目が覚めると見知らぬ天井があった。だが、すぐに焦点がずれてぼやける。
鳴りやまない鈍い頭痛。
だるさを覚える体を無理に動かすと隣には幼馴染がすやすやと寝息を立てていた。
「俺、何してたんだっけ……」
京太郎は記憶を掘り返す。
確か……霞さんと会って、そこから逃げ出してシロ従姉さんを運んで……。
ハッと意識が覚醒して上体を起こす。
すると、京太郎はカップヌードルを貪る老婆と目が合った。
「…………」
「…‥えっと……」
麺をすする音だけが空間に響く。沈黙が流れようとしたところでドアが開き、ぞろぞろと濃い面子が入って一気に部屋は騒々しくなる。
「ただいまー!」
「トヨネ、シズカニ!」
「って、なんだ。起きてるじゃん」
「よかったぁ。ひとまず安心だね」
「……おはよ、京」
唯一、京太郎と面識のある白望がトテトテとつたない足取りで彼の元へ歩み寄り、またがるように膝上に座る。
彼女なりに罪悪感もあったのだろう。
京太郎の顔を引き寄せると、自身の豊満な胸へと埋めた。
「シ、シロが大胆……!」
「さ、さすが従姉……。やることが違うわね」
感心する宮守の面々。彼女らは白望の京太郎への恋心を応援しており、むしろ交際をさせようとしている。
今回こうやって白望が京太郎を自分たちのホテルへ連れてきたのもとあることが関係していた。
一人、お邪魔虫がついているのは仕方がないと割り切っている。
「シ、シロ従姉さん!?」
「……ん。しばらくこのままでいいよ」
「い、いや、そんなこと言われても……」
「じっとしておいて。じゃないと、どうなっているかバラす」
「はい」
お願いではない。これは命令である。
白望の丸みの帯びたお尻の下。
それがどうなっているのかを口にされたら社会的に抹殺されるだろう。
京太郎はそれを即座に理解して口をつぐむ。
「……今日は厄日だ」
「……体は正直」
「それ以上はいけない!」
「へへへ変態!」
「破廉恥!」
「「……?」」
状況を理解してしまった塞と胡桃による罵倒に心をへし折られそうになる京太郎は首を傾げている豊音とエイスリンを見て、心を落ち着かせた。
「あの純粋な心はいつまでも忘れないでほしい……」
「盛り上がっているところ悪いけど……本題に入っていいかい、若人たち」
「あ、す、すみません……」
「あんたが件の須賀京太郎だね。……ふーん、いい男じゃないか。私がもっと若かったら手を出していたかもしれないねぇ」
「ど、どうも……」
一応、褒められたと受けとった京太郎は頭を下げる。その後に自分が倒れる前に見た老婆の顔と一致することに気づいた。
「あっ! さっきはどうもありがとうございました! 俺、倒れちゃって……」
「いいんだよ、そんなことは。それに私らにも都合がよかったからねぇ」
「都合がよかった……?」
「そうさ。これについて、だよ」
トシは先刻と同じように白い封筒を見せた。彼女の手には計六枚の封筒があり、一人に一通ずつ来ていることを京太郎は理解する。
「それは……未来からの手紙、ですか?」
「ああ。あんたの元にも届いているんだろう? そこにはなんて書いてあった?」
「……それは言う必要があるんですか?」
「……いや。あんたがどんな未来を歩んだのか、知らない方が私たちもやりやすい。もし幸せな未来を聞かされたら苦しくなる」
「……それはどういう……?」
首を傾げる京太郎。うまく状況が呑み込めていない彼にトシは一つずつ簡潔に説明していく。
「……まず私たちの中でシロに手紙が届いた。次に塞、豊音、エイスリン、胡桃。最後に私さ。どれも数日ごとに間隔をあけて」
「は、はぁ……」
「そしたら驚くことにね。全員書かれている未来が違うんだよ。どんどん不幸になっていく。バラバラになっていくんだ。そして最後の私へと届いた手紙がこれさね」
トシは受け取ったという手紙を京太郎へと渡す。
そこには『未来の熊倉トシ』から『今の熊倉トシ』への注意の喚起文。
そして、その文末には見覚えのある名前が記されていた。思わず京太郎は言葉にして発する。
「……須賀京太郎を……小瀬川白望と結婚させろぉ!?」
慌てて京太郎は白望を見る。
話題に上がった彼女はあー、と視線を逸らすと京太郎の胸元へ倒れこんで表情を隠した。
きっと『らしくない』顔を見られたくなかったに違いないが、ほんのりと朱に染まった耳ですべてバレている。そんな従姉の見せた乙女らしい一面に先ほどされたキスと告白を思い出して京太郎も顔を逸らす。
青春を繰り広げている二人を見てにやにやとするトシ。
ポンと京太郎の肩をたたくと生暖かい目でこう言った。
「今から2時間。外に出ておくから頑張るんだよ」
「やらねぇよ!? それより! どうして俺の結婚が関係あるんですか!? よくわからないんですけど!」
「それは簡単な話さ。シロに届いた手紙の時がみんな幸せだった。なら、最後に白望が望むあんたとの結婚を達成すれば少なくともうちの子はハッピーエンドを迎えるわけだ」
トシが述べているのは机上の空論だ。だが、実証ができない以上そこに間違いはない。それに言っていることはまともに聞こえるから余計にたちが悪い。
反論の種を奪われる前に京太郎は初手から切り札を切った。
「お、俺の幸せはどうなるんですか!?」
トシの仮説に須賀京太郎の人生設計は入っていなかった。彼はそこを突いて反撃に転じる。しかし、それも一瞬でふさがれてしまったが。
「私たち宮守女子5人を嫁として自由にすることができる」
刹那、京太郎に衝撃が走る。
宮守女子のメンバーを嫁として自分の好きにできる……!?
瞬時に視線を5人に移す。
「えへへー」
豊音はひらひらと手を振って返してくれる。浮かべる純朴な笑みに京太郎の心は浄化されていく。
「……キョタロー」
宮守には天使が二人も存在した。エイスリンはウエディングドレスを着たかわいらしい絵を差し出す。京太郎は彼女を幸せにしなければならないという使命感にとらわれ始める。
「み、みんなといるには仕方ないし……別に悪そうな人じゃなさそうだし……」
胸から流れる腰元のラインが魅惑的な塞。続いてぷくりと膨らんだお尻も美しく、京太郎の一部はさらに元気良くなる。もちろん白望は気づいている。
「わ、私はそう簡単には落ちないよ!」
最も小さい胡桃だが、秘められた母性は未知数。良妻賢母として支えてくれる姿は誰にだって未来視できる。
「なんなら私もつけようか」
「あ、結構です」
「……正直なのは嫌いじゃないよ」
ゴホンと咳ばらいをするとトシは改めて京太郎へと向き直る。その瞳はいたって真剣味を帯びていた。先ほどの全員お嫁さん計画も嘘じゃないと思えるくらいに。
「それにね。私たちはあんたも守ってあげようとも思っている」
「俺を……守る……?」
「そうさ。あんたが未来を変える大切なキーマンだということに気づいている奴らも出てくるだろう。シロに聞いた話だと神代は間違いないね」
「神代って……マキちゃんたちが!?」
「浅からぬ関係がありそうだしねぇ。神代も幸せな未来を得るためには須賀京太郎。あんたが必要ってことさ」
「お、俺はただの一般男子ですよ? そんな大げさな……」
「……大げさじゃない。だって、これだけの人の未来に関わっているんだから……ね、京」
白望はぎゅっと京太郎の頭を豊満な胸へと誘い、甘美に耳元で囁く。
「私たちと一緒にいよう。京太郎の好きなこといっぱいしてあげる。……今から私の下で暴れてるこれを沈めてあげてもいいんだよ?」
グリグリと白望は腰をいやらしく上下に動かす。刺激され、早く解放したい欲に思考が駆られる。
白望は一気に攻勢に出て、耳をやさしく噛むと舌でなめまわして、ふぅーと吐息を吹きかけた。
「あっ……あぁ……」
京太郎はだんだんと正常な思考を失っていき、削られた理性を本能が暴れて壊そうとする。
このまま楽になって、白望と愛し合う生活に陥っていいんじゃないか。
そう思ってしまった。
その時だった。
「京さんは渡さないっすよ!!」
バンと突如にして開けられるドア。大きな声を発した主は怒りの形相で今にも駆け出しそうだ。
「私たちの京さんに手を出そうとはいい度胸っすねぇ!」
「わ、私たちの京太郎くんを返してもらいます!」
「衣の大切な家族は好きにさせない!」
東横桃子に福路美穂子、天江衣。さらにその背後には龍門渕の面々。
長年、麻雀界に携わってきた熊倉トシでさえ豪勢だと思うメンバーが京太郎の救出という目的で現れた。
咲「すやぁ( ˘ω˘)スヤァ」
次回でわかるのでぶっちゃけると、モモは京太郎にGPS持たせてます。
大切な報告
1、夏コミ当選しました! 土曜日 東地区 "ツ" ブロック 57aです
同人誌出します。
2、私が『悠島蘭』名義で書いていた一次創作
『捨てられた勇者の英雄譚』の書籍化が決まりました。
商業作家としてデビューさせて頂きます。
どちらも頑張りますので応援よろしくお願いします。