水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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感想欄で怒濤のネタバレ?

否、問題ない!

追い付けるか、俺の妄想に!!


Date.12「君の隣に居たいから」

  身体を構成する水の一部をサーフボード状に変え、士道先輩を乗せた(水流)が、凍りついた街を駆け抜ける。

 

「琴里、次はどっちだ!?」

 

『二つ目の信号を右よ!後は目標ポイントまで直進!』

 

「司令!折紙先輩………ASTは!?」

 

『100m近く遅れて四糸乃を追撃してるわ!四糸乃と接触したら、誠はASTを迎撃して頂戴!』

 

「イエスマム!先輩、飛ばしてきますよ!」

 

「頼んだ!」

 

  時速にして150kmは出ているだろうか。振り落とすとマズイので、先輩の足をサーフボードから出した触手で縛って固定している。

 

  まさか車に乗らずにこんな速さで動けるとはなぁ………。恐らく、これでも俺は敏捷性は精霊最低クラス。〈触抱聖母(アルミサエル)〉の水化のお陰で何とかこのスピードだ。

 

  司令の指定した交差点を、水流の向きを捩るように曲げることで速度を落とさずほぼ直角に曲がる。

 

  巨大なウサギのような天使が、こちらに猛進して来るのがハッキリと見えた。

 

「先輩!四糸乃が見えた!」

 

「よし………四糸乃おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっ!!」

 

  ポケットから取り出したよしのんを手に、士道先輩は四糸乃に呼び掛ける。過剰なまでのハイパーボイス。いざという時の大声は主人公の必須スキル。ただ、間近でやられると五月蝿い。五月蝿くて敵わない。耳押さえたい。耳も手も今無い。ちくせう。

 

「叫ぶなら叫ぶって言って下さいよ先輩!」

 

「悪い!」

 

  水になってるからって、五月蝿いとは思いますからね、先輩!

 

  とは言え、先輩の行動は功を奏したらしく、ウサギ型天使の背後で緑色のウサ耳が一瞬飛び跳ねた。どうやら四糸乃が気付いてくれたらしい。元々速かった速度が更に増し、俺達の目の前で急ブレーキを掛けて停止した。

 

「よう、四糸乃」

 

  俺から飛び降りた士道先輩が、右手を軽く挙げて声を掛ける。襲われる恐怖の中で知り合いに巡り会えた事が余程嬉しかったらしく、四糸乃は涙を浮かべ、そして、

 

「ひっ!?」

 

  先輩の背後にいた俺を見て、ビビった。

 

「                          」

 

  つうこんのいちげき!ごふっ!!

 

  そういや俺、四糸乃の前で水になったことなかったや。でもこれは…………ツラい………。

 

「よ、四糸乃ぉ………俺だよぉ………おねにーさんだよぉ………」

 

  人間態に戻って四糸乃を落ち着かせるが、正直ダメージが強すぎて立てない。自然と膝を折り、両手を地面に突いてしまう。完全形態なorzの姿勢だ。

 

「ま、誠さん…………!?」

 

「そうだよ四糸乃………先輩と一緒に助けに来たよ………」

 

『まずアンタがしゃんとしなさい!』

 

  司令に怒られてしまった………。くそっ、駄目だ駄目だ!おねにーさんはめげない!しょげない!司令のためなら何度でも立つ!四糸乃だって悪気は無かったんだ。なら俺は今度は司令に良いとこ見せるぞーー!!

 

「うっす!司令、すいませんでした!色無誠、頑張れます!」

 

『じゃあ、さっさとやってらっしゃい。討ち漏らすんじゃないわよ!』

 

「漏らしたら?」

 

『三角木馬の上に一週間座らせるわよ』

 

  ああん。いたぁいそれ。でも琴里司令に座らされるならそれはそれでアリかも知れない。濡れるッ!─────と、妄想を膨らませつつも真面目にやろうと考えていると、

 

『誠君!一人くらい討ち漏らしませんか!?』

 

『うっさい神無月。アンタには今すぐプレゼントよ!下がってなさい!』

 

『ア"ッーりがどうございまあ"ぁず!!』

 

  友が楽園に散っていった。何でもある〈フラクシナス〉の艦内構造が気になるが、その気持ちはそっと胸にしまっておこう。胸にしまうって物理的にはおっぱいで挟むってことだよね。ナニをしまっちゃうんだろうね。しまっちゃうおねにーさん。無いか。

 

「討ち漏らしはしませんよ!神無月から聞きました。俺は〈フラクシナス〉の艦載機みたいなものなんですよね?なら、()()()()()()()()()()()訳には行きませんからね!!」

 

『ハッ!言ってくれるじゃない!なら、やって見せなさい!!期待してあげるわ!』

 

  顔は見えない。しかし、俺は誇らしい。

 

  惚れた人に尽くせるってのは、中々幸せなんじゃないかな。しかも、俺の場合は欲望を満たしつつそれを果たせる。素晴らしい労働環境だ。ヤル気マシマシだぜ!

 

篤と御覧在れ(イエス、マイロード)!」

 

 

 

 

 

 

  今更だが、日下部燎子は色無誠が個人的に嫌いだ。

 

  確かに折紙の言う通り、精霊への敵対行動を取らない限りは人間に友好的だ。報告にあった誠が棲んでいるという公園で、彼女(彼)が子供達相手に遊んでいる姿を、燎子自身の目で見たこともある。あの精霊嫌いの折紙と親交があると言うから驚きだ。

 

  だが結局の所、色無誠は精霊だ。どんなに人間に友好的でも、ASTを明確に妨害してくる時点で、精霊寄りなのは明らかだと思っていた。

 

  しかし、誠と交戦した際の被害は、ほぼ無いのだ。女性隊員の清純が奪われるのが問題だ(一名程特殊性癖に目覚めた)が、装備の破損も隊員の負傷も最低限。間違いなく手加減している。人間側にも配慮しているのだ。

 

「いよっす!くっころ団の皆さん!」

 

「出たわね、〈サッカバス〉!!総員、気を引き締めなさい!」

 

  だから、今対峙する、どっち付かずのこの男が、嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

  交戦開始から三分が経った。

 

「んっ、んむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

「んーー!!んーーーーーーーっ!?」

 

「あ"っん"、あ"あ"あ"あ"ーーっ!!!」

 

  早くもASTは全滅しかけていた。残っているのは折紙と、隊長の燎子と、他三名程だ。他の隊員は、皆既に墜とされたか、堕とされていた。

 

  対抗策が無い。誠の対人能力の高さに、完全に封じ込められている。敵対すれば恐ろしいが、これが味方になるとしたら。折紙は、改めて誠説得の必要性を感じた。

 

  思い返せば、あっという間だった。

 

  まず、男性隊員が百舌鳥の速贄のように電信柱に縛り付けられて即座に全滅。交戦開始から僅か二十秒の鮮やかな手際だった。

 

  続いて触手プレイに目覚めてしまった、カチューシャで額側の髪を上げた長髪の女性隊員一名が、

 

「お前なんか認めない!触手なんかに絶対負けないんだから!!」

 

と叫びつつ、レイザーブレイド〈ノーペイン〉を振りかざし、対精霊ガトリングで弾をばら蒔きながら突撃して行った。

 

「おう、即堕ち二コマかこの野郎」

 

「触手様には勝でな"い"よ"ぉ"お"お"お"ーーーっ"!!」

 

  が、あっさり手込めにされていた。

 

「スタンドプレーとかそれ死亡フラグだからさ。覚えて帰んな」

 

「あ"っ"あ"、んぎぃ……は、はひぃ………」

 

  武装を全て外され、ワイヤリングスーツの上から触手で亀甲縛りにされ吊られている。時折蕩けた声を上げながら痙攣しているので、恐らくスーツの中にまた触手が仕込まれたと思われる。折紙から見て、満更でもないという表情だった。

 

「怯むんじゃないの!撃ちなさい!」

 

「仲間を返せーーーーーっ!!」

 

  隊長の指示で、誤射しにくい魔力ビームでの殲滅を敢行するも、

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

  半球状に拡げた水の膜に、全て()()()()()しまった。水の操作以外の能力を初めて見せたことで、隊員達に動揺が走った。

 

  その中で、一人折紙だけが、誠の変化に気付いていた。口調が突如変わったことに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さあさ、俺と一緒に遊びましょーーーーーッ!!」

 

  そこからは、一方的な戦い(ワンサイドゲーム)だった。

 

  触手が次々と襲い掛かる。隊員達は随意領域を圧縮展開することで防ごうとするが、触手が触れた瞬間に随意領域ごとCR-ユニットのエネルギーが根刮ぎ奪われてしまう。

 

  一瞬で無力化され、触手に絡め捕られる同僚達の姿に、折紙は接近を断念。

 

  すると誠は、触手で捕らえた隊員の口に触手を突っ込み始める。苦悶の声を上げて必死に暴れる隊員達だが、口の中から光る何かが触手内部を逆流すると、次々と力を失って無抵抗になっていった。

 

  その様子に恐慌状態に陥った隊員数名が魔力ビーム砲を乱射するも、全く通用せずに敢えなく同じ道を辿った。

 

  そして、今に至る。

 

「やむを得ない」  

 

  折紙は、魔力ビーム砲の照準を合わせる。

 

  ()()()()

 

  今、士道からパペットを受け取ろうとしている、誠よりも討滅しやすいであろう、四糸乃に。

 

「なっ!?折紙先輩、それは勘弁!!」

 

  意図に気付いた誠の触手が、ビーム砲本体を貫くより速く。

 

  ──────トリガーを、引いた。

 

 

 

 

 

 

「ひ、っ……あっ、ぁぁああっぃあああああああああーーーーーーーーーーっ!!」

 

「四糸乃!?」

 

  士道先輩と、四糸乃の間を線引きするように放たれた魔力の奔流。それは、四糸乃を恐怖させるには十分過ぎた。

 

「ぁぁぁひぁぁああっ!ぃやぁぁぁあーーーーっ!!」

 

  四糸乃の天使が、こちらを向いた。まずい、完全にパニック状態になってる!普段の四糸乃の思いやりを、自分を押し潰さんとする悪意への拒絶反応が上回ってるんだ!!側に士道先輩がいることを忘れて天使を使おうとしている!!

 

「士道先輩!一回離れて!」

 

「お、おう─────うわっ!?」

 

  急激に上昇した冷気が、先輩の靴を凍らせて道路に張り付ける。バランスを崩した先輩は、その場に倒れ込んでしまう。

 

  丁度、吼えようとする天使の、口の前に。

 

「─────ッ!!四糸乃ぉおおおっ!駄目だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ひぃぁああああっあ、ぅぁああぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」

 

  ウサギの天使の口内に、霊力が満ちる。もう間に合わない、あれは発射体勢が整った。しかも、俺の後ろには────

 

「く──────」

 

「総員退避!近い奴だけでも回収して逃げなさい!」

 

「そんな事言ったって隊長!見捨てるなんて!」

 

  折紙先輩と、ASTがっ……………!!

 

  畜生、俺が殆んど抵抗力奪っちまったからなぁ!折紙先輩も、俺が破壊した武器の爆発でCR-ユニットから火花が出てる。幾ら敵として相対してたっても、見殺しには出来ないぞ!!

 

  ………く、そ……………!!

 

  ─────やむを得ない!出来ることをやるまで!先輩は原因不明の蘇生能力(リザレクション)がある!それを信じる!

 

「折紙先輩!こいつら頼みます!俺の後ろから出ないで下さいよ!?」

 

  触手で絡め取っていた隊員達を降ろし、折紙先輩に預ける。返答を待たずに背を向けると、俺は道路の中央で仁王立ちする。

 

「─────!!分かった。隊長、誠より後ろに!」

 

「精霊に助けられるってのは癪だけど………頼むわよ!!総員、精霊より後ろに退避!!」

 

『は、はい!!』

 

  良かった。これでいい。四糸乃が誰かを殺めることがあっちゃいけない。

 

  さあ、後は、俺が殺すか、俺が護るか。

 

「四糸乃ぉおおおっ!撃って来いやぁぁぁぁあ!!!!」

 

  俺の目の前に、十枚の水の膜が出現し、

 

「ひあああああああああああああっ!!」

 

  迸る冷気が、視界を白く染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ぱきん、と音がした。

 

「────────ふぅ」

 

  ああ、ひやひやした。

 

  流石に全力の天使のぶつけ合いはヤバイ。何とか生きてるわ。良かった良かった。もっとも、水の膜は全層漏れ無く完全凍結。俺の全力防御だった訳だし、痛み分けってとこかな。

 

  折紙先輩も、ASTも、全員生きてるわ。衝撃波で全員伸びてるけど。ま、司令の参加する作戦で死者が出るとか、ゼッテー駄目だからな。生きてるならオールオッケー。

 

  ──────そうだ、士道先輩は!?

 

「士道先ぱーーいっ!!」

 

  凍った膜を蹴破り、先輩を探す。

 

  …………四糸乃共々、姿は見えない。どうなったんだ───────

 

 

 

 

「おーーい!誠!こっちだ!」

 

 

  それは、ビルの上からだった。

 

 

「あっはっは、やはり私がいないと駄目だな、誠!うむ、シドーなら無事だぞ!!」

 

 

  士道先輩を抱えた十香が、誇らしげにこちらを見下ろしていたのは!!

 

  お、お前って奴は…………!!最高じゃねぇか!!結婚してくれ!!抱いてくれ!!

 

「十香ァ!お前は俺にとっての新たな光だぁ!!」

 

「安心した途端ふざけんのやめろォ!」

 

「?」

 

  俺は、ビルの上に一気に飛び上がった。遠目で見ると良く分からなかったが、近付いてみると十香の異変に気付いた。何というか、霊装がちょっと出ちゃってた。〈鏖殺公〉もだ。ただ霊力が凄まじくショボく、〈おうさつこー〉って感じ。

 

「十香、それどうやったんだ?」

 

「む?シドーを探していて、見つけたと思ったら危機にあったのでな。必死に助けようと思ったら出た」

 

『愛されてるじゃない、士道』

 

「先輩これは十香と結婚しなきゃ嘘でっせ」

 

  司令の言葉に便乗してみた。

 

「お前が言うなお前が」

 

  先輩にコンと小突かれた。痛くねぇ。もっともっと、もぉっと激しく!それじゃあ変態は満足させられんぞ!神無月とか!

 

   さて、それはそうと、四糸乃はどこだ?寒い通り越した、痛いに近い冷気がまだ収まってないから、まだいるとは思うけど。

 

「琴里、四糸乃は?」

 

『そこから100m先で、結界を作って閉じ籠ってるわ。見える?』

 

  成る程、高所からならはっきり分かった。ビル群の中に、ドーム状の何かが顔を覗かせている。

 

「四糸乃?………あの、よしのんとか言う奴か……」

 

  四糸乃と聞いた十香が、渋面を作る。この間の家出未遂の後、先に帰って士道先輩を待っていたら、先輩が四糸乃を連れて来たので一悶着起きかけたらしい。十香が堪えて何とかなったらしいが。

 

「気持ちの整理、付かない?」

 

「うむ………あやつも精霊なのだと知っていても、な………やはり、シドーの隣にあやつがいると、もやもやするのだ」

 

「そらそうよ。なら、古今東西、伝統的な解決法がある」

 

「何と!!それは本当か!?」

 

「おうよ」

 

  十香が目を丸くして食い付いてくる。おう、あるとも。単純明快だぜ?

 

「お前が、いつも士道先輩の隣にいてあげればいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

  士道は、覚悟を決めていた。

 

  四糸乃の結界は、魔力や霊力を感知して攻撃するものだ。誠や十香の力は借りられない。

 

  ならば、生身の自分が行けばいい。自分が謎の治癒能力を持っているのは知っている。

 

『馬鹿な真似は止めなさい!もし致命傷を受けて治癒能力が発動したら、霊力に反応して凍らされるわよ!?』

 

「そうか………俺の力は、精霊の力なんだな」

 

『ッ!!ちょっと、士道!!おにーちゃん、止め─────』

 

  インカムの通信を切り、耳から外す。例え何と言われても、この決意は梃子でも動かない。

 

「誠、十香。今から四糸乃の所に行く。止めるなよ」

 

  振り向いた士道の目に映るのは、飽きれ顔の誠と、何やら腕組みして楽しげな十香。

 

「司令に泣かれる訳には行かないんで止めたいんですけど………どうせ言っても聞かないんですよね?」

 

「ふふん、仕方無い奴め。シドーのばーかばーか。本当に本当に仕方無い奴め。………………だからこそ、私達が力を貸してやる」

 

  私達が。その言葉が、とても力強く響いた。

 

「いいのか?」

 

  誠と十香、二人を交互に見る。二人とも、静かに、はっきりと首肯した。  

 

「シドー!水先案内人は、この私と誠が引き受ける!」

 

「先輩を置いていく勢いでやりますからね!!──────付いて来れますか?」

 

  二人からの問いに、士道は一つしか答えを持っていなかった。

 

「────────ああ!!」

 

  それを確認した二人は、顔を見合わせ頷きあう。

 

「行くぜ十香、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を翳せ!」

 

「応!!」

 

  天に突き立てんとばかりに構えられた鏖殺公。身体を水に変えた誠が、剣に、十香に纏わり付いていく。

 

  変化は直ぐに起きた。十香に触れた水が変質し、士道にも見覚えがある姿を形取っていく。

 

「これって…………十香の神威霊装・十番(アドナイ・メレク)!?」

 

  数十秒で形成は完了し、士道の目の前には、()()()()()()霊装の十香が立っていた。

 

「そう言うこと!俺の新たな力、名付けて【錬装(ツィウット)】!!パワーとスピード、両方が必要なら、この場は十香に任せた方が良いですからね!」

 

「おお…………力が満ち溢れる!!しかも変身みたいで格好いいな!」

 

  手を握って開いて感覚を確かめていた十香は、満足げに鼻を鳴らす。愛剣の柄を握り締めると、爪先でカッカッと地面を蹴る。霊装と同じく青く染まった玉座が、主人に応えて現れた。

 

「いざ、行くぞシドー!!乗れ!」

 

「おう!」

 

  玉座の背もたれを倒し、不格好なサーフボードを作る。士道が飛び乗るや否や、結界に向けて空に飛び出した。瞬きする程の僅かな時間でドームの最高点に辿り着くと、十香は声を張り上げ叫んだ。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉ッ!!」

 

「ちょっ、おわぁあぁぁぁ!?!?」

 

  玉座が霧散し、士道が宙に投げ出される。それに構わず、十香は太刀を再び上段に構えた。散った水が渦巻いて刀身に集まっていき、10mはあろうかという蒼き大太刀を作り出す。そして、

 

「いいか誠!」

 

「勿論だ!」

 

  その名を、今高らかに告げる───!!

 

「「【最後の水剣(ハルヴァンザナヴ)】!!」」

 

  烈迫の気合いを込めて降り下ろされた太刀が、結界を()()()()。荒れ狂う氷の刃の嵐を吹き飛ばし、水泡が割れるように、半球の結界は消え去った。

 

「ほら、今ですよ先輩!」

 

  十香の霊装から一本の触手が伸び、紙のように舞っていた士道を捕らえる。そのまま、結界が消えて呆然としている四糸乃の前へと降り立たせる。

 

「ここまで膳立てしたんです。四糸乃を幸せにしないとぶっ飛ばしますよーー?」

 

「お前なぁ、ったく………!ありがとう、行ってくる!」

 

「うむ!行ってこいシドー!」

 

  四糸乃に向かって駆けて行く士道を見つめながら、ゆっくり落下してきた十香は、すたんと地面に降り立った。途端に霊装が解除され、十香の隣に誠が現れる。

 

「やったな、十香」

 

「うむ!礼を言うぞ誠よ。お前のお陰でシドーを護り、そして隣に居ることが出来た!」

 

「なら、俺からも言わないとな。十香が居なかったら先輩がどうなってたか分かんなかったし、四糸乃を助けられなかったかも知れない。ありがとう」

 

  互いに視線は合わせなかったが、誠も十香も、口許に笑みを浮かべていた。

 

  誠が、スッと左拳を頭の横に掲げた。意図を察し損ねた十香が、その手を覗き込む。

 

「………?誠よ、それは何のポォズだ?」

 

「ああ、知らなかったのか。十香、右手をグーにして、俺のポーズの鏡を作ってよ」

 

「こうか?」

 

「そうそう」

 

  ぎこちなく真似する十香。誠はその拳に自分の左拳を軽く当てる。

 

「こうやって拳をぶつけあって、友情を確かめ合うんだ。─────悪くないだろ?」

 

「ああ────意味はさっぱり分からんが、これは何だか気分がいいな」

 

  無邪気に笑う十香に「もう一度だ!」と言われ、苦笑しつつも応じる誠の姿が、凍てついた街並の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  因みに、士道とも拳をぶつけ合おうとして、裸の四糸乃を抱く彼の姿を見た十香が、士道の頬に拳をめり込ませたのは、また別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※清純は奪ったが純潔まで奪ってない。

誠、戦闘補助のプロフェッショナルになるの巻。

お客さん、つまり触装変身ですよ。

夢が広がるぜ…………。

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