を無くすように弾幕を張ってくる。
「生憎、四糸乃との約束を反故にする訳には行かないからね!ASTにバレたら面倒なんだよ!」
「きひひぃ!そうすると武器はその水だけではありませんの!!攻め手に欠けますわねぇ!?ねぇぇええ!?」
数で有利。尚且つ、銃弾も一応有効な狂三は、長期戦のつもりなのだろう。俺が接近しても、陣形を崩さずに畳み掛けてくる。
対して俺は500MLの水しか無い。何ともしょっぱい。今もガードだけで300ML使ってるが、大した問題はない。複数本触手が出せないだけで、各個撃破すればいい。
「【
右手の人差し指と中指をピンと伸ばし、指の間から水触手を超高圧で噴射しながら腕を横凪ぎに振るう。前列の四人に命中した触手は、ドレスのような霊装をアッサリと切り裂く。
『いやぁあぁっ!?』
──────丁度、胸元の辺りを。
先端部が露になりかけた四人の狂三は、顔を真っ赤に染めて胸を押さえる。
「乙女の恥じらいが命取りだ!!」
バリア代わりの水の膜を解除し、今ある水の全てを用いて四本の触手を作る。それを四人の狂三の服に差し込み、背筋をなぞる。
『ひゃん!?』
全員ビクンと身を震わせる。が、違う。求めている反応と違う。
「お前らじゃない。
『きゃあああああっ!?!?』
触手を構成する水を炸裂させ、水の勢いで四人を吹き飛ばす。ついでに霊装も全部吹き飛ばす。衣装破壊は基本。素っ裸の狂三が四人程地面に転がる。我ながら見事な手際。
「次はどの狂三だ?」
少しは戦意を削いだかと思っていたが、そうでも無かった。一気に半数の狂三を失うも、残る狂三は余裕の表情だった。いや、一名脂汗垂らしてるわ。あれいつもの狂三じゃねーか。
『きひひひひひ!』
残った狂三は、一人一体ずつ倒れた自分を影に取り込んでしまう。おう、共食いかコノヤロー。自分を喰う。俺なら性的な意味になるな。濡れるッ!!
「さぁさぁ!誠さん、第二ラウンドと参りましょう!きひひひひひ!」
脅威であろう触手を撃ち落としてから、狂三達が俺に迫る。─────さっきより速いな。二人が時計回りに、もう二人が逆回りに俺の周囲を旋回しながら銃弾を放つ。一発の重みが増した攻撃に思わずかおをしかめてしまうが、まだ耐えられる。
「まだまだ!残念だったな!」
飛び散った水の主導権はまだ俺の手にある。水溜まりから触手を発生させ、狂三達の足に絡ませる。
「ぎいっ!?」
「ぐぎゅ!?」
「げうぇ!?」
三人捕らえてスッ転ばせるも、一人に触手を撃ち落とされて避けられた。あれいつもの狂三じゃねーか。汗拭けよ。
「させませんわよ!」
いつもの狂三は躊躇い無く他の狂三を切り捨て、急速に広げた影で取り込んでしまう。あ、このやろ、触手も吸収して俺の武器も少し奪ったな!?
「き、きひひひひひ…………結局いつも通りになりましたわね」
「まあな。だが、今までのお前とは違う。そうだろ?」
「お気付きでしたか。八人のわたくしが一つになったことで、擬似的ではありますがオリジナルのわたくし並みの霊力を手に入れましてよ………………相変わらず天使は使えませんけれど」
ドレスを摘まんで恭しく礼をする。流石に様になっている。俺がやるとキャミソール持ち上げて胸チラするだけになるという。まさに痴女。違う、俺は淑女だ。
「では、参りましょう。第三ラウンドへ。これで決闘らしくなるというもの──────」
────────ざしゅっ。
「決闘なんてしやがらなくて結構。ここらでいい加減逝きやがれってんです」
狂三の胸元から、光輝く刃が生えた。
…………………否。
狂三が、貫かれた。魔力の、刃で。
「ぎ……ぐぇ…………ま、真那、さん………?」
「気安く呼びやがるんじゃねーです」
傷口から血は出ない。魔力の刀身に肉を焼かれ、無理矢理止められている。
狂三を討ったのは、声からして少女。まだ若い。本当にどうなっている、この世界。どうして幼い奴ばかりが戦場に立つのか。
「
絞り出すような軽口。それを最期に、俺の知る狂三は事切れた。目の焦点が合わなくなり、重力に引かれ、突き立てられた剣で身を傷つけながらどうと倒れる。
狂三は………人を喰いモノにする精霊だったからな。こうなるのも、仕方がない所もある。それは俺も認める。
だが、だからこそ………一応知り合いであった彼女が死ぬことを、認めたくなかった。
「
狂三が倒れたことで、下手人が露になる。
長髪を括ってポニーテールにした、泣き黒子がチャームポイントの少女。学校にいれば、きっとこぞって告白されるであろう整った顔立ち。そして、どこか見覚えのある顔の少女が、感情を使い果たしたかのような死んだ瞳で、狂三を見下ろしていた。
「………ん?ああ、あなたが噂の〈サッカバス〉………………色無誠でいやがりますか」
まるで今俺に気付いたような口ぶり。狂三を殺すことに拘ってたのか、はたまた俺が相手にされてなかったのか。
「俺を知ってるのか?………ASTの人?」
「ちげーます。真那はDEMからの出向でいやがりますよ」
「へー」
真那、と言ったか。少女はワイヤリングスーツを消すと、年相応の活動的な服装へと変化する。これもう人間だか精霊だかわかんねぇな。殺気が無いので、俺とこの場でドンパチする気は無いらしい。
こちらとしては警戒を解ききれないが、急にカラッと爽やかな笑顔を浮かべているので、さっきとのギャップに悩む。
「それにしても驚かせやがります。あなたのこと、根も葉もない噂だとばかり思っていやがりました」
「勝手に人の存在を否定しやがらんといて下さい」
うわぁ。初対面の女子に『キミ居たんだ』って言われた。これイジメの始まりですよ。さては心を病ませて愉悦するんでしょう!?麻婆豆腐食べながら!麻婆豆腐食べながら!!
「いやこれは失礼。何度も何度も狂三を捌いてやがったせいで、人間に味方する精霊が現れるなんて考えられねー頭になっていやがったんです」
へー、狂三をねぇ。お前は今までに捌いた狂三の数を覚えているのか?今更数えきれるか!ってとこか。まあ、分身の相手してた俺からすれば、ある意味先輩って訳か。俺に先輩が増えつつある件について。
─────ん?人間に味方する?
「俺、そんなに噂される程の事した?」
素直に疑問を口にしたところ、真那という少女は数瞬ぽかんと口を開けていた。今日は呆れられてばかりだな。
「〈ハーミット〉の攻撃から、それまで交戦していたASTを庇いやがったのはどこの誰でいやがりますか」
「俺だな………………成る程」
「世界的に対精霊対策世論を二分しやがっている原因が、こんな調子でいやがるとは………」
「えっ、そうなの?」
寝耳に水。有名人になった覚えはからっきし無い。ASTがそんなに広めるとも思えないが………
「そーです。『女の敵にして人間の味方』って呼ばれてやがりますよ」
「むしろ女とエロの味方なんだが」
「そのエロが問題でいやがるってんですよ!!」
エロに免疫が無いのか清いのか、余りに顔を赤くして手を振り回すので暴走機関車に見える。息も荒くバタバタしているのでまるで怖くない。
「しばらく私はこっちにいやがりますからね!えっちいことしよーってんなら、とっちめてやりやがりますよ!!」
前言撤回。この子怖い。俺からエロ取ったら何も残らない。ASTの皆様と戯れるのがどんなに昂るか、貴様には分かるまい!そらそうか!
「勘弁して下さい。死んじゃいます」
「知らねーですよ!」
真那は携帯端末を取り出すと、俺に背を向けて何処かへ電話を始める。『狂三』『処理』という単語が出てきたので、恐らく狂三の遺体を誰かに撤去させようと言うのだろう。
「話し過ぎました、ここらでおさらばです。じきにASTの皆さんがそこの生ゴミを片付けに来やがります。あなたもさっさと帰りやがるといいですよ」
通話を切ると真那は振り返り、右手の親指で背後の天井を指す。そこからは、近所の人であろう女性の声が聞こえる。どうやら道端に穴が開いていることを警察に通報しているらしい。
「確かに。ここにいることがバレて変に騒がれたくないな」
「私らも一応公には知られてねー存在なんで、見られる訳には行きやがりません」
───────無理っぽいかな?
俺は頬を掻くと、苦笑しながら真那に聞いてみた。
「………………なあ。狂三の遺体、持ってってもいいか?」
「そんなもんどーすんです?」
「食べる」
「いひぃっ!?」
一瞬で青ざめて引かれた。いや妥当な反応だが傷付く。
「うそうそ。一応、ライバルってか精霊仲間だったしな。処分されるなら弔いくらいやらせてくれ」
「どーせ蘇りますから」
「かもな。だが─────戴いていく!」
今の今まで放置し続けていた水を動かし、狂三を掬い上げて俺に投げる。お姫様抱っこの姿勢に抱き止めると、俺は水をボード状にして飛び乗り、一目散に下水トンネルの奥へと走り出した。
「あっ、ちょっと!?待ちやがれってんです!!」
泡を食った真那が声を張り上げるが────そいつは悪手だろ。
「おいっ!?キミ!?大丈夫か!?」
「うえっ!?お、お巡りさん!?」
「お嬢ちゃん大丈夫!?怪我はない!?」
「巡査、ロープ持ってこい!落ちた女の子がいたぞ!」
声に気付いた警官が、穴の中を覗き込んでいた。ずいぶん速い到着だ、優秀だな。続けて電話していた女性の声も響く。俺には気付いてないが、真那をバッチリ見ている。
真那としてはここで逃げたら大事になるし、軍属と明かす訳にも行かない。俺の方を悔しそうに見つめつつ、真那は立ち尽くしていた。
悪いね、これでも精霊なんだ。仲間意識くらいあるし─────知り合いに死なれるのは寝覚めが悪い。
「運に助けられたな、狂三」
既に冷たくなり始めている狂三に声を掛ける。返事はなく、目蓋は閉じたままだ。だが、諦めたくはない。俺も士道先輩みたく、諦めない人になりたいからな。
俺はただひたすらに、下水道の奥へと突き進んでいった。
因みに、ピクニックは一時間遅れで実行された。遅刻して焦って〈フラクシナス〉に行ったら、四糸乃がマジ泣きしてて死にたくなった。許してください、何でもしますから!!って言ったら、
「ま、また……一緒にピクニッ、クに………行って………くれ………ます、か…………?」
って言われた。天使降臨。快諾した。
◇
何処を漂っているのだろう。
まるで臨界で眠るような、浮遊感。
けれど、不思議と心地よい。
目を開けてみる。
一面の青。水泡がちらつく。
水の中?
「お、目が覚めたか!やったな!やってやったぜ!!」
誰かのはしゃぐ声が聞こえる。何と言っているかまではよく分からない。
(だれ……………?)
口を動かすが、喉は声を紡がない。肺にまで水が入っているのか。
「まだ動くな。傷が深いからな」
ぼやけた視界に、僅かに浮かぶ人のシルエット。けれど、誰か判別は出来ない。
「数日はかかるかも知れない。流石に一日じゃお前を安定させられないが、我慢してくれ」
しかし、それが誰なのかは何となく理解出来たし、今はどうでもよかった。
これほど安心して眠れるのは、いつ以来だろうか。目蓋が重くなり、視界が、意識が闇に沈む。まるで海の底に墜ちていくよう。
「お休み、狂三。俺が治してやるからな」
最後の瞬間に、ハッキリと声が聞こえ。
紛い物の狂三は、安堵した。
そして願った。
───────まだ、生きたい。
次回辺り、誠の能力の答え合わせをしますよー。
みんな、予想は出来たか!?ここテストに出ないぞ!