麻雀少女は愛が欲しい   作:小早川 桂

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一話から大分、時系列飛ぶけど間のことは徐々に明かしていきます


2.『最近、部員の様子がおかしい』

 ぶっちゃけ俺の周りの面子の様子がおかしい。

 

 京太郎がそう考えるようになったのはつい最近のこと。彼が幼馴染の宮永咲を麻雀部へ連れていってから一ヶ月が経った頃。

 

 新緑が風に揺らぎ、木々の匂いが爽やかで気持ちがいい昼。

 

 彼はいつもの買い出しに出ていた。

 

 これだけなら何も変わりはない光景。

 

 しかし、普段と異なる点が一つ。

 

「いやー、やっぱりたまには外に出るのも大切ね」

 

「気分転換になるしのう」

 

「速くしないと私が止まらなくなっちゃうじぇ!」

 

「優希はもう少し女の子らしく振る舞って下さい。スカートなんですから……」

 

「あはは。元気だなぁ、優希ちゃんは」

 

 それは人数。京太郎のお使い史上初めての多人数での買い物である。

 

 はっきり言ってここ一か月の彼の仕事と言えばお使い、タコスのパシリ、牌譜整理とマネージャー業で卓につくのは一日に一時間あれば御の字。実力差もあるので瞬殺であることを考慮すれば30分でも奇跡かもしれない。

 

 だから、買い走りには一人寂しく向かうのが常。この部活に自分の居場所は無いのではないかと考えたこともある。

 

 そんな部活生活を送っていた彼は目の前に広がる光景がにわかに信じられなかった。

 今でも目をこすってしまうくらいである。

 

「どうしたの、京ちゃん? 目がかゆいの?」

 

「……なぁ、咲。頬をつねってくれないか?」

 

「えぇっ。そんなのできないよ。痛いだけだよ?」

 

「その痛みが欲しいんだ」

 

「えっ。……きょ、京ちゃん変な趣味に目覚めたんじゃ……」

 

「違うわ。とにかく頬をつねってくれ」

 

「では、これでいいですか?」

 

 横から割って入ってきた透き通るような声。

 

 突然、右隣から伸びてきた小さな手はぐいっと京太郎のほっぺを引っ張る。

 

「……いふぁい」

 

「……満足できましたか?」

 

「お、おう。ありがとうな、和」

 

「いえ、これくらいなんともありませんよ」

 

 声の主である原村和は礼を言う京太郎に向けて微笑を返した。

 

 それだけで彼の心はキュンキュンしてしまう。

 

 学年一の美少女と名高い同級生にあんなにも綺麗な笑顔を見せられたら胸が高鳴るのは男子高校生の特権である。

 

 原村和。麻雀インターミドル個人戦のチャンピオンであり、同じ清澄麻雀部に名を連ねる桃色髪が特徴の少女。そのスタイルも全国級で、ちいさな体に似つかわない大きな胸。

 

 男子高校生の妄想を具現化したと言っても過言ではないだろう。

 

 そんな魅力的な少女ははっきり言って高嶺の華で、自分には興味が無いのだろうと京太郎は諦めが入っていた。だからこそ、あくまで友人としての距離を保って接してきたし、和もそうであった。

 

 ちなみに胸はチラチラと何度も見ていた。ごめんなさい。

 

 だが、そんなマイナス行動の影響がないようで、ここ数日の和と京太郎のスキンシップは多くなっている。

 

 それは彼だけではなく周囲も感じている事実だろう。

 

 だから、咲はぷくりとほっぺを膨らませた。

 

「……なに拗ねてんだ、咲」

 

「拗ねてないもん。京ちゃんが和ちゃんの胸を見てたから怒ってるの」

 

「みみみみみ見てへんわ!」

 

「ふふっ、面白いですね、須賀君は」

 

 明らかに動揺している京太郎の姿がおかしかったらしく和はクスリと笑い声を漏らす。

 

「別に私は嫌ではありませんよ、胸を見られるの」

 

「えっ!?」

 

「もう慣れましたし、確かにジッと見つめられたりするのは苦痛ですが。……それに須賀君はいつも頑張ってくれていますから。たまにチラチラと見てくることは不問にしてあげます」

 

「バレてた!?」

 

 そのことに驚きを受ける京太郎だが、今の言葉の意味をしっかりと理解していた。

 

 それはつまり、たまになら和のメロンを眺め放題ということでは……。

 

「……ぐへへ」

 

「……京ちゃん、キモい」

 

「辛辣!」

 

「なーに騒いでいるのかしら、一年組ー」

 

 咲のジト目が京太郎に突き刺さっている中、前からもう一人会話に混ざってくる。

 

 切れ長の二重瞼にモデル顔負けのバランスの整ったスタイル。スカートから伸びる足の曲線美は目を見張るものがあり、彼女の魅力を増長させている。

 

 大人びた雰囲気を醸し出す彼女の名前は竹井久。

 

 清澄高校麻雀部の長である。

 

「京ちゃんが女の敵って話をしていました」

 

「その略は悪意しか感じられないぞ、咲」

 

「そうですよ、咲さん。正確には須賀君が私の胸を見てくるという話です」

 

「フォローになってない!?」

 

「なんでそんな話題で盛り上がっているのというツッコミは置いておきましょう。それにしてもふーん……」

 

 久は目を細めると上から下までじっくりと京太郎の体を視線を動かす。

 

 足のつま先までたどり着きUターンする途中で、彼の腕をとった。

 

「ぶ、部長?」

 

「……うん、やっぱり男の子ね。立派だわ」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

「こんなにたくましい腕に抱かれたら女の子はイチコロかもしれないわね」

 

「えっと……それはどういう……」

 

「いいえ、特に深い意味はないわ。一人ぼっちでかわいそうな後輩にアドバイスしただけよ。でも、そうね……」

 

 久は京太郎に身を寄せると、つぅーと指を胸から腹筋へ沿って動かしていく。

 

 あでやかな表情を浮かべる彼女に京太郎は反抗する術もなく、思うがままに直立不動。

 

「先輩が後輩に恋愛を教えてあげるっていうのもいいかもね……?」

 

 思わずうなずいてしまうほどの魔性。

 

 しかし、京太郎はギリギリで精神を保つ。それは脳の端に千時から感じるもう一つの違和感に意識を傾けていたから。

 

「「部長!」」

 

 ぼうっとしている京太郎の代わりに二人の距離を離す咲と和。

 

「あはは、冗談よ。二人とも大きな声出しちゃって。さぁ、三人とも、お話はこれくらいにして優希たちを追いかけるわよ。あの子ったら我慢できなくて先に走って行っちゃった。まこがついているから迷ってはいないと思うから」

 

「そ、そうっすね! じゃあ、俺も急いで追いかけます! 荷物持ちが遅れたら世話無いですから!」

 

 京太郎はその場から駆け出す。一方で女性三人は立ち止まっていた。

 

 まるで京太郎の姿を見送るように。

 

 そして、完全に彼の姿が視界から消えたところで和が口を開いた。

 

「部長、邪魔をしないでくれませんか? せっかく楽しくお話ししていたのに」

 

「それ自分で言ってブーメランになっていることに気づいてないの、和ちゃん。流石おっぱいに栄養が全部いってるだけあるよね」

 

「ええ、おかげさまで須賀くんの視線は私が独占しています。えっと……まな板?」

 

「壁よ。もしくは平野」

 

「あははっ。二人とも冗談が面白いなぁ。…………淫乱ピンクと処女ビッチが」

 

「あら? 何か言った?」

 

「さぁ?」

 

「私には聞こえましたよ。大人ぶった痛い処女ビッチ先輩って」

 

「……へぇ、その痛い先輩に想い人を取られるなんてかわいそうに」

 

「あぁ、もう自分が勝つって決めつけている辺りが痛いです。見てられない、恥ずかしい」

 

「…………うふふっ」

 

「……あはっ」

 

「……ははは」

 

「「「……京ちゃん(須賀君)は絶対に渡さない」」」

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「おっ、来たじぇ。京太郎、遅いじょ!」

 

「ハァ……ハァ……悪い。ちょっと話し込んじゃって……」

 

「安心せい。どうせ三人に絡まれたのじゃろう? 最近、おんしらは仲がいいから」

 

「あははは……。本当に不思議なくらいに……」

 

 まこの言葉に的確に痛いところを疲れて苦笑する京太郎。

 

 その様子を見て、まこは面白がってちょっかいをかける。

 

「部活内の恋愛について決める必要があるかもしれんなぁ、色男」

 

 ウリウリ~と肘で小突くまこ。一方で優希はペシペシと背中を叩いていた。

 

「別に付き合うのは許すけど、私の相手もするんだじぇ?」

 

「だーかーら! そういうのはないって言ってるだろ?」

 

「でも、仲が急接近したのは事実じゃろう?」

 

「……そうなんですけど……俺にも理由がわからなくて」

 

「……確かに突然ではあったけぇ……」

 

「和ちゃんも急に私に京太郎が好きな食べ物を聞いてきたじぇ」

 

「久もわしに京太郎が喜ぶことを聞いていたわ。構ってやれと言ったからじゃと思っていたが、また別の理由がありそうじゃ」

 

「もしかして……」

 

 思い当たる節があるのか、京太郎は仮説を口にする。疑念をもち始めた二人は視線も聴力も集中させた。

 京太郎は「おほん」と一度咳をつき、人差し指を立てて堂々と述べる。

 

「……俺の魅力を改めて認識してしまったとか……?」

 

「「ああ、ないない」」

 

「ひどくない!?」

 

 優希とまこは顔を見合わせると横に何度も手を振って否定する。

 

 ハモる辺り、本当に何も男性的魅力を感じていないのだろう。

 

「おんしは大切な後輩とは思うちょるが恋愛対象として見たことはないけぇ」

 

「犬だと何度も言ってるはずだじぇ!」

 

「誰が犬だ、この猿!」

 

「事実を言ったまでだじぇ。……まぁ、でもあれだ。困ったことがあるなら話くらい聞いてやる! 犬の世話は主人の役目だからな!」

 

「…………優希」

 

「優希の言う通りじゃのう。私もそれくらいならしてあげるから遠慮せずにこい」

 

「染谷先輩……」

 

 予想以上に優しくされて思わず泣きそうになる京太郎だったが、男は決して涙は見せない。

 

 こんなにもみんなが自分のことを真剣に考えていてくれたなんて……!

 

 てっきり便利な男子部員(ざつよう)程度にしか思ってないとばかり……。

 

 ……ああ、すごい嬉しい……!

 

 京太郎は涙腺が緩む前に無理やり笑顔にする。

 

 ぐちゃぐちゃな顔をまこたちは笑い飛ばして肩をポンポンと叩いた。

 

「すまんのう。実は今日もみんながローテーションで買い出しに行けるように道を覚えたかったんじゃ」

 

「そ、そうだったんですか? でも、またなんで……」

 

「京太郎ばっかり行ってたらお前が強くなれないからだじぇ」

 

「えっ。……ということは」

 

「ああ。おんしの強化計画もしっかりと立てた。明日からは今まで以上に頑張ってもらうぞ?」

 

「は、はい!」

 

 元気よく返事する京太郎の反応に満足気のまこ。

 

 京太郎は思った。

 

 今日は人生で一番いい日だ。

 

 みんなとも交流できて、先輩は俺のこともちゃんと忘れてなかった。

 

 一選手として見てくれていた。

 

 なら、その期待に応えなければならない。

 

 例え小さな希望だとしても努力は報われることを中学で知った。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

 気合十分に京太郎は拳を天に突き上げた。

 




初めましての方は初めまして。
久しぶりの方はこんばんは。こんにちは。おはようございます。

今回はギャグとシリアスを混ぜた感じでやっていきたいと思います。

前半組の三人と後半組の二人は手紙が届いているか、届いていないかの違いでグループ分けさせていただきました。

次回は宮永咲ちゃんがどうしてこんな風になった原因のお話。

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