咲――将来アラサー
和――将来ヒキニート
久――乙女
モモ--ヤンデレ
美穂子――天使
ころたん――彼女は私の母親になったかもしれない女性だ。イェイ~。
前回のあらすじ。
全国へ向けて強化合宿を開いた清澄麻雀部だったが、部屋が一つしかないことが発覚。誰が男である京太郎の隣で寝るのか言い争いになる三人。
彼に委ねた結果、咲が寝ることになったのであった。
「――って感じなんだけど、どうしたらいいと思う?」
咲たち麻雀少女は汗を流すために入浴中。本当なら最も汗をかいた京太郎が先に入るべきなのだろうが、彼の頭の中はそれどころではなかった。
夜のことで頭がいっぱい。咲と寝たことは当然ないし、そもそも年頃の女の子と隣で寝るのはいかがなものか。
そこで京太郎は人間関係の中でこの状況をドン引きせず、これからも友達のままでいてくれる人物に電話をかけていた。
『でも、原村さんとは寝るんでしょう?』
「はい、勿論」
『じゃあ、同じサイズの胸を持つ私とも寝れるっすね』
「ごめんなさい、俺が悪かったです」
電話越しに土下座をする京太郎。相手は東横桃子。いつもニコニコ隣に這いよるステルス美少女である。
『いつもどおりでいたらいいっすよ。変に意識しないで平常を保つっす』
「とはいっても……あいつも女だぞ?」
『今さらなに言ってるんすか。いつも私と寝てるくせに』
「モモは勝手に入ってくるんだろ! 受動的じゃなくて能動的だから!」
『今も部屋に忍びいってます』
「なにしてんだ、お前!」
『ちゃんとお義母さんの許可は貰ってるっすよ。それに私だけじゃないですし』
「え゛っ」
『美穂子さんも来てるっす。ちなみに京さんのエッチな本を見つけてから固まっていますが』
「あぁぁぁぁあああ!!」
なにやってんの? え、なにやってんの!?
京太郎は頭を抱えてその場に転がる。ゴロゴロと壁にぶつかっては反対側へ、ぶつかっては反対側へ。
「てか、なんで俺の家に二人して来てんだよ! 聞いてねぇぞ!?」
『あ、ご、ごめんなさい。桃子ちゃんに誘われてお邪魔しちゃました……』
思考が固まる。体が固まる。
はつらつとした声からおしとやかな声に変わっていた。
つまり、今の話し相手は桃子ではなくもう一人の人物ということで。
「す、すみません! 福路さん! 偉そうな口聞いちゃって!」
『ううん、いいの。私たちお友達だもの。だから……敬語よりも今みたいな話し方の方が嬉しかったり……その、美穂子……とかなんて……』
あぁぁぁぁ、脳が震える……!
そんな絶大な効果を持つ癒し系ボイスに京太郎の心は浄化されていく。
でも、この男、ヘタレである。美穂子と呼ぶことにためらいを感じて、結局今まで通り福路で行くことにした。
「わ、わかった。しゃべり方はこうするけど……美穂子……呼びはまた今度で」
『そう……わかりました』
シュンとしているのが電話越しでもわかる。辛い! もう抱き締めてあげたい!
でも、いきなり美穂子とか呼んだらアレだから。
俺の心臓が超加速してしまうので遠慮させてください。等々、心のなかで多量多文の謝罪会見を行っている京太郎は持ち前の話術で話題を変えることにした。
「そういえば二人はどうして家に? そういう話は聞いてなかったけど」
『実はナイショにしてました。桃子さんと須賀君を驚かそうと思って』
「な、なるほど。あ、でも、俺がいなかったから変な対応されなかったか?」
『ええ。そこは桃子さんがばっちり。お母さんには料理を教わる約束をしていたみたい。それで私もって』
くっそ、母さんめ……!
面白がって隠していやがったな! モモとは何かと気が合うみたいだしこういうのは心臓に悪い。
現に美穂子には隠していたエロ本を見られてしまうし散々で――。
「あっ」
ここで京太郎は大切なことを思い出した。たった今、自分は己の性的趣味を知っている女の子と会話しているのである。
いや、難しい言葉を使って逃避は止めよう。
自分は己の持っているエロ本を読んだ女友達とおしゃべりしている。
……なんと面妖な!
「あ、あああの福路さん。ちょっとお話ししたいことがありまして」
『……実は私も大切なことが……』
「福路さんからどうぞ!」
『……それじゃあ、少しで終わるから……聞いてくれる?』
「俺でよければ何なりと」
『その……黒髪幼馴染とか……胸が小さいのが好きだったり――』
「違います! 俺は巨乳お姉さんが好きです‼」
『そ、そうなんだ。ご、ごめんなさい。勘違いしちゃって……』
「あ、いえ、俺の方こそすみません……」
『………………』
「………………き、切りますね?」
『え、あ、うん。気をつけて頑張ってね』
「はい。それじゃ……」
それだけ告げて通話を切った京太郎。
もういろいろと耐えきれなかった。携帯をバッグへ放り投げるとその場にうずくまる。
結局、彼は風呂から上がった優希にタコスローリングアタック(回し蹴り)を食らうまで固まったままであった。
◆◇◆◇◆◇◆
「スゥ……スゥ……」
あれだけ悩んでおいていざ寝るとなると一瞬で夢の国へと飛び立った京太郎。
就寝時間前には和や久による攻撃をまな板ガードで跳ね返したり、女性陣にしかわからない戦いがあったのだが、そんなことは知ったこっちゃない。
なぜなら、彼は麻雀を打っている間以外はずっと頭の中に美穂子への
そんな京太郎の脳内事情を知らない咲は愛しの彼の寝顔に思わず微笑みを漏らす。
「……もう京ちゃんは鈍感なんだから」
その言葉は当人はもちろん、他のライバルたちにも聞こえてはいない。
和はエトペンを抱き抱えるないなや可愛い寝息を立てたし、久は最も遠い位置に諦めて明日の練習に備えることにしたからだ。
静かな月の光が淡く射し込む部屋で起きているのは彼女だけ。
例えば、今ならこっそり京太郎にキスしてもバレることはないだろうし、抱きついたり、未来を変えるための欲望のままに動いてそういう事実を作ったとしても問題ないだろう。
言葉は悪いが、やったもん勝ち。いちばん早く彼とどんな方法でも恋愛関係を持った者が勝者なのだ。
当然、本を読み漁っていた咲にそういう知識はあるし、知識だけなら同期の中でもトップかもしれない。
けれど、彼女はそんな方法を取りたくはなかった。
いくらアラサーになるとしても、やはり相手の気持ちを強制的に自分へ向けて独占するなんて真似はしたくない。きちんと告白して振り向いて欲しい。
心も体も全部で愛してほしいのは乙女の願いなのだろう。
だから、きっと他のライバルたちも手は出さないのだ。
「……和ちゃんとかは怪しいかもだけどね……」
昼間の行動を思い出す。
彼女は自分の大きな胸に京太郎の顔を押し当てていた。その時の表情といったらなんとだらしなく、とろけきっていたことか。
「…………わ、私もあるにはあるんだから」
強がる咲。隙間から覗ける小さな膨らみに泣いたりしていない。決して泣いたりなんてしていない。
「それに最近はこういうのにも需要があるって言うし、京ちゃんの部屋に小さい女の子のえ……えっちな本も置いてきたし」
だから、きっとチャンスはある。
それにやっぱり女は性格だよ、性格! 私も京ちゃんの優しいところが好きになったんだもん!
大丈夫なはず……だよね?
ちらりと咲は視線を向けた。相変わらずだらしない寝顔を晒している。
「うぅ……京ちゃんをひ、貧乳派にしてやるんだから」
咲はゆっくり音をたてずに京太郎の布団へと移動する。
「寝相が悪いだけだもん。仕方ないよね」
誰にしているかわからない言い訳を口にしながら、顔一面幸せそうな笑顔を広げていた。そのまま彼女は京太郎へと近づき、そっと抱きしめた。
「そ、その、これも小さいおっぱいも好きになってもらう作戦だから。無意識下でこうやって刷り込むように習慣づけることでいつの日にか潜在的に小さい胸を求めるようになっていて、だから最終的には魅力な私に気付いちゃうわけで最近は視線が和ちゃんに集まっているけどいつの間にか私に釘付けになっちゃわけだよ」
つらつらと御託を並べてはいるが要約すると『和ちゃんだけズルい。私もする!』だ。
乙女心はややこしくて、付き合っていくのが難しい。
温かい吐息がくすぐったい。
けれど、不快な感じはしなかった。
燻った金色の髪に沿って頭を撫でる咲。
「このまま寝ちゃったら……朝、どんな反応するんだろ……」
多分、焦って余計に悪手を取るんだろうなぁ。
ドタバタと赤面しながら必死に弁解して、これが私の悪戯だってわかった途端にいつもみたいに頭をクシャクシャとしてくる未来が長年連れ添っている咲には簡単に想像できた。
少しだけ悪い気もするけど、最近構ってくれないお返しだ。ちょっとだけ困らせちゃうんだから。
「……明日が楽しみだね、京ちゃん」
願わくはこんな楽しみがずっと毎日続くような未来になりますように。
そうして咲も瞼を下ろし、眠りにつく……前にふと思い出した。
……そういえば――。
「京ちゃんって寝相良かったっけ?」
その瞬間、咲の腰に筋骨隆々の腕が勢いよく回された。
次の日、浴衣が半分脱げており、やけに息遣いの荒い咲。京太郎を見ると自然と頬が紅潮する。抱きしめ合う形で目覚めた二人。咲の胸元に顔を埋めて、小ぶりな臀部と腰に添えられた手。
こららの状況証拠により久がキャパシティを振り切って倒れたり、和がブツブツと呪詛を吐いて、優希がタコスを食べなくなったり……。
終いには、まこが部員共に活を入れるといつの間にか時間が飛ばされているなどの現象が起きるのだが、それはまた別のお話。
【呪】咲実写化【12月】
ゆ゛る゛ざん゛!!
……いや、まぁ、見るけどさ。頼むから変な改変やめてな。