なので、相変わらず短め。
1.『最近、幼馴染の様子がおかしい』
目を開けると隣に幼馴染の女の子が寝ていた。
何を言っていくぁwせdrftgyふじこlp。
思わず叫んでしまいそうになる口を京太郎は塞ぐ。
このような場面を見られては社会的に死ぬし、咲と彼は仲がいいのは確かであるがそういう関係ではない。あるいは昨晩、深い夜にそんな関係になってしまったのか。
「んっ…………」
その場から離れようとすると、咲のあでやかな声が漏れる。
普段の大人しい文学少女からは想像できない音に京太郎はドキリとしつつも、今度は耳を手で塞いだ。
どうして咲がここにいるんだ!? あれ!? 俺ってそんな度胸あったっけ……?
ていうか、ここはまず何処で、俺と咲は一緒に寝ているんだ……?
そのまま思考の海へと身を沈める。
記憶をさかのぼること京太郎はようやく落ち着きを取り戻した。
「……俺、童貞は失っていない……!」
昨晩、自分たちは咲のお父さん――宮永界さんの誕生日を祝っていたのだ。慣れない手料理を作り、プレゼントを用意して、賑やかに過ごした。
その後、宿泊する流れになってお言葉に甘えることに。
よく見れば見たことのある天井。
女の子らしい色で装飾された部屋は最近共に模様替えしたばかりで覚えている。
隅に存在感を放つ大きな本棚が彼女の部屋であることを示す何よりの証拠。
「……で、風呂あがって、咲の部屋に来て、麻雀教えてもらって……」
そこで京太郎の回想は終了。記憶が途切れた。つまり、途中で自分が爆睡し、咲はそれに伴う形で一緒に寝ることにした……と。
「……改めて考えるとわけわかんねぇよなぁ……」
背に固い感触があるということは床にごろ寝したわけだ。もちろん咲も同じ。
彼女の力では京太郎をベッドまで持ち上げられないのだから当然の帰結である。
では、なぜ咲はベッドではなく彼の隣で薄い毛布一枚を手に寝ることにしたのか。
それはごく一般的に、普遍的な思考をしていれば京太郎には今頃彼女の一人や二人はできている。残念ながら彼は鈍感系唐変木。
「……まぁ、咲も眠たかったんだろうな」
故の独り身。
自分なりの答えが出た京太郎は次いで脱出のための作戦を考えることにした。
「……普通に起こせばなにも問題は起きないか……?」
咲は偶然、ここで寝てしまい、自分はやましい気持ちなど全くなかったと説明すれば彼女のことだからしっかり理解して許してくれる。
彼女が心の器の大きい人間だと言うことは毎度のテスト勉強で知っているのだ。
「おーい、咲。早く起きろっ!?」
ようやく希望の見えた京太郎にさらなる苦難が襲い掛かる。
さきほどまで二人の間には距離があった。
だから、京太郎も理性を保っていたし、冷静に没頭することが出来た。
しかし、しかし。
たった今、本能を抑えていた一線は取り消されてしまった。
寝ぼけた咲の抱きつく攻撃により、京太郎の精神はガンガン削られていく。
鼻腔をくすぐる甘い香りが漂う。胸にかかる甘い吐息。嫌でも感じられる肌の温かさ。絡められた足の滑らかさ。
そして、今まで巨乳信者であった京太郎の世界観が崩壊する。生まれて以来、幼少期を除けば全くない経験で、その事実は衝撃を彼に与えた。
例えまな板のようなつるぺったんでも柔らかいものは柔らかいのだ。
「おっ……おおおお、おっ! おっ!?」
「えへへ……」
人の気も知らないで……と苦笑いする京太郎。
それを向けられた乙女は良い夢でも見ているのか満面の笑みを浮かべているが。
「と、とりあえず、このままじゃ俺の気がやばい。もうさっきから変な感覚になっているし、取り急ぎここから抜け出」
「咲ー。京太郎君ー。おはよう。朝ごはんが出来たからそろそろ起きてきなさ――」
「――あっ」
「――なるほど。これは邪魔をしたようで悪かった。もう少しゆっくりしていきなさい。ああ、私は一人で出かけてくるから」
では、と別れの言葉を簡単に告げると界はドアを閉めて颯爽と出ていく。
呼び止めようとするもあまりの速さと驚きの急展開に京太郎の声は喉から出てこなかった。
完全に勘違いされて、朝食の時に色々と聞かれる未来が容易に予想できた彼はため息をつく。未だに眠ったままの姫はどうしても自分を離すつもりはないらしく、腕を絡めたままだ。
「……もうどうにでもなーれ」
どう取り繕っても見られてしまった誤解は咲が起きて一緒に事情を説明しない限りは解けない。それさえも赤面した彼女が余計なことをペラペラと口走りそうで難儀になるかもしれない。
やけくそ気味に開き直った京太郎は床に倒れこみ、もう一度眠りにつくことにした。
どうせなら、これが夢だったらいいのにと思いながらまどろみの世界に落ちる。
「…………大好き、京ちゃん」
だから、こんな呟きも彼には届かなかった。
とりあえず11時頃にもう一話投稿します。