水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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酒池肉林と言ったな。

あれは嘘…………ではないんだが、一人用でね。

何が言いたいかと言うと、本格的酒池肉林は尺の都合で次回になりました。

安心して下さい、今回がオードブルなのは変わりませんから!次回メインディッシュなんで!許して下さい!エロくしますから!


Date.11「君のためのヒーロー」

「どう?」

 

「いやどうと言われても………斬新過ぎるとしか……」

 

「そう」

 

  俺、イン折紙先輩宅。

 

  何でも先輩的に琴線に触れる拾い物をしたとのことで、見て欲しいと連絡されたのだ。そういうの女子の間(ガールズトーク)でやってくれませんかねぇ………。そう思ってた時期が俺にもあったさ。

 

  でもさぁ。その拾い物が四糸乃のパペット………いや、よしのんだったんだが。どうすりゃあええのん?どうりで四糸乃が最近遊びに来ない訳だよ。さては迷惑がかからないようにと思って一人で探してるな?けなげな!!

 

  しかし、先輩は気に入ってるらしく、メイド姿の上でパペット着用という謎の格好をしている。何故か寝室で披露してくれた。それで士道先輩とヤル気なんですか?ウサギの性欲は異常。折紙先輩は超肉食系女子。つまり今ここにいる二人は美女(ヘンタイ)野獣(ヘンタイ)。はっきりわかんだね。

 

  ………取り敢えずダメ元で聞いてみるか?

 

「折紙先輩………すいません、その………それ、友達ってか知り合いの子のなんですけど」

 

「そう。証明して」

 

「無理ダァ!!」

 

「ならば、戴く」

 

「かなりご執心!!しかし清々しい!!」

 

  俺の友達とは四糸乃だと言いたい。でも言えない。

 

  言ったら絶対に、四糸乃によしのん返すタイミングで折紙先輩が来る。きっと来る。そんじょそこらのホラー映画よか怖い。そんなの見たら四糸乃泣く。泣いちゃう。俺が四糸乃を守る。しかしよしのんがいなくてもきっと四糸乃は泣いちゃう。ウサギは寂しいと死ぬ。つまり四糸乃は危篤(超推理)。どうすりゃあいいんだ。

 

  ………と思っていると、インターホンが来客を告げる。

 

「来た」

 

  その時、俺は折紙先輩の目の奥が光るのを確かに見た。あれは獲物を狩る目だ。主に童貞とか狩る目だ。あら男らしい。

 

  ………と言うことは、だ。

 

「士道先輩………ですか」

 

「その通り。今日、籍を入れる」

 

「法的に無理ですよ」

 

「結婚する頃には第三子は確実」

 

出来ちゃった婚(ショットガンマリッジ)かぁ、たまげたなぁ」

 

  逃れられぬカルマ(悟り)。エロは全てを凌駕する。

 

  折紙先輩はスッとよしのんを外すと、そこが定位置であったかのようにタンスの上に置いた。何だこれ、モデルルームのように(寧ろそれ以上に)殺風景な部屋の中に、ポツンと居るよしのんのファンシーさよ。存在感スゲェ。 

 

「士道を迎える。あなたは手筈通りに」

 

「何の打ち合わせもしてないのに何となく察した自分が怖い」

 

  自然に台所へと身体が動いた。先輩方のためにお飲物(おもみもも)準備しなきゃ(使命感)。

 

  お湯を沸かしてから、さっきのタイミングでよしのん持っていけば良かったと思ったのは、ナイショだ。

 

 

 

 

 

 

  士道は直感した。何か嫌な予感がする。四糸乃のパペットを回収すべく、インカムを装着して折紙の家に来たまではいい。だが、何故折紙はメイド服なのか。しかも、家に上がった途端に、ジャミングで〈フラクシナス〉との連絡が取れなくなる始末。女子高生なのか疑いたくなったが、そう言えば彼女は陸自隊員(AST)だったと思い出した。

 

  リビングに通されたのでテーブルに座ると、折紙は酷く密着して士道の隣に座る。女子の柔らかな肉感。何やら部屋に漂う、嗅いだことの無い香り。メイド服の衣擦れ。目の前に迫った、無表情ながら、ごく僅かに朱の差した折紙の顔。五感ほぼ全てを持って、この部屋は士道を刺激する。

 

「何か食べる?」

 

「お、おう。悪い」

 

  ただ並んで座っているだけなのにイケナイ気分を感じつつあった士道は、一瞬でも逃れられるならと、折紙の提案に乗る。一度折紙が立つことで、僅かだが呼吸を整えられる。

 

  そう、思っていた。

 

「………………。」

 

  折紙は立ち上がらない。スッと左手を掲げて指を鳴らした。突然の行動に士道が頭に疑問符を浮かべていると。

 

 

「   お   ま   た   せ   。 」

 

 

「ブッハァ!?!?」

 

  折紙と同じくメイド服に着替えた誠が、シルバートレイにドリンクを二つ載せて現れたのだ。

 

「お帰りなさいませご主人様~♪喉渇いてませんか?渇いてますよね!アイスティーしかありませんけど良いですよね!!」

 

「ハイちょっと待ってぇぇぇぇッ!!」

 

  いい笑顔を浮かべてテーブルに歩み寄る誠を、士道は制止する。落ち着こうと思ったら、更なるトンデモ要素が現れた。現状の把握が必要だ。

 

「え?誠お前何やってんの?」

 

「ご覧の通り給仕ですが。ね、折紙メイド長」

 

「その通り。何ら不審な点は無い」

 

「どこがだよ!?」

 

「今なら執事の神無月も付けますよ」

 

「俺の手に負えないからヤメテ!!」

 

  実際には居ないであろう神無月をつい警戒してしまう。当然影も形も無い。

 

  胸を撫で下ろす士道に、誠はぐいとアイスティーのグラスを突き付ける。中の氷がカランと音を立てた。

 

「ささ、士道先輩。アイスティー飲んで落ち着いて下さい」

 

「………何か流されてるみたいで釈然としないんだが貰うよ」

 

  話していたら急激に喉が渇いた気がしたので、受け取ったグラスを傾けて一気に飲み干す。

 

  が。

 

「うっ!?」

 

  唐突な眠気が士道を襲い、全く抗えないままに意識を喪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?これはどういう状況なんだよ?」

 

  目が覚めると、士道は手足をベルトで拘束されてダブルベッドに寝かされていた。仰向けの状況の腰付近には、馬乗りになった折紙の重みが掛かっている。はだけたメイド服からは、白いレースの下着が覗いている。

 

  絶好調に止まらない冷や汗。〈フラクシナス〉の妹に助けを求めたいが、電波妨害でそれも不可能。最後の砦とばかりに、士道はいつの間にか白い神父服(カソック)に着替えた誠に視線を遣る。

 

「先輩レ○プ!野獣と化した先輩!って感じですかね。祝☆童貞卒業!卒業証書(婚姻届)、いります?」  

 

  助けてくれそうになかった。多分、命には関わらないから、と楽しんでる。

 

「笑い事じゃねぇからこれ!?ヘルプ!鳶一を止めてくれ!」

 

「安心して士道。………いえ、あなた」

 

「あなた!?」

 

  遮るような折紙の一言に、全身に鳥肌が立つ感覚を覚えた。今から何が起こるか、否が応でも連想してしまったからだ。

 

「明日からは、私は五河折紙になる。ただ、それだけのこと」

 

「生々しくて空恐ろしい!!」

 

「少なくとも、今日から私を折紙と呼んで貰う。夜刀神十香は名前で呼ばれているにも関わらず、妻である私が名字で呼ばれるなど筋が合わない」

 

「止めてくれよ………じょ、冗談じゃ………」

 

  強張る顔筋を何とか動かして笑みの形を作り、折紙に微笑む。それが士道に出来るささやかな抵抗だった。

 

「筋が合わない、あなた」

 

「分かった折紙ッ!!だから勘弁してくれっ!!」

 

「ダメ。私達は、今日、今、この瞬間から始まる」

 

  慈悲は無かった。

 

「〈触抱聖母(アルミサエル)〉の名の元に。全ての誕生に、祝福を」

 

「私はいい後輩を持った」

 

  結婚式の神父のような雰囲気を漂わせつつ、何やら諦めた目で呟いている誠と、珍しく嬉しそうな折紙。

 

  だが、諦めるというのは士道の性には合わなかった。

 

「なら折紙!結婚したっていい!この後俺に何したっていい!だから約束しろッ!!」

 

「何を?」

 

「精霊を殺すのをだよ!!もう金輪際止めてくれ!」

 

「──────ッ!!」

 

  空気が変わる。依然不利な立場の筈だが、明らかに士道に流れが傾いた。誠はそれを察して目を丸くし、折紙は表情を変えずに瞳を揺らして動揺していた。

 

「あなたは………何故そうも精霊と関わるの?あれは世界の災悪。例外は誠しかいない。」

 

「そんなことは無い!精霊だって、笑って、泣いて!悩んで!苦しんでる!人間と同じなんだ!」

 

「見てきたように、言う………。やはり、夜刀神十香は………。」

 

  折紙の表情が、露骨に歪む。これまでの能面のような顔でなく、憎々しげに、明確に。

 

「十香が精霊だって言ったら、折紙は十香を討つか?」

 

「………………出来ない。今の夜刀神十香からは、精霊と言えるような霊力を計測出来ない」

 

  そう言う折紙は、実に歯痒そうだ。本人の意向でないのは明白だった。

 

「じゃあ、今いる精霊全てから、霊力が計測出来なくなれば、折紙は精霊を狙わない。そうだな?」

 

「そう、なる」

 

「分かった」

 

  士道が全ての精霊を救うことを改めて決意した(ついでに話をすり替えた)所で、黙っていた誠が口を開く。

 

「つまり士道先輩は、精霊の脅威を止めて、折紙先輩を普通の女の子に戻す決意をした、と」

 

「え、ちょ、違─────」

 

「本当?」

 

「メッチャ食い付いてきたぁぁああぁぁぁぁっ!?!?」

 

  そこまでは考えていなかったと否定しようとした士道だが、鼻先が触れそうな距離までずいと接近した折紙に気圧される。

 

「気持ちは嬉しいけれど、私は自分の手で親の敵を討ちたい。あなたの()()()も知らない。けれど────ときめいた」

 

「誠ォッ!!何か折紙からの評価が妙に上がってるんですけどぉ!?!?」

 

「それが何か問題でも?」

 

「テメェこの──────」

 

  士道が文句を言おうとした、まさにその時。

 

 

  ウウゥゥゥゥゥウウウゥウ…………

 

   

  最早聞き慣れた空間震警報が鳴り響いた。折紙はそれに即応。士道の上から飛び退くと、メイド服を速やかに脱いで下着姿になる。

 

「誠、後はお願い。鍵はオートだから心配要らない」

 

「りょーかいでっす」

 

  それだけ言うと、クローゼットから手近な服を取り出し、一分と経たずに着替えて出ていった。

 

  玄関のドアが開閉される音を聞いた所で、誠はベルトを外して士道を起こす。

 

「さ、行きましょう先輩。四糸乃のパペット………いえ、よしのんはここですよ」

 

  タンスの上にあったパペットをひょいとつまみ上げ、士道に渡す。誠の行動に、士道は驚いた。

 

「お前、気付いてたのか?」

 

「このところ四糸乃が遊びに来なかったので、何かあったんだろうとは、薄々。折紙先輩が持ってたのは予想外で、今日ここにいたのは偶々です」

 

「どんな偶然だ」

 

  呆れながら、士道はコキコキと首を鳴らす。特に身体に不調は無い。盛られた薬も、既に効果は切れたようだ。誠は誠で霊装を展開。戦闘体勢になっていた。

 

「よし、行ける」

 

「オッケーです先輩。司令と連絡は?」

 

「付いてない。この家に入ったらジャミングでインカム使えなかった」

 

「実に呆れた折紙先輩の行動力よ………」

 

  一先ず折紙の家を出ると、漸く通信が復旧する。待ち構えていたであろう琴里が、間髪入れずに応答した。

 

『士道!やっと繋がったわね!目的のブツは!?』

 

「確保した。それより、今度の精霊は!?」

 

『四糸乃よ。ッ!!士道、身を守りなさい!!』

 

  琴里が焦る。その様子に危機を感じ取った士道が動く前に。

 

  ──────肌に、冷気を感じた。

 

「つめた───」

 

「〈触抱聖母(アルミサエル)〉ッ!!」

 

  誠はほぼ反射的に天使を呼び寄せる。乱暴に呼び寄せた、霊力の嵐を纏った水晶を自分に挿入。己の身体を水に変え、士道を覆う盾になる。

 

  直後、士道の視界は白く染まった。 いや、見える全てが凍り付き、一面の銀世界になっていた。

 

  ──────()()()()()()

 

「ま、誠ッ!!」

 

  戦慄した士道が名前を呼ぶも、誠は返事をしない。最悪の事態が、脳裏にビジョンとして浮かび上がる。

 

『士道、無事!?そこに誠がいるの!?』

 

  暫し呆然としていたが、琴里の声に我に帰る。助けを求めるように、士道は声を張り上げる。

 

「誠が凍った!!天使ごと!返事もしないし動かない!」

 

『な、何ですって!?』

 

  インカム越しに、琴里以外の動揺も聞こえてきた。

 

  ──────が。

 

「さっっっっっっむいいいいいいっ!!」

 

  突如、氷が喋った。誠は生きていた。良く見れば、僅かだが氷が溶けて水になっていた。それにより誠は復活出来たらしい。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"マジで死ぬかと思ったぁぁぁっ!」

 

  表面から氷がみるみる溶けてゆき、色付いて誠の姿が甦る。士道の溜め息と、艦橋に漏れる安堵の声とが、士道の耳の中で重なった。

 

「大丈夫か、誠」

 

「大丈夫です。さっきはただ水になっただけだったせいで、()()()()()を持っていかれて凍っちゃいました」

 

『まったく、心配かけさせないで頂戴。それで誠、()()()()()って?』

 

  インカムをスピーカーモードに切り替えた琴里が、誠に直接疑問を投げる。琴里に無様を知られてばつが悪そうな誠は、ポリポリと頬を掻きつつ説明する。

 

「俺も四糸乃も、水に霊力を加えることで操るみたいです。同じ水に霊力を操ろうとした時、より多くの霊力を浴びせたほうがその水を優先して操れる………つまり、()()()()()()って訳です」

 

『成程ね。さっきは取り敢えず水になっただけだったから、四糸乃側の瞬間的な霊力に負けた、と』

 

  マイクに琴里の舐めるチュッパチャップスの棒が当たったのか、唐突にコツンと雑音が響く。

 

『こちらで計測した。誠、君の霊力は、四糸乃の霊力の最大値より若干上のようだ。油断が無ければ君自身はもう凍らないだろう』

 

「了解です。ちょっと自信出ました。四糸乃のおねにーさんになりたいのに、四糸乃を止められないんじゃ無理ですからね」

 

  令音のフォローに素直に感謝しつつ、少し嬉しそうな表情をする。それは、妹の前で背伸びをしたがる姉のようで、士道は気付かれないようにクスリと笑みを溢した。

 

『それと、だ。四糸乃はパペットをしている時だけ、本来の人格の裏で、本当に別人格が現れているようだ』

 

  令音は続ける。よしのんは、四糸乃が()()()()()()()()()と思ったことで生まれた存在だと。

 

「─────誠。俺、四糸乃に『ヒーローになってやる』って約束したんだ。力を、貸してくれるか?」

 

「勿論ですよ。俺にそれ以外の選択肢は無いですから」

 

  決意を込めた士道に、誠は何時もの軽い調子で応答する。しかし、その瞳は確かに燃えていた。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ!?」

 

  唐突に変わった口調。士道は思わず誠に聞き返してしまう。

 

「どうかしました?」

 

  しかし、誠は気付いていない。自分の変化を、意識していない。

 

「い、いや………気のせいだったわ」

 

「気張り過ぎですよ、先輩」

 

  ニッと歯を見せて笑う誠からは、先程の気配は一切見られない。それに、先の台詞からして、どうやら味方ではあるらしい。取り繕った士道は、漠然とした不安を頭から追い出す。

 

「四糸乃の所に行こう、誠」

 

「任せて下さいよ、先輩」

 

  降り頻る雨。肌を切るような冷気。凍りついた街並み。

 

  たった一人の少女を救うため、少年と精霊は空を睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、俺達のデートを始めよう!」

 

「人の恋路を邪魔する者は、色無誠が受けて立つ!!」

 

 

 

 




-誠流アイスティーの作り方-
お湯を沸かす。
ポットを暖める。
茶葉を多目に入れる。
蒸らしつつ色が出るのを待つ。
出たら一度マグカップに淹れる。
氷を入れて冷やす。
グラスに注いで氷追加。
サッー!!(迫真)←
完成


10000文字書いたことがあった。

疲れた。

だから分けた。

でも分けなかったらたぶん10000文字余裕で越えてた。

諸君。殺ってるところを10000文字分書くのと、ヤってるところを10000文字書くのとどっちがいい?

俺は…………どっちも嫌だね。
前者は疲れる。後者は右手が取れる。

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